12曲でさまざまな「愛」を歌う、トイズファクトリー契約第1弾アルバム『Lov U』。
渋谷すばるがニューアルバム『Lov U』を10月16日にリリース。2019年よりソロアーティストとして活動を始め、2024年にトイズファクトリーと契約した渋谷。今作では、自身が作詞・作曲した1曲を含む12曲のラブソングを歌う。インタビューでは制作現場の模様にフォーカスし、新作について語ってもらった。
■まずはソロ活動も5周年ということで、この5年間の活動の中で最も貴重な体験だったと思うことを教えてください。
渋谷 そうですね。旅もしましたし、最初の方はちょうどコロナの時期で、それも含めて大切な経験でした。今はまたこうやって新たにトイズファクトリーさんと一緒に、というところなんですけど、今思うと本当にいろんなことがあった5年間で、どれも大切な経験でしたね。
■海外では何かトラブルなどありましたか?
渋谷 トラブルはいっぱいあったと思うけど、そんなに危険なことは無かったかな。全く自分のことを知らない人ばっかりだったのが一番大きかったですね。有難いことですけど、日本ではたくさんの方に顔を知っていただいているので、そういった環境の違いが自分にとっては大きかったです。
■1番印象深い国はどこでしたか?
渋谷 タイからカンボジアに行った時に、電車に乗って陸路で国境を越えてみようかなと思って、6時間ぐらい電車で移動したんですよ。一応各駅停車に乗ったんですけど、乗ってから1時間もしないうちに外の風景から何もなくなったんですよね。(笑) なんて言うか、たまに、日本では見たことのない牛みたいなやつとかが現れたり、たまにぽつんと家が建っていたりはするんですけどね。
■それもきっとコンクリートじゃなさそうな家なんですよね?(笑)
渋谷 そう!なんかそれが衝撃的で。(笑) そういう風景がたまに出てくるならわかるんですけど、何時間もずっとそれだけだったので、「え、いったいどうなってんの?」、「これからどうなるんだろう?」、「っていうかここは誰の土地なの?!」みたいになりましたね。なんかもう日本と違いすぎてすごかったです。(笑)
■日本はどこに行っても似たような風景ですしね。
渋谷 そうなんですよね。それで、たまに人が歩いているんですけど、「この人はどうやって生きているんだろう?」と思って。それに、この人はどこから来て、どこに行くんだろう……?と。(笑) なんか、そういうのがいろいろと衝撃的でした。でも、同じ人間で、生きている人がいて……っていう所はすごく刺激的で、その時に1stアルバムに入っている“なんにもないな”という曲が生まれました。
■それはとても貴重な体験だったと思います。ここからはニューアルバム『Lov U』の話題に入るのですが、今作ではなぜ「多方面で活躍するクリエイターの方が書いた歌」を歌うことにしたのでしょうか?
渋谷 今までとは違う表現をしてみたかったということもあるし、ヴォーカリストに徹してみたかったという想いがずっとありました。でもそれよりは、今までのアルバムは「自分の作品」というところにこだわってきたので……というところですかね。
■ところで、ずっと聞きたかったんですけど、渋谷さんの曲はタイトルが独特じゃないですか?
渋谷 え、そうかな?(笑) 独特だと思ったタイトル、なにかありますか?
■まず1stアルバムが『二歳』。「なんでタイトルが『二歳』なんだろな~?」と思いました。
渋谷 確かに言われてみると、そっか。僕は全然意識していなかったんですけどね。(笑)
■「なんだろうこの曲?!」と思ったのは“アナグラ生活”。題材も含めてアングラっぽさを感じました。(笑)
渋谷 自覚はないです。(笑) “アナグラ生活”は、その時期に楽曲制作の作業をする部屋にこもりっきりで、トイレぐらいしか行かないみたいな生活をしていたので、そういう意味でそのタイトルをつけたりしました。深く意識はしていなかったです。(笑)
■意識されていなかったのですね。なるほど……。(笑) 話を戻して、本作に参加されたクリエイターの方たちはご自身で指名されたのでしょうか?
