未確認音楽生命体チャラン・ポ・ランタンにコンタクト。10年にしての脱走の末に行き着いた最高とは
もし彼女たちを未知な輩から、「チャラン・ポ・ランタンってどんなグループ?」と尋ねられたら、今の私なら迷わずこの最新アルバム『ドロン・ド・ロンド』を差し出す。唄とアコーディオンを主楽器に様々な音楽性をブレンドし、オリジナルな音楽性として輩出してきた彼女たち。今年結成10年を迎える姉妹でもあるこの2人が、ここに来てようやく自分が好きなもの、やりたいもの、最高と思えるものに立ち戻り、それを楽曲や作品として落とし込んだ1枚を発表した。それはまさに「チャラン・ポ・ランタンの素」や「彼女たちの成り立ちの成分」の如し。内容こそ収録全15曲タイプは様々にして、かなりバラエティに富んだ幅の広い作品ではあるが、ご安心を。キチンと聴けば、あら不思議。彼女たちの全貌が把握できるはずだから。以下は我々が未確認音楽生命体チャラン・ポ・ランタンとのコンタクトに成功。10年にして脱走した末に辿り着いた最高についてを語ってくれた記録だ。
■今年は結成10周年を迎えるわけですが、振り返っていかがですか?
小春 いつの間にか10年が経った感じなので、「うわっ、こんな感じで老けていくんだな…」って。(笑) 私の場合、20歳の時にチャラン・ポ・ランタンを結成したんで、20代を全てこれに捧げていますから。
もも 確かに。(笑) 私も高校一年生の時に声をかけられて以来なので。当初は小春ちゃんの言うことにただただ従っているだけでした。
■何かこの10年間での変化等に自覚があったりは?
小春 自覚というよりかは、ここ最近、気づいたことがあって。
■それは?
小春 先日インディーズ時代の作品をまとめたものをリリースしたんです。その関係上、過去の作品を聴き返す機会があって。それはそれはショックで。「こんなにも時が経っていたんだ!」って。もう浦島太郎でした。ももちゃんとも普段からずっと一緒に居るので、その徐々の変化も全然気づかなかったんですが、改めてこのタイミングで「こりゃ変わったわ、うちら」って。(笑)
■それは主にどの辺りの変化だったんですか?
小春 歌声云々よりも、初心(うぶ)さだったり、無知なまま歌っている危なっかしさというか。はたまた姉の方は弾き方もえらく雑だし。その頃はももちゃんも、それこそ「これを歌って」、「あいよ」って感じでしたから。例えば「憂鬱」なんて言葉が出てきても、実感としてないまま歌っていたんでしょう。あれから10年経って、未だに憂鬱を実感していなければ、それはそれで幸せな人ですが。(笑)
■(笑)
小春 この10年で良くも悪くも大人になったんだなって。最初は言われた通りに歌っていた妹も自我が芽生え出し、今ではすっかり「こういった風に歌いたい!」「伝えたい!!」と、しっかり意思表示してきますから。それこそ「ピノキオ人間になる」ですよ。(笑)
もも その例えは正しい。だけど不思議と当時からそれがイヤではなかったんです。いや、それすら判断できていなかったのかも…。当時は全く自分に意思がなかったですから。徐々に感情が芽生えていったというか。当初は常に小春ちゃんに必要とされている実感が欲しくて。そこに存在価値を見出していましたから。
■お二人はホント仲が良いですもんね。
もも 気持ち悪い話ですけど、年々仲が良くなってきている実感があります。チャラン・ポ・ランタンの世界観は小春ちゃんの中から生まれ出てきて、小春ちゃんの生み出す音楽こそチャラン・ポ・ランタンですから。
■逆にファンの方々はお二人のどういったところに惹かれていると感じますか?
小春 やはり私たちの灰汁(アク)の強い音楽性でしょう。私たちは少しでも多くの人に分かりやすく伝わりやすくと、J-POPにブレンドしたり、8ビートと融合させたりしてはみましたが、結局、私たちに求めているのは、決して等身大の音楽などではなく、非現実的な音楽でしょうから。(笑) それこそ、この二人は何が好きなのか?を知りたいだけなんじゃないかって。
■J-POPや8ビートとブレンドしたって、普通に近づいていくだけで、これじゃ他の音楽と変わらないじゃないか?って。
小春 そうそう。私たちを好きな方々は、結局レバーみたいなものが好きなんです。レバーの良さって独特の臭みだったりするじゃないですか。それを取って食べやすくしたところで物足りない。「聴きやすいな…」とか、「洗練されちゃったな…」とか、「すっきりしちゃったな…」って。そういった意味では、このニューアルバムはその辺り何も考えずに、いま自分たちのやりたいことだけを詰め込んでいますから。
もも もう今回は当初から小春ちゃんの中から出てくる音楽をそのまま詰め込もうっていうのがありましたから。
小春 言っちゃうと、今作はチャラン・ポ・ランタンの素材そのまま。生野菜みたいなもん。なので、逆に今回は全くプレッシャーもストレスも無く作れました。悩みゼロ。かと言って、自信はすごくあるので、逆に聴き手の感想が楽しみです。ここから如何ようにも広げられるし。それこそ「これが私たちの本来の姿なんですが、いかがでしょう?」みたいな作品ですから。自分たちで遺す(のこす)べき曲を遺せた感はあります。
■あと今回は、これまで以上に前半に勢いのある曲たちが目立ちますね。
もも “脱走”を一曲目にしたいというのは最初からあって。それから最後は“最高”で締めようって。この2曲のみ置き場を決めて、あとは「さて、いろいろなタイプの曲があるけど、どうしよっか?」みたいな。(笑)
小春 それこそ“最高”は一番最後に出来た曲だったんです。当初は“Ale Brider”がラストの予定で。だけどもっと締められる、大団円的な曲が欲しいなって。私、その時ミュージカルの仕事の劇伴も担当していたんで、うちらにもこういったラストのグランドフィナーレを飾るような盛大な曲が欲しいなって。
もも 私が「盛大な曲で誰のものでもない。私だけの大事なもの、みたいな曲を作ってよ」とリクエストして。そんな中できたのが“最高”だったんです。
小春 これも“脱走”って曲名にしていなかったら、このタイトルじゃなかったかもしれない。