Rin音 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

止まった時計から始まる時間の旅、3rdアルバム『error clock』。

Rin音が6月25日に3rdアルバム『error clock』をリリース。Rin音がアルバムをリリースするのは約3年ぶり。パソコンのクロックエラー(パソコン内部の時計を弄ることで出るエラー)から着想を得た今作は、映画『リライト』の主題歌“scenario”から時をさかのぼり、過去にリリースしてきた楽曲なども収録、Rin音のルーツにも触れる作品となった。インタビューでは制作経緯や楽曲に詰め込まれた思いを中心に、Rin音の価値観にも迫る。

■3rdアルバム『error clock』ですが、資料についていた「パソコンのクロックエラー」のエピソードとアルバム内容との関連性が掴めなかったんですよ。でも、もしかしてこれ、今作は意図的に新曲と既存曲を混ぜ込んだということですか?

Rin音 そうです。もともとアルバムはコンセプトを元に作りたいという想いがあるので、ぶっちゃけ「全部新曲じゃなきゃダメじゃん!」とも思っていたんです。ただ、今回はアルバムのテーマを決めなきゃいけないというタイミングに、なんか良い案はないかな?と思って、大学時代に使っていたノートパソコンを久しぶりに開いてネットの履歴でも見ようと思ったら、ネットが見れなくなっていたんです。それで「なんで?」と思ってよくよく考えたら、卒論を書いていた頃に、友達へのドッキリとしてパソコン内の時間を弄って遊んでたことを思い出したんです。

■それはなんというか、結構際どい時期にイタズラしていたんですね。(笑)

Rin音 ですね。(笑) 調べてみたところパソコン内の時間を弄るとクロックエラーというのが出てネットが見られないようになるらしく、時計を直したら普通にネットや履歴が見れるようになったんですよ。「こんなこともあるんだな~」と思ったのですが、これってすごく人間にも近い所があるなと思って。昔友達と喧嘩したことや、元カレや元カノのことを思い出したりしている時間って、「自分の今の時間」が全然進んでいなくて、上の空になって、音作りも上手くいかないし、生活していてもちょっとしたミスを連発するじゃないですか。

■そうですね。

Rin音 そういうところが、パソコンのクロックエラーと似ているなと思い、それをテーマとしつつ、今回主題歌を担当した映画も「時間軸」をテーマにした作品なので、昔書いた曲を収録すると、「その時点で心が止まっている」という演出にもなるという発想が腑に落ちて、こういう形になりました。

■今作のテーマはまさにそういうところなんですね。ではニューアルバムを3つのワードで表現するとしたらなんですか?ちなみに私は「夜・星・時間」だと思いました。

Rin音 おっ!確かに僕もその3つが大好きなんです。(笑) 僕の地元は福岡の宗像という所で、海も近くて、あまり高い建物もなく、夜になると星が綺麗に見えるんです。僕自身星が好きなんですけど、人生で初めて女の子と一緒に見た恋愛映画が『今日、恋をはじめます』でして。その映画のキーワード的なものに「プラネタリウム」があったので、自分の中で漠然と「恋愛」と「夜・星」が結びついていまして……。そして今回は「時間」についても「自分の中で止まっていたり進んでいたりするもの」だと意識したので、まさしく言われた通りかもしれませんね。

■キーワードを当てちゃいましたね。(笑) ちなみにですが、音楽の3要素としてトラック・歌詞・歌声があるじゃないですか。Rin音さんはそれぞれの比率をどう考えていますか?

Rin音 自分が制作している上で聴いてほしいのはやっぱり歌詞です。トラックは、トラックメイカーさんに「こういうテイストの曲にしたい」と話して、一緒に作っているんですけど、自分の中から出てくる世界観や作風が強く現れているのは、歌詞だと思うので。

■やっぱり歌詞が来ますよね、ラッパーですし。そして今回のアルバムの目玉トピックといえば、なんといっても映画『リライト』とのタイアップですが、主題歌“scenario”と、映画とのシンクロ率はどれくらいですか?

