真心ブラザーズ『サンキュー・サンプラ・愛・サンサン』ライブレポート@中野サンプラザ

この景色を、中野サンプラザの思い出の彩る一つとして心へ刻むように…。

真心ブラザーズと言えば、恒例行事として中野サンプラザでライブを行ってきた。今年も3月21日(火・祝)に同地でコンサートを催した。ただし、今年で同地のビルが解体になり、改めて建て替えになることから、真心ブラザーズにとってこの日が、現状での中野サンプラザで行う最後の公演になった。『サンキュー・サンプラ・愛・サンサン』と名付けたこの日の公演の模様を、ここにお届けしたい。

真心ブラザーズが中野サンプラザの舞台に初めて立ったのが、1996年。あれから27年、この日が中野サンプラザでのライブは通算20回目となった。同時に20回目という区切りの良い数字で最後となった。先にこの日のメニューについて触れると、デビュー曲の“うみ”から、最新アルバム『TODAY 』に収録した“白い紙飛行機”まで、真心ブラザーズの34年間の歩みを全部で22曲にギュッと集約していた。ライブは、“EVERYBODY SINGIN’ LOVE SONG“で幕を明けた。MB’Sと命名されたバンドの構成が、桜井秀俊のギターを筆頭に、ドラム、ベース、キーボード、ホーンズ、コーラスという、ソウルやファンクミュージックを表現する上で最適なスタイルだ。真心ブラザーズの2人の音楽的なルーツには、ビートルズのようなエバーグリーンなロックスタイルから、ブルースやソウル、ディスコ・ファンクなどのブラックミュージック的な要素も色濃く染みついている。だからこそ、冒頭から“EVERYBODY SINGIN’ LOVE SONG”、“BABY BABY BABY”と続く、ファンキーでソウフルなブラスロック、ダンスロックナンバーの連投に気持ちが騒いでいた。舞台の上から溢れ出る、一緒に声を張り上げ合唱したくなる曲の数々。ステージの上に描かれたライブの風景から見えてきたのは、古き良きアメリカの音楽番組のようなエンターテイメント演出を施した上で、アーティストたちが自由奔放に歌う姿だった。彼ら自身が、GOOD MUSICをリスペクトしている姿勢が、序盤の2曲を通してしっかりと伝わってきた。

そして後ノリのダウナーなビートが響きだす。そこへ桜井秀俊のギターの音が唸りを上げるのを合図に、楽曲が激しく躍動する。客席中の人たちの身体を大きく揺さぶる“愛”の登場だ。曲が進むのに合わせて熱とパワーが増すのはもちろん、サビでは、フロア中の人たちがYO-KINGの動きに合わせ、振り上げた手を大きく揺らしていた。曲が進むにつれ、ファンキーなパーティーを催すムードが大きく膨らみだす。YO-KINGが振りまく“愛”を、大勢の人たちが熱情しながら受け止めていた。続いて披露したのが、最新アルバム『TODAY』に収録している“白い紙飛行機”。軽やかに舞い上がるように流れる演奏に乗せ、YO-KING自身も軽やかな気持ちで歌っていた。派手で華やかな楽曲も真心ブラザーズらしいが、“白い紙飛行機”のような身近さを覚える、共に手を繫いでスキップをする感覚にも似た歌も嬉しい魅力だ。YO-KINGのアコギの弾き語りから始まった“或る男の詩”は、フォークミュージックを歌い奏でるようにゆったりとした香りを振りまきながら進んでいく。その曲へ楽器陣が加わることで、演奏は次第に華やかな色を増す。フィル・スペクター風の味付けでもないが、その楽曲はどんどん良質なポップミュージックとなって、胸の中で心地好く揺れていた。