渋谷 僕から指名したのではなく、トイズファクトリーのみなさんに引き会わせていただいた感じですね。
■それぞれのクリエイターの方とお会いした時の印象はいかがでしたか?特に今作はmiccaさんの曲が多いですが。
渋谷 miccaさんは1番コミュニケーションをたくさん取りましたね。海外に住んでいる方なので、電話で話したり、メールのやり取りだったりがほとんどでしたけど、いろんな話をしました。でも、音楽的な話はほぼなくて、世間話が多かったです。(笑)
■音楽的なことは話されなかったんですか?
渋谷 ほぼないです。音楽的なことで言えば、他のアーティストのYouTube動画を送ってくださって、「この曲、僕も好き」みたいなことはありましたが、主には人となりや感覚をすり合わせていくような時間だったので、それはすごく大きかったです。miccaさんもそういったところから僕のことを深く感じてくれて、今回の曲だったり詩だったりを作ってくださいました。
■ということは、ほとんど曲はお任せで作ってもらったものを歌われたのですね?
渋谷 今回はもう全部そうですね。お任せです。曲もアートワークも、何も僕は言っていません。
■それによって改めて感じた違いは何かありましたか?
渋谷 作る人が違うという部分はあるけど、感覚としては「違わないんだな」と思ったことの方が大きかったかな。別に誰が作ったとかっていうのは大した事じゃなくて、やっぱり人と一緒に作るものなので、どういうふうな過程を経て作ったかが大事だと思いました。どういう会話をして、どういうコミュニケーションを取っていくのかがすごく大事なんだなというのを感じましたね。
■自分の歌を歌うことと、他の人の書いた歌を歌うことに違いはありますか?
渋谷 歌うこと自体は変わらないですけど、やっぱり歌詞ですよね。自分の歌詞は自分から出した言葉なので、どうしても客観的に見づらくなっていて、それをいかに自分の中で消化して表現を変えていくのかが難しかったりするんですけど、他の人に書いてもらった言葉は、自分に入ってこない言葉があるなって思いました。でも、時間をかけて歌い込んでいく中で、ちょっとずつ自分に入ってきたりもするし。今回は時間がたくさんあったのですが、今までこれほど深く向き合ったことは正直なかったです。それこそ楽曲制作も、まず相手と出会って、「初めまして」から始まって、曲の話とかも一切無いところから一緒にやらせてもらったので、今作は1曲1曲じっくり人と向き合って作っていきました。
■そうなると今回、制作期間は結構かかっているんですか?
渋谷 結構かかったんじゃないかな。5ヶ月くらい?このチーム自体も始まったばっかりだったし、トイズファクトリーと契約して1枚目なので、やっぱりそこはじっくり時間かけて良いものができたら、次からもっともっと進化していけるだろうし。なので、今回は特に時間をかけてやりましたね。
■その中でも何か注文はされていないのでしょうか?
渋谷 全くです。全くしていないな。(笑) 大前提としてファンのみなさんに対して今までとは違った表現で楽しんでもらいたい、喜んでもらいたいというのがありました。でも、曲の出来上がりについてはすべてお任せでしたね。
■とても根本的な質問になりますが、渋谷さんにとって「歌う」という行為には、どんな意味がありますか?
渋谷 良くも悪くもなのかもしれないですけど、やっぱり1番「自分」が全部出ちゃいますね。その時の自分が全部出ると思います。それだけ自分にとっては大きいものです。どんな場所で何をやるにも、1曲歌うということにしっかり気合を入れますし。その時々のものが全部出るんじゃないですかね。
■「今の自分はこのモード」というのが歌声に出ているということですね。今作はキャッチコピーに「12曲のラブソング」と書いてあるのですが、一般的な「ラブソング」の概念には当てはまらないような曲も多いように感じます。今作における「ラブソング」とはなんですか?
