May J. VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

「やっぱり常に変化してるんだなって」3年7か月ぶりのカバーアルバムで感じた変化。

May J.が3年7か月ぶりのカバーアルバム『Bittersweet Song Covers』をリリース。累計100万枚を突破しているという彼女のカバーシリーズの最新作には、自身のYouTubeチャンネルにて、スナックのママに扮してカラオケで歌唱する「スナック橋本」企画で披露した80年代を中心とした名曲を収録。その他、新録楽曲を含めた全12曲の懐かしい楽曲が揃っている。
昨年末にはコロナ禍に自身が全曲作詞・作曲を手掛け、今までの作品と雰囲気の違う「DarkPop」をテーマとしたアルバム『Silver Lining』のリリースもあり、「スナック橋本」の他にもJ-POPの楽曲をカバーするなど、幅広い挑戦をしているMay J.。それを経て今作のカバーアルバムの制作に踏み切った理由や、そこで発見した自身の変化などについて話を訊いた。

■今作は3年7ヶ月ぶりのカバーアルバムですが、このタイミングでカバーアルバムを出すことになった理由はあったんですか?

May J. 今回はYouTubeが結構関係していて、去年の4月からYouTubeを始めたんですけど、そこで「スナック橋本」っていう企画を始めたんです。そうしたらそれが意外と見られていて。「スナック橋本」で歌っている曲は、スナックの雰囲気に合うような80年代の曲が結構多いんですけど、その反応が良かったので「それを収録したアルバムを作ったらいいんじゃないか」っていう流れでした。

■スナックというモチーフはどういうところから来ているんですか?

May J. 私は別にスナックには行かないんですよ。(笑) 多分今まで1回か2回くらいしか行ったことなくて。でもYouTubeを見てくれている人たちが年代的にも40、50代の方だったり、男性が多いっていうのもあって、「その方々に喜んでいただける企画ってなんだろう?」と思ったら、スナックが浮かんできたっていう感じでしたね。

■「スナック橋本」で歌うのは、ライブやテレビで歌うのとも感覚は違いますか?

May J. 全然違います。本当にテレビだと自分の良さが全く出せないんですよ。(笑) 自分でもびっくりしちゃうぐらい。なんか小さくなっちゃうんですよね、いろんなトラウマがあって……。(笑) YouTubeは何にも気にせずに歌えるので、多分一番自分らしい自分の良さが全部出せているなって思います。

■10年近く前の話にはなりますが、テレビでもカラオケの企画に出演されていましたよね。

May J. たまにTikTokとか見ていると、その頃の映像が出てくるんですよ。それは自分でも「すごいなぁ……」みたいな感じで見ているんですよ。というのは、その頃って死ぬ気で歌っていたので、もう今は同じことはできないんですよ。もし勝てなかったら次がないみたいな、そういう緊迫感の中で一生懸命に歌っていたんですけど、その自分って今はいなくて。だから、見ていると「すごいな」って思います。自分で言うのも変なんですけどね。(笑) でも本当にそれくらい変わったんですよね。

■今YouTubeで歌っていらっしゃる時は、もっと肩の荷が降りているというか?

May J. はい。(笑) 何も気にせずに歌っていますね。

■それはレコーディングなどで楽に歌うという意味でも、活きていたりするんですか?

May J. 元々レコーディングは一番ホームの場だったので、レコーディング自体は一番自分が出せる場所ではあったんですよ。ただ映像とかってなるとまた違う話なんですよね。一発で絶対に撮らなきゃいけないっていうプレッシャーがあるし。でもYouTubeは全部自分でコントロールできる場所っていうことで、最近すごく安心できるようになりましたね。

■そうだったんですね。今回のアルバムタイトルを『Bittersweet Song Covers』にした理由はなんだったんでしょうか?

May J. タイトルはすごく悩んだんです。いろんな候補があったんですけど、特に80年代の曲って、失恋とか上手くいっていない恋愛に対して歌っている曲が多いので、それにかけてほろ苦い「ビタースイート」にしたっていうこともあるし、あとはその世代の40、50代の方たちが聴くと、「当時のこと思い出したりとかもするんじゃないかな?」と思って、それも「ほろ苦い気持ちになるのかな?」っていう。そのダブルミーニングで付けました。

■今回収録した楽曲の中で、May J.さんが個人的に思い入れの深い曲ってありますか?

May J. 特に“フライディ・チャイナタウン”がすごく好きですね。岡村隆史さんのオールナイトニッポン歌謡祭が毎年横浜アリーナで開催されていて、私はそれに毎年出演しているんです。それで、2016年に「“フライディ・チャイナタウン”を歌って欲しい」って言われて。その時は知らない曲だったんですけど、歌ってから大好きになって。カラオケでもよく歌うし、自分のライブでも歌うようになりました。なので、今回改めてこの曲を収録できてすごく嬉しいです。

■歌い方でいうと、去年の配信シングルの『Love&Hate』や、『DRAMA QUEEN』の際に見られた、思いきり歌い上げずに、柔らかく歌っていくという歌い方の延長線にある楽曲でもあるんじゃないかな?と感じました。

