パスピエ『パスピエTOUR 2019 “more You more”』ライブレポート@Zepp Tokyo 7月15日(月・祝)

パスピエ『パスピエTOUR 2019 “more You more”』

これからもパスピエのその予測不可能さについていく!そんな誓いが成された一夜を私的ドキュメント!!

今年結成10周年のパスピエ。そこを節目に、これまでを踏まえつつ、この先をも楽しみにさせる、マシナリーで構築性の高い打ち込みサウンドと、バンドらしさやグルーヴといったフィジカルさの邂逅も特徴的なニューアルバム『more humor』の発表も印象深い。そんな同作品と共に全国9都市10公演を行った「パスピエ TOUR 2019 “more You more”」がZepp Tokyoにて大盛況のなか幕を閉じた。ライブ中に「あえて新しいパスピエを魅せたく回ったツアーだった」と語った、キーボードでありソングライター且つバンドの司令塔・成田ハネダ(Key)。その言葉通り、最新アルバムからの楽曲を中心に、これまでも踏まえた過去作品からの楽曲たちが満遍なく散りばめられたこの日の選曲は、まさに今までの歴史を振り返らせつつ、そのどれもに現在とこれからを感じさせるエッセンスが散りばめられていた。

パスピエ『パスピエTOUR 2019 “more You more”』

青白く浮かび上がったステージにメンバー各人が登場。弧を描きセッテイングされた独特の定位置に各人が就く。大胡田なつき(Vo)は、おなじみの後ろ向き。発音を待つ。この日の頭はニューアルバムから“だ”が飾った。始まると同時にバンドが放つ躍動感が会場いっぱいに広がっていく。「東京、楽しんで行こう!!」と大胡田。同曲特有の土着さが会場をバウンスさせていく。同曲では露崎義邦(Ba)もベースソロを披露。会場を沸かせる。彼らの魅力の一つである幾何学さが登場したのは、成田のシンセも印象的な“術中ハック”であった。サビの開放感が気持ちいい同曲では大胡田も艶かしいダンスを魅せる。ここでは三澤勝洸(Gt)のギターも泳ぎ回り、合わせてギターソロも炸裂。会場を魅了していった。歌謡さが現れたのは“音の鳴る方へ”であった。ここでは成田も酔狂のキーボードソロを披露。会場中がバンドの誘う音の鳴る方へと吸い込まれていく。対してニューアルバムから“BTB”がドライブ感を伴った和な世界を広げれば、過去曲“(dis)communication”も負けじと哀愁と躍動感の同居とメリハリにてコミュニケーションを誘発。対して“ユモレスク”ではエレガントなピアノからバンドサウンドが加わり、瞬間、ブワッと生命力が場内いっぱいに放たれるのを見た。また、“スーパーカー”では、切なさとそれを超えたツッコミ気味のサポートドラムの佐藤謙介の16ビートが疾走感を伴い会場を並走させていく。加えて、ニューアルバムからの“グラフィティー”は、成田の面目躍如。リズム隊の黒っぽさが光るグルーヴの中、超絶プログレ的キーボードソロで場内を魅了。この辺り作品より全然臨場感と躍動感が違う、ライブならではさが体感できた。

パスピエ『パスピエTOUR 2019 “more You more”』

中盤では超初期曲の“電波ジャック”が会場に、よりノリの良さと華やかさをもたらし、“とおりゃんせ”ではアフロビートも飛び出し場内にバウンスを起こせば、哀愁とウェットさ、そしてトレンドさと、大胡田のファルセットも冴えた“ONE”では、乙女心が場内中に広がっていった。また、“resonance”では、幻想&神秘的な世界観に場内を浸らせ、ここでは三澤の長い長い高揚感を伴ったギターソロに場内が白熱した。神秘的なゾーンは続く。露崎のベースソロも光った“トーキョーシティ・アンダーグラウンド”では優雅さが、“煙”では佐藤の生み出すタムが生命力を増強させ、より深海性や沈殿していく感じを味あわせてくれた。間には一変、この季節にぴったり“くだらないことばかり”が、夏が来る予感を寄与してくれ、それを経たバラード“waltz”では、成田のエレガントなピアノソロも手伝い、たゆたうような雰囲気が場内を心地良く包んでいった。