Rin音 シンクロ率は100%です。(笑) 映画を見てから制作に取り掛かったので、数パーセント減るとしたら、映画を経て自分の感情を乗せている部分でしょうか。「主人公が不思議な恋愛を経て、それを小説にするんだったら、どういう形にするかな?」みたいな形で、「小説」を意識しながら歌詞を書きました。表現ひとつにしても、普段よりもっと文章的に、かつ聴いた時に小説に近い感情描写を想像してくれるものを意識しながら。

■映画を見ている方にとっては最後に流れる曲だから、全てのワードの意味がわかるわけですよね。

Rin音 そうですね。普段楽曲を作っている時より、情景描写みたいなものは多めです。普通に聴くとリスナーさんそれぞれが違う景色を思い浮かべると思うのですが、映画を観た後に曲を聴くことによって、みんなが全く同じ風景を思い浮かべると思うんです。そういう意味で、表現としては自分が一番近いものをお届けできる機会なので、すごくワクワクしています。

■この曲はトラックのチクタク感も面白かったです。メロディも拍子の頭に合わせているんですね。

Rin音 作品が「時間」をテーマにしたものなので、「時間」を意識したトラックにしたいと思っていました。口で説明しなくても、トラックから「今タイムリープが起こっている」ということが伝わればいいし、ちょっと逆再生っぽい音も入れて、時間が逆行している表現もしています。音楽の表現のひとつとして楽しんでもらえたら嬉しいですね。

■もう本当に歌詞に出てくる単語のチョイスがすごく好きで、たとえば「何年」という単語は出て来がちだけど、「何公転」はなかなか出て来ないじゃないですか。だからここを聴いた時、「やられた!」と思いました。

Rin音 嬉しいです。僕は結構いろんな作品を読んで感銘を受けて、それこそ『チ。-地球の運動について-』も読みましたし、そもそも星も好きですし。そういうものを勉強している時に面白いなと思って、そこら辺からも引用しています。

■その後に「出店はありますか?」が出てきたのも良くて……。Rin音さんの曲は細かい音の跳躍が多くて、簡単には歌えないものが多いと思うのですが、わざとそうして作っているのでしょうか?

Rin音 どうなんでしょうね……?自分は気持ち良さを重視しています。あんまり音楽に対する知識が無くて、専門学校に行っていたことも全く無く、MCバトルが好きという所から、手探りで音楽をやっているので、難易度を考えながら作ってはいないんです。でも、他の人の曲を聴いた時には、「自分はこの曲のどこが好きなんだろう?」と、たくさん考えるようにしていて、それを自分の音楽で表現するんだったらどうするかな?こういう感情を表現したい時はどうしたら伝わるかな?と考えながらやっています。

■そうしたら跳躍が多くなっちゃったんですね。その「聴いていて気持ちいい」という所から、“テレスコープ”でasmiさんと歌声を重ねる発想が出てきたのでしょうか?

Rin音 そうですね。僕は結構asmiというアーティストと一緒にやってきて長いんですけど、“テレスコープ”を書いていた時、この歌詞をasmiが歌っているのを聴きたいなと思いました。もともと自分ひとりでやろうとしていた曲なんですが、無理やりお願いした感じです。(笑)

■この曲に関しては、Rin音さんが天文好きということを踏まえて、ちょっと意地悪なことを言うと、アルタイルを眺めて「あの星に人はいるのかな」と言っているけど、アルタイルは恒星だから人はいませんよね?

Rin音 そうなんです。いないんですよ。(笑) でもなんかこう、時間稼ぎというわけじゃないんですけど、好きな人と一日一緒に過ごしていても、夜に飯を食った後って、一番話すことが無いじゃないですか。(笑)

■確かにそれはそうですね。(笑)

Rin音 だから、そういう時にわけわかんないことを言っちゃうんですよ。(笑) 「突飛なことを言って気を引きたい」みたいな気持ちって、ひねくれているようで、一番素直なんです。そういう描写がしたくて書きました。

■私みたいにツッコむ人はツッコむ描写だとは思うんですけど、そこまでは意識されていないですか?

