三澤紗千香 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

三澤紗千香『この手は』

暗く聴こえたら病んでいる?5年半ぶりのシングルに込められた重い気持ち

2009年の声優デビュー以来、「俺を好きなのはお前だけかよ」のコスモス(秋野桜)役や「BanG Dream!」の青葉モカ役などで活躍し、ラジオパーソナリティとしても人気の三澤紗千香が、歌手としては2014年8月以来のシングルとなる『この手は』をリリースする。声優としては数多くのキャラクターソングを歌っている彼女だが、久しぶりに自身の名義となる本作では自分らしさを追求。そのときの精神状態によって、明るく聴こえるときもあれば、暗く聴こえるときもある、自ら情緒不安定と認める彼女ならではの楽曲が完成した。的確に自己分析をしながらも、最後は心の赴くままに行ってしまうという彼女の人柄がたっぷり詰まったインタビューをお届けする。

■三澤紗千香としては5年半ぶりのシングルになりますけど、なぜそんなに期間が空いたんですか?

三澤 音楽活動は好きだし、ずっとやりたいと思い続けていたんですけど、事務所の移籍などもあって、なかなか状況が整わなかったといいますか…。今の事務所に落ち着いてからは、いちばん大事な部分である声優としての足場を固めることを第一に考えて、いろいろがんばって活動していたら、今回お声がけいただくことができました。

■声をかけられた理由は聞いていないんですか?

三澤 担当のプロデューサーからは、「何か感じるものがある」とは聞いていましたが、私はやっていただけるだけでありがたいので、特に多くを聞かないようにしていました。

■あえて聞かないように?

三澤 聞いたところで何か変わるわけじゃないですし。(笑) それに聞かされていない理由もあると思うんです。きっと今は知らなくていいことで、しかるべきときに明かされるんだろうなって。

■なるほど。もともと歌は好きで、大学では軽音サークルにも入っていたんですよね?

三澤 そうですね。1年ちょっとだけでしたけど。

■ボーカルをやっていたんですか?

三澤 ボーカルでした。ギターも買ったけど弾かず。(笑) ボーカルが足りていなかったんですよ。定期的にライブハウスで発表会をしていて、そのたびに興味のある人たち同士でバンドを組んでいたんですけど、ボーカルが足りないから、「三澤さん来てください」と呼ばれるような感じでした。

■そのときはどういう音楽をやっていたんですか?

三澤 アニソンのカバーが多かったです。まわりもアニソン好きが多かったんですよ。そういう環境もあったので、「アニソンとは?」みたいなことを特に考えた時期でもあって。キャラクターが歌うとか、アニメのタイトルを歌うとかだけでなく、アニメの内容とアーティストに共通点があるとか、ストーリーとつながりはあるけど別々の作品としても成立するとか、いろいろあるじゃないですか。だから今回リリースするにあたってもいろいろ考えたんです。アニソンを多く出しているレーベルではないですし、J-POP系の作家さんに作っていただいても声優の私が歌ったらアニソンになるのかとか…。

■その答えは出たんですか?

三澤 あんまりとらわれすぎない方がいいなと思いました。ファンの人は三澤紗千香らしさについてきてくれているわけだし、その三澤らしさを追求すれば、おのずとアニメが好きなこととか、いままで通ってきた音楽歴とか、自然にじみ出ると思ったのです。そこにたどり着くまでは、何カ月もお腹が痛い時期をすごしましたけど。(笑) 昔からのファンが求めている三澤ってなんだろう?、新規のファンが求めている三澤ってなんだろう?、その人たちが見ているさらに先の三澤ってなんだろう?とか、考えに考えた結果、だいぶ重い再デビューソングができました。(笑)

■じゃあ、自分らしさが出ることを重視して曲を選んだんですか?

三澤 そうですね。今までキャラクターソングを歌わせてもらうときは、ミドルテンポの曲になることが多かったので、自分の声はミドルテンポが合うんだろうなと思っていて。それと個人的にはバンドとかハウスとか縦に刻むリズムが好きなので、基本は縦にリズムがあって、ゆっくりすぎず速すぎない曲という方向でいろんな方に書いていただいて、そのなかから選びました。

■最終的に“この手は”を選んだ決め手は?

三澤 どれもいい曲だったんですけど、この曲だけデモを聴いたときに「もう一回、聴いていいですか?」ってなったんです。何か引っかかるものがあったというか、「俺、全部ここにかけました!」みたいな感じが伝わってきて、私も常に何か爪痕を残したいという気持ちでやっているため、それと同じようなものを感じたんです。実際に作詞・作曲・編曲してくれた斎藤竜介さんにあとで聞いたら、「東京に出てきて作家をやっているけど、これが選ばれなかったら地元に帰るぞくらいの気持ちで書きました」って言われて、「伝わっています!」ってなりました。

■そうだったんですね。デモの段階で歌詞もできていたんですか?

三澤 歌詞はあったんですけど、もっと刺々しかったんです。今回は私の再デビュー曲でもあるので、「新しく前に進んで行くとか、過去があって今も未来もあるという気持ちとか、もう少し希望のある歌詞にしてもらえますか」とお伝えして、今の歌詞になりました。でも、ある種の諦めみたいな部分もあって、でもやっぱり人を信じ続けたい気持ちもあって、精神的に似ている人なんだろうなと思いました。

■いろんな捉え方ができる歌詞だなと思いました。

三澤 そうですね。あんまり「こう感じてください」になっちゃうのは嫌だなと思っていて。みなさん自分の状況に引き寄せて聴くと思うんですけど、数年後に聴いたら全然違う曲に感じることってあるじゃないですか。そういう瞬間が楽しいと私は思っていて。この曲は聴く人の精神状態によって、感じ方がすごく変わると思うんです。明るく聴こえる人は、今たぶん人生うまくいっているんですよ。逆に暗く聴こえる人は、病んでいるというか、うまくいってないと思います。

■なるほど。(笑)

三澤 私も制作中に何回も聴きましたけど、「暗く聴こえるかな?」「そうでもないな…」、「明るく聴こえすぎちゃうかな?」「そうでもないな…」って。それはスタッフみんな同じ意見でしたね。「希望見えますか?」と聞いたら、「見えるときもあれば見えないときもあります」みたいな。(笑) ただ、どちらに聴こえても、終着点がどん底でもなければ、すごく明るいわけでもないところが三澤っぽいというか。最後には沈みすぎず、上がりすぎないところに戻ってくる。三澤の人生そんなものだなと思いつつ、それをこんなにもちょうどよく表現してくれる曲に出会えてよかったなと思います。

■歌っているときに、今までの自分のキャリアと重ね合わせた部分もあったんですか?

三澤 自分の今まで歩いてきた道は、けっこう長く感じるなぁと思いました。いなくなってしまった元ファンもいるし、逆に新しいファンもいるし、ずっと変わらず応援してくれるファンもいるし、家族や親戚みたいにどんな私であろうと応援してくれるファンもいるし。そういうことが浮かびつつも、人によって聴き方が違うんだろうなと思いながら歌っていましたね。「長いながい間を/歩いてきたんだね」という歌詞も、三澤に重ね合わせても聴けるし、それぞれの生き方を思い返しても聴けるだろうし。受け取り方がいっぱいあると思うので、発売が楽しみです。