渋谷 難しいですね。(笑) ラブソングって言っちゃえば全部がそうですから。
■言ってしまえば、普通は嫌いなもののことをあまり歌にはしませんからね。(笑)
渋谷 そうなんですよ。だからいろんな愛の形があっていいと思うし、わかりやすいラブソングみたいなものから、「人間讃歌」みたいな深いところでの愛もあったり、日常の一コマに愛が溢れていたり、いろんな表現があると思うんですけど、とにかくどんな人がどんな状況で聴いてくれても、どこかしらにその人それぞれの景色や思い出、どこかにハマるものが散りばめられていると思うので、それぞれ好きなように感じてくれたらいいなと考えています。
■サウンド面に関してお願いされたところはありますか?
渋谷 それも全く無いです。これまでは結構、自分で作っていたというのが大きいんですけど、自分の中で鳴っている音があったので、レコーディングの時には、それをミュージシャンの方に再現してもらうという作業でした。でも今回はそういうのをガラッと変えたかったんです。じゃないとインパクトが薄れるから。そういうことも考えて、今回は全く何も言わないでお任せした方が、自分では絶対にたどり着けないところまで行けると思いました。
■逆に、今までの自分の作品において、自分の曲として絶対にこれは譲れない要素みたいなものは何かありますか?
渋谷 特に「これ」というものはないですね。その曲その曲で世界観が全部違って、その時のアルバムにはその時の自分が作った曲がたまたま何曲か入っただけのことで、特にコンセプトがあったわけでもないです。
■逆にそれは面白いですね。ほとんどのアーティストの方は何かしら挙げられるんですけど、「あんまり無い」というのは珍しいかもしれないです。例えば「このバンドだったらこのバンドの音」というのがあるじゃないですか。
渋谷 レコーディングする人たちはそういう部分がわかっているので、各楽器の音色とかはマストであるし、それプラスで何かを入れたいならどういう風にすればいいかとか、ライブを一緒に想像したりとか、そういう作り方ではありました。
■ライブを意識して作っているんですね。
渋谷 作っていますね、今までは特に。今回は自分で何かを考えるというより、「とにかく遊んでください」という感じにしました。それで、僕はいただいたものにいかに応えられるかに徹してみたという感じです。
■今作の中で、「これは自分には書けないな」と思ったフレーズはありますか?
渋谷 全部です。(笑) やっぱりこれはもう人それぞれなので、全部ですし、クリエイターとしてプロでやられている方たちはやっぱりすごいなって思ったし、たくさん勉強させてもらったし。でも多分僕が作る曲は、クリエイターの方たちには絶対に作れないと思う。どっちがいいとか悪いとかじゃなくてね。
■そうですね。それにしても「人生と云う大皿の上鯛が飛び跳ねる」って、すごい歌詞ですよね?
渋谷 ヤバいっす。(笑) 面白いし。天才ですよね!
■びっくりしましたね。(笑) 今作の中で、最もレコーディングに苦戦した曲はどれですか?
渋谷 それは自分の曲(“First Song”)かもしれない。いただいた曲は、デモ音源の段階で仮歌が入っているし、作ってくれた方のイメージや世界観があるので、それを感じ取ろうとして何回も聴いて、歌ってみて、自分の中で取り入れようとするので、解釈が早いんですよね。でも自分で作っている曲は、なかなか俯瞰で見れなくて……レコーディングの時にエンジニアの方から「こうしてみたら?」と言われたことで、「なるほど」と思って……。みたいな作業をずっとしていました。そういう意味でも自分の曲が一番難しかったかな。
■レコーディングの時にエンジニアさんに言われた中で、印象深いことはありましたか?
渋谷 基本的に技術的なことというか、レコーディングという作業におけることです。「もうちょっとマイクに近づいて歌ってみたらどう?」みたいなことすら、言われないとわかんなかったりするから。やっぱりそれはレコーディングをたくさん経験しているプロの方の言葉が大きかったです。そういう1個1個が、自分にとってはすごく大きかったんですよね。