Rin音 まぁ、でもこれはロマンの話なんですよね。(笑) アルタイルって、普通に生きていても名前を聞く有名な星じゃないですか。そんな感じで、科学的なことをあまり深く考えられないくらいに、隣の女の子に気持ちが向いているという描写なんです。なんて言ったらいいんだろうな……例えばすごい映画を作っている偉い人とお話する機会があったとして、普段ならその人の映画のことをスラスラと喋れるのに、その時になると何を言いたかったのか思い出せないみたいなことってありませんか?そんな感じで、夢中になっているところの方向性は、あくまで星ではなく、隣にいる女の子であってほしいんですよ。

■なるほど。ちょっと天文知識があるからこそ、深みが出るところもあるように思います。この“テレスコープ”と“春と夜空”は、要素をたくさん詰め込んだ1曲目に対して、アラカルト的に感じました。アルバムの曲順は簡単に決まりましたか?

Rin音 今回はアルバムを通して時系列みたいなものをすごく意識しました。“scenario”というタイムリープものを冒頭に置いて、「今から時間が巻き戻ります」というのを表現した後に、“テレスコープ”で夏のお話をして、その次は秋の曲じゃなくて“春と夜空”。この1、2、3曲目のイントロデュースで時系列がさかのぼり、そこから過去の自分に戻ったり、自分のいろんな恋愛が始まったりします。この導入は意識して作って並べました。言ってしまえば、自分の人生のようなセットリストを楽しんでいただいた後に、“貴方に晴れ”を聴いて、どう思ってもらえるか、みたいな作りにしたいなと思いました。

■アルバムを通して、この曲順で聴くことを意識されている作品なんですね。シャッフルしないで聴いてほしいですか?

Rin音 それはお好みでもいいんですけど、曲順についてはいろいろ提案を受けたり、アイデアをもらったりしたんですよ。でも、やっぱり自分の腑に落ちるものがこの並び順だったので、「これでいかせてください!」ということになったので、ぜひ一度はこの順番で聴いてみてほしいです。

■“What’s up”は少し前の曲になりますが、クボタカイさん、asmiさん、A夏目さんも参加されていますね。

Rin音 そうですね。その時期に活動していたフルメンバーぐらいの雰囲気です。僕らは割と共通点もあって、個人的にはマイクリレーっぽくなりすぎる曲があんまり好きじゃないのもあり、
「曲としての統一感を持っておきたいよね」というのを、ずっと念頭に置いて作りました。そもそも見ているビジョンが似ている人たちだから、バラバラに歌詞を作ったんですけど、なぜか統一感が出ているのが面白いです。

■確かにこれ、誰がどこを書いたんだろう?と思ったんですよ。そのくらい馴染んでいますよね……。ところで「チル」とはなんなんでしょうか?

Rin音 なんなんでしょうねぇ。(笑) この曲自体、それぞれの「チルとは?」を語っているようなものだと思うんですけど、共通して側に仲間がいることや、気を緩ませる環境であったり、人であったりが存在していることが「チル」なのかなと認識しました。

■asmiさんとクボタカイさんとA夏目さんは、お互いにどのようなご関係なのでしょうか?

Rin音 もちろん仲良しですし、本当に普段からよく遊んでいます。音楽仲間というより、マジで「友達」という関係に近いですね。みんなで居酒屋に行って「ダラっと喋るか~」みたいな感じで、他愛もない話をしたり、ふざけて「なんだそれ!」となったりしているんですけど、そういう過ごし方ができるのが良いなと思っています。僕は普通の友達相手だと、「どこに行って、何をして……」と決めないと遊べないタイプなんですが、あの3人とは、いろいろと決めなくてもいいかと思えるくらいの仲なんです。

■そういう仲間がいるのってすごく大事なことだと思います。それこそが「チル」なのかもしれませんね。

Rin音 確かに。チルかもしれません。(笑)

■ちなみにRin音さんは音楽を仕事にしていますが、音楽を聴いてチルアウトする方ですか?

Rin音 僕は普段あんまり音楽を聴かないんですよね。どちらかというと気分が落ち込んだ時に聴きます。勇気をもらうわけじゃないですけど、その状況に合ったものを聴いたり。でも普通に生活している時にはそんなに音楽は聴きません。

■例えばひとりでお酒を飲んでいる時は音楽を流しますか?