May J. なるほど。確かにめちゃくちゃ歌い上げてはいないですね。でも歌い上げている曲もあるんですよ。それこそ“フライディ・チャイナタウン”は、結構声を張って歌っているし、なんならサビのハーモニーで3度上を地声で歌っているんです。サビだけでもすごく高いんですけど、あえてそこは地声で張って。すごいパーティーな感じを出しています。でも例えば“埠頭を渡る風”は、声を張って歌うキーじゃないんですよね。私にはすごく低くて、盛り上がるところでもっと声を出したくなっちゃうんだけど、出さないっていう。「常に一定のラインで保つ」みたいな歌い方をしていて。そういうのは確かに前作で抑える歌い方を取得してから歌えるようになったんじゃないかなとは思います。

■3年強ぶりにカバーアルバムの制作をして、改めて感じたご自身の変化って何かありましたか?

May J. そうですね。言い方に迷うんですけど……今までは結構響きを重視していたんですよ。「喉の開き方はこうじゃなきゃいけない」とか、音へのこだわりがすっごく細かかったんです。でも今回は言葉をもっと大事に歌うようにしました。やっぱり歌詞がどれも素晴らしいし、ちゃんと伝えたいので、あえて上手く聴こえないようにというか、歌詞をちゃんと届けるように意識していますね。

■歌詞をもっと伝えようというのは、そう思ったきっかけとなる出来事があったんですか?

May J. これはずっと自分の中での課題ですね。「すごい上手いけど、何も伝わらない」ってよく言われていたから……。(笑) 「なんでそういう風に聴こえるんだろう?」っていうのは、ずっと意識していたんですよね。せっかく一生懸命歌っているつもりなのに、歌詞が届いていないっていうのは悔しいじゃないですか。「その原因ってなんだろうな?」ってずっと自分の中で探っていて。だからかもしれないですね。

■歌が上手いという方に意識がいってしまうんですかね?

May J. うーん……。でも自分にとってはそれが普通だったから、「その間には何があるんだろう?」っていう。

■今回は“ロンリー・チャップリン”でクリス・ハートさんと一緒に歌っていますね。何度目かのコラボだと思うんですが、いかがでしたか?

May J. もうクリス・ハートは間違いないです!(笑) なんか安心できる人だなって。歌声もそうだし、存在もそうだし。ずっと一緒に歌いたいですね。

■“ロンリー・チャップリン”は聴いていても、歌の温度感がすごくあるなと思いました。

May J. やっぱり鈴木兄弟のあのねちっこさですよね。(笑) ライブバージョンとCDバージョンでもまた違うんですよ。「ライブバージョンは、どんだけグルーヴィーなの?」みたいな。(笑) すっごい溜めて歌ったりとかしているあの凄さ。あそこまではできないんだけど、自分なりのR&Bのグルーヴをちゃんと出したいなと思って歌いました。

■カバー曲の時は原曲の良さを引き出す方向にいくことが多いんですか?

May J. 全く違うことって私はあんまりできなくて。どうしてもちゃんと原曲をリスペクトする気持ちが前面に出ますね。あえて全然違う風に歌う方とかもいるじゃないですか。でもそれができないんです。

■だからこそMay J.さんの新しい表現も聴けるように思います。例えば“土曜の夜はパラダイス”はすごく明るい仕上がりで、聴いていてすごく珍しいなとも感じました。

May J. 私もそれは歌ってみて思いました。「これは今までの私では歌えなかったな」と。ちょっと歌い方を変えたんですよ。私はすごいビブラートをかける人で、どこでもビブラートをかけるみたいなところがあったんですけど、それを辞めました。ちゃんと語尾に合わせてビブラートをかけないところを作ったんです。「これはJ-⁠POPにしかない歌い方だな」っていうのに気づいたんですよね。ビブラートで綺麗に伸ばすんじゃなくて、あえて伸ばしきるとすごく可愛く聴こえるんです。逆にビブラートをかけて歌うと、カッコ良く聴こえるんですけど、でもこの曲はカッコ良さじゃないなと思って。だから伸ばして、ちょっと最後上がっちゃうところを作ってみて。だから、自分の中ではすごい乙女なんですよね。

■なるほど。あえてビブラートをかけないというと、“木綿のハンカチーフ”もいい意味で素朴というか。さっきおっしゃったように、ビブラートのイメージがすごくあったので、そうじゃない歌い方がすごく新鮮に感じました。

May J. 嬉しいですね。ありがとうございます。歌詞のストーリーに出てくる女性を演じ切るっていうところを意識しました。

■そういった曲による歌い方というのは、歌詞の内容から考えていくのか、感覚的に合わせていくのか、どういう風に歌い方を模索していくんですか?

May J. 声を作るまでは結構大変ですね。レコーディングの前に自分なりに「こういう感じかな」っていうイメージを作っていくんですけど、実際にレコーディングすると、「あれ、違うな……」っていうこともあって。語尾の切り方や声色も含め、トーンを決めるっていうのは結構時間がかかります。「役に入るための声のレンジをどこにしよう」っていうのを最初に決めますね。

■「役に入る」みたいな感覚なんですか?

May J. そうですね。だって自分だったら歌えないですもん。自分のストーリーじゃないので。(笑)