「逃げて逢おうね」と約束した場所でReoNaが届けたお歌。
絶望系アニソンシンガーとして、孤独や哀しみに寄り添いながら旅を続けてきたReoNaの、この5年間の集大成。2023年3月6日(月)、ReoNaにとって初の東京・日本武道館公演『ReoNa ONE-MAN Concert 2023 “ピルグリム” at 日本武道館 ~3.6 day 逃げて逢おうね~』が、映像作品として8月30日にリリース。約8000人のファンで埋め尽くされた本公演では、“ANIMA”(TVアニメ『ソード・アートオンライン アリシゼーション War of Underworld』2nd OPテーマ)、“生命線”(ゲーム『月姫 -A piece of blue glass moon-』主題歌)など全17曲を完全収録。さらに、初回生産限定盤には日本武道館までの足跡をたどるドキュメント映像の他、当日のライブ音源CD、フォトブックがパッケージされている。
集大成的なライブでありながらも、日本武道館はここから先の未来に向かうための到達地点ということが、本作を見るとありありと伝わってくる。約束のライブを消えない足跡に変え、巡礼者としての道は5周年を迎えたこの先へと続いていく。
■VANITYMIXでお話を伺ったのは1stシングル『SWEET HURT』(TVアニメ『ハッピーシュガーライフ』EDテーマ)振りとなります。その5年後に本作がリリースされますが、この5年振り返ってみるとどのような思いがありますか?
ReoNa 過ぎてみるとあっという間だったなと思いますし、実際そう感じることもあるのですが……本当にすごくいろいろなことがあって、いろいろな方と出会って。デビューするまでの人生とは比べ物にならないくらい濃い5年間でした。私の中では異世界転生をしたかのような印象です。こんなにもまだまだ経験したことがないことがいっぱいあったんだなと。そう思うと、しっかりと長い道のりではあったのかなと思います。
■VANITYMIXの当時のインタビューで「引っ張ったり、背中を押してくれる歌は他にあると思いますが、私の役割はそれではなく、そんな逃げたい、ツラい、ヤメたい時に寄り添えたり、拠り所になれる存在なんじゃないかなって。そこからまた、抜け出すキッカケをつかんだり、見つけるのは一人ひとりなんですが、今後も含め、私はそこに寄り添える存在でいたいんです」とおっしゃっていました。絶望系アニソンシンガーとして、この5年、ブレないところだったなと。
ReoNa もちろん変化していくものはあったと思うんです。作品ごと、楽曲ごとで深度が深まったり、時には揺らいだりと、絶望に対するいろいろな向き合い方があって。でも自分の根っこの部分である「引っ張るでも背中を押すでもなく、寄り添いたい」という思いは変わっていないなと。
■ReoNaさんが「引っ張るでも背中を押すでもなく、寄り添いたい」と思うようになったのはいつぐらいだったんでしょうか?
ReoNa アニソンシンガーとしてお歌を届ける人間を目指す上で、どこかで「力強い楽曲や励ます楽曲を歌わなきゃいけないのかな」と勝手に思っていた時期が実はありました。「応援できなきゃいけないのかな」と。でもデビューにあたって、スタッフさんと出会った時に「ReoNaとして届けたいものを作って良いんだよ」と言ってもらえて。そういう言葉をもらって、「応援しなくても良いんだ」と気づかせてもらったというか。実際自分自身、頑張って頑張って、頑張りきれない時に、「頑張ってね」って言われるのがキツかったんです。その思いのまま音楽を紡いでいいんだなって。それがきっかけです。
■ReoNaチームのおかげだったんですね。
ReoNa 当時は勝手に「こうしなきゃアニソンシンガーにはなれないんじゃないか」って決めつけて、そうなろうと思っていたところがあったんです。ReoNaチームのスタッフさんたちが「そうじゃなくて良いんだよ」と言ってくれたことで、戻してもらえた。それはReoNaチームとの出会いのおかげです。
■ブレない軸の中でも、いろいろな変化があったというお話がありました。その変化について、ReoNaさん自身はどのように捉えていますか?