Rin音 流さないですね。

■でも、リスナーの方はきっと逆ですよね。

Rin音 そうですよね。音楽を聴いてお酒を飲んでいると思います。

■それって音楽業界人あるあるな気がします。次の曲の“qualia”ですが、個人的にものすごく好きでした。パワーがあって、インパクトもあって。この曲もドラマの主題歌として、内容に沿っているものになっているのでしょうか?

Rin音 そうですね。テーマは結構ドロっとしています。僕自身はそんなに、ドロっとした恋愛はあまりしていなくて、どちらかというとサッパリしたい方なんですけど、このドロドロな感情も、なんかわかるんですよ。これって嫉妬心に近いものだと思うんですが、過去にはそういうこともあったので、その時の悶々とした感情を思い出しながら書きましたね。

■ちょっと気になるのは、この“qualia”という言葉についてなんです。「クオリア」って、「同じ赤色のリンゴを見ていても、人によって認識している色は違うかも」的な意味の言葉じゃないですか。それとこの歌詞の内容が、あまりリンクしていない気がして……。

Rin音 これは、自分の中では隠したい感情なんですよね。この曲で書いた感情は、潜在的にどこかにあるんですけど、それに対して劣等感みたいなものを持っていて、「スッキリ恋愛できる人って、いいな」とずっと思っているんです。僕は結構嫉妬深い方だったので、「なんでスマートな恋愛ができないんだろう?スマートな人間としていられないんだろう?」と思いながら書きました。

■哲学用語としての「クオリア」ではなく、それぞれの人間の考え方の違いが「クオリア」なんですね。この曲と同じくらいの強さを感じたのが、Rin音さんのルーツを歌う“bible”でした。歌い方も強くて、誰もが思う「ザ・ラップ」という感じですね。

Rin音 そうですね。「ザ・ラップというラップ」をしています。(笑) 皮肉に聞こえたらアレですけど、「ラッパーとはこうあるべき」みたいなものはあると思うし、韻の表現は絶対にあった方がいい、みたいなこともやっています。一方で、世間が思う今のヒップホップのリアルな像って、悪いものを悪いまま伝えて、それを自分がどう考えているかを語る……みたいな感じだと思うんですが、自分が身を置いていたのは、そういう悪い環境ではなかったし、それをわざと演出するのも変な話だし。だから、「ありのままを書く」となった時に、こうなりました。

■なるほど。

Rin音 その頃の福岡では、トラップ・ミュージックだったり、ブーン・バップ​・ミュージックだったりをやっている人が多かったのですが、その中で自分は今のスタイルをずっとやっていたので、そういう意味で「自分のバイブル」じゃないですけど、あの頃のことを忘れずに活動するべきだなと考えています。この曲をこのタイミングで出せたことにスッキリしています。

■「自分の過去の人生が、今の自分のバイブル……」みたいなところですね。ちなみにRin音さん個人がバイブルとしている創作物はなんですか?

Rin音 う~ん、なんだろう?本はあんまり読まないんですよ。強いて言うなら、自分のバイブルは「MCバトル」かな。MCバトルで自分を表現しつつ、しかも音楽で相手と戦うのって、自分の好きなものが詰まりに詰まっているんです。僕は戦うことも好きなんです。格闘技を見るのも好きだし、総合格闘技もやっているし。昔は体がデカかったわけじゃなくて、物理的にも戦えなかったのですが、その頃にMCバトルに出会って、「音楽で戦うなんてものがあったのか!」と思ったんですよ。

■もしかして「MCバトル」に興味を持ったのって、「MC」部分がきっかけじゃなくて「バトル」部分がきっかけなんですか?

Rin音 そうなんです。バトル要素がなかったら絶対に音楽をやってないです。(笑)

■なるほど。戦いたかったんですね。(笑)

Rin音 プロレスが好きなんですよね。プロレスはショーではないけど、ある意味ショーじゃないですか。だけど、そこに燃えるものがある所がカッコいいと思ったんです。でも、選手は全員デカいので、細長い僕は選手にはなれないな……と。(笑)