Experimental Jazzを内包した最先端ポップミュージックの新たなサウンド。
Roni Kaspi × Gaku Kano。互いにドラマー、キーボーディスト、ヴォーカリスト=マルチミュージシャンで、お互いにジャズ、ポップミュージックと2つのシーンを刺激する音楽を生み出している。しかも同世代で、それまでに育った国や環境は違えど、互いが出会うのも運命だったに違いない。
互いに認め合い、共通する音楽的センス、異なる感性が共鳴し、繋がった2人は、昨年ライブで共演を果たし、そこからさらに一歩踏み出し、新たに「RONI&GAKU」として活動を始めた。現在はアルバムを制作中。その最中に2人を捉え、対談を行った。
■まずは、お互いの出会いから教えてください。
Gaku きっかけは、僕のソロアルバム『Experimental Jazz』をリリースしたChandelier Recordsのレーベルプロデューサーが僕のアルバムを聴いて、真っ先に思い浮かべたのが、Roniの作品だったことです。プロデューサーさん曰く、ジャズをベースとしたドラマー二人が、ほぼ同時期にポップな作品をリリースしたことに、共通点と運命的なものを感じ、二人が一緒に音楽を作ったら、きっと良いものができると直感したそうです。僕もRoniの作品が好きだったので、Roniの音楽について話し、盛り上がりました。そんな話をして1ヶ月も経たないうちに、RoniがVIVID SOUNDからフィジカル版をリリースする事になったと聞いて、その展開の速さに驚きました。さらに「僕の作品をRoniに紹介したところ、Roniがとても共感し、気に入ってくれて、二人でアルバム制作をする事になった」と夢でもあり得ないような話を聞いた時はあまりの事に言葉が出ませんでした。今回の全てのプロジェクトの実現は、VIVID SOUNDさん が、音楽と音楽を出会わせてくれたおかげです。また、二人が集中して、創作活動、レコーディングができるようにメゾンホテルを提供してくれたアコースティックガレージ(Acoustic GARAGE)さんに感謝の気持ちでいっぱいです。
Roni Gakuとは初めてセッションをした時から刺激的で楽しかったし、その後に一緒に楽曲制作をした時も、とても楽しくやれたから、すごく良い出会いになったと思っています。
Gaku 好きな音楽も共通していたし、制作の面では特にそうだったけど、お互いの理解が深まるほどに創作をしていく上での刺激はもちろん、共感する面が多かったんです。だからこそ、一緒に楽しくセッションやレコーディングができたんだなと、今振り返れば感じます。
Roni 本当にそう。好きなジャンルが一緒だったし、共通項を発見する度に、お互いのことを深く理解していって、それが楽しさに繋がっていったのは、私も感じていたことでした。
■お互いに、ドラマー、キーボーディスト、ヴォーカリストだし、お互いにソングライターとして、ジャズ、ポップミュージックと2つのシーンを刺激する音楽を生み出していますよね。本当に共通項の多い2人ですよね。
Gaku それは一緒に制作をしていても強く感じ続けてきたことです。お互いに年齢が近いのもあって、聴いてきた音楽にも共通項が多かったです。でも、一番の共通項は、お互いに”ジャズとポップミュージックをミクスチャー”していく表現スタイルを当たり前に求めていることです。僕自身が、Roniのアルバムを聴きながらそう感じたし、きっと彼女もそうだと思います。お互いの作品を聴けば、みなさんにも感じてもらえると思います。
Roni Gakuが今言った通りです。だからこそ、こうやってナチュラルなスタイルで共演できているんだと思います。
■Roniさんは、Gakuさんのどの辺に強く惹かれましたか?
