Non Stop Rabbit『PITやんなきゃ始まらねぇだろTOUR2023~あの日と違う事はたった一つ、俺たちはメジャーアーティストになった~』ライブレポート@豊洲PIT

涙の日々を越えて輝きと歓声に包まれた豊洲PITリベンジライブ。

3つのミラーボールから迸る白い光線が観衆をシルエットに変え、ふと訪れた暗闇にピアノの音が響く。鼓動を思わせる光と音の演出はリベンジを誓った「あの日」からもがき苦しむ抑圧の日々と繋がり、やがて舞台に現れた3人が「昔々ある所に…」から始まる定番の口上を述べると大歓声が上がった。Non Stop Rabbitは、2023年1月より全国ツアー『PITやんなきゃ始まらねぇだろTOUR2023~あの日と違う事はたった一つ、俺たちはメジャーアーティストになった~』を開催。そのファイナルとなる東京・豊洲PIT公演が3月11日(土)に行われた。3年前、前代未聞のパンデミックを受けて、当時ツアーファイナルとして開催予定だった豊洲PIT公演を断念し、同会場からメッセージと新曲を贈ったノンラビ。あの日、無人の豊洲PITを背景に唇を噛んで涙を拭う彼らの姿は多くのファンの目に焼き付いている。あれから3年。世界を変えた新型コロナウイルスが消えたわけではないが、変わってしまった日常の中でもかつての賑わいを取り戻しつつあるライブハウスには、観客の声が響き始めている。今回行われたツアーでも一部公演で声出しが解禁。ファイナル豊洲PIT公演でもマスク越しのコールが会場を包み、「はるくん大好き!」という男性の大声に会場が吹き出すシーンもあった。

空を貫くような“PILE DRIVER”を高らかに歌い上げて幕を開けた豊洲PIT公演は、「3年越しにリベンジしに来ました!」という言葉と共に“乱気流”に流れ込む。スモークが噴水の如く吹きあがるステージ。歌い出しではステージライトが会場のオーディエンスの顔を映し出し、矢野晴人(Vo&Ba)がそれに視線を滑らせる。続く“BIRD WITHOUT”は耐え忍ぶ日常の中で走り続けたノンラビの姿が浮かび上がる。熱狂的なプレイの中、髪を振り乱す田口達也(Gt)がマイクも無くサビの歌詞を口遊む姿は凛として、定番のナンバー“私面想歌”では太我(Dr)の楽曲に誠実なドラムがよく映える。

最初のMCでは「どうも本物のノンラビです!」「こんなに大勢の人間を見るのも久々です」「気持ち悪いですね、こんなに集まると。(笑)」と軽い毒舌を添えつつ、今回のツアーを振り返る。怪談師としても活動する田口は仙台公演の際に現地住人から仕入れたという「何度も事故を起こしては必ず運転席側で死亡事故を起こして売却される車」の怪談を披露したものの、矢野と太我の2人から「そんな車を売るな!」「スクラップにしろ!」とツッコまれてしまう。また、この日には矢野と太我も怖い話を披露。矢野は信号や交差点で停車した際、無人であるはずの自身の愛車の後部座席に向かって隣の車のドライバーが何やら罵倒していたことが2度もあったと話す。太我は「未成年が15人以上いたら下ネタを控えるように言われて……」と語りつつ、右足首靭帯を断裂した際、大人のマッサージ店で右足首を性感帯と勘違いされ捏ね回されてしまったというちょっと気の毒なエピソードで会場の笑いを誘った。そんな軽快なトークから、ライブは「みなさんがオレらをどれくらい推してるか教えてください!」と“推しが尊いわ”へ。眩い照明の中、声を出さないライブコミュニケーションにも慣れた観客の細やかなハンドサインと指ハートがよく映える。そこから流れ込む“全部ブロック”は、前曲の小悪魔的な雰囲気から打って変わってバスドラムとベースの低音が激しく張り出すヘヴィメタル調に。

「一番最初のライブでもやった曲を」と紹介されて“夏の終わり”が奏でられると、浅い海を漂うような薄青いライトの中、甘やかな歌声にはかつて人もまばらなライブハウスで歌った思い出と、今日この豊洲PITに広がる光景が重なる。“最後のキス”では降り注ぐスポットライトに照らされた矢野が想いを残しつつも前を向く女性の姿を艶やかに歌い、“静かな風”ではドラムとギターが雄壮な景色を描き、光とメロディが観客の頭を撫でて行く。曲間のミニコーナーでは、美しい世界観の流れから一変、机に座った3人が謎のナレーションに導かれて「デスゲーム」に巻き込まれる。今回のゲームは2問勝ち抜き早押しクイズ。「ノンラビの結成日は何曜日?」「今回のツアー4か所目の会場は?」といったノンラビに関するものから「17×4は?」といった単純な計算問題まであり、「2017年に行った両A面SG『夏の終わり/私面想歌』リリースイベントのサブタイトルは?」という問いには観客含め誰もが答えられなかった。ツアー中何度も繰り広げられたこのデスゲームだが、ファイナルでは太我が一足先に勝ち抜き、途中「メジャー1stアルバムのリリース日は?」に手こずる場面はあったものの、最後には「2ndアルバム『TRINITY』の4曲目は?」に矢野が正解。敗者となった田口は罰ゲームとして豪勢な虫ケーキに乗った巨大タランチュラを食べ、会場には「カリッ……ポリッ……」という音と悲鳴が響き渡った。気になるお味は「トイレの味」とのこと。ちなみに今回登場したケーキにはタランチュラの他に、小さなコオロギが15匹ほど埋め込まれていた。

