松室政哉 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

松室政哉『Touch』

心にTouch。その触れ合うことの大切さを松室政哉が教えてくれた。

先に、資料に記された文章を転用したい。「無類の映画フリークであるシンガーソングライター松室政哉、楽曲世界を視覚的にも更に広げるためMusicalize Project(読み:ムジカライズ プロジェクト) を始動」。この文章を読み、「一体どういうことなのか?」と思った方も多いだろう。ここからは松室政哉の言葉を借りながら、彼が「Musicalize Project」Vol.1として発売したコンセプト・ミニアルバム『Touch』を通して描いた素敵な物語を紐解こうか。

■松室さんが掲げた「Musicalize Project」。これは一体どういうものなのか、まずはそこから教えてください。

松室 そもそも僕は音楽を作る時、頭の中に映像を浮かべ、それを曲にしていく形を取り続けています。もちろん今回のミニアルバム『Touch』へ収録した曲たちも同じ作り方をしています。そこに加えて今回は、より視覚的だったり、より物語が浮かびやすい曲たちを並べたい。つまり、一つ一つの楽曲に枠組みと言いますか、テーマ性を与え、その物語や世界観をより深く追求したいなと思いました。

■曲ごとにテーマを作ることで、楽曲の持つ世界観をより深く追求していけると?

松室 そうです。先に6曲並べた時の大きな物語の展開を決め、一つ一つ描きたい物語のプロットを作り上げていく。その上で、曲ごとに掘り下げていくテーマを定めることで、より深く物語や描写を掘り下げていける。そうやって今回の曲たちを作りました。

■ミニアルバム『Touch』に描いたのは、”僕”の視点から捉えた恋物語ですよね。

松室 そうです。今回は1枚の作品を通して、ラブストーリーのその顛末まで描こうと決めていました。ざっくり説明すると、「出会って、仲が深まって、別れ、その後に…」という展開になっています。でも、恋愛映画ってみんなそうですよね。描き方はそれぞれ違うけど、基本的には同じような流れを持っている。「それを松室的に描くとどうなるのか…?」それをミニアルバムに示したわけです。

■ミニアルバム全体的に言えることですが、曲調は明るいのに意外と切ない思いを記した歌が多くないですか?

松室 そういう話になったのも、ちょうど制作期間中が最初のコロナ禍の時期だったというのも大きかったと思います。決してコロナ禍について歌っているわけではないですが、あの時期はライブが中止になるどころか、外に出るのも躊躇する環境だったじゃないですか。必然的に人と会いたくても会えない状況がずっとあった。それがお互いの心の距離を、触れたくても触れられない気持ちを歌った曲たちに繋がった面は確かにありました。

■その影響が切ない内容に繋がったんですね。

松室 そうです。しかも僕自身、切ない恋愛映画が好きなんです。感情をプラスとマイナスに分けるなら、僕はマイナスの感情に共感を覚えるし、たとえそれが負の感情だとしても、そこへ共感を覚えることが心のパワーにも繋がっていく。たくさんの人が経験している痛みだって共感を覚えることで、きっとプラスの力にも変えていける。それに恋愛映画のほとんどがたとえ別れの物語だろうと、ハッピーエンドを着地点に描くじゃないですか。この作品に描いた物語もそうなのかは、聴いた人たちそれぞれに結末を用意して欲しいんですけど、この『Touch』というミニアルバムを聴き終えた時に、1本の映画を観終えたような気持ちになってもらえるような作品に作りあげました。

■ここからは、1曲1曲の物語を紐解こうと思います。冒頭を飾った“ai”からは、二人の関係がどんどん近づいていく様が見えてきます。同時に、僕がどんどんキミに夢中になっていく姿も描き出していませんか?

松室 先に伝えておくと、物語の視点を「僕」に置くのか「君」に置くかで、同じストーリーでも内容が変わっていくので、この作品では一貫して”僕”の視点で物語を語っています。“ai”では、恋の始まりとまではいいませんが、まずは2人が同じ恋愛感情を持っているところから物語は始まるべきだなと思いました。ただし、ただ幸せなだけではない。恋愛映画もそうじゃないですか、幸せな2人がずっと映し出されているだけでは、その先の展開が気にならない。その関係に何かひっかかりがあるから気になるし、物語も進んでいく。“ai”に描いた2人の幸せな関係の中には、そういう面も描き出しています。

■とても明るい曲調の“hanbunko”ですが、じつは僕と君は離れた関係にいますよね。

松室 “hanbunko”は、まさにコロナ禍の影響が大きく反映された曲です。当時、初めて無観客で配信ライブをやった時に、「みんなで曲を作ろう」という企画を立て、みんなからいろんなワードをいただきました。その上で生まれたのがこの曲なんですけど、それが物理的な距離なのか、心の距離なのか、捉え方はいろいろでしたけど、総じてみんな「会いたくても会えない淋しさ」を言葉にしていました。その「会いたい」気持ちを込めて作ったのが、遠距離な関係を舞台にした“hanbunko”になります。

■“PUZZLE”では、心に葛藤を覚え、2人の関係性にヒビが入り始めます。

松室 これまでの自分のスタイルにはなかったリフやフレーズなどが絡み合う、IQ度の高いサウンドが生まれた時に「まるでパズルを紐解くような曲だな」という印象を覚えたんです。なので、最初から“PUZZLE”というタイトルを決めていました。それを今回の作品の流れに組み込んだ時、イメージがバッと沸き上がり、物語がドドドッと一気に降りてきたんです。そこで生まれたのが、お互いの関係にヒビが入っていく姿。まさに起承転結の「承」から「転」へ向かう様がここには描き出されています。ちなみに、どの曲でも僕は具体的すぎる描写まではしていません。僕が描く上で心がけたのが、6本のプロットとなる曲にしていくこと。映画のプロットには細かい描写までは書かれていないんです。細かい描写は、その後、台本に書かれていくわけですけど、その台本を、僕はみんなに書いて欲しかったので、あくまでも想像の余地を持った曲たちとして作りあげています。

■“Cube”で、物語には別れという現実が一気に押し寄せます。

松室 この物語の中で、一番精神的に悲しいところを描き出しています。“PUZZLE”の時は、まだ希望の光を見つけようとしていたけど、“Cube”ではなかなかしんどい精神状態になっていますよね。人にもよるとは思いますし、僕自身はそうなんですけど、恋に傷ついてしまった時ほど、「世界で今、一番不幸なのは自分だ」と思ってしまうくらいに落ち込むじゃないですか。“Cube”はまさにその境地の曲です。でも、そこがあるから次へ向かっていけるんです。