ポップしなないで『アコガレ』ライブレポート@渋谷CLUB QUATTRO

ポップしなないで、アコガレの地で伝えたメジャーデビュー発表。

0月23日(日)、ポップしなないでのワンマンライブ『アコガレ』が開催された。この日の会場は「憧れでもあった」とMCでも語られていた渋谷CLUB QUATTRO。ポップしなないで史上最大集客となるワンマンライブで、多くの発表とともに楽しませた。SEで登場した2人とバンドメンバーは、“UFOを呼ぶダンス”を披露し、「僕らのセッションが始まる」との歌詞で高らかに開幕宣言。ベースが力強いプレイを繰り出すと、“どうすんの?”に突入する。キーボード&ボーカルのかめがいあやことドラムのかわむらに加え、サポートバンドのいるポップしなないでのステージもここ最近ではおなじみとなったが、そこで繰り出されるパワフルな音色は、かめがいのリズミックな歌声を押し出すような力強さを感じさせる。「最後まで自由に、楽しく、自分らしくお過ごしください」とのかめがいの言葉に続くのは、“月の踊り子”。ミラーボールが回る会場には幻想的な光が散りばめられ、じんわりと明るく展開するサビに向けて希望に溢れた雰囲気が漂う。そんな優しくドラマチックな空気を一変させるように、「本日お集まりのゾンビのみなさん、まもなく電車が参ります」と妖しげなかめがいの言葉より“地獄快速”へ。タイトルに反してのどかさすら感じられるメロディーと明るい声色だ。

ポップしなないでの楽曲の多くには抜群にユーモアが効いているが、その何重にも重ねられた言葉遊びをかき分けた先には飾り気のない彼らの本心や、かわむらの説明を借りると「君と僕vs世界」を描く、いわゆるセカイ系的なドラマチックなメッセージが隠されている。かめがいのポップな声色の魅力が光る“支離滅裂に愛し愛されようじゃないか”は、そういった意味でまさにポップしなないでの織り成すユーモアとセカイ系のニュアンスのバランスが最も緻密に練られた楽曲だろう。推進力のあるリズムにのせ、言葉遊びの散りばめられた、それでいて「はっ」とさせるような言葉が丁寧に織られた歌詞を紡いでいく。声色を変化させながら伸び伸びと歌い上げるかめがいの歌声の魅力と、丁寧な抑揚でドラマチックに仕立てるかわむらのドラムとかめがいのキーボードが、ポップでありながら切なさを孕んだ演奏を奏でていた。

「差し入れでもらった堅パンが本当に硬かった」という、あまりに自由奔放なMCの後に2人で披露したのは、どこか影のある、しかし軽快で嫌味のない歌詞の“Creation”。ラフで自由なMCと、伸び伸びとした肩肘張らない演奏、世の中や人間についての酸いも甘いも同じように切り取るかわむらの歌詞のセンス。全てひっくるめたポップしなないでのスタイルが会場を心地よく染めていく。その後、“魔法使いのマキちゃん”、“SG”と、会場の空気は段々と落ち着いたものに変化していく。アップテンポの楽曲はポップしなないでのキャッチーな部分を浮き彫りにするが、バラードでの悠々とした歌声やじっくりと構築される抑揚も圧巻だ。「今日、私たちはクアトロにみなさんを救いにきました!」というかめがいの宣言から、ライブ定番曲“救われ升”に続くと、「救われ 升!」のリズムで手が上がるのを見たかめがいも「いいねえ」と呟いて楽し気な表情を見せた。

さらに、ライブ初披露となった“ローリンソウル・ハッピーデイズ”では、エネルギッシュで明るいメロディで会場を満たす。「何度も何度も何度も 転がり落ちながら思った 笑えるくらい痛いけど もう一回もう一回」とあっけらかんと歌う声と軽快なリズムは、じんわりとオーディエンスの心に沁み渡るものがあった。“初夏それから”で陽だまりのような温かさを演出した後は、かめがいが「どんなにライブで楽しい時間を過ごしても、劇的に明日は変わることはないと思う。正直音楽にどんな力があるのか分からないけれど、ポップしなないでの音楽はみんなの心に触れることができるのではと信じています」と語る。そんな気持ちをこれまで以上にこめるように朗々と“夢見る熱帯夜”を披露し、本編は終了した。

アンコールではいよいよメジャーデビューの発表も。今までの活動を振り返るかめがいは、何故か重々しい空気を醸して涙ぐみながら「2023年2月22日をもちまして……」と言葉を切り、「メジャーデビューいたします!」と、コロっと明るい表情に変化して発表。そんな彼女は「解散発表かと思った人ー?いっぱいいる!嬉しい!これやりたかったんだよね~!」と、無邪気に飛び上がっていた。かわむらはその隣で「僕は止めたんですけどね」と呟いており、そんな様子も彼ららしくて微笑ましい。フルアルバムのリリースとツアーの開催も発表すると、「音楽以外あんまりできない我々がここまでこれたのは、みんなのおかげです。メジャーデビュー以降も一緒に進んでいけたらいいなと思います」とかわむら。その後に披露した“言うとおり、神さま”の「ステージの上なら全部出来るんだ」「こっちを見上げる一人一人の顔はきっと 少し昔みたいに敵ではないよね」というフレーズは、メジャーデビューを迎えるにあたっての決意表明のようにも響いていた。さらに“丑三キャットウォーク”をパワフルに演奏した彼らにダブルアンコールの手拍子が集まると、「節目なので、大事な曲をやって終わろうかなと」と、初期から演奏し続けている楽曲“エレ樫”を披露した。

昨年からの歩みを辿ってみると、アルバム『美しく生きていたいだけ』をリリースした後、“月の踊り子”、“UFOを呼ぶダンス”、“ローリンソウル・ハッピーデイズ”と、キャッチーなだけでなく、どこか訴えかけるような明るさを持った楽曲をリリースしてきたポップしなないで。光のアクセントになるように影が配置された、軽快で心が晴れるような楽曲は、暗い影の落ちた今の世の中にこそ必要な音楽であると感じる。そんな彼らのここ数年の歩みを振り返るようなセットリストとともにメジャーデビューを発表した本公演。今後、より多くの人にポップしなないでの音楽が届いていくであろうことが、今はただ嬉しくて仕方がない。

Text:村上麗奈
Photo:小坂茂雄

https://popsnnid.com/

ポップしなないで『アコガレ』@渋谷CLUB QUATTRO セットリスト
01. UFOを呼ぶダンス
02.どうすんの?
03. 月の踊り子
04. 地獄快速
05. 支離滅裂に愛し愛されようじゃないか
06. Creation
07. 魔法使いのマキちゃん
08. SG
09. 救われ升
10. Sunset
11. ローリンソウル・ハッピーデイズ
12. 初夏それから
13. 夢見る熱帯夜

ENCORE
01. 言うとおり、神さま
02. 丑三キャットウォーク

W ENCORE
01. エレ樫