“心拍数#0822”&“心做し”、「恋するサイコの白雪くん」テーマソングに当時を語る。
蝶々Pによる“心拍数#0822”と“心做し”が、ボイスドラマ「恋するサイコの白雪くん」のテーマソングに決定。2曲を収めたCDが12月17日に発売される。“心拍数#0822”と“心做し”は、どちらも10年以上多くの人々に愛され、さまざまなアーティストがカバーしてきた蝶々Pの人気曲。今回は“心做し”を時枝晴樹(CV.岡本信彦)が、“心拍数#0822”を白雪姫嵩(CV.村瀬歩)が歌う。インタビューでは蝶々Pに、作曲当時の思い出や、創作のコツを訊いた。
■それにしてもすごいですよね。“心拍数#0822”が15年前、“心做し”が11年前という。作った時の手ごたえはいかがでしたか?
蝶々P もうすごく前のことなので、ふんわりしているところはあるんですけど、「当時の環境だから作れたのかな」というのはあって。でも、あんまり「この曲いけるだろう」みたいな手応えがあった曲ではなかったから、長く歌われる曲になったことについては驚きの方が大きいです。
■逆に、最初から手応えがあった曲は?
蝶々P “え?あぁ、そう。”はもう、「この曲は投稿したら伸びるだろうな」みたいなことは思っていました。(笑)
■見事にヒットしましたね。(笑) 話は戻って、“心拍数#0822”、“心做し”を投稿する日の自分に今何かアドバイスできるとしたら何を言いたいですか?
蝶々P ここまで愛されるというか、長く聴いていただける曲になるとは思っていなかったので、そういう意味では「良かったね」というか、「まだ音楽やってるよ」ということを伝えてあげたいです。
■そうそう、“心拍数#0822”には、当時付き合っていた彼女さんへの想いが込められているとか。ネット上では「記念日の曲だ」という情報と、「別れた時の曲だ」という情報が錯綜しているのですが、実際はどうですか?
蝶々P 正解は記念日の方です。付き合った記念日が8月22日でした。
■その時の彼女さんが今の奥様というわけでは……?
蝶々P それはないです。(笑) 別に隠していたわけではなかったんですけどね。あくまでその時に付き合っていた方との話です。
■情報が錯綜しないように明記しておかないと……。(笑) 今年はお子さんも産まれたそうで、おめでとうございます。パパ業はいかがですか?
蝶々P この間の5月に生まれたのは2人目なので、育児には慣れていて精神的には楽だけど、時間がないという感じですね。ボカロPとしてデビューした当時にイベントなどで仲良くしていたボカロPさんにもお子さんがいらっしゃる感じなので、なんだかすごく時代を感じます。
■時代を感じますよね。また話を戻して、いつも曲はどこから作られますか?
蝶々P 僕は曲から作るタイプで、メロディが降ってくることもあれば、なんかこう、ざっくりとしたイメージだけあって、「どうしようかな?」と悩みながら作っていく場合もあれば……という感じです。どっちにしろいつも曲から作って書いています。
■メロディからコードをつけていくタイプですか?
蝶々P コードも含めて考えることが多いかもしれないです。打ち込み順はあんまり決まっていないですけど、メロディが決まっていれば、メロディをバっと作っていきます。サビとかはメロディが決まっていることが多いので、そういう時はもうメロディ作って、ピアノとかでコードを当てて、ドラム、ベースを裏につけて、みたいな感じで、セクションごとに作っていることが多いです。サビを作ったら、その後にイントロを作って、そこからはもうメロディとコードを一緒に考えていきます。
■やっぱりコード脳の人はすごいなと思います。コードが浮かぶようになるコツみたいなものはあるのでしょうか?
蝶々P 昔ピアノを習っていて、高校からはギターをやっていたんですけど、その頃はバンドスコアを買ってきて、それをそのまま打ち込んでいました。そうすると、「こういうメロディの時にこういうコードが使われているんだ」とか、「この楽器はこういう風になっているんだな」とかが見えてきて、研究の一環としてやっていました。
■勉強になります。蝶々Pさんの曲は歌モノなので、メロディの打ち込みってボカロになるじゃないですか。ということは、歌詞と一緒に打ち込んでいくのでしょうか?
蝶々P 最初はシンセみたいな音色で持ち込んでいって、歌詞が全部書き終わってからボーカロイドの方にいっています。“心拍数#0822”も“心做し”も曲から作りました。デモを作っている段階ではボカロにはまったく触れていません。
■ボーカロイドを使い始めたのはブームに乗じたものなんですよね?
