新たな世界の序章に立った初めてのライブ。
『ユイカ』が6月27日(木)、神奈川・KT Zepp Yokohamaで自身初となるライブ『ユイカ』1st LIVE『Agapanthus』を開催した。2005年生まれの『ユイカ』は、高校在学中の2020年から動画アプリなどに「歌ってみた」動画を投稿し始め、2021年に初のオリジナル楽曲『好きだから。』を発表。切ない恋心をふたつの視点で描いた同曲は大きな話題を呼び、女子高生シンガーソングライターとして注目を浴びた。大学生となった2024年、自身の誕生日である1月12日にはユニバーサルミュージックからのメジャーデビューを発表。あわせて1stアルバム『紺色に憧れて』のリリースが決定したこと、6月に1stライブが開催されることを明かした。
そして待ちに待った6月27日、初めてのライブ当日。4枚の白いカーテンが包む舞台の中央には青いアガパンサスの花のイラストが掲げられ、ボーカルマイクの側にも可憐な丸い花が活けられている。開演時間を過ぎて客電が落ち、時計の針が進む音とオルゴールのメロディが幻想的な世界を作る中、薄暗いステージにはバンドメンバーの姿と、白いドレスを纏った『ユイカ』が現れる。観客が息を呑む緊張感。“序章。”から幕を開けたライブは、強い逆光が『ユイカ』の顔を隠して、客席からはギターを担いだそのシルエットしか見えない。これまで顔を出さずに活動していた『ユイカ』が、ライブでどのようなパフォーマンスを行うのか。多くのファンが疑問と期待を抱いていたところだが、1曲目を歌い終えると柔らかな照明がステージを照らし、少し恥ずかしげな『ユイカ』の表情をはっきりと浮かび上がらせる。歓声を上げ、拍手とともに素顔の彼女を迎えるオーディエンス。それをゆっくり見回して、歌声は“そばにいて。”に続く。「みなさんはじめまして、『ユイカ』です!盛り上がって行きましょう!」バンドメンバーの手拍子に誘われ立ち上がったファンにとっても、これが『ユイカ』の初めてのライブ。まだ「定番のノリ」は出来上がっておらず、揺れるペンライトの色もバラバラだ。ステージの上で華麗にアピールするリードギタリストCO-Kへ会釈する『ユイカ』の仕草もどこかぎこちない。けれど“スノードーム”を歌う頃には冒頭の緊張感も消え去り、澄んだ声はバンドのグルーヴに溶け合って会場を包んだ。3曲を終え、改めて「やっと会えたね!」「こんな顔してます!」と挨拶する『ユイカ』に、客席からは「カワイイよー!」の声が飛んでくる。それに対し、「もっと言って!」と喜ぶ『ユイカ』には、よりたくさんの「カワイイ!」が寄せられた。
続く“恋をしているみたいなの”は、両手でマイクを握り締め、間奏では照れながらも小さく手を振った『ユイカ』。同曲はメジャーデビュー後初のシングルであり、ライブの場でファンと『ユイカ』を繋ぐ特別な関係を作る。静寂の中に観客の手拍子だけが聞こえる瞬間は、生の舞台ならではの「思い出」だ。“ひそかな願い。”の前には、「みなさんと一緒に歌いたいので、今からお歌の練習をします!」と煽る『ユイカ』。しかし課題として示されたスキャットは少々難易度の高いもので、一度「ストップ!みんな歌ってた?!」「口が動いてるのは見えたんやけどなぁ……もう1回いくで!」と仕切り直しが入る。軽快なトークで観客をイジり、歌声でステージを引っ張る『ユイカ』。それでもバンドメンバーとの絡みはまだ初々しい。「ヤバい、ライブって楽しいな!」初めてのライブならではの純朴な感想を漏らしながら、ここで『ユイカ』は10月にリリースされる1stアルバム『紺色に憧れて』の完全受注生産限定書籍型CDについて宣伝。早期予約特典のポストカードには『ユイカ』の直筆サインが入るのだが、彼女は今回、このために初めてサインを作ったそうだ。たくさんの「初めて」を積み重ねて、『ユイカ』はアーティストとして成長していく。
