蝶々P VANITYNMIX WEB LIMITED INTERVIEW

■今回のこの2曲はヌルッと出て来た方なのでしょうか?

蝶々P 割とそうですね。でも僕は元々バラードを作るのがめちゃくちゃ苦手だったんです。ずっと昔から苦手意識はあったのですが、逆に「苦手だからこそ作ろう!」みたいに思って作ったところがあります。そのせいか、“心拍数#0822”は結構テンポが速いんです。そういう意味では、「バラードにしては珍しい」みたいなことを言われたことがあります。

■確かにそうですよね。あと、改めて聴いた時、歌詞の語彙はストレートだけど、解釈に幅があるなと感じたんです。作詞の際に心がけているポイントはありますか?

蝶々P 作詞の時に心がけているのは、あんまり言いすぎないようにすること。説明しすぎないようにしています。あと、最後の最後に「救い」があってほしいなとも思って書いていますね。

■救いがないものはあんまり好きじゃないんですか?

蝶々P 救いがないというか、受け取り方を制限したくないんです。曲を通して聴いて、最後に何か思ってくれることがあればいいなと。そういうところで、あまりバッドエンドすぎず、「あとはあなたのご想像にお任せします」という感じの書き方をすることが多いかもしれません。

■聴く曲としても、そういう曲が好きだったりしますか?

蝶々P ん~、あんまり意識したことはないですね。

■物語とかはいかがですか?バットエンドだとモヤモヤしちゃうタイプですか?

蝶々P それはそうですね。(笑) でも最近あんまりバッドエンドって無くないですか?例えば最後に主人公が死んじゃったりするものでも、死んじゃうことに意味があれば、それは嫌じゃないです。

■それを聞いてなんだか納得が行った部分が幾つもあります。(笑) ボカロの調声でこだわっているところはどこですか?

蝶々P それは逆に、あんまりこだわっていないんです。人間味はあるけど、あんまり近づけすぎないところを意識はしているかもしれないです。ただ、その辺の考え方も少しずつ変わってきていて、“心拍数#0822”を投稿した時は、ほぼベタ打ちぐらいの感じだったんですけど、最近は割とパラメーターをいじってみたりもしています。でもどちらかというと、人間っぽくしたくてやっているというよりは、「こうなると面白いな」みたいな感じでやっている感じがします。

■シンガーソングライターと、ボカロPとで、意識の違いはありますか?

蝶々P シンガーソングライターはやっぱり自分で歌わないといけないので、キーの制約だったりがありますよね。ボーカロイドだと結構無茶をさせられるんです。初音ミクだったら、声質的に一般的な女性のキーよりも高いところが一番よく、おいしく聴こえるんです。だから、自分で歌う時や、楽曲提供をする時になると、メロディの制約が出てきて、そこは結構違うなと感じるところではあります。

■ご自身で歌った、ご自身のボカロ曲の中で、一番難しかったのは?

蝶々P 全部難しかったです。(笑) やっぱり違和感があるんですよね。元々ボーカロイドで作っているし、他の方の「歌ってみた」のいろんな表現を知っているしで、客観的な視点にしたくても、そういう視線でなかなか見られなくなっちゃって。それが違和感になるんです。

■私の印象では、かなりフラットに歌われているなと感じました。

蝶々P そうなんです。“心做し”って、みんな感情を込めたくなる歌なので、逆にやりたくないなって思って。逆張りではないんですけど、違う表現方法の方がいいんじゃないかなという思いがありました。作者が歌うと「この歌い方が正解だ」「この解釈が一番よくわかってる」と言われがちなんですけど、別に「これが正解」じゃなくて、「その人にとっての正解」だったらいいんです。そうなれば、歌った側としては嬉しいことなので。

■それは素敵なことだと思います。この2曲、作詞・作曲で当時強く押し出したところはありますか?

蝶々P どちらの曲も落ちサビを大事にして作っています。嵐の前の静けさじゃないですけど、そこまではあまり言い過ぎないようにして、あえて落ちサビで核心的なことを言うのが好きなんです。まさに“心做し”はそういう曲で、ライブでとある方が歌唱した時、ライブ用のアレンジで、落ちサビ前が一瞬無音になるようにしました。そうしたら会場がザワっとしたのが印象的でしたね。

■それはすごく印象的ですね。改めて音源を聴き返した時に、思い出すことって何かありますか?