そこからノンラビは壮大なナレーションに導かれて“豆知識”をドロップ。「平穏に暮らしていたノンラビはある日、宇宙人の襲撃に遭ってしまう。日常会話には興味を示さない宇宙人たちだが、豆知識だけには興味津々…」といった筋書きのもとで披露された同曲だが、ナレーションが明けると矢野と田口は緑色の巨大宇宙人に抱きかかえられたままの姿でステージに登場。観客が思わず吹き出す中、太我はなぜか光り輝く金色の全身タイツで指揮棒を振り、矢野と田口と共に息の合わないラインダンスを踊った。曲の後はしっかり「お着替えタイム」が入ったのもご愛嬌。

ここからライブは後半戦に入り、「オレらの活動に文句言ってくるヤツは未読メールめっちゃ溜まってる」という偏見から“偏見じゃん”が導かれる。“無自覚の天才”ではステージのメンバーが見えなくなるほどに激しい光の演出がオーディエンスを揺らし、“三大欲求”の真っ直ぐに歌い上げられる言葉は鮮やかな色彩の中で躍動する。ノンラビの演奏はドッシリ地面に根を張って、狂騒に呑まれず緻密に推進し、観客ひとりひとりの胸へとストレートに突き刺さる。田口が「どんなにふざけていようが、オレたちの根底にあるのはロックバンドなので、ロックバンドやらせてもらいます」と告げて、本ツアーからの新曲“吐壊”を呼び込むと、ライブは怒涛のハードロックパートに突入。矢野と田口の声の重なりは、華麗なノンラビと本音の男たちの二面性を表わすかのようだ。続く“アンリズミックアンチ”では手拍子を求め、豊洲PITを揺らす数千人の観客をディスコ調のライトが照らす。「3年間ガマンしてきたんで、すげェ景色見せてください!」と乞われた“Needle Return”は、どこか80年代ディスコミュージックを思わせるシンセサウンドにネオンカラーが煌めき、タオルを振りかざして踊り弾む観客を包む。曲の深度が上がるたびにマスクの下で笑顔が咲く。“Refutation”に差し掛かると盛り上がりも最高潮となり、それぞれのストーリーを持って会場へと集まったオーディエンスが、音楽に呑まれてひとつの生きもののように歓声を上げる。

演奏を終えて「この景色が見たかったよ、ありがとう」と感謝を告げた田口は、SOLDで迎えるはずだった3年前のツアーを回想。辞めないでよかった、3人で一緒に居られてよかった、と万感の思いを込めて語り、2023年のさらなる飛躍をステージの上からファンへ誓う。そして「この曲のためにツアーを回って来たといっても過言ではない」と披露された楽曲は、“二十五の自白”。前曲までの熱狂を掻き消す暗闇の中には3人の姿だけが照らし出され、それでも歌声に秘めた炎は静かに燃える。弱さをも告白する赤裸々な詞の中では、アコースティックギターの音色が泡のように弾けた。

「今日という日がみんなにとって何かのきっかけになれたら嬉しいなと思います」との田口の言葉に“全部いい”が導かれると、観客から大歓声が上がる。3年前、無人の豊洲PITから届けたこの曲。ステージからオーディエンスに向けて注がれる照明は、豊洲PITに集まったファンの表情をくっきりと浮かび上がらせ、矢野の視線がそれをひとつひとつ眺めて行く。祝福のような白い光の中、フィナーレに選ばれたのは“PLOW NOW”。音楽の激流に呑まれることなく楽曲を組み上げ続けていたバンドは奔放に疾走し、飛びぬける熱の中でライブの幕を下ろした。たったひとりの観客の前でも歌い続け、何万回でも空を目指し続けたバンドが、夢の豊洲PIT公演へ。“全部いい”のタイトルがコールされた瞬間には、溢れ出した涙をタオルに押し付け肩を震わせるファンの姿を見つけた。その涙はきっと彼らが歌う理由であり、意味になっていくのだろう。止まらない彼らは、最後に7周年記念公演を11月1日、東京・ZeppShinjukuで行うことを発表し、大歓声の中でステージを去って行った。

Text:安藤さやか
Photo:菊島明梨、千佳 @cka_photo

https://nonrabi.com/

『PITやんなきゃ始まらねぇだろTOUR2023~あの日と違う事はたった一つ、俺たちはメジャーアーティストになった~』@豊洲PIT セットリスト
01. PILE DRIVER
02. 乱気流
03. BIRD WITHOUT
04. 私面想歌
05. 推しが尊いわ
06. 全部ブロック
07. 夏の終わり
08. 最後のキス
09 .静かな風
10. 豆知識
11. 偏見じゃん
12. 無自覚の天才
13. 三大欲求
14. 吐壊
15. アンリズミックアンチ
16. Needle Return
17. Refutation
18. 二十五の自白
19. 全部いい
20. PLOW NOW