尊敬するアマアラシがアレンジを担当した“イマジナリーフレンド”では、オケと生音が混じり合う幻想世界のサウンドを切り裂いて、声を振り絞る。その浮遊感ある雰囲気から一転、“嘘”ではビビッドなサーチライトが回転する舞台で気だるげに歌う『ユイカ』。ライブ冒頭では「届けたい」という気持ちがマイクを飛び越していたけれど、中盤にもなると会場の音響を乗りこなしている。“運命の人”で恋の残り火を切々と語る歌声には燃えるような熱が籠った。ここでバンドメンバーを紹介したユイカは、「みんな、歌詞間違ってるの気付いてないよね?」とおどけながら、軽く椅子に腰掛けて“わがまま。”を歌う。歌詞にあわせて手振りを加えたり、足をぶらぶらさせたり、スカートの裾をつまんだり。優しいアコースティックサウンドの中で『ユイカ』は踊る。静かなスポットライトを浴びた“桜想”は見えない弦楽隊が彼女の翼となり、歌声はいっそう強く羽ばたいていく。
そこから再び静けさを取り戻した舞台。ひとりギターの弦に指を滑らせ、『ユイカ』が歌うのは“17さいのうた。”だった。子どもから大人に変わる境目、ひたすら歌い続けるのではなく、一度ギターを置き、大学受験を選択した彼女。「拝啓 過去の私へ 今の私は ずっと夢見ていたこと叶えてるよ」という詞はかつて、未来への希望をどこかに込めながら、幼い自分に向けて書かれたものだったのかもしれない。涙に声を震わせてその詞を歌う『ユイカ』は、再び「歌手になりたい自分」と「歌手になった自分」の境目に立つ。その目に映った「今ここ」は、きっと、どんな世界よりも綺麗だったことだろう。歌い終えて一度舞台を去り、袖にフリルのついたワンピースに着替えて再登場した『ユイカ』は“恋泥棒。”、“すないぱー。”を続けて披露。曲間には観客へ「今日の朝ごはん、お米やった人~?」「お味噌汁にはお豆腐入れたい人~?」「ここ来るまでに『ユイカ』の曲聴いてきた人~?」と問いかけてコール&レスポンスを楽しみ、「海外から来たって人~?」に多くの声が上がることに驚く。「とっておきのやつ言っていい?『ユイカ』のことが好きな人~?!」の問いかけには当然、この日一番の大歓声が上がった。ライブはいよいよラストスパートへ。ここで歌われた1stアルバムの表題曲“紺色に憧れて”は、『ユイカ』が歌手を目指すきっかけとなった坂口有望の存在や憧憬を何ひとつ飾らない言葉で書き綴った楽曲だ。初めてのライブでこの曲を歌える喜びにあふれながら、『ユイカ』はステージの上で「誰かに憧れられる存在」に成長していく。
ラストソングには、『ユイカ』の歌声が世間に知られるきっかけとなった“好きだから。”が選ばれた。「次が最後の曲です!」と宣言する『ユイカ』に、観客は「え〜?!」と名残惜しげ。すると『ユイカ』は、「これが聞きたかった!」「すごい!本物やん!」と大はしゃぎ。ライブでは定番のこのやりとりも、彼女にとっては憧れのものなのだ。なお、ライブ当日の6月27日という日付は、“好きだから。”が3年前にリリースされた「誕生日」でもあり、『ユイカ』はどうしてもこの日に1stライブを行いたかったそうだ。ライブ名にもなっているアガパンサスの花は、6月27日の誕生花。その花言葉には「ラブレター」「恋の訪れ」などがあるそうで、『ユイカ』の綴る音楽とライブのイメージにもぴったりだ。さらに『ユイカ』は、同曲が高校時代の実体験を元に書かれたこと、そして歌われている相手は、今でも『ユイカ』の歌手活動を知らないことを話す。つまりこの世界のどこかには、「自分が知らないうちに、自分のことを歌っている曲のMVが8,000万回再生されている」、なんていう状況の人がいるらしい。そうして歌われた“好きだから。”は、書かれた当時こそ、ごく個人的な体験を描くラブソングだったのかもしれない。しかし壮大なバンドサウンドに背中を預けた『ユイカ』が声を響かせたその時、「私の体験の歌」は『ユイカ』の身体を離れ、「みんなが想いを重ねられる歌」に変わった。花嵐の如く降り注ぐハートの形の紙片の向こうで、動画サイトに弾き語りを投稿していたひとりの少女が、初舞台に緊張して声を震わせていた少女が、人々の心をその歌声で包むプロのシンガーソングライター『ユイカ』に変わっていく。メジャーデビューを彩るこのステージで、『ユイカ』はアーティストとして夢を掴む自らの存在を証明した。
