Rin音 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

Rin音『cloud achoo』

噂話の楽しみ方を覚えて欲しい。楽しむ分にはいいと思う。

Rin音が2nd アルバム『cloud achoo』をリリースする。オバケについての噂話がテーマだという今作は、生死の間を揺らめくような絶妙なリリックとRin音の本心が巧妙に見え隠れする楽曲が揃う。1stアルバムと同様、多くの仲間とともに作り上げたアルバムでもある今作は、仲間たちとの共作が起こした化学反応によって、これまでよりも更にバラエティ豊かな作品となっている。今回のインタビューでは、それぞれの楽曲に秘めた思いの片鱗に触れながら、アルバムの根本でもある噂の存在や、終わりあるものについて考えていることも話してもらった。

■今作『cloud achoo』は、オバケについての噂話がテーマとのことですが、そのコンセプトはどこから思いついたものなんですか?

Rin音 世の中、結構噂でものを話してることって多いじゃないですか、SNSもそうだし。そういうのを見て真に受けちゃう人も沢山いると思うんですけど、それで人が傷つくことって多いなと感じて。それが嫌だからっていうところからですね。

■曲はそのテーマを決めてから作っていったんですか?

Rin音 そうですね。でも一曲一曲に関してはそこまで縛られた考え方はせず、僕の根本から離れた考え方のテーマではないので、縛られなくてもテーマからかけ離れたものにはならないかなと思って作りました。

■噂話っていうテーマは、今の情勢のことも踏まえられているのかなと思ったんですが、Rin音さん自身は自粛期間などがあって、考えがこう変わったとか、それが曲に反映されているという点はありますか?

Rin音 僕が本格的に活動し始めたのがコロナ禍に入ってからなので、逆にコロナ禍より前の活動の仕方をあんまり知らなくて。もちろんクラブシーンで活動はしていたので、イベントの数が減ってしまったとかはありますけど、僕自身の活動する場所がそのタイミングで変わっちゃったので、本当にあんまり分かんないんです。「世間がうるさくなったな」とか、「あの仕事大変そうだな」とか思ったり、ライブハウスはつぶれちゃったりとかはしましたけど。でも東京のライブハウスでは、まだそんなにやったことがなかったですし、福岡のライブハウスもお世話になっていたところは大丈夫だったので。正直実感がないです。でもその時期のおかげで自分の音楽に巡り合ってもらったっていうのはあると思います。外に出られないと、どうしてもSNSを見る時間が増えて、それで探していただいたりとか。普段は忙しいからテレビしか見ていなかった方も、リモートワークになって、「暇だからYouTubeを見よう」とかになってくると、触れる音楽の数がやっぱり違いますからね。テレビでは見られない音楽がたくさんあるので、自分の好きな音楽に触れる機会が多くなったし、それは大きいと思いますね。

■ご自身の感覚が変化したというよりも、音楽リスナーの環境の変化があったことで、自分の活動にも影響があったっていう感じなんですね。

Rin音 そうですね。自分を知っていただく場所が大きくなったというか、比重が大きくなったかなと思います。

■今作も含め、今までRin音さんの音楽は同世代のシンガーやラッパーとのコラボも多いじゃないですか。それは自然な流れで生まれるものなんですか?

Rin音 そうですね。割りと僕と同じ事務所の人たちは、曲を作るタイミングというか、スケジュール感も掴みやすいですし、僕の人となりも知ってくれている人が多いですから。テーマのことをちゃんと理解してくれる人が多かったですし、1stアルバムの時と比べやすいっていう意味も込めて、同じ人たちに声を掛けました。ここでいったん成長を見て欲しいというか。いろんな番組に出るとか、いろんな経験をしてきて自分も変わったとは思うし、そう言われたりするので、どう変わったのかを見せるべきかなと思って。なので、人を変えないのが一番比較しやすいじゃないですか。僕は理系だったので、「対照実験は一点だけ変えて、それ以外は同じにしないといけない」っていう。(笑)

■なるほど。6曲目の“sunny hunny”では、仲間たちの名前もリリックの中にありますが、それが多くの仲間と作り上げたことの証のようでもあるなと思いました。

Rin音 これは久しぶりに友達と再会するようなノリの曲なんです。「今何してんの?」っていう連絡とかを電話でしたりするじゃないですか。それを曲でやってみたみたいな感じで。仲間たちは結構コンスタントに会っていますけど、それ以外の大学時代の友達とか、高校時代、中学時代の友達もそうですし、あとは最初の頃に聴いてくれていたリスナーさんで今はもう聴いていない人もきっといると思うし、今聴いてくれているリスナーさんもそうだし、まだ聴いたことないリスナーさんにも、「みんな今何してんの?」みたいな。そういうテイストで作りました。

■最初に「2021年もあっという間に終わっちまって」という歌詞もあり、今お話されたようないろんな人に向けてというのはもちろん、時間軸にも幅がある、過去にも未来にも届く曲だなと感じました。

Rin音 そうですね。この曲って、まずリリースされてすぐに聴いてくれた後、その次はいつ聴いてくれるのかって分からないなと思って。これを聴いて、また連絡くれたら繋がれるかなって思って。「連絡ちょうだい」っていう意味の曲です。(笑) その時に君が何しているかも気になっていますし、俺が何しているかも気になりますから。

