16年の活動についに終止符。発表後初のワンマンライブで本編MC一切無しの2時間半を完走。
12月2日(金)、真空ホロウによるワンマンライブ『真空ホロウ15th Anniversary+1 Final -キネマ倶楽部ワンマン公演-』が行われた。本公演が彼らの普段のライブと違うのは、11月25日に活動終了を発表してから間もないステージであること。突然のアナウンスにファンやミュージシャン仲間は言うまでもなく、メディア各所も騒然とし、その一週間後それぞれの想いを抱えて足を運んだオーディエンスで会場は二階席まで埋め尽くされていた。ラヴェルの“ボレロ”が厳かな旋律を響かせる中、会場はすでに異様な雰囲気に。本曲をSEに選んだ理由として松本明人(Vo&Gt)は「一辺倒な展開のリフレインを強弱のみで15分ほど表現するタフな曲なので、僕の座右の銘である“急がば回れ(Slow and steady:2012年に発売された限定シングルのタイトルにもなっている)”を具現化しているなと感じる」と言っている。この時点で並々ならぬこだわりを感じる。
暗転し、MIZUKI(Dr)、サポートメンバーの是永亮祐(Ba)、最後に松本がステージに出揃うと、観客は早くも総立ちに。大きな拍手が迎える中、松本がしっとりと“回想列車”のイントロを奏でる。“回想列車”は松本にとって特に思い入れがあり、「この曲以上に評価を得た曲は作れていない」、そして「初めて自分以外の誰かのことを書いた」と振り返っている。松本は今年8月からこれまでの真空ホロウの全楽曲を毎日YouTubeに投稿するという逞しい企画を慣行してきたが、そのフィナーレを周年記念ワンマンライブの1曲目に持っていきたいという構想はすでに春ごろからあったという。これまでの16年間を思い返すように熱を入れて歌いあげた後、おなじみの「真空ホロウへようこそ」という決まり文句で雰囲気は一変、“虹”が会場の温度を上げる。“胃にやさしい生活”で、MIZUKIがスティックを鳴らして煽ると会場もクラップでそれに応え、続く“レオン症候群”のラストでは松本が「僕らはずっと一人じゃない」と客席を指さしながら、まるで一人一人に訴えかけるように歌ったのが印象的だった。
“The Small World”、“水縹”、“バタフライスクールエフェクト”とアグレッシブなナンバーで攻め続けた後、MIZUKIのスネアのリズムがそれまでとは対照的な静寂に響き渡り、今や真空ホロウのアンセム的な位置づけにもなっている“ラビットホール”へ。二人は曲中何度か笑顔で向かい合って演奏し、客席に向き直る松本の「ヒカリノホウへ」と優しくも力強く歌う声がどこか神々しさすら帯びて会場を包み込んでゆく。暗転し再びステージが照らされると、中央にはコヤマヒデカズ(Vo&Gt / CIVILIAN)の姿が。歓声が沸き、両者のファンにとっても馴染み深いコラボ曲である“#フィルター越しに見る世界 (with コヤマヒデカズ from CIVILIAN)”へ。コヤマはかねてより松本との親交が厚く、真空ホロウの活動終了を受けてのこの日「今まで一緒に歌ってきた時とは違う気持ちが込み上げてきた」と言っている。思わず引き込まれるほどの声の交歓で魅せた後、バトンは次のゲスト、純市(Ba / CIVILIAN)に引き継がれる。ステージの前方で挑戦的な低音が場の空気を震わせ、MIZUKIとの息もぴったりな“シンデレラコンプレックス”を披露。松本からも不敵な笑みがこぼれる。
再びデフォルト編成に戻り、ファンによる投票で決まった“Balance cont(r)ol”からの“プリーズアップデート”と、EDMのナンバーで会場を心地よく揺らし、さらに“娼年A”、“闇に踊れ”、“被害妄想と自己暗示による不快感”と立て続けに結成初期からの人気曲で容赦なく盛り立てていく。最新デジタルEP『KINDER ep4』より、“知らんけど”では、松本が何者かに憑依されたような圧倒的パフォーマンスに思わず息を飲むほど。続く“ただ今日を消化するために生きています。”のギターリフに乗せて登場したのは、松本がキャラクターの歌声も務めているリズムゲーム『ブラックスター -Theater Starless-』通称“ブラスタ”のステージでも共演しているダンサー、理土と巽imustat。もともとこの曲には前回公演で別のダンサーによる違う振り付けがついていたが、二人は曲を聴いた上で、彼らなりの新しい解釈をし、一から振り付けを作り直したという。そのこだわりが随所に垣間見えるダンスを披露した後、同じくブラスタでステージを共にしている小林太郎をゲストに迎え入れ、ブラスタの人気曲“沈まぬ月”に繋ぐ。ダンサー、小林、松本とでブラスタ・真空ホロウを見事に融合させた世界観で会場をグンと引き込み、次曲“ホラーガールサーカス”へ。小林は松本と向き合ってギターを掻き鳴らし、厚みのあるサウンドで会場の盛り上がりに拍車をかけ、十分な存在感を見せつけてステージを後にした。
続いてメジャーデビュー・シングル“Highway My way”で客席との一体感を強め、“MAGIC”でさらに熱を上げていく。MIZUKIが立ち上がって煽ると、オーディエンスは飛び跳ねながらステージに向けて一斉に手を伸ばし、松本率いる壮大なシンガロングパートもあいまっていよいよ大団円かと思いきや、ここで終わらないのが彼ららしい。現代に生きづらさを感じる人々に寄り添う“IKIRU”では、歌詞を変えて「まだこれからさ 先は長いさ ずっと全速力じゃ 持って16年」と、自身の駆け抜けた年月に触れる。そして松本の声音の使い分けが映える極上のバラード“おんなごころ”、打って変わって牙を剝くような“アナフィラキシーショック”と続け、ついに迎えたフィナーレは“サイレン”。「忘れるなよ 心のサイレンを」と叫ぶように歌いながらステージに倒れ込む松本、惜しむように何度も音を叩き合わせるMIZUKI。二人がステージを去っても拍手は鳴りやまず、すかさずアンコールへ。
