■MVでも主人公みたいになっていますね。
ヨシキ そうですね。もう完全に、自分の曲として監督が作ってくれた台本を遂行したみたいな感じです。面白いと思ってくれるのが一番です。
■その次の“貴方をまつやさしい場所”は、最初、なんで「まつ」がひらがななんだろうと思って、気がついてから笑いました。(笑) ダジャレじゃないですか!
ヨシキ そういうことです。(笑) これもやっぱりタイアップ先の人に喜んでもらえるような要素を入れたいというところで、最初に出てきたのがこのフレーズでした。
■松屋フーズ創業60周年記念オリジナルブランドソングならではのポイントですね。
ヨシキ タイアップの案件を考える時に、まずORCALANDとタイアップ先の共通点を探すところから始めるんです。“成仏Come true”も「願いや夢を叶える」みたいなところから作っていったんですが、今回は「常に待っているよ」というところから作っていきました。来るもの拒まず。それで、我々も「誰ひとり置いて行かないロックバンド」と言っているし、「こういう場所であればいいな」という自分の願いも込めて、まずは「貴方をまつやさしい場所」というフレーズから広げていきました。
■そうやってぼかしつつも、途中からは思いっきり「牛めし」というストレートなワードが出て来ますよね。(笑)
ヨシキ これはもうね、「こういうことができるのウチらだけやろ!」というのを出したいところがあって。(笑) 他のバンドだったら、きっともっと抽象的な感じになると思うんですけど、ORCALANDはこういうことをやるというのを、世界中に知らしめたいというところではあります。
■ちょっと尖っていますね。(笑) でも、本当に店内の有線ラジオで流れているような曲でしたね。
ヨシキ それは嬉しいです。老若男女いろんな人がいる店内で、ある種BGMみたいに聴ける曲として作った節があって。そのBGMの中で、何かひとつでも聴いている人の中で刺さるものがあったり、歌声が好きだったり、曲調が好きだったりして、より深くこの曲にピンと来てくれた人には、「貴方をまつやさしい場所」というメッセージを受け取ってくれればいいなと思っています。最初はもう、メッセージを受け取らずに、BGMとして聴いてくれればよくて、そこから「ん……?」となった人が歌詞をちゃんと聴いてくれる。この構造はきっとタイアップ先の松屋さんも一緒だと思っています。いろんな人に受け入れられるお店であり、好きになったら牛めしだけじゃなくて、別のメニューを注文してみたり、どんどんとハマっていく、そういうものだと思うので、この曲もそれと同じでありたいなと考えながら作りました。
■素敵です。ちなみにヨシキさんの松屋の推しメニューは?
ヨシキ めっちゃ迷いますね……。季節によって違うかも。今で言うと「うまトマハンバーグ」かな。でも最近、朝食の鮭を食べたらめっちゃ美味かったんですよ。だから最近よく食べています。
■確かに松屋の鮭は美味しいですよね。わかります。5曲目の“天使の止まり木”ですが、この曲は5分もあって、最近にしては珍しいですよね。
ヨシキ そうですね。この曲を作っている時にいくつかの方向性があったんです。誰かひとりについて書いている曲は今まであんまり無くて、それよりも広いものを書いているのが多かったので、今回は誰かひとりにまつわるエピソードというか、私的なものを書いたらいいんじゃないかという、メンバーのアドバイスからできた曲でした。それこそ「ひとつの物語を作った」ような感じで、それが結果的に5分になったというイメージです。
■そうですよね。単純に歌詞が長いから5分あるというか。
ヨシキ 我々ORCALANDの曲には、ライブにおける位置付けというか役割が決まっていて、フロアの空気を温める“アタッカー”とか、他の曲を引きたたせる“エンハンサー”みたいな、ふわっとした立ち位置があるんです。その役割の中に、どのジャンルにも属していない、ひとつの物語を歌っている“吟遊詩人”というポジションがあるんですが、そのポジションの楽曲を増やすために、結構後半になってからこの曲を作りました。だから、この曲はそれこそひとつの物語を吟遊詩人が歌っているような、「ライブで前の曲にも、後ろの曲にも左右されないような曲を作ろう」ということで生まれた曲なんです。
■そうすると、ライブでもセットリストのどこに来るのかわからない曲でもあるんですね。
