ナノ『NOTHING BUT NOISE』ライブレポート@渋谷ストリームホール

過去を抱き、時代を駆け抜け、未来を掴む熱狂のライブ。

ふと掻き消えた照明の先、青く湧き立つ薄霧の中に爆発的なエネルギーを秘めた低音が響く。やがてその向こうにフードを深く被ったナノの姿が現れると、フロアからは大きな歓声が上がった。ナノが4月8日(土)、東京・渋谷ストリームホールでワンマンライブ『NOTHING BUT NOISE』を開催した。本公演は10周年アルバム『NOIXE』の発売を記念したもので、ゲストにはアルバムでも共演したDEMONDICE、KIHOW(MYTH & ROID)、__(アンダーバー)が登場。マスク着用の上での声出し許可もアナウンスされた本公演は、ナノにとってコロナ禍以降の声出し初解禁ライブとなった。

久々のワンマンライブともあって、開演前には再会を喜ぶファン同士の姿も見られた会場。1曲目の“Nevereverland”でフロアを一気に自らのカラーに染め上げたナノは、ギターの深いノイズが鳴り響く中、マイクを掴んで立て続けに“Evolution”、“CATASTROPHE”を披露する。黄金の輝きの中でオーディエンスを睨み、挑みかかるようなその姿に、観客は力強い手拍子とコールで応えていった。3曲をノンストップで歌い終え、ふわりとフードを取ったナノは、ステージを見上げる観客へ感謝と喜びの声を伝える。この日渋谷ストリームホールに集まったうち3~4割は海外からのファンであり、MCは日本語と英語の2言語平行だ。「久々のナノワンマン! もし帰るとき声残ってたら怒りますからね?!」と呼びかけ、“No pain, No game”をコールすると、フロアでは飛び上がって喜びの声を上げるファンの姿も見られる。ナノのライブでは観客が思い思いの楽しみ方をする姿も印象的だ。サビの腕振りも左右が揃わないけれど、ナノの歌声はその全てを抱きとめる。「only just begun」の大合唱やバンドを煽るハンドクラップ、赤と青の鮮やかな照明の中、腕を振り上げる観客の姿もライブの風景のひとつとなる。

続く“DREAMCATCHER”では吐息混じりの躍動の中で歌声が沸き上がり、前曲までの激しいパフォーマンスとは一転して可憐な少女めいたナノがサウンドの中で微睡むような姿を見せる。音の輪郭を丁寧になぞり、ひとつひとつを掴む歌声。ライブの熱狂を帯びながらも、「歌」と正面から対峙する姿は崩れない。6曲目の“Broken Voices with KIHOW from MYTH & ROID”ではゲストのKIHOWが登場。ニコニコ動画時代からナノを知る彼女とは、ニューアルバム『NOIXE』で念願のコラボレーションが叶った。小悪魔めいた魔性の歌声と、音楽に踊り酔いしれるスタイルはどこかナノと対照的ながら、二人が向かい合って歌声をぶつけ合わせる時は絶大なパワーが生まれていく。「次の曲は一生、死ぬまで人と歌うことは無いと思っていた曲です。夢が叶う瞬間をみなさんに見届けていただけたらと思います。Please enjoy “magenta”」そう言って呼び込まれた“magenta”は、ナノの1st ALに収録されたファンにとっても思い出深いナンバーだ。2番の歌い出しはKIHOWがメインヴォーカルを務め、ギターソロでは二人一緒に笑顔を輝かせてフロアを煽る。深いアウトロのサウンドが紫色のスモークの中で燃え滾り、ふと掻き消えた瞬間に、観客からは大歓声が上がった。

KIHOWがステージを去ると、続く“We Are The Vanguard”ではDEMONDICEが登場。キャップから零れる長い髪を振り乱して縦横無尽に駆け回り、スピーカーに足をかけてフロアを挑発するDEMONDICEは、歌い終えて「Dream come true!!」と拳を突き上げる。二人のMCはほとんど英語だったものの、ライブの魔法の前では言語の壁など存在しない。少しカラーの違う二人は、「まるで二人のためにあったんじゃないかというくらいの曲です。懐かしいよ?」と“JUMP START”を披露。ハードなサウンドの中でナノとDEMONDICEは時に背中を預け合い、DEMONDICEによるラップパートは鋭くフロアへ突き刺さる。閃光を背負った二人が残像となるフィナーレは大きな拍手に包まれた。

ゲストを送り出したナノは白いジャケットに着替え、「いろんなNoiseをみなさんに届けたいと思います」と告げて、生のバンドの音を聴かせるアコースティックパートに突入。光のカーテンが降り注ぐ中、澄んだ声で歌われる“リライト”、“深い森”は、複雑に絡み合うバンドサウンドの中で緩やかに漂う。ふとした瞬間、微かに聞こえる吐息や空を掴む仕草、それらの全ては「音楽」の中に帰結して、ウインドチャイムの煌めきの中で歌声が掻き消えていく。歌い終えたナノはニューアルバム『NOIXE』について、「嘘のない、自分の思いだけを詰め込んだアルバム」だと語る。アメリカで生まれ育ち、周囲には人種の違う人ばかりで、悩みの多い幼少期を送ったナノ。デビューから10周年を迎えて、今が過去を振り返るタイミングだと考えているという。「ギリギリまで言うか迷ったんですけど、ナノという名前は実は親から貰った本名です」この日のステージで初めて明かされたその告白に、観客からは驚きの声が上がる。「ナノという名前を、胸を張って背負っていきます」という言葉からは、この先に進む決意が感じられた。そうして披露された“Heart of glass”は、ナノが「ナイーヴで幼い自分に届けたい」と語った楽曲。祈るように両手でスタンドマイクを包んだナノは、燃え滾る激情をその声に滲ませ、天から降り注ぐメロディを切々と歌う。「世界を壊さないで、痛みを忘れないで」──重々しく壮麗なバンドサウンドの中、アルバムでも特に耳に残ったそのフレーズが翼を広げ、舞台の上から飛び立っていく。