ReoNa この5年間の間、自分の思いをさらに広げてくれるような出会いがたくさんありました。それこそ『ソードアート・オンライン』との出会いがなければ、ここまで激しいロックナンバーってReoNaの中にあったのかな、とか。『シャドーハウス』との出会いがあったから“ないない”、“シャル・ウィ・ダンス?”などの楽曲が出来たのかな、とか。『月姫』との出会いがあったからこそ、毛蟹(LIVE LAB.)さん節が炸裂する楽曲が生まれたのかな、とか……。いろいろな作品と出合うことで、毎回挑戦状を叩きつけられるような気持ちになります。
■クリエイター陣も「ReoNaならできるだろう」と、新しい側面の曲を届けていますからね。傘村トータ(LIVE LAB.)さんや澤野弘之さんも、ReoNaチームにとって今や欠かせない存在に。荒幡亮平さんをはじめとしたバンドメンバーしかり……。
ReoNa クリエイター陣の中には、ハヤシケイ(LIVE LAB.)さん、毛蟹(LIVE LAB.)さんと、デビュー前からご一緒されている方もいて。そういういろいろな作品との出合い、人との出会いがReoNaというアーティストを広げてくれたなと思っています。これから先の未来で、挑戦したことのない、新しいカタチのようなものがもし待っててくれるのであれば、それをちゃんと紡げるように、ReoNaという存在をアップデートしていかなきゃいけないなと思っています。
■ReoNaさんは「アーティスト・ReoNa」の存在を客観的に捉えられているんですね。
ReoNa ReoNaという存在は、私であり、私だけじゃないという感覚があります。もちろん責任もありますし、「ステージに立つのは自分だ」という思いはありますが、アーティスト・ReoNaはいろいろな人に作ってもらっているなと。私自身も関わってくださるみなさんに、“自分ごと”にしてもらいたいなとも思っていて。そういう思いで携わってくれている方が多いなと思っています。
■では生身のReoNaさんから見たアーティスト・ReoNaはどんな存在なのでしょうか。
ReoNa 渦中にいすぎて、私自身が見えていないアーティスト・ReoNaの側面もあるんだろうなって最近思っています。完全に俯瞰では見られていませんけど、ちょっと引いて見たとしても、いろいろな人に支えられているなっていうのを感じています。
■『ReoNa ONE-MAN Concert 2023「ピルグリム」at日本武道館~3.6 day 逃げて逢おうね~』はそれを改めて感じるようなライブでしたね。
ReoNa 今のスタッフさんたちと出会うまでは、基本的にひとりでずっとやってきていて。経験も知識もない中で「ライブに出るためにはどうしたら良いんだろう?」「人に来てもらうにはどうしたら良いんだろう?」って、ひとりで模索してきた中でデビューが決まって、神崎エルザと出会って、ソロデビューをして……一人で始まった物語が、気づけばこんなにたくさんの方とステージに立って。日本武道館公演はこれまでの中で、お客さんの数がいちばん多かったライブだったので、「こんなにもたくさんの方がReoNaのお歌を受け取りに来てくださっているんだな」ということも感じるライブでした。
■日本武道館のライブ映像を自身でご覧になって、どのような思いがありましたか?
ReoNa 不思議な気持ちでした。私は自分のライブを客席から直接見ることは叶わないので。でもこの映像を見た時に、映像チームの629inc.さん、音響収録チームのトシさん(渡辺敏広/binaural inc)はじめ、制作チーム全員のとんでもない愛情と熱量も相まって、私もお客さんとしてライブを見ることができたような気持ちになりました。「バンドメンバーはこんな表情をしていたんだな」とか。現地にいてくださった方たちにも、別の切り口で楽しんでもらえるんじゃないかなと思いました。映像だからこそ切り取れる細かいディティールはぜひ見てもらいたいです。
■ReoNaさん的に見てもらいたいところというと?