蝶々P そうですね。高校生の時にバンドやっていて、その時一緒にバンドやっていた友達がオタクだったので、ニコニコ動画というのを教えてもらって。「なんか面白いことやっているやつがいるじゃないか」となりました。ちょうど“メルト”とかが出始めていた頃です。それでその後、バンドメンバーが受験などのためにバンドを辞めてしまい、どうしようか……と思っていた時、当時は僕がバンドの曲やインストの曲を作っていたんですけど、その流れでボーカロイドを使い始めました。それだったらひとりでもできるし、録音環境も無い中で、すごく画期的だと思ってやり始めたという経緯があります。
■最初の頃はいかがでしたか?
蝶々P なんかもう、結構黒歴史です……。(笑) 多分ニコニコ動画の初期の頃の曲を聴いていただければわかると思うんですけど、今では考えられないぐらい拙い曲とかが多くて、たくさん書いて、それを糧にしつつやっていました。
■その当時、自分で歌ってみるという発想はなかったんですか?
蝶々P あんまり無かったですね。実はこれあまり言っていなかったんですけど、当時は東方アレンジもやっていて、「歌う」欲求は「そこまでしなくていいじゃない」という感じでした。あと、やっぱり自分で作ったものを自分でやっていると結構恥ずかしいじゃないですか。(笑) バンドはバンドだから良かったんですが、当時は恥ずかしかったんです。
■そこから何をきっかけにシンガーソングライターもやろうと?
蝶々P 元々バンドをやっていた時はギターボーカルだったんです。そもそも歌うこと自体は好きで、いろんなイベントに出させてもらうようになったりして、歌の持っている力だったり、自分の考えていることや、思っていることを自分で伝えられるって、やっぱりすごくいいことだなと思って。それでボカロPで歌ってみた人なんかも出始めたりして、「ボカロだけじゃなくて、いろんなことをやった方が楽しくない?」みたいな風潮で、僕もちょっと楽しそうだなと思ったところがあります。
■周りの反応的にはいかがでしたか?
蝶々P ライブに来てくださるお客さんは、やっぱり喜んで帰ってくれたり、いろいろ感想をもらったりもするので、それってボカロをやっているだけじゃ届けられなかったことだし、自分でライブをするようになって良かったなというポイントです。でもよく言われるのが、「蝶々Pって本当に実在していたんだ」ということ。(笑)
■それは面白いですね。(笑)
蝶々P あとは自分で歌うようになってから、「蝶々Pって男性だったんだ」と言われるようになりました。(笑)
■でも考えてみたら、“papiyon”からの蝶々Pで、一之瀬ユウも中性的な名前ですし、女性だと思う人がいても、わからないでもないかも。(笑)
蝶々P そうなんですかね?(笑) でも別に「蝶々P」という名前は僕が自分でつけたわけじゃないんですよ。“papiyon”は自分でつけたんですけど、当時は投稿した曲の名前から「なんとかP」って、リスナーが名前をつける文化があったので。もう今は「ほにゃららP」自体が絶滅危惧種ですけどね。
■確かに。もう「〇〇P」と呼ばれている人は少ないですよね。蝶々Pさんにとって「ボカロ」というのはどういう存在ですか?
蝶々P 「表現方法の1つ」と言ったらそれはそれだし、自分で歌うようになって届けられることもあるから、特にそれを感じているんですけど、「ボカロだったから良かったところ」もあると思うんです。特に“心做し”は人が歌うことの良さもあれば、ボーカロイドだからこその良さというのもありますよね。無機質だから故に、感情が乗り切らないのがボーカロイドの魅力だから。最近はボーカロイド以外にもいろんなツールが出て来ているんですが、僕は「人間に近づきすぎない良さ」みたいなものを感じています。だから僕は昔のエディタの方が好きなんですよね。
■わかります。最近ものすごく生々しい人工音声も出て来ていますが、そうではない良さはありますよね。
蝶々P そうなんですよ。そういうものは仮歌を作るにはすごくいいので、それはツールとして使いながら、ボカロの良さも感じています。
■蝶々Pさんにとってボカロは「楽器」なんですか?
蝶々P はい。そもそもボーカル自体を楽器だと思っているので。
■ボカロは「キャラクター」ではない?
蝶々P でも、ボーカリストはキャラクターじゃないですか。ボーカルは楽器だけど、ボーカリストはキャラクター。だからそれは同じことです。
■今、すごく納得がいきました。青春をボカロの過渡期で過ごしたので、複雑な想いがあった部分はありますが、全て納得がいった気がします。ところで蝶々Pさんは、結構曲に振れ幅があるじゃないですか。ナチュラルに出てくるのはどの系統の曲になるのでしょうか?
蝶々P ナチュラルに出てくるのは、そうですね。根本にあるのはやっぱりオルタナティブロックみたいなものなんです。よく言われていた「ロキノン系」というやつですね。BUMP OF CHICKEN、ASIAN KUNG-FU GENERATION、RADWIMPSなど。あと、僕らの世代のバンドみたいなのがルーツなので、よく聴いていたという意味では、それが自然なんだと思います。