桜井秀俊がボーカルを担ったのが、“Gotta Poison”。ソウル・ディスコビートに乗せ、パワフルでファンキーなダイナマイトソウルシンガーと化した桜井秀俊が、いろんな振りも交えながら、舞台の上でノリノリに歌い踊っていた。YO-KING以上に舞台の上を動きまわり、ダイナミックな歌唱パフォーマンスを示していたことや、途中にコール&レスポンスを取り入れていたことから、客席中の人たちも桜井秀俊と一緒になってノリノリではしゃいでいた。歌い終わり、一気に体力を消耗……。それくらい桜井秀俊は本気で歌にぶつかっていた。“マイ・リズム”と“Body as Machine”では、ドラム、ベース、ギター、ボーカルというシンプルな編成で演奏。だからと言って単調な楽曲を奏でないところも真心ブラザーズらしさ。変拍子を軸に据えた“マイ・リズム”では、いろんな拍数のリズムを取り入れながら、リズム遊び、セッションをしていた。複雑で難解なリズムを転調しながら次々と刻む演奏の上で、YO-KINGが真っ直ぐに歌を届けてくれることから、楽曲が心地好く耳に飛び込んできたのも嬉しい。続く“Body as Machine”では、エッジの鋭いスリリングな演奏に乗せ、セッションしていくような面も見せてくれた。YO-KINGの吹くブルースハープの音色も、とてもブルースしていた。ブルースハープも用いたYO-KINGの弾き語りから始まったのが、“素晴らしきこの世界”。最初はフォークミュージックのような雰囲気で始まるが、そこへ楽器陣の演奏が加わりだすと、曲は次第に大きなうねりを作り上げ、豪快でスケールの大きな楽曲へと膨らんでゆく。YO-KINGの身体の奥底から熱があふれだすのに合わせ、楽曲もどんどんと熱を上げる。いつしかYO-KINGは声を荒らげるように歌っていた。熱情した気持ちと重なりあうように爆発しだす演奏。熱を上げたロックなグルーヴに包まれ、気持ちが上がっていく。高揚した感情に包まれる、この感覚が最高だ。

YO-KINGの「だるい感じ」と吐き捨てるような歌声が響きだす。巧みな駆け引きも見えるダウナーなロックンロール風の演奏から始まった“スピード”は、次第に演奏の速度を上げるのに合わせ、熱とパワーをどんどん膨らませる。YO-KINGは「スピード もっともっと速い」と歌いながら、みずからの気持ちも奮い立て、彼の高ぶる感情とシンクロするように演奏もパワーを増していく。スリリングな演奏は、いつの間にか観客たちも巻き込み、場内中に大きな熱の塊を作り上げていた。そこで表情は一変。YO-KINGと桜井秀俊が共にアコギを手にして歌ったのが、デビュー曲の“うみ”。2人はねっとり、ゆったりと“うみ”を歌いながら、何処かノスタルジーを覚える空気をこの会場に生み出していた。“橋の上で”でも2人は、エレピの音色を軸に、ゆったりした雰囲気を覚える世界を描き出す。淡いノスタルジーを感じる景色の中に身を預け、YO-KINGは懐かしむように、愛しき思い出の相手へ問いかけるように歌った。続く“この愛は始まってもいない”でも彼らは、在りし日の思い出の景色の中に観客たちを導き入れ、淡い思い出の景色の中で一緒にまどろみを覚えていた。YO-KINGの鳴らしたギターの音を合図に、再び楽曲は力強く駆けだした。“一触即発”を通して演奏陣が音をぶつけ合い、グルーヴした大きなロックンロールのうねりを巻き起こす。再び場内中にも熱が湧きだす。その熱をさらに膨らませるかのように、YO-KINGが「俺はまだ死んでないぜ 未来はまだ輝いてるぜ」と歌いながら“明日はどっちだ!”をぶち噛ましてきた。自らの気持ちを鼓舞するように歌うYO-KINGに合わせ、彼の心情とシンクロした演奏も唸りを上げていく。どんどん華やかさを増すロックンロールな演奏だ。その勢いをみんなで明るく弾け飛ばそうと、続いて“どか~ん”を演奏。YO-KINGの歌う「どかーんと一発やってみようよ」の歌声と振りに合わせ、客席の人たちも、どか~んと弾けるように、その場でノリノリになって騒いでいた。この曲はいつだって理屈も屁理屈も関係なく、みんなで一緒にわちゃわちゃとはしゃげる空気を作りあげる。いつだって“どか~ん”は、ピーカンの夏空以上に晴れた気持ちにしてくれる。