Roni Gakuも言っていたけど、お互いの音楽的なルーツも、やってきた音楽スタイルも、辿ってきた表現の方法も、本当に共通することが多いんです。だから、音楽の話をしていても、一緒に音を合わせても、自然と楽しく会話をしていけます。その共通項の多さに私は惹かれています。
Gaku 僕はですね、ジャズもポップスナンバーもそうだけど、伝統的な面と現代的な解釈をミクスチャーしているRoniのセンスが好きなんです。しかも、どんなスタイルの楽曲からも、かならずRoniのキャラクターが見えてくる。これは僕自身もドラマーだからの視点かも知れませんけど、彼女の叩き出すビートには、多様な音楽を叩いてきたドラマーだからこそ出せるアプローチがいろいろと反映されているんです。しかも、どんな楽曲でもポップに聴かせてしまうビートをRoniは持っているんですよ。その理由も、彼女がマルチタスクなミュージシャンだから。ドラマーだけに専念しているミュージシャンの場合、どうしても技巧派的なアプローチが軸になってしまうけど、彼女は本質的にポップなセンスを持っているから、マニアックさと大衆性のバランスがすごく良いんです。僕はそこに惹かれました。
Roni Gakuもそうだけど、私自身が枠に縛られることを良しとはしない、感性に導かれるまま自由に表現しているタイプです。そこがお互いの強みであり、魅力だと思います。
Gaku まぁ、僕は意外に理論派でもありますけどね。(笑) Roniはその時の自分のフィーリングで楽曲を作るタイプだよね。
Roni そう。フィーリング、ヴァイブス、グルーヴ、言葉の選び方は何であれ、自分の中から沸き上がる衝動や生まれる音楽の鼓動を表現していくことが、私には何よりも大事なことなんです。よくある「これは、何々というジャンルだから」という括りでの制作は、私は一切していないんです。
Gaku ジャンルレスという部分は、僕にも共通しているところです。Roniも僕も自分の中から沸き上がる”オリジナルなスタイル”を何よりも大事にしながら制作しています。僕自身に関してだけ言えば、生まれた音楽を膨らませていく上で、あえて異なる表現の音楽スタイルを組み合わせて作ることが多いです。たとえそれが一般的にはあり得ない組み合わせだったとしても、僕はそれを意図的に仕掛けていくのを好むタイプなんです。Roniは、本当にジャンルという枠や括りを一切気にしていない、感性の導くまま形にしていく表現者だけど、僕自身はあえてジャンルを意識して組み合わせることもあるように、まったく気にしていないわけでもないんです。
Roni そうすることで、Gakuの音楽に深みやトリッキーさが出ているわけだから、それでいいと思います。
Gaku 確かにそうかもしれないね。歌系の優しい楽曲に、あえて刺激的なブレイクビーツを組み合わせることや、音声データを細かく切り刻み、順序を並び変えて新しいメロディーやリズムを作るヴォーカルチョップをしてみるとか。それが上手くいく度に、「面白いものかできた!」と喜びに変わっていくんです。そういう遊び心を意図してやるという面では、“ジャンルを意識したジャンルレス”なのかも知れないですね。(笑)
Roni Gakuは私が自由に作ったメロディーを、その理論でブラッシュアップしてくれます。それが刺激的だし、だからこそ一緒に制作をしていて楽しいわけだから。
Gaku そこは僕も楽しさを感じているところです。Roniは感覚や感性のままに音楽を生み出す人だからこそ、そこをあえて理論的に整理しながら曲の魅力や多様性を膨らませていくと、Roniがさらにそこに新しい解釈を上乗せしていく。そのやりとりは、本当に刺激的で楽しいです。
Roni 私もそう思います。(笑)
■今年の2月中旬にRoniさんが来日して、そこからアルバム用の楽曲制作を続けていますけど、先に昨年11月に2曲レコーディングしたそうですが、その中の1曲であり、最初に生まれたのが、アルバムのプロモーションとしても使っている“Lost in Translation”になります。この曲を作りあげた時に手応えを感じたからこそ、一緒のアルバム制作にまで発展したのでしょうか?
Gaku いえ、Roniと顔合わせをするとなった時から、レーベルのプロデューサーの頭の中には、僕とRoniで一緒に1枚のアルバムを作りたいという思いがあったようで、最初から「アルバムを前提で」という話になっていたので、結果的に「RONI&GAKU」というユニットに繋がりました。なので、最初からアルバム制作という構想はありました。
Roni それは私も来日する前から聞いていました。
Gaku Roniも僕もそうですが、昨年10月に一緒にライブセッションをして、その後、先行で2曲の楽曲制作を行った時、お互いに「一緒にやることで、面白いものができそう」という手応えを感じていましたからね。
Roni Gakuとの制作はすごく刺激的です。2月に来日してから、約半月の間に数曲を作りあげたんですけど、お互いにレスポンスが早いというか、1曲を作りあげるまでのスピード感が良くて、すごく新鮮で刺激的でした。普段の私もGakuも、1曲を作りあげるのにじっくりと時間をかけて取り組むタイプだけど、今回のGakuとの制作では、お互いの持っているアイデアや、創作に賭ける熱量がとても高かったから、お互いのアイデアのやりとりのテンポが本当に早かったです。少なくとも私自身には、それが特別な経験でした。その特別感が、今回一緒に作っているアルバムを、さらに特別なものにしてくれたと感じています。