蝶々P よく当時にこの曲を作れたな、というのは思います。今は今しか作れない曲があるけど、今だったら作れないかもしれません。もちろん、アレンジが拙いとか、メロディとか、そういう部分は抜きにして、当時だから作れたんだろうなと思います。

■初投稿から十余年、印象的なステージはありましたか?

蝶々P 先ほどお話しした“心做し”をボカロのイベントで初披露した時は印象的でした。本当にその時の空気感がすごくて、「さっきの曲、いったいなんだったんだ?」みたいな感じで。共演者の方の中には、舞台裏で号泣されている方もいらっしゃいました。

■そんな初公開を迎えたんですね。あらためて、この2曲を歌ってみる場合はどんなところがポイントになってくると思いますか?

蝶々P アドバイスをするとしたら、「自由に歌ってください」という感じです。ただ、元々結構高低差が大きい曲なので、それは自分の歌いやすいキーだったり、そういうものをまず見つけるということが一歩目だと思います。キーは全然変えちゃっても大丈夫です。やっぱり歌う時って、その人が一番歌いやすいキーだったり、その人の声の一番よく聴こえるというか、味のあるところだったりを出せた方がいいと思うんです。無理して合わないキーで歌うよりは、全然変えちゃってくださいという派です。

■今の話は歌いたい人には大切なポイントだと思います。さて、今回は2曲が『恋するサイコの白雪くん』のボイスドラマ主題歌となりましたが、カバーをした時枝晴樹(CV.岡本信彦)さん、白雪姫嵩(CV.村瀬歩)さんの歌唱はいかがでしたか?

蝶々P やっぱりお二人とも声を使うお仕事をされているので、キャラクターを担当されている声優さんの声って、マイク乗りがめちゃめちゃいいんですよ。「歌が上手い」の定義っていろいろあると思うのですが、僕は「ピッチがいい」ことは、「歌が上手い」こととあまり関係がないと考えています。でも、そういう意味での巧さや、内容が伝わってくる感じが、やっぱり声優さんはちょっと違うなと思いました。

■時枝晴樹(CV.岡本信彦)さん、白雪姫嵩(CV.村瀬歩)さんが歌ったことによる化学変化は感じましたか?

蝶々P やっぱり歌ってくださる方によって、すごく曲の色というか、見えてくるものがすごく変わるなと思っていて。今回お二人ともあまり今まで無かった感じの歌い方をしてくださっているので、すごく面白かったです。

■各界のファンの方も注目だと思います。この2曲は投稿から10年以上が経っていますが、今回のカバーを通して初めて出会う方もいらっしゃると思います。新鮮な気持ちでこの2曲を聴く人にはどうやって聴いてほしいですか?

蝶々P う~ん……難しいな。あんまり「こう思って聴いてください」みたいなものは考えたことがなくて。でも、この曲を聴いて少しでも感じてもらえるものだったり、ちょっとでも思ってもらえることがあったりするなら、すごく嬉しいなと思います。今までいろんな方が歌ってくださっているので、自分の中の好きなものを見つけていただくのも面白い楽しみ方かなと。ぜひオリジナルバージョンもあわせていろいろと聴いていただけたらと思います。

Interview & Text:安藤さやか

PROFILE
2008年から動画共有サイトにボーカロイドを使ったオリジナル曲を投稿している、美しいピアノロックを得意とするボカロP。2009年に“ラブアトミック・トランスファー”が再生数10万以上となり、初めてVOCALOID殿堂入りを果たす。2010年発表の“え?あぁ、そう。”、“心拍数♯0822”の2曲はミリオンを達成し代表曲に。蝶々P名義でメジャーデビューし、日本武道館などのステージにも立つ。2017年にシンガー・ソングライター名義の一之瀬ユウとしてミニアルバム『Allone』でメジャーデビュー。同年に2ndミニアルバム『君との境界』を発表。2020年には蝶々Pのセルフカヴァー“心做し”などを配信リリース。ボーカリストとのプロジェクト最終定理論者や、他アーティストをはじめ、アニメ・ゲームなどへの楽曲提供・プロデュースも精力的に展開している。
https://yu-ichinose.com/

RELEASE
『ボイスドラマ「恋するサイコの白雪くん」』

通常盤(CD)
WARR-0120
¥3,300(tax in)

WarRock
12月17日 ON SALE

『心做し/心拍数#0822 ~ボイスドラマ「恋するサイコの白雪くん」テーマソング~』

通常盤(CD)
WARR-0121
¥1,100(tax in)

WarRock
12月17日 ON SALE