様々な夜に寄り添う『Room Night』で見せたPAREDの様々な表情。
ネットシーンを中心に活動するシンガー・PAREDが1stフルアルバム『Room Night』を3月16日にリリース。夜に聴きたくなる楽曲をコンセプトに、5曲の書き下ろしと7曲のカバーを収録した今作に揃うのは、名だたるクリエイターや作曲家、ボカロPの楽曲たち。夜というイメージを幅広く捉えたバラエティ豊かな楽曲は、PAREDの声質の豊富さと、歌声に込められる鮮烈な感情を様々な角度から引き立てている。今回敢行したインタビューでは、コンセプトにちなんで夜について訊いたほか、収録される楽曲にまつわる思い出や、込めた思いについてたっぷりと語ってもらった。
■企業に就職してから音楽の道へと進んだということですが、音楽を始めた経緯について伺ってもいいですか?
PARED 元々福岡の工業高校に通っていたんですけど、製図が得意だったんですよ。製図検定っていうので一発で100点を取って、その影響で東京の設計士の開発部からオファーが来て、上京しました。その時までは音楽には触れていなかったんですけど、趣味で配信をやっていて。喋りでリスナーさんたちを楽しませていたんですけど、「声が特徴的だし、歌も歌ってみたらいいんじゃない?」ということで、ファンの方に言われてカバー曲を歌うようになりました。そのタイミングで、今回のアルバムで“テレフォン・ラブ”の歌詞を書いてくださった堂村璃羽さんっていう方と出会いまして。「配信よりも音楽で頑張った方がいいんじゃない?」と、すごく背中を押していただいて。そこから音楽をしっかり学びながら歌を投稿していって今に至る、っていう流れですね。
■音楽を始めたのは配信やリスナーありきだったんですね。
PARED そうですね。配信をやっていなかったら堂村さんとも出会えていないですしね。配信をやろうと思ったのも、上京して、周りに友達もいなくて、本当に暇だったからなんです。東京でひとりの部屋で、職場も一緒に働いている人たちは年齢層が高いし、「楽しいことがないな……」っていうところから配信を始めたのがきっかけだったので。元を辿れば就職したことが大きいかもしれないですね。本当にたくさんの人との出会いと影響があって今の僕があるなと思います。今は音楽やっていますけど、もしかしたらまた次の新たな出会いと影響で、アーティスト以外のことをやる可能性だってありますし、歌の人じゃない場合もあるかもしれないって考えると楽しみではあります。
■PAREDさんが上京してきた時の寂しさや孤独感が、アルバム名の『Room Night』に含まれていたりするのかな?と思いました。
PARED そうですね。ひと言で夜と言っても、孤独を感じる夜もありますし、友達と飲みに行く夜もありますし、好きな人と一緒にいる夜だってあると思うんですけど、僕の中では夜って自分1人の時間だったり、気を遣わなくていい人と過ごす時間だと思っていて。自分は1人で上京して寂しい夜を越えた日も沢山あったんですけど、『Room Night』は、そういう1人の夜を過ごす方に是非聴いてもらって、一緒に夜を過ごしたいですね。「僕もこういう夜を過ごしてきたんだよ」っていう意味も込めて、このアルバムタイトルにさせていただきました。
■PAREDさんは夜にどういうイメージを持っていますか?
PARED 自分だけの世界っていうイメージがあります。その自分だけの世界に介入してきていい人は、本当に心を許している人だと思うので、好きな人だったり、仲のいい友人、家族とかですね。やっぱり一緒に過ごしていても苦じゃないし。1人でいるという意味では、例えばお風呂に入るのが好きな人はゆっくりお風呂に入って音楽を聴いたりとか。あと、夜に音楽を聴く方ってすごく多いんじゃないかと思うんですよね。僕は夜に好きな曲をいっぱい吸収するんです。「今日も頑張ったな」とか、何もしなかった日でも、「今日はゆっくりしたいな」と、自分の時間を続けるための雰囲気づくりで音楽を流したりしますね。
■夜の過ごし方って人によってすごく違いますけど、人によって違うパーソナルな時間にも入り込めるアルバムなのかなと、今お話を聞いていて思いました。
PARED ありがとうございます。その通りです。
■いろんな方とのコラボでできあがった作品ですが、コラボしてみていかがでしたか?