Gaku 僕もお互いに熱量をぶつけあっている感覚がずっとありました。自分の話にはなりますけど、僕の場合、最初にゼロイチで楽曲を生み出した上で、「ここのセクションはこうじゃないな」と思案をした時には、そのアイデアが出るまで、ときには1ヶ月ほど寝かせて、その間に他の楽曲の制作に向きあったりして、日を置いて改めて寝かせていた曲に向き合うことはよくあります。それを何度か繰り返していく中で出てくるのが、「やっぱり最初に作りあげた形が一番良かったな」という思い。そう思えるのは、最初に作りあげた熱量がとても高かったからこそ、そこに詰め込んだアイデアを自分で消化しきれていなかったからなんですよね。でもRoniとの作業は、その高い熱量をお互いにしっかりと理解しあい、高めあったままに積み重ねては、その熱が冷めないまま次々と曲に仕上げられたんです。それがRoniの言った特別感だったのかなと感じます。
■“Lost in Translation”も、そうやって作りあげた楽曲だったわけですね。
Gaku そうです。細かく語るなら、最初にRoniがメロディーと曲のアイデアを僕の目の前に出してきました。それを聴いた瞬間に、僕は「これはすごい曲になりそうだ」と直感しました。その場で曲を生かすコードなど理論的な面を組み込み、構築し、それをRoniに聴かせました。それを聴いてRoniがまたすぐに返してきた楽曲を、さらに僕がアレンジして、というやりとりを、本当にテンポよく繰り返しながら作りあげました。
Roni “Lost in Translation”は、ソフィア・コッポラ監督が手がけた、東京を舞台にした映画と同じタイトルなんですが、私自身、初めて日本で楽曲制作することもあって,最初から自分の中で「東京に捧げる曲」を作りたいという思いがありました。実際に私が来日をして、東京の街で過ごす中で感じた思いに、映画『Lost in Translation』を観た時に感じた思いが重なるなど、自分の中でいろんな思いをミクスチャーして生まれ出たインスピレーションを、“Lost in Translation”の曲に落とし込みました。
Gaku “Lost in Translation”の歌詞では、電車のことや、時差ぼけについてなど、Roni自身が日本で体験したことも反映しています。そこも歌詞を通して感じてもらえたら嬉しいです。
■“Lost in Translation”の制作の中で、特に心がけたことがあったら教えてください。
Gaku 一番はRoniが生み出す瞬間の熱量の高いインスピレーションを、いかに面白く活かしたまま具現化していくかということ。僕自身が理論派だからこそ言えることだけど、「ここのメロディーをもっとスムーズに聴かせるために、このコード進行を持ってきたい」や、「このコードを使えば、より曲に表情が出る」などのアイデアを出しながら、熱量が冷めないうちに仕上げました。
Roni 私はドラマーという理由もあるのか、その時に生み出すヴァイブスでオリジナリティあふれた音楽を生み出していくタイプで、Gakuは音楽理論に詳しいからこそ、私の生み出した音楽に説得力を与えてくれる。ときにはその理論さえ無視して作ることもあるけど。(笑) お互いに異なる感性を交わし合い、重ね合うところに、私はGakuと一緒に音楽を作る楽しさを感じています。
Gaku Roniは何があっても自分の信念を貫き通す人だからこそ、その良さを変に理屈で抑え込んでしまうと、逆にRoniの感性を失速させてしまいかねないんです。それだけは絶対にあってはならないことだから、そこも心がけたことでした。
Roni いつもありがとうございます!
Gaku 理論的には間違っていても、全然いいんですよ。自由な感性で生み出したものを、無理やり理論や理屈という枠やルールの中に組み込んでしまうと、せっかくの魅力や良さを消してしまうことが往々にしてあるということ。だからこそ、僕も「ここは理論的には違うんだけど、でもその枠を壊した方が絶対にカッコいいものになる」と、信じてやってきたし、実際にそうなりましたからね。
Roni Gakuとの音楽のピンポン(やりとり)は、本当に楽しいし刺激的です。それはお互いが相手のアイデアを本当にリスペクトしあっているからこそ生まれることだと思います。ただ、私自身が「嫌なものは嫌」という頑固な性格なので、Gakuは私の性格を見抜いていて、私自身もGakuとは本当に気心知れた仲だからこそ、すべてをオープンにして、アイデアをピンポンしあえました。そうやって生み出した曲たちが今、アルバムのために出揃ってきています。
■お二人ともドラマー、キーボーディスト、シンガーですが、曲によって役割を変えているのでしょうか?
Gaku 今回の制作に関して言うなら、ドラムはすべてRoniに叩いてもらっています。彼女の叩く音の方が、一緒に制作した楽曲にすごくフィットするからです。これは余談になるんですけど、すごく現実的な理由の一つに、スタジオに用意したドラムセットは、完全にRoniの演奏しやすい配置でセットが組み込まれているから、僕が叩こうにも、上手く叩けないんです。(笑) だったらすべてRoniに任せようと思ったのも、理由の一つにありました。(笑) それ以外に関しては、得意な方が手がけています。それこそ鍵盤に関しては、Roni自身が「自分のグルーヴでピアノやシンセを弾いて歌った方が、曲として活きるからそうしたい」となったら彼女に任せてきました。楽曲を構築する上で、自分が投げかけたアイデアや、構築したベースラインが映えると思ったら、Roniのアイデアに僕のアイデアをミックスアップして、楽曲の方向性を僕なりによりトリッキーにするなど、その辺でも、お互いの良さを活かしながら感性や考えをミクスチャーしてきた面が多くあったなと思います。
Roni Gakuの持ってくるアイデアはどれも素晴らしいから、私も基本的には受け止めていますけどね。