本編がフィナーレを迎えた後、湧き起こるアンコールと「『ユイカ』!」の呼び声にステージへと戻った『ユイカ』。実は彼女、今回の公演が文字通りの「初めてのライブ」で、中学・高校はバレーボール部に所属し、文化祭のステージなどでも歌った経験が無いという。『ユイカ』の語るところによれば、約1年前、スタッフに「1stライブは6月27日にやりたい」ことを希望しつつ、「いつかはZeppでライブをしたい」と夢を明かしたところ、その日のうちに「よっしゃ!Zeppで(1stライブ)や!」ということになったらしい。あまりにも急な決定に驚き、集客に不安を持ちながらも、1stライブのチケットは無事完売。平日にもかかわらず多くの観客が日本各地、世界各地から駆け付けた。また、ライブで顔を出したことについて、「アーティストの顔や動きを間近に見ることができるのがライブの醍醐味だから、どうしても顔を出したかった」と話した『ユイカ』。今後も今のところSNS上では顔出しの予定は無いそうだが、ライブは素顔で行っていくと宣言する。
そしてここで、『ユイカ』は「重大発表」として次回のライブを告知。『Sweet alyssum』の名を冠した2ndライブは、2025年1月8日、9日に神奈川・KT Zepp Yokohama、自身の20歳の誕生日となる2025年1月12日には大阪・Zepp Osaka Baysideで行われる。さらに、今回のアンコールでは新曲を初披露することを発表。初めてエレキギターを担いだ姿を見せるが、それは「ライブでエレキギター持っているのってカッコイイ」と思い、用意したものだと言う。「『ユイカ』はめちゃくちゃ進化している最中です。みなさんに素敵な音楽を届けて行きますので、これからもよろしくお願いします!」そう言ってドロップされた新曲“あなたが知らない貴方のうた”は、可愛く明るいメロディにのせて「あなたが知らないうちに、あなたのことを歌った曲がヒットした」ことを歌うもの。“好きだから。”の作曲エピソードの伏線をアンコールで見事に回収し、『ユイカ』は歓声と拍手の中で全16曲のライブを終えた。バンドメンバーが去っても最後までステージに残った彼女は、暗くなっていく舞台の上で深く深く頭を下げ、万感の思いをじっと噛み締めていた。憧れを抱いて歌い始め、画面越しにその声を送り出し続ける『ユイカ』は、メジャーデビューやZeppライブが、多くの人の「夢」であることを知っている。それができるのは全人類の一握りでありながら、満員の観客たちは、ひとりの少女が涙に声を震わせ、喉を振り絞り「夢」を叶える瞬間を見届けた。しかし、デビューはひとつのスタートライン。1,000人を越えるファンと初めて顔を合わせ、初めての生の喝采を身体に浴びたこの夜のステージはきっと、未来の『ユイカ』に向かう序章に過ぎない。
Text:安藤さやか
Photo:Viola Kam (V’z Twinkle)
https://www.universal-music.co.jp/yuika/
『ユイカ』1st LIVE『Agapanthus』@KT Zepp Yokohama セットリスト
01. 序章。
02.そばにいて。
03.スノードーム
04.恋をしているみたいなの
05.ひそかな願い。
06.イマジナリーフレンド
07.嘘
08.運命の人
09.わがまま。
10.桜想
11.17さいのうた。
12.恋泥棒。
13.すないぱー。
14.紺色に憧れて
15.好きだから。
ENCORE
01.あなたが知らない貴方のうた