ReoNa いっぱいあるんですが、“ないない”から“シャル・ウィ・ダンス?”の流れでしょうか。あの2曲の流れには挑戦的な部分もありました。映像になることで、当日伝えたかったものがさらに表現できているのかなと思っています。
■30人を超えるシャドーダンサーズ×ヲタクダンサーチーム・REAL AKIBA BOYZ×会場のお客さんたちとで一緒に踊った“シャル・ウィ・ダンス?”の舞踏会の様子は特に印象的でした。
ReoNa ステージから見るみなさんの景色もすごく印象的だったんですけども、あの場にいてくださった8000人のみなさんからどう見えていたんだろうというのは、映像でないと見られないもので。あのステージに一緒に立った学生のみなさんは、“シャル・ウィ・ダンス?”という楽曲で出会いがあって、一緒にツアーを回ったり、アニサマのステージに立ったりしていて。あの時の出会いがあったからこそ、あの日あのステージに一緒に立てたという軌跡も含めて感慨深いものがありました。
■“ないない”の繊細なカメラワークも素晴らしかったですよね。
ReoNa 629inc.さんのおかげです。映像の編集に私も伺わせてもらっていたんです。映像が出来上がっていく様子を見させてもらったのですが……言葉に出来ないような細かいところまで、歌に合わせて組み替えてくださって。一緒にステージに立つ気持ちで作ってくださっているんだろうなと。
■ReoNaの軌跡というのも感じるセットリストで、総勢100名を超えるクワイヤをバックに壮大な世界観で歌い上げた“Till the End”(『ソードアート・オンライン』原作小説刊行10周年テーマソング)など、後半戦は怒涛でしたね。
ReoNa ReoNaというアーティストの今までを振り返るようなセットリストです。“ピルグリム”から始まって、デビュー曲、人生で初めてできた曲、そして最後の“Rea(s)oN”と、後半になるにつれて、「これだけ多くの人に関わっていただいたからこそできるステージだな」と実感しました。個人的には、あの日の“Rea(s)oN”は、『“ピルグリム”at日本武道館~3.6 day 逃げて逢おうね~』でしかできないものだったように感じています。もちろんすべての曲に言えることなのですが……この『“ピルグリム”〜』でしか作れないもののようなものを、後半にしみじみと感じていて。なんて言うんでしょうか、ひとりきりで歌い始めて、バンドメンバーの音とともにいろいろな人が登場して……あれだけの多くの方と一緒にお届けする“Rea(s)oN”は、「特別なものだったなぁ」と映像を見て改めて思いました。
■お客さんにとっても特別なものになったと思います。
ReoNa ライブを作っていく中で「いちばん何が伝えたいんだろう?」と立ち返った時に、ReoNaとして伝えたい芯の部分に「出逢ってくれてありがとう」という思いがありました。今までMCでも「私にとって出逢えた“あなた”はお歌でした」と言ってきましたが、でも「今日は“あなた”に、出逢ってくれてありがとう」という思いで“Rea(s)oN”を歌わせていただいて。この“ピルグリム”を通じて伝えたかった思いも相まって、人生で初めてレコーディングした曲でもあるので、そういう意味でも、改めてすごく大切な曲だなと感じました。
■“Rea(s)oN”の後、ReoNaさん最後はやっぱり泣いていたんだなぁと。
ReoNa ちょっと「悔しいなぁ」と思いつつ。ただ歌い終わるまでは絶対に……とは決めていました。単純な興味なんですけど、日本武道館公演でいちばん好きだった曲ってありますか?
■全部なんですけども、今あがっている曲以外で言うと『月姫 -A piece of blue glass moon-』関連の曲でしょうか。“HUMAN”ツアーで聴いた“生命線”と、武道館での“生命線”はまた違ったような気がして。ライブで進化する曲ですよね。
ReoNa 確かに違いましたよね。バンドが全然同じことをしてくれないので。(笑)
■(笑) それと“トウシンダイ”、“怪物の詩”を武道館で聴けたことはすごく嬉しかったで
す。
ReoNa セットリストは毎回喧嘩なんです。それぞれ「この曲はやるべきだ」、「この曲はやりたい」という殴り合いで勝ち進んだ曲たちです。ReoNaの絶望系を形作ってくれた曲として、その2曲は外せないところでした。リハーサルの中で何度も組み直したのですが、しっくりくる流れだったと思います。
■やはり“HUMAN”も印象的でした。モニターにはReoNaさんの思い出の写真が流れていて。
ReoNa 今回は特別な映像とともに贈らせていただきました。私が持ってきたものも含めて、いろいろな思い出を編集していただいていて。周りの方々にも募ったところ……3,000枚くらい集まったんです。それを200枚くらいに絞りました。今は亡き祖父や祖母との写真だったり、私というひとりの“HUMAN”の小さい頃の写真だったり……。あそこに写った写真は私の今まででしたけど、あれを見ることで、自分の人生に重ねてくれいたらいいなと個人的に思っていました。あの場所にいた何千という“HUMAN”一人ひとりの人生が集結していたので……本当にあの日だけの特別な映像になったと思っています。