これまでの本編をMC一切なく走り抜けてきたが、ここでようやく松本が自身の想いを口にした。真空ホロウを立ち上げて16年。メジャーデビューやメンバーチェンジなど、様々な転換期を迎えてきた中で出会った本日のゲストたち、彼らと共にしてきたかけがえのない経験に触れながらこれまでを振り返った上で、「真空ホロウ 松本明人として、これからどう生きていこうかな、今までどうやって生きてきたかなと考えた時に、真空ホロウとして表現することは全部やっちゃったなって思って。全部やっちゃったんだけどどうしよう?終わりにしていいかなって……終わりにしますってスタッフとMIZUKIちゃんに伝えて。そしたら、明人さんが言うなら、明人が言うならいいよって受け止めてくれて。この先、僕がどのような表現活動をしていくかっていうのは……まだ真空ホロウは来年2月まで続くので、そこまでに考えるのか、その先も考えるのか、正直分からないんだけど。確かなことは、真空ホロウを応援してくださって、ありがとうございました!」と言うと、会場から温かな拍手が響いた。続けて「真空ホロウは5年前に謎の太陽光のような生命体に出会うわけですね。このような陰鬱な表現者が。陰と陽の合わせ技のようだなと思って。なぁ」とMIZUKIに投げかける。「どうだった?5年」と松本に振られ、「あっという間だったかなって……感じですね」と言葉を詰まらせると、MIZUKIの目には涙が。「2月まであるからまだ早いんですけど……。楽しかったですね。大きな声が出ない!」と目元を押さえた。松本がMIZUKIに「パワー!」と活を入れて穏やかなムードを作ると、この二年間サポートメンバーとして真空ホロウを支えてきた是永をステージに呼び入れた。普段のように互いに冗談を交えながら、「次の曲やれる?コーラスできる?」と松本に聞かれ、「2月はびしゃびしゃになるかも」とMIZUKIがスティックを構える。
「2009年に初めてロック・イン・ジャパン・フェスに出た時に、このままどこまでも向かっていくんだと、すべての大切な存在に全身全霊の感謝を込めて歌った曲を最後に歌って帰ろうと思います。ありがとうございました」と松本が優しくギターを奏で、“I do?”へ。ラストに向けて松本の力強くも柔らかに包み込むような歌声がどこまでも拡がり、ステージは光に充ち満ちていく。真空ホロウとして松本明人が駆け抜けた16年間、その中で5年、相方として同じ景色を見届けてきたMIZUKI、真空ホロウの音楽と共にここまで来たファンたち、それぞれの想いが凝縮された2時間半ものステージが、こうして幕を下ろした。
最後に、著者が別日にメンバーから聞いた言葉を残しておこうと思う。
「真空ホロウのメンバーになったからこそ得たものはたくさんあって。それこそ明人さんを通して出会った人たちとか、間違いなく自分のこれからのドラム人生にも生きていくと思うんです。真空ホロウは上京して初めて正メンバーとしてちゃんとやったバンドだし、明人さんの歌という名の背中を見てついてきた。私にとって東京の親(お母さん)みたいな感じかな。(笑) また何か一緒にやりたいです」(MIZUKI)
「特にこの二年で体を使って歌えるようになって、歌への自由さとか、歌がちゃんと伝わっているという手応えを今まで以上に感じることができた。そのうえで、次どんなことをしてやろうかっていうワクワクもあるし、いざとなってやりたくないと思ったらどうしようって不安も正直ある。でも音楽家としてはやっていきたいですね。というか、どうせやってんだろって、今は楽観的な気持ちもあります。僕にとって真空ホロウは『思春期』。原点にある“厨二”感を武器にこれまでやってきたんだなぁと振り返りまして。『青春』という清々しさよりは、「思春期」っていう我儘さのほうが似合うなって思います」(松本明人)
なお、真空ホロウは2023年2月18日に代官山UNITでのラストライブ、その名も『真空ホロウへようこそ』をもって、その歴史に終止符を打つ。
Text:矢作綾加
Photo:高田真希子
『真空ホロウ15th Anniversary+1 Final -キネマ倶楽部ワンマン公演-』@キネマ倶楽部 セットリスト
01. 回想列車
02. 虹
03. 胃にやさしい生活
04. レオン症候群
05. The Small world
06. 水縹-mihanada-
07. バタフライスクールエフェクト
08. ラビットホール
09. #フィルター越しに見る世界 (with コヤマヒデカズ from CIVILIAN)
10. シンデレラコンプレックス
11. Balance cont(r)ol
12. プリーズアップデート
13. 娼年A
14. 闇に踊れ
15. 被害妄想と自己暗示による不快感
16. 知らんけど
17. ただ今日を消化するために生きています。
18. 沈まぬ月
19. ホラーガールサーカス
20. Highway My way
21. MAGIC
22. IKIRU
23. おんなごころ
24. アナフィラキシーショック
26. サイレン
ENCORE
01. I do?