SHEʼS VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

井上竜馬(Vo&Key)、服部栞汰(Gt)、広瀬臣吾(Ba)、木村雅人(Dr)

⼩説から着想を得た、個性豊かな新曲を含む全11曲を収録。

大阪発4人組ピアノロックバンドSHE’Sが5月24日に6th Album『Shepherd』をリリース。2021年にバンド結成10周年を迎え、初の武道館ライブも大成功を収めたSHE’S。今作のアルバム『Shepherd』は、⼩説『アルケミスト 夢を旅した少年』にちなんで名付けられたそう。アルバムには広々とした草原や、部屋の窓から見る雪景色など、小説の情景をより深く描き出す個性的な楽曲11曲が収録されている。
今回はアルバムにこめられたメッセージと楽曲制作の裏側、今年開催される全国ツアーなどについて、メンバーに語ってもらった。

■アルバムリリースは1年と7ヵ月ぶりになりますが、今回のアルバムはどんな作品にしようと考えて制作されたのでしょうか。

井上 アルバムはいつも僕がテーマを作って、それをメンバーたちに共有しています。今回は『アルケミスト 夢を旅した少年』という本を読んで、そこから着想を得て楽曲を制作しました。小説は羊飼いの男の子が主人公で、今回のアルバムタイトルになっている“Shepherd”も小説にちなんで名付けました。

■小説『アルケミスト 夢を旅した少年』のどんな側面から着想を得たのでしょうか?

井上 この小説からはすごく勇気をもらったんです。今まで歌おうと思っていたけど歌えなかったこと、社会的、政治的な問題、そういうものを歌いたいなと思った時に、この本を読んで勇気をもらいました。「とにかく俺もやってみよう」と、一歩踏み出すきっかけをもらいました。

■小説は主人公の羊飼いの少年が羊を売って、一人で旅に出るところから始まります。井上さんが心動かされたのは、そうした少年の努力などでしょうか?

井上 頑張っている姿というよりかは、道中で出会った人々のセリフに心動かされたところが大きいと思います。このアルバムをつくるきっかけになったのは、パン屋で働くおじさんと少年が出会った場面です。おじさんが少年を見て、「俺も世界を旅したい。でもパン屋でお金を稼いで、おじいちゃんになった時にでもゆっくりしようと思うんだ」みたいなセリフを言うんです。パン屋のおじさんは、体裁や人の目を気にして、旅をすることよりも、他人にきちんとしていると思われるようにと仕事を続けていた。小説の中でも、人は大抵人目を気にしてやりたいことを後回しにするって言われていて、「確かに」って思ったんです。「俺も人の目を気にして歌わんかった」って。その一節を読んで勇気をもらえて、今回のアルバム制作を始めました。

■アルバムの収録曲についてもそれぞれ伺いたいです。“Blue Thermal”は、初めてのアニメーション映画タイアップ楽曲とのことですが、アニメとのタイアップと聞いて、どんな曲作りを意識されましたか?

広瀬 “Blue Thermal”っていつ収録したんだっけ?

井上 一昨年に話をいただいて「来年(2022年)の3月に公開されます」って言われて、すぐに曲を作った覚えがあります。制作期間がどれぐらいだったかおぼろげですけど、5月ぐらいに話をもらって、本を読んで、夏頃にはレコーディングしましたね。

■原作にリンクするような楽曲作りを意識されたんでしょうか?

井上 そうですね。漫画を読み終えた後は、作中の情景が浮かんで、その景色から音が聴こえてくるぐらい、繊細に作品のイメージが浮かんでいました。機体に乗って空を飛んでいく景色が見えるような曲にしたいなと思って、制作はストリングスから始めました。

■他の楽曲と比較して、レコーディングされる時に特に意識した部分はありましたか?

広瀬 レコーディングする時は、青空とか雄大な大空をイメージできるようにと思って演奏していました。音を詰め込むんじゃなくて、一音一音をゆったりと聴かせるようなアレンジをしましたね。

■映画で上映されると聞いて、特に楽しみにしていたことはありますか?

井上 楽曲を作りながら「この曲は絶対イメージ通りやろ!」って自信があったので、試写会を観に行かせてもらってこの曲を聴いた時、「完璧!」ってガッツポーズをしましたね。(笑) 「この曲しか合わへんやろ!」って、自画自賛していました。

■テレビ番組「王様のブランチ」のテーマソング、“Grow Old With Me”は、春をイメージした楽曲だと伺いました。春を想起させるのに意識した楽曲の作りですとか、番組を意識した部分などはありましたか?

井上 お昼に流れる番組なので、楽しい雰囲気の曲を作ろうかなとは思いましたね。それから、「王様」っていうワードからブラスの音を入れたいなと思っていました。華やかで素敵な楽曲にできたと思います。ブラックミュージックのテイストは、ちょっと前から出し始めてはいたんですけど、その中でも楽しくて、今までにやったことのないテイストの曲になったんじゃないかなと思います。

■演奏楽器が多めの楽曲だと思いますが、苦労した場面とか、逆に演奏で完璧にできた場面などはありましたか?

