ときめきの成分を散りばめて。2年4ヵ月ぶりの新曲“氷菓子”で吉澤嘉代子が編む「ひかり」。
吉澤嘉代子が7月12日に新曲“氷菓子”をリリース。吉岡里帆やモトーラ世理奈、詩羽(水曜日のカンパネラ)、松本まりからが出演する映画『アイスクリームフィーバー』の主題歌として書き下ろされた今作は、疾走感と広がりのあるメロディに甘く大きな言葉を乗せた一曲に仕上がっている。今回のインタビューでは、2年4ヵ月ぶりの新曲にまつわることや、映画のこと、作詞のことなどについて幅広く話を訊いた。
■吉澤さんといえば文学性の高い歌詞ですが、インスピレーションを受けやすい場所などはあるのでしょうか?
吉澤 いつも「書くぞ!」と思って曲を書くので、インスピレーションを受ける場所と言うなら自分の部屋の仕事机ですね。よく聞く「曲が降ってきた」とかはあんまり無いです。作ろうと思って作ります。
■1行ずつ仕上げていくんですか?それともスケッチみたいに「バーッ」と書いていって、まとめていきますか?
吉澤 小論文みたいな感じですね。最初にタイトルを作り、物語や主人公を考えていって、それで曲の構成を決めます。いつもパソコンとノートで作るんですけど、活字で書くのが一番フラットに見えて、歌詞を書くのには便利です。主人公の見た目や浮かんでくる情景は絵や図にしながら書くので、紙とパソコンの両方を使います。
■なるほど。「降ってくる」タイプだと思っていたので、ちょっと意外でした。
吉澤 「裸足で歌ってそう」とかもよく言われます。
■もしかして歌詞を書く時のフォントにもこだわりがありますか?
吉澤 あります。ゴシック。一番キャラクターが無い活字で見たいので。
■Wordとメモ帳(ソフト)の違いもあったりしますか?
吉澤 書くのはメモ帳ですね。ディレクターに送る時とかはWordにするんですけど、普段はメモ帳を使っています。メモ帳は周りにいろいろ表記とかが出ないのがいいんですよね。
■私もメモ帳派なのでめちゃめちゃわかります。シンプルでいいですよね。曲はどこから着想するのでしょうか?
吉澤 いつもタイトルから書くんですけど、タイトルにするとその言葉を所有したような気持ちになるんです。更に元をたどると会話から生まれた曲もありますし、映画や小説、漫画など、作品に触れて「あ、この言葉好きだな」って思ったりして曲が生まれることもあります。日常の中でいつも探している状態ですね。
■曲の中に「自分」は何パーセントくらいいますか?
吉澤 よく聞かれるのですが、限りなく1%にしたいです。自分の存在を薄めて、自分から遠い存在を作り、その主人公の人生を見てみたい、味わってもらいたいという気持ちがあります。
■「演じたい」というところもあるのでしょうね。世の中には愛や恋をテーマとした曲がたくさんありますが、どうしてだと思いますか?
吉澤 私の中では「愛」ってちょっと難しくて、なるべく避けて来ました。今回の新曲“氷菓子”は映画に捧げる曲として書いたので、映画の中に登場するフレーズなどを引用させていただいたりしているんですけど、普段はまず「愛」についてはなるべく書きません。書く場合も「愛がなんだかわからなかった」という書き方をすることが多いです。
■「愛」は難しいですもんね。
吉澤 それで、「恋」は人生においてすごく大切なものだと思っています。それは恋をする対象が人じゃなくても良くて、例えばお洋服とかキャラクターでも、演劇や歌でもいいんですけど、何かに夢中になる瞬間というのが「生きていて良かった!」と思う瞬間じゃないですか。それが「恋」だと思っています。
■なるほど……すごく「ハッ」としました。吉澤さんは最近何かに恋しましたか?
