真心ブラザーズ VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

■自分もそうでしたが、今の時代が持つ憂いという感情をいろんな曲たちに重ね合わせて聴く人たちも多くいるような気がします。

桜井 そうなりそうですよね。音楽って不思議なもので、世の中が良くない状況であるほど必要なものとして求められる。もちろん遊び心を持って、楽しく音楽を作るのも大事だけど、今回はより真剣に向き合い、そこで生まれた曲たちを通して今の時代に生きるみなさんとコミュニケーションをしたいなと思った。だからこういう作品が生まれたんだと思います。

■シリアスな楽曲が目立つのも、今の時代を考えれば自然なことだったんでしょうね。

桜井 そうだと思います。コロナ禍前だったら、きっとこういうアルバムは作っていなかったと思う。

YO-KING 日々のニュースをチェックとかはしないけど、それでもいろんな情報が耳には入ってくるから。何より能天気に生きている自分でも、日々暮らしていく中で「面倒だなぁ」と思うことが増えてきた。そういう感情が楽曲に反映するのは、至極当たり前のことですからね。

■中には“君がすべてだったよ”のような、淡い青春時代を振り返るような歌も収録していますね。

YO-KING この曲は、2001年に出した『流れ星』とか、あの辺の流れを汲んだ曲で。なんかそういう曲を作りたくなって生まれました。

■今回は「憂い」という言葉がアルバム全体を包み込む鍵にはなっていますけど、すべて憂いを持った歌で埋めつくす必要もなければ、そこはバランスを考えていくべきでもありますもんね。

YO-KING なんとなくバランスは考えますよね。今回制作していく中で「憂い」というテーマが生まれたように、最初からそこを求めて作り出したわけでもないから、その匂いがアルバム全体から伝わるなら、それでいいんじゃないですかね。

■桜井さんの書いた“群衆”は、まさに「憂い」が似合う楽曲ですね。

桜井 指弾きのエレキギターに、ウッドベース、ブラシを使ったドラムでの演奏ですからね。それこそ「いつの時代の楽曲なんだ?」っていう。もし25歳頃にこういう曲を作っていたとしても、この演奏は出来なかったからね。そう思えばいいタイミングで、いいプレイを詰め込めた曲になりましたよね。

■ここまで「憂い」という言葉を使ってきましたけど、アルバム『TODAY』自体、決して「どよーん」とした作品ではなく、むしろ気持ちをアゲてくれる面も強いです。そこが真心ブラザーズらしいんでしょうね。

YO-KING そうなる自信はありましたからね。やっぱり二人とも地が明るいから、そういう部分はどうしても出ちゃう。暗い振りは出来るけど、どっかで明るさが出ちゃうよね。

■それが映し出されたアルバムですね。

桜井 そうなりました。ただし……。

YO-KING もともと明るい性格だとは言っても、無理に明るさを装ってもね。それは嘘を並べた歌になっちゃうじゃない。それよりも「今の時代の中で感じる明るさってなんだろう?」と思いながら、楽曲を作っていった面はあったかも知れない。

桜井 「今の時代の中で感じる明るさ」って言葉、まさしくそうですよね。自分の作った“群衆”という楽曲の中でも、「影のない 濡れた道」と言う表現をしています。昼間って日が差しているから、普通なら影が出来るじゃないですか。でも、雨上がりの濡れた道だと、その影が消されてしまう。僕らとしては、アルバムを聴いてくださった人たちに元気を与えたいんだけど、今の時代に合わせた形で元気を与えるなら、こういう「憂い」を持った上での届け方が一番似合うんじゃないかと思って、そういう表現もしてみました。なんだろうね……今、ここで声高に「人生最高!」って叫んでも伝わらないじゃないですか。やっぱりその時代のモードに合わせた元気の出し方ってあるんだろうなと思って。

■完成した『TODAY』というアルバム、今、どんな気持ちで受け止めていますか?

YO-KING 手応えはいつも以上にありますね。

桜井 後に真心ブラザーズの歴史を振り返った時、『Cheer』と『TODAY』の2枚は、真心ブラザーズがコロナ禍の中で出したアルバムと位置づけられると思うんですけど、まさか2年経っても疫病が治まっていない状況の中、今度は戦争か始まって、相変わらず国の景気は右肩下がりの状態……。ギアを入れて踏ん張ろうにも、そんな気力も出ない。そんな世相もこの2枚のアルバムを通して見えてくるところにも、今の時代を映し出していますよね。

■ところでなぜアルバムタイトルを『TODAY』にしたのでしょうか?

YO-KING 人それぞれに今日という日々があるように、その毎日の中、なんとなくみんな感じている息苦しさを伝えるアルバムにもなった。それを「TODAY」という言葉で象徴することで、みんなにも自然と想いが伝わるかなぁと思って。そういうのが伝わらない人にも、「TODAY」はありますしね。それにここ何年かではなく、今の時代を反映したアルバムという面でも、「TODAY」という言葉が相応しいなと思ったのもありましたね。

桜井 岡本太郎さんが1954年に出した本に「今日(こんにち)の芸術」という本があるんですけど、あれから60年近く経つのに、この本を読むと、あの時代の感覚に引き戻されながらも、今の時代の想いとしても伝わってくる。『TODAY』と題したこのアルバムも、どんなに時間が経っても、聴くと今の時代に重なりながらも、あの時の「今日」に連れ戻していく。なんかそうなりそうな楽しみを覚える面でも、このタイトルっていいですよね。

■この後は、アルバムを携えて全国ツアーがスタートしますね。

桜井 去年もツアーはやりましたけど、あの時はアコースティックスタイルとバンド編成を組み合わせた形だったけど、今回はすべてバンド編成で回ります。このご時世、バンド編成で各地を回れるって嬉しいことですよね。なので、そこは気合を入れて楽しんでいこうかと。(笑) そのためにもまずは健康第一で。みなさんにも「言いたいことをぶちまけあおうよ」じゃないけど、ちょっと飲みに行くような感覚で、アルバム『TODAY』やライブを楽しんでもらえたらいいなと思っています。

YO-KING まずは自分に優しく。そして「しんどいな」と思ったら休んでください。自由に生きてください。以上です!

Interview & Text:長澤智典

PROFILE
1989年 大学在学中、音楽サークルの先輩YO-KINGと後輩桜井秀俊で結成。バラエティ番組内「フォークソング合戦」にて見事10週連続を勝ち抜き、同年9月にメジャーデビュー。『どか~ん』『サマー・ヌード』、『拝啓、ジョン・レノン』など、数々の名曲を世に送り出す。2014年に自身のレーベル「Do Thing Recordings」を設立。また、YO-KINGはメンバー全員フロントマンのドリーム・バンド「カーリングシトーンズ」のメンバーとして、桜井秀俊はアーティストへの楽曲提供やサウンドプロデュース、サポート・ギタリストとして、各々のフィールドでも活躍中。デビュー34年目となる今もなお、ライブ、制作にと、精力的な活動を展開している。
オフィシャルHP:https://www.magokorobros.com/
日本コロムビアHP: https://columbia.jp/magokorobros/

RELEASE
『TODAY』

COCP-41887
¥3,300(tax in)

Do Thing Recordings / 日本コロムビア
10月26日 ON SALE