ヨシキ そうですね。どこでやってもこの曲がこの曲であることは変わらないと思うので、ライブではかなり雰囲気を変えたり、もっとグッと世界に引き込んだりするみたいなイメージになるのかなと考えています。
■それにしても、2分台に突入しているこの時代に、5分台の曲が出て来たのには驚きがありました。
ヨシキ 元々は4分台だったはずなんですけど、「この曲の世界を表すのにはもっとこういうパートが必要だ」と、足し算をしている間にこうなってしまいました。(笑) 短い曲にしようとはしていたんですが、この曲はなんというか、わかる人がわかればいいというわけじゃないですけど、昨今の「短くないと聴いてもらえない」情勢に対して、この曲は届く人にだけ届けばいいし、届かない人がいたとしても、ひとつ読まれない物語があるだけで、それでいいと納得している部分があります。「雨の日には 傘をひろげて」から始まるセクションが2度出てくるんですが、1回目はちょっと不安な気持ちが垣間見えるような雰囲気にして、2回目は晴れやかな気持ちで聴けるアレンジに、という対比も作っていて、同じ歌詞・メロディーでもそれぞれ違った感情を表現しています。
■その次に“はじまりの衝動”が来るのもいいですよね。
ヨシキ この曲はもう、誰もが想像できる「青春」というものを描きたいということで作りました。今回は元々あったデモに対して、ギターの京哉の歌詞を当ててもらって。そこからブラッシュアップするような感じで共作していきました。
■どうですか?京哉さんの歌詞は。
ヨシキ 彼は僕があまり使わない言葉や表現を使うので、「この曲があるからこそ、他の曲が書けた」みたいな節もあります。この曲を作ったからこそ、「同じ釜の牛めしを喰らい」みたいな遊び心のある言葉を使えたし、“天使の止まり木”みたいな綺麗な物語も書けたし、この“はじまりの衝動”は、僕にすごく刺激をくれた歌詞でした。
■これはもう、初期衝動的なバンドサウンドを聴かせようという感じでいいんでしょうか?
ヨシキ そうですね。この曲はサウンドと歌詞を同時に作っていて、基本的には編曲もほぼ僕がやっているんですが、この“はじまりの衝動”は、メンバーみんなで作ったような気がします。
■その割にはトラックがトリッキーですよね?三拍子になったり……。
ヨシキ みんなで作ったからトリッキーになったのかもしれません。(笑) ORCALANDの曲が変遷していく中で、昔はそういう曲もあったんです。そういうのを上手いこと混ぜられたらいいな、みたいな感じで作っていきました。
■そして“ロックアウト”はアウトロなのでしょうか?
ヨシキ これは「ショートチューンを作りたい」というのがありました。今までミニアルバムを出してきた中で、最後の曲はアウトロみたいな感じで、ショートチューンを入れるのが定番になってきたんです。その中で、「今回は今までにはないノリで作りたいね」となって、ビートから制作が始まったんです。そのビート感に対して、どんな言葉を入れられるかな?と考えた時、弾けるような言葉というか、「なんかもう、言っちゃえ!」みたいなことも、このビートに乗せたら言える気がしました。書いている時は、自分の胸の内をさらけ出す曲にしたいと思っていて。「リスナーのみんなに向けて書いた曲」みたいなイメージで、「ちょっと今ビートがないから恥ずかしくてごまかしちゃうけど、ビートが鳴ったら正直なことも言える」というような、そんな曲になっています。
■それにしても2分弱に詰め込めるだけ詰め込みましたね。前奏が始まった時、「これ本当に2分くらいで終わるのかな?」と思いました。
ヨシキ 今まで自分の引き出しの中では使ってこなかった部分の引き出しを開けた感じがします。ショートチューンのつもりで作ったんですけど、あんまりショートチューン味がなくて、普通にいい曲になったなと思っています。
■いい曲でした。それで最後に“恥ずかしいほどに愛しい”でアルバムが終わるのもまたいいですね。
ヨシキ このフレーズが残ってほしいな。「結局は何を伝えたかったのか」というのを最後に言いたい気持ちがあったので、「これで覚えてもらって、終わってもらえれば」みたいな感じでした。このアルバム全体を「恥ずかしいほどに愛しい」という言葉で締めるのも結構オツなんじゃないかなと思って作りました。
■ということは、曲順も結構こだわっていますか?