吉澤 いっぱいしています。“氷菓子”を書いている頃、「自分の中にときめきの成分が見当たらないぞ?」って時がありまして、そういう時は外からときめきをお借りすることになるじゃないですか。それで、他の人の作品を見てキュンとしたりすることがあるんですけど、今回は制作中に映画『アイスクリームフィーバー』の主演で元々仲がいい吉岡里帆ちゃんと映画を見に行ったんです。里帆ちゃんは本当に優しくて可愛くて、「好きだな」って思ったりして、そういうときめきの成分も今回の曲の中に使わせていただきました。
■「ときめきの成分を使う」って、なんだか良いですね。しまっておいたときめきをちょっと出して、振りかけるみたいな。
吉澤 ポーションみたいな。エッセンスにして入れています。やっぱり生の気持ちっていうのがすっごく大事なんですよね。年齢とともにありつけなくなってくるので、いつもかき集めようとしています。
■今までの人生で一番ときめいた映画ってなんですか?
吉澤 うーん……『嫌われ松子の一生』ですね。
■え、めっちゃわかります!私も大好きな映画です。
吉澤 わかる人に初めて会いました!公開当時は高校生で、友達と一緒に観に行ったんですけど、みんなが笑っている所で私は号泣していました。涙が止まらなくて、自分にとって大事な映画になりました。
■アウトローというか、あの主人公って多分どこに行ってもまともに生きられないんですけど、それが自分と重なる所もあるんですよね。
吉澤 そう。「自分だ、嫌われ嘉代子だ」と思ったんです。苦しいけど観ちゃいました。
■吉澤さんはファンの人によく言われる言葉ってありますか?「共感しました!」って言われたりとかします?
吉澤 「共感しました」はあんまり言われないですね。物語として曲を書くことが多いんですけど、ずっとそれを続けていくと、やっぱり自分と似たような人がいて、見つけてくれることがあります。私の曲を聴いて、少しの間でも現実から離れて歌の主人公になれる……という感想を聞いたりすると、たまらなく嬉しいです。「自分と重なる」より、「トリップできた」という感じですね。
■歌詞:メロディ:ヴォーカルの比率はどれくらいですか?
吉澤 8割は歌詞ですね。歌詞8:メロディ1:ヴォーカル1みたいな感じです。
■歌詞が8割は結構比率が大きいですね。吉澤さんの曲には日常次元とは違う次元の言葉が出てきますが、どこから言葉を集めているのでしょうか?
吉澤 中学生の頃から現代短歌が大好きで、歌を作っている時は歌集を読んだりします。だからってそこに出てくる言葉を使うわけではないんですけど、短歌や俳句って「磨かれた言葉」というか、「生き残った言葉」が使われているじゃないですか。そういう感覚に痺れるんですよね。
■その中でも特に影響や衝撃を受けた作家は?
吉澤 初めて好きになったのは穂村弘さんです。エッセイ『もしもし、運命の人ですか。』から入ったんですけど、そこから短歌も読むようになって、処女作の『シンジケート』にもときめきがいっぱい入っています。
■もしかして吉澤さんは文字に色がついて見えたりしますか?
吉澤 しますね。あと数字とメロディにも。作曲には「カードを引いている」というイメージがあります。「最初から正解は決まっていて、それをどこまでで引き当てられるかな?」っていう。出てこない時もいっぱいあるので、その時はもう力技でひねり出します。正解を出さなくてももっと面白いものになったりすることもあるんです。
■なるほど、ホームランじゃなくてヒットが出て試合が良い感じになったりもしますもんね。さて新曲“氷菓子”ですが、2年4カ月ぶりのリリースということで……間が空いたのは何かあったんですか?この2年間というとコロナ禍が思い浮かびますが。
吉澤 コロナということもありましたし……これまでずっと作って歌ってというのを続けてきたんですけど、ちょっとお休みをもらった時期でもありました。すごく大事な期間でしたね。
■そして2年間熟成された“氷菓子”がリリースとなるわけですが、吉澤さんにとってアイスクリームやかき氷といった「氷菓子」って、何の象徴なのでしょうか?
吉澤 「矛盾」です。冷たさが熱さに変わるラインがあると思っています。口の中に入れたけど、なんか痛くなってくる感じというか。