そしてライブは終盤へ。場内中を熱情したカーニバルのような空気に染め上げる、その口火を切ったのが“Keep on smiling”。途中に演奏陣のソロ回しも組み込みながら、ホンキートンクなロックに乗せ、会場にダンスパーティーを楽しむ雰囲気を作り出す。その空気を一気に爆発させたのが、“新しい夜明け”だ。まるでゴスペルミュージックを聴いているかのような感覚で、うつみようこの「僕らはどこまでも歩く 終わることなきこの道を」と歌う声が力強く響き渡る。その上に絡むYO-KINGの歌声との掛け合いが熱く胸を騒がせる。曲が進むにつれ、どんどんと希望や勇気というエネルギーが湧き上がり、身体が熱くなる。この場にいる一人一人が曲の中へと参加し、一緒に歌いだす。まるでゴスペルクワイアに触れ、共に歓喜していくのと似た空気を感じていた。気持ちが嬉しく、熱く湧き立つ。もっともっとアガっていきたい。その感情のまま、2人は観客たちを真夏の景色の中へと連れ出し、みんなの気持ちを夏の子供たちに塗りかえた。“ENDLESS SUMMER NUDE”に合わせ、終わらない夏のビーチパーティーの中へ身を投じた観客たちが無邪気にはしゃいでいた。身体が勝手に揺れ動く。歌詞の一節のように「僕ら今 はしゃぎすぎてる 夏の子供」になり、一人一人が心を自由に、眩しい青春の景色を彩る主人公になっていた。最後に真心ブラザーズは、“空にまいあがれ“を披露。この会場にいるすべての人たちの心を、遠い遠い晴れ渡る空の上へと舞い上がらせるように、彼らの歌が心に翼を授け、気持ちを自由に羽ばたかせていった。気がついたら、みんなと心を一つに溶け合わせ、一緒に心地好く舞い上がっていた。

アンコールの最初に歌ったのは“拝啓、ジョン・レノン”。パワフルでアッパーな攻めたロックナンバーに刺激を受け、場内中の人たちが、2人や演奏陣と一緒にはしゃぎだす。気持ちを熱く掻き立てるように唸るビートの渦の中で、共にぶち上がっていたい。最後に真心ブラザーズは、“RELAX~OPEN~ENJOY”を歌い奏でながら、会場中の人たちをゆったりとしたビートの上にまったりと寝そべらせ、心地好い余韻をしっかりと、身体や意識の中へと染み渡らせた。その感覚を覚えながら、ライブの幕は閉じていった。この景色を、中野サンプラザの思い出の彩る一つとして心へ刻むように…。

Text:長澤智典
Photo:石川雄斗

https://www.magokorobros.com/

『サンキュー・サンプラ・愛・サンサン』@中野サンプラザ セットリスト
01. EVERYBODY SINGIN’ LOVE SONG
02. BABY BABY BABY
03. 愛
04. 白い紙飛行機
05. 或る男の詩
06. Gotta Poison
07. マイ・リズム
08. Body as Machine
09. 素晴らしきこの世界
10. スピード
11. うみ
12. 橋の上で
13. この愛は始まってもいない
14. 一触触発
15. 明日はどっちだ!
16. どか〜ん
17. Keep on smiling
18. 新しい夜明け
19. ENDLESS SUMMER NUDE
20. 空にまいあがれ

ENCORE
01. 拝啓、ジョン・レノン
02. RELAX~OPEN~ENJOY

LIVE
真心ブラザーズ 弾き語りライブ・ツアー『真心道中歌栗毛 2023』
・2023年4月16日(日)
神奈川・横浜にぎわい座芸能ホール
開場・開演 16:30 / 17:00
・2023年4月22日(土)
北海道・東川町せんとぴゅあ
開場・開演 16:30 / 17:00
・2023年4月23日(日)
北海道・札幌EZOHUB
開場・開演 16:30 / 17:00
・2023年4月29日(土)
岡山・能楽堂ホールtenjin9
開場・開演 17:00 / 17:30
・2023年4月30日(日)
香川・丸亀市猪熊弦一郎現代美術館2階ミュージアムホール
開場・開演 14:00 / 14:30
・2023年5月5日(祝・金)
兵庫・神戸月世界
開場・開演 16:30 / 17:00
・2023年5月7日(日)
和歌山・CLUB GATE
開場・開演 16:00 / 16:30
・2023年6月3日(土)
岩手・岩手銀行赤レンガ館
開場・開演 13:30 / 14:00
・2023年6月4日(日)
宮城・白石市古典芸能伝承の館碧水園 能楽堂
開場・開演 15:30 / 16:00
・2023年6月10日(土)
熊本・早川倉庫
開場・開演 16:30 / 17:00
・2023年6月11日(日)
福岡・森本能舞台
開場・開演 16:00 / 16:30
・2023年6月24日(土)
愛知・名古屋 東別院対面所
開場・開演 16:30 / 17:00
・2023年6月25日(日)
大阪・味園ユニバース
開場・開演 16:30 / 17:00
・2023年7月17日(祝・月)
東京・大手町三井ホール
開場・開演 16:30 / 17:00