その余韻がまだ耳に残るうち、突然流れ込んだ明るいイントロに呼ばれ、マスカレード風の衣装を身に纏ったゲストの__(アンダーバー)がステージへ駆け上がる。歓喜の中、前曲の憂いを切り裂くように叩き付けられる“第一次ジブン戦争”は、繊細な心が音楽と出会い、人との出会いを経て世界へと躍動する様を描いているようだ。「すげえ!ヤバくない?!ついに叶ったよ!ナノライで__(アンダーバー)!」楽曲を終え、悲鳴めいた歓声を浴びながら興奮を滲ませるナノ。二人は同曲について「いつかこの曲を二人で披露する日が来るかな」と思いつつ、機会がないまま10年もの年月が流れていたという。折角だからと「__(アンダーバー)は?」「サイコーです!」のコール&レスポンスも行い、ステージは絶好調だ。KIHOWとDEMONDICEの前ではアダルトな魅力を滲ませていたナノが明るくはしゃぐ姿に、観客も思わず笑みをこぼす。そして歌われた“A Nameless Color with __(アンダーバー)”は、ナノ曰く「“第一次ジブン戦争”のアンサーソング」「ぶっちゃけ(__(アンダーバー)への)ラブレターです」。何色にも染まらず自らの色で歌い続ける__(アンダーバー)へのリスペクトと、負けずに自分の色で歌うナノの決意が込められたこの曲は、ステージの上でふたりが声を重ねることによって本当の姿を得た。

__(アンダーバー)がマントを翻して去って行くと、「暴れすぎてセットリストが逆さまになっちゃったよ」と笑うナノ。観客に歌声を求めた“Let’s Make Noise”と“FIGHT SONG”では大合唱が起こり、チャント風のシンガロングには燃えるようなエネルギーが満ちる。闇の中でクラップが沸き上がり、腕を振り上げて歌うファンの姿。アルバムを聴いて夢に描いた風景が、まさにそこにある。最高の景色を眺め、拍手と残響の中で「名前を明かしたこと」による気持ちの変化を語る「ナノはナノなの!」という言葉に、観客席からは温かい笑い声。ここで家族のようなバンドメンバーを紹介し、「次の曲で最後になります」と告げる。そのMCには「えーーー!?」と不満の声が上がり、「結構長いセトリだったよ?!」と笑うナノ。再び感謝を告げ、次のライブを観客に約束して、大歓声の中の“SAVIOR OF SONG”で本編を締めくくった。

アンコールでは腕章をつけて登場したバンドに、観客から「アレじゃない?」と期待の声が上がる。一世を風靡した“God knows…”のギターリフに背中を押され、満を持して登場したナノは、ウサギの耳に黄色いリボンをあしらったカチューシャ姿。ウサ耳に手を添えて客席の盛り上がりを聞くナノは「涼宮ナノで~す!」と笑顔で自己紹介し、ベーシストを「くまさん担当」、ドラマーを「きつね担当」と名付けていく。最後にギタリストの担当を決めようとした時、フロアからは「ゴリラ!」という野太い声が上がった。「みなさんのおかげで史上最高のロックライブになりました」柔らかな言葉で観客を称えたナノは、新曲がテレビ朝日『王様戦隊キングオージャー』に起用されていることを明かす。それと共に、幼少期にはピンクレンジャーに憧れていたことも告白。幼い頃、片思いの子とスーパー戦隊ごっこで遊んだ時、別の子がピンクに指名され、「ナノは黄色ね!」と言われてしまった切なくほろ苦い思い出も語ってくれた。

ラストソングに選ばれたのは“Now or Never”。緊張しながら「みなさんの生の声を聞いてみたいと思います」とアカペラで歌い出したナノに、観客はコーラスで応える。手作りだというウサ耳カチューシャはフロアへ投げ渡されて、「帰りの電車でつけて帰ってね!」と可愛くリクエストされた。「みなさんのパワー、そして笑顔。応援しているので、人生ファイトしてください。本当にありがとうございます」その言葉と共に、強大なバンドサウンドを背負って叩き付けられた“Now or Never”。眩いバックライトの輝きに笑顔が弾ける中で、ライブは幕を下ろした。

Text:安藤さやか

https://nanonano.me/

『NOTHING BUT NOISE』@渋谷ストリームホール セットリスト
01. Nevereverland
02. Evolution
03. CATASTROPHE
04. No pain, No game
05. DREAMCATCHER
06. Broken Voices with KIHOW from MYTH & ROID
07. magenta with KIHOW
08. We Are The Vanguard with DEMONDICE
09. JUMP START with DEMONDICE
10. リライト
11. 深い森
12. Heart of glass
13. 第一次ジブン戦争 with __(アンダーバー)
14. A Nameless Color with __(アンダーバー)
15. Let’s Make Noise
16. FIGHT SONG
17. SAVIOR OF SONG

ENCORE
01. God knows…
02. Now or Never