■卒業アルバムを久しぶりに発掘して読んで、「そういえばこの子、今何してるかな?」っていうのと似ていますね。

Rin音 そうですね。あとはタイムカプセルで未来の自分に向けて手紙を書くみたいな。そういうノリです。

■“悪運星人”や“specter wedding”など、今まであまりなかったポップスの要素が濃い楽曲も収録されていて新鮮でした。

Rin音 でもポップスのトラックが来たからポップスをやるっていうだけで、そこまでこだわりはないんです。「どんな曲でもやるぜ!」っていうマインドなので、自分のやりたいトラックがどうっていうのはもちろんありますけど、それだけをやっていても楽しくなかったんですよね。やっぱり人からもらえる刺激で自分のセンスとか感覚って磨かれたりしますし、こういうトラックが来たら、それにどうリリックを乗せれば聴き心地がいいかとか、そういうのを理解していくことで、別ジャンルの理解も深まると思っていて。なので、一個に偏るのはよくないのかなって、自分のやり方だとそうだと思いますね。ヒップホップってすごいバックボーンがある人とか、ストーリーがある人だったらリリックに重みが出ますけど、別に僕はそんなに怖いこととかも経験していないですし。(笑) だったら歌い方のレパートリーはいろいろあった方が面白いですし、ずっとひとつのことをやっているから偉いとかは考えたことがないですね。「曲が良ければいいし」っていうのをやり続けている感じです。

■あえてポップスのトラックをお願いしたっていうわけではないんですね?

Rin音 今回は全然違いましたね。なので、自分の頭の中にあるものだけだったら、こういう曲は作れなかったと思います。そこは人とアイデアを交換し合って作るならではの利点ですね。そのサプライズなことも楽しんでいるというか。なんか、本当に遊んでるだけなんですよ。(笑) 他のアーティストみたいに、「俺はこの思いを届けたいんだ!」っていうのとかがなくて。日記を書いているみたいに自己完結なので、その中で好きな曲を聴いて欲しいっていう感じなんですよね。

■なるほど。そういった今までにはなかったアップテンポな楽曲は、アルバムコンセプトの噂話やコメントに漂う皮肉みたいなところに繋がっているのかなと思ったんですが、いかがですか?

Rin音 そうですね。どうでもいいことは勢いではねのけるタイプなので、そういう勢いは反映されていると思います。あと今回のアルバムは、普通に歌詞を見ても、ひとつの話があるんですけど、別の意味で解釈したら別の捉え方もできるっていう歌詞の書き方にしたいと思って。できるだけそれが実現するようにリリックを書いたつもりなんです。そういうギミックというか、遊びはずっとやっていたいなと思っていて。そういう意味でも、「この曲はこうやって歌っているけど、実はこういう意図があるらしいよ」っていう、2つ目の意味を自分からも発信できたらとは思うんですけど、それもあくまで噂なので。信じるか信じないかは勝手にしてくださいっていう。(笑) だから明るいなって思った曲のリリックが、実は個人的には暗いものだったりとかしているんです。

■“悪運星人”では、「変わるようで変わっていない僕だから」とか、「僕は僕のままでいたいのに」という歌詞がすごく存在感があると感じたんですが、これはどういう思いで書いたんですか?

Rin音 一時期、みんなに「すごく変わった」って言われる時期があったんです。トラックを作る人が違ったら曲調も変わるやろって思ったんですけど。(笑) 昔ってフリートラックでずっと歌っていたので、あるままそれを使うしかなかったですし、チープなフリートラックから自分のやりたい音楽ができるっていうのが成長だと思っていたので。居心地がいい場所にずっといるのは簡単ですけど、それじゃ違う景色は見れないわけで。でもそこに昔の方が良かったっていう意見があるのも分かるんですよ。分かるんですけど、昔がいいっていうのは聴き馴染みがあるからじゃないですか。だから、この曲たちもいつかは昔の曲になるわけで。そうしたらそっちの方が良かったってなるかもしれないし。「それって時間が味付けしているんじゃないの?」って思ったりもしたんですけど、それならちょっと昔っぽいリリックをつけてみようと思って、“悪運星人”では、韻の踏み方をあえて昔みたいにしていて。「まずlip hip 変わってってても with you スキップ I want you」とか、すごく昔っぽいんですよ。「昔みたいなことをやってくれって言うからやったけど、変わってる?」っていう提示をした曲なんです。

■なるほど。面白いですね。

Rin音 曲自体は、「朝起きたらエイリアンになっていた」みたいなイメージなんですけど、見た目は変わったかもしれないけど、中身は全然変わっていないっていうのが言いたくて。「愛とか淡い恋とか そんな話は抜きにしちゃってさ 味方だって信じて貰えるんだろうか」っていうのは、表向きは恋愛の話ですけど、僕の中では、「僕自身は変わっていないけど、やっていることとか、シーン、環境が変わっただけで、味方ではなくなったのかな?」という、疑問をぶつけている曲です。