木村 曲が展開するにつれてしっかりとビルドアップしていく感じはよかったですね。静かなところから盛り上がっていく雰囲気をしっかりと作り上げていく意識で演奏していました。

広瀬 サビの前半で、もらっていたデモ音源にはなかったスラップのアレンジを入れたんですけど、僕的には「めっちゃカッコいいじゃん!」みたいな感じで、納得できる仕上がりになったなと思いました。(笑)

服部 “Grow Old With Me”は軽快さというか、華やかさが欲しかったので、“Blue Thermal”とは対照的に、ノリを大事にして演奏しました。

■あらためて、今回の小説から着想を得て制作された楽曲についても伺いたいです。収録曲で小説と関連があるのは“Alchemist”でしょうか?

井上 “Alchemist”だけではなくて、今回のアルバム全体が小説とリンクしています。アルバムのテーマとしては小説「アルケミスト」が核になっていて、少年が世界を旅したみたいに、曲とか音で景色が見えるような音楽を作っていこうと考えて制作しました。今回のアルバムは「サウンドで景色を見せる」というのが主軸のテーマなんです。そこに「自分の言いたいことを伝えたい」というメッセージも内包しています。“Blue Thermal”では空が見えて、“Castle Town”では城下町の情景が浮かび、“Silence”では部屋の中からしんしんと雪が降り積もる様子が見えるように、“Crescent Moon”では三日月が輝く夜の情景が想起されるようにと、いろんなイメージを感じられるように楽曲を制作しました。僕たちの音楽を通して、少年と一緒に旅をしていると感じられるようなアルバムになっていると思います。

■今回のアルバムは以前に比べて特にホーンの音などが多く入っている印象を受けました。バンドにもともと入っているピアノを含め、管楽器と一緒に演奏するというのはロックバンドとしては珍しいようにも思います。

井上 ロックバンドじゃないのかもしれないですね。(笑)

広瀬 どう考えるかですけど、僕はロックバンドだからこうしないといけないみたいなことを考えたことがないです。

服部 初期から竜馬はストリングスとかをよく入れていたので、そこからホーンが入ってきて華やかになっていったのは、素直にいいなと思っています。楽器が増えることに対しての抵抗とかは一切ないですね。

井上 自分にとっては至極自然なことなんだよね。クラシック育ちだったから。なんの違和感もなく入れちゃう。

■「ロックバンドはこうあるべき」といったような偏見とか、先入観がないんですね。

井上 僕はそういうの結構嫌いなんですよ。「ロックバンドはこうだろ!」とか、メンバーがそれ言い出したら、活動をゆっくり減らしていくかもしれないですね。(笑)

一同 (笑)

■今回のアルバムで、制作・演奏でこだわった部分など、個人的にオススメな楽曲をそれぞれ聞きたいです。

服部 僕は“Crescent Moon”ですね。最初に竜馬からワンコーラスだけ送ってもらって「思いついたことやってみて」って言われた時、「すっ」と自然と出てきた音があったんです。それが結構新しい感じで、これまでのSHE’Sにはなかった雰囲気の楽曲になったので、思い入れができました。30歳を超えて渋さが出てきたのかなって思います。(笑) 新しいギターを買ったんですけど、そのギターだからこそ生まれたアレンジにもなっています。

広瀬 “Crescent Moon”は大人っぽい感じなんですけど、11曲目の“Alchemist”はそれとは真逆の雰囲気なんです。僕ら最近はミドルとかスローテンポの曲が多かったんですけど、初期の頃はめちゃくちゃ早い曲が多かったんです。久しぶりにその当時を思い出すような早さで、ダウンピッキングで30歳の体に久しぶりに鞭を打って演奏したので、ぜひそこを聴いて欲しいです。(笑)

木村 僕は“Super Bloom”ですかね。この曲はほぼデモの段階でドラムは仕上がっていたんですけど、あらためて聴くと、歌詞の熱量と演奏の熱量がビルドアップする感覚がすごくマッチしていて、しっかりしたストーリーになっている感覚が強かったです。楽曲の流れだったり、展開だったりが、ドラムのフレーズともマッチしていたのもあると思います。

井上 全部オススメだからなぁ……。

■では逆に産むのに苦労した曲などはありましたか?

井上 一番時間がかかったのは“Raided”ですね。構想自体はずっと前からあったんですが、曲になるまでに1年以上かかりました。イントロを作ってからその後が決まらず、しばらく放置していたんです。かなり難航した曲になりましたね。

■難航したら一回時間を置いた方がいいんですか?

井上 そうですね。一回散歩に出るとかして、歩いているうちに糸口が見えたらその曲に戻りますけど、そうじゃなければ、また別の曲を作るようにはしています。“Raided”はなかなか自分が納得するいいメロディーが浮かばなかったので、出来上がるまでが大変な楽曲でしたね。