PARED 昔からずっと聴いていた音楽を作っている方との共演は、本当に夢のようでした。「一生残る思い出なんだろうな」と思いましたし、なんといってもアルバム自体を今の時代に残せたことが僕の中ですごい喜びなので、1曲1曲が僕の中での思い出ですね。その中でもやっぱり一押しで言うと“テレフォン・ラブ”です。みきとPさんの書き下ろしなんですけど、昔から作品をずっと聴いていて大好きな方だったので、昔の自分が聞いたら本当にびっくりすると思います。憧れの方が書いて下さった曲なので、気合いの入れ方というか、「こういう表現にしたいな」っていう、自分の中のわがままが結構前面に出ていると思いますね。作詞の堂村さんは友人としてもお世話になっていますし、先輩としても大好きな方で。僕、堂村さんの歌詞がすっごい好きなんです。堂村さんの歌詞は情景がすごく浮かびやすくて、歌いながら僕の頭の中でアニメができていくくらい情景が出てくるので、歌いやすかったというか、表現しやすいというか。歌っていて本当に切ない気持ちにもなりましたね。
■電話越しに会話するシーンもあって、物語を感じさせますよね。
PARED 方言も入れていますしね。
■これ、福岡弁ですよね?
PARED そうですね。僕が福岡出身なので。“テレフォン・ラブ”では、電波の上で繋ぐ愛を表現していて、このご時世で、「会いたくても会えない」っていうことも多いじゃないですか。その遠距離感を表現する上でも、女性の方は標準語、僕は親しい人にしか使わない福岡弁で喋ることによって、福岡と東京っていう距離感を出していて、「距離は遠いけど気持ちは近い」っていうのを表現しています。
■“堕天”はいかがですか?
PARED 僕はこめだわらさんの曲もめちゃくちゃ好きで。僕の中では“自堕落”っていう曲が推し曲で、僕にしかできない表現ができる曲だなと思っていて。それを表現できたらと思ってカバーさせていただいたのが出会いなんですけど、今回はそのこめだわらさんが僕に曲を書いてくれるとなったから、「どうなるんだろう?」っていうワクワク感がありましたね。“堕天”は、聴いてもらったら分かるんですけど、低音域の声がすごく際立っていて。張り上げない感じなので、イメージとしては独り言に近いっていうか。いつもは聴いている人に問いかけているように歌うことが多いんですけど、これはそれこそ『Room Night』っていうタイトル通り、孤独な夜の自分の部屋でっていうイメージで、僕の独り言を夜空に向けて呟いているような雰囲気で歌わせてもらっています。
■1曲の中でもいろんな歌い方をされていますよね。
PARED 「1人でもカッコつけたい」みたいな、僕の人間性もちょっと出ている部分ではありますね。
■クラムボンのミトさんの楽曲が入っているのには驚きました。
PARED そうなんですよ。“ナンセンスゲーム”っていう、ひとしずく×やま△さんが提供してくださった曲があるんですけど、その曲をahamo主催の『#つながる詩の日』というイベントで歌わせてもらったんです。ボカロPと歌い手が一組になってライブパフォーマンスをして、1位を決めるっていう番組だったんですけど、その審査員としてミトさんと“透明なフィルム”を提供してくださった神前暁さんのお二人がいらっしゃって。その時に「PAREDくんだったらこういう曲も似合いますよね」って、お二人がすごい盛り上がっていたんですよ。それで僕のアルバムを作るってなった時に、「楽曲を誰にお願いしようか?」とスタッフの方たちと相談したんですが、ミトさんと神前さんがあの時にああ言ってくださっていたので、「是非お願いしたいです」って言ったらOKしてくださって。僕の歌声はどちらかというと個性がある方だと思うので、「ミトさんと神前さんの曲の個性と、どうぶつかり合っていい作品になるのかな?」とワクワクしました。
■そういう経緯があったんですね。
PARED ミトさんが書いてくださった曲は、デモの状態で聴いた時は「どう表現しようか」とめちゃくちゃ悩んでいて。いろんな解釈ができる曲なので、ミトさんがどう思ってこの曲を書いたかっていうのも汲み取りがすごく難しくて、「自分の解釈でいいのかな?」とか、いろいろ考えて模索した曲ではあります。多分一番聴いて一番練習した曲ですね。その分、最高の作品になったのでよかったなと思います。それから神前さんの“透明なフィルム”についてですが、実は僕、昔から神前さんの曲を聴いていたんです。アニメがめちゃくちゃ好きで、『涼宮ハルヒの憂鬱』とか本当に好きなんですよ。それで神前さんのことはもちろん知っていたんですけど、神前さんの曲で、今まで夜がテーマになっているものってあまり聴いたことがないなと思っていて。すごくドキドキしながら聴いたら、めっちゃお洒落な感じで「さすがだな!」と思いました。聴いた瞬間に、「なるほど、こう歌えばいいんだな」っていうイメージがついて。神前さんの形に僕が合わせるっていうよりも、神前さんが僕の形に合わせてくれたような感じでしたね。すごく気持ちよく歌っています。
■ミトさんと神前さんのお二人が注目してくれていたからこそ、実現したコラボでもあるんですね。
PARED ああ言ってくださったのは番組的になのかもしれないですけど。(笑) 番組の途中で「こういう系の曲歌わせたらヤバイよね」って言ってくれたんですよ。嬉しすぎて鮮明に覚えています。