ヨシキ 制作段階ではあんまり意識していなかったんですけど、終盤になるにつれて、自分の中で「こういう曲順にしたい」というのが固まってきました。“はじまりの衝動”と、“ロックアウト”は繋がって聴こえるような作りにしています。“はじまりの衝動”は、特に京哉が音楽を始めた時の衝動から着想を得て書いている曲なんですが、“ロックアウト”は、今ORCALANDの音楽を聴いてくれているリスナーに届けたいというものでした。“はじまりの衝動”から始まって、“ロックアウト”に続くというストーリーを裏テーマ的に聴かせたいという感覚があり、曲を繋げるという新しい試みに挑戦して、このアルバムができたと思っています。2ndアルバムまでは、「アルバムを作りきるぞ!」「やっとできた!」みたいな感じだったんですが、この『MAGIC×MAGIC』は、その上で新しい仕掛けや試みをたくさんやれたアルバムかなと思います。
■本当に魔法にかけられたような作品でした。そして全国ツアーが始まっていきますね。この『マジで魔法をかけにいく』というツアータイトルに込めた想いはどんなものでしょうか?
ヨシキ 今回のツアーは、「アルバムのリリースツアー」とは言わずに、「ORCALANDとして全国ツアーを巡ります」と言った後に、「実はリリースツアーでした」というのを発表したんです。それでタイトルを発表した時に、ツアータイトルとミニアルバムのタイトルが、ちゃんと噛み合っているものだったら面白いなと思い、最初にこのツアータイトルを考えました。『MAGIC×MAGIC』、略して「マジマジ」です。『マジで魔法をかけにいく』、これも「魔法」を「マジック」とした場合、略して「マジマジ」になるじゃないですか。それで、このアルバムのコンセプト自体に、ORCALANDの音楽という魔法と、魔法にかけられたお客さんの熱量という魔法、これが掛け算として掛け合わさった時に、このアルバムが完成するという願いを込めています。ツアータイトル自体も「ORCALANDの“音楽の魔法”を届けにいくぜ」という決意を込めて、このタイトルになりました。
■今回はどんなツアーにしていきたいですか?
ヨシキ 一言でまとめたら、「魔法をかける」に尽きます。今回は今までで最大級というか、ORCALANDとして10カ所を回るのは初なので、アルバムの制作もそうでしたけど、もうだいぶライブしているので、新しい挑戦ができるようなツアーにしたいです。そこで、各地の人にもっとワクワクしてもらえるような、「このライブで何が出るんだろう?」という、それこそ魔法みたいな、何が起こるかわからないものにしたくて。そんなワクワクした気持ちを抱えて来てもらえるようなツアーにしたいと思っています。
Interview & Text:安藤さやか
PROFILE
“あらゆるポジティブを生み出す”東京・下北沢発、4人組ロックバンドORCALAND。日常の中にある葛藤や不安、そしてその先にある希望までをストレートな言葉とキャッチーなメロディで鳴らし続ける。その“ポジティブ”は、ただの明るさではなく、弱さごと前に進むための衝動。シンガロングやハンドクラップが自然と巻き起こるライブは、観客を巻き込む“参加型ロック”。フロアとの境界線を消し、その日限りの一体感を生み出すパフォーマンスが最大の武器。2021~2022年『No Big Deal Records 10th Anniversary Audition』グランプリを獲得。2023年には12ヶ月連続企画『ジントリ』を開催。2024年、初の主催フェス「ナワバリロックフェスティバル」を下北沢で開催。2026年7月からはTVアニメ「うしろの正面カムイさん」のOP主題歌を担当する等、全国へ知名度を拡大中。
https://orcaland.jp/
RELEASE
『MAGIC×MAGIC』

通常盤(CD)
NBPC-0118
¥2,200(tax in)
No Big Deal Records
7月8日 ON SALE