パスピエ『パスピエTOUR 2019 “more You more”』

後半戦は<魅せて>くれた。パーっと景色と雰囲気が変わり、合わせてボルテージも上昇をみせる。超絶ベースソロも高揚させた“つくり囃子”、コミカルでファニーさを放出した“△”、露崎がカオシレーターを弾き、三澤もステージ最前にてソロを披露した“R138”、またこの日のハイライトとも言える“ハイパーリアリスト”では、各パートのソロでの繋ぎの他に、この日最高のエモさと、大胡田の「何千回だって何万回だって会いに行く」との歌のフレーズが、これからへの決意表明のようにも響き、同時にバンドと集まったオーディエンスたちのプロミスやアライアンスのように映った。「それじゃもうちょっと踊ろうか」と大胡田。佐藤の8ビートと16ビートの使い分けと、フロア頭上の巨大なミラーボールも幻想的で刹那的に回る中、放たれた“オレンジ”では、現れるディスコビートと共に会場を幸せそうに踊らせていく。本編最後は「言いたいことこの曲に全部詰めた(大胡田)」と、ニューアルバムから“始まりはいつも”が贈られた。

パスピエ『パスピエTOUR 2019 “more You more”』

そしてアンコール。「10年間バンドをやってきて良かった。でも終わりじゃない。これから」と三澤が強く誓ってくれ、「これからもいくよ!!」と大胡田が続ける。まずは、やはりもう一度、自分たちのブレイク地点をここで再確認すべく“トキノワ”へ。高揚感のある同曲がエモく高らかに誇らしげに各人の胸にダイレクトに突き刺さる。グランドフィナーレは“恐るべき真実”が飾った。ミディアムながらけっしてセンチに響かせない、彼ららしい優しさのように感じられた。しかし、これだけでは終わらなかった。予めなかった、ダブルアンコールにも応えてくれた彼ら。既に会場の電気が点いたのにもおかまいなしに、めまぐるしい展開も魅力的な“ギブとテイク”がそこでは放たれた。

パスピエ『パスピエTOUR 2019 “more You more”』

「いやー、やはり最後はこうこなくちゃ。」そんな予測不能さが彼らの最大の魅力だと改めて感じることが出来た瞬間であった。「自分たちは今後も予測不可能に進んでいく!!」なんか、そんな宣言を高らかにされた気がした。しかし振り返るといつだって彼らはそうだった気がする。自身でも予測不可能な興味に向かい進んでいくうちに、しっかりと着地点や、これだという場所に辿り着き、それらを確立してきた。そして聴き手や観衆もしっかりとそこに帯同してきた…。そんなバンドであったことに今さらながら改めて気づかされた。彼らはこれからもその予測不可能さを更に深め、進化させ、確立させていく。そんなことを考え今後の彼らへと想いを馳せながら帰路につく自分が居た。目をあげると渡ろうと思っていた信号は点滅を始めていた。

Text:池田スカオ和宏
Photo:鈴木恵

http://passepied.info/

『パスピエTOUR 2019 “more You more”』セットリスト
1.だ
2.術中ハック
3.音の鳴る方へ
4.BTB
5.(dis)communication
6.ユモレスク
7.スーパーカー
8.グラフィティー
9.電波ジャック
10.とおりゃんせ
11.ONE
12.resonance
13.トーキョーシティ・アンダーグラウンド
14.煙
15.くだらないことばかり
16.waltz
17.つくり囃子
18.△
19.R138
20.ハイパーリアリスト
21.オレンジ
22.始まりはいつも

Encore
1.トキノワ
2.恐るべき真実

Double Encore
1.ギブとテイク