ウォルピスカーター VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

様々なクリエイターの『余罪』の解釈を詰め込んだ4年ぶりオリジナルアルバム完成。

数々のボーカロイド楽曲を原曲キーで歌う、ハイトーンボイスが魅力の歌い手ウォルピスカーターが、4年ぶりとなるオリジナルアルバム『余罪』をリリース。針原翼(はりーP)、神谷志龍、SILVANAといった、ウォルピスカーターの作品ではお馴染みとなっているクリエイター陣とのコラボレーションに加え、芥田レンリ、x0o0x_といった気鋭のクリエイター、“フレンズ”、“You’re the Only…”といった歌謡曲カバーまで、盛りだくさんとなっている今作。タイトルの通り『余罪』が重要な柱となっているという今作について、ウォルピスカーターにたっぷりと話を訊いた。

■今作は4年ぶりのオリジナルアルバムとのことですが、タイトル『余罪』の意味も含めてどんな作品にしようと考えていたのでしょうか?

ウォルピスカーター コロナ禍があって、企画していたライブやイベントが延期になったり、中止になったり、そういう諸々の申し訳なさを込めて『余罪』というタイトルを最初に決めました。なので、ちょっと落ち着きのある、仄暗いアルバムにしたいと思って制作をしました。

■クリエイターのみなさんに曲を依頼する段階でも、そういったイメージをお伝えしたのですか?

ウォルピスカーター 細かいイメージをお伝えするというよりは、アルバムタイトルだけを伝えて、あとはクリエイターの方々がどう『余罪』を捉えるかという形でしたね。結構お任せという感じでした。

■アートワークは仄暗い印象がありつつ、ユーモアもあるものに仕上がっています。こちらはどのようなイメージが?

ウォルピスカーター アルバムのジャケットは、よく一緒にお仕事している南條さんという方にお願いしました。最初はもうちょっとおしゃれな感じというか、ワンルームのひとコマで映えるような感じがいいかなと思っていたんですが、話を進めていくうちに、「もうちょっと暗い方がいいんじゃないか」ということになって。最終的には「ワンルームの中の余罪感」をイメージして作っていただきました。

■制作全体にタイトルが絡んでいるんですね。

ウォルピスカーター そうですね。

■大雑把な質問になって申し訳ないのですが、ウォルピスカーターさんにとって『余罪』というと、どんなイメージが思い浮かびますか?

ウォルピスカーター 『余罪』というとバレちゃった感というか、追及されてはじめて世に出るものなのかなとは思いますよね。あんまり自分から「余罪がありました」って言うことはないじゃないですか。それこそ警察の取り調べで余罪が発覚したり、「発覚」って言い方が一番正しいと思うので、自分から「余罪です」って出すのは面白いのかなと思っています。

■曲についてもそれぞれお聞きできればと思います。1曲目“サル”は針原翼(はリーP)さんとの楽曲です。針原さんとのタッグは4回目ですが、やはり安定感のようなものもありますか?

ウォルピスカーター そうですね。安定感がある分、逆にマンネリ化みたいなのも避けたいよねというのもお互いにあって。一緒にご飯を食べに行ったりもするんですけど、「次どうしようかな?どうしたらいいと思う?」みたいな話もしました。

■今回はそのある意味のマンネリを打破するために話し合ったり、新しく取り入れたこともあったのでしょうか?

ウォルピスカーター はりー(針原)さんの方から「今まで3作一緒にやってきた流れからは脱却したい」という意見をいただきまして、「そこははりーさんが思うようにやっていただいて大丈夫です」とお伝えしました。デモの段階で今までとはガラッと変わっていたので、僕というよりも針原さんの挑戦的な楽曲なのかなと思いましたね。

■今回のオリジナルアルバムでもウォルピスカーターさんご自身が作詞された楽曲が何曲かありますが、針原さんの楽曲は今回も針原さんに歌詞まで書いてもらう形じゃないですか。針原さんの歌詞にはどういった魅力を感じているのでしょうか?

ウォルピスカーター はりーさんの歌詞ってかなり特殊で、聞き慣れない単語が非常に多いんです。シンプルに難読漢字が含まれていることが多くて。それはやっぱり語彙の差ですよね。歌詞を書き始めたばかりの僕よりも日本語の深いところまで理解して使われている方なので、はりーさんの曲はやはり歌詞まで書いていただかないと成立しないのかなと思います。

■ウォルピスカーターさんご自身は歌詞を書き始めたばかりだとおっしゃっていましたが、着実にご自身で作詞した曲数を増やしていますよね。今回の収録曲で作詞した際は、これまでと書き方や内容などで変化を実感したことはありましたか?

ウォルピスカーター 書き方自体はそんなに変わっていないんですけど、より広い視点で書くようになったのかなとは思います。それまでは1、2曲の単品で歌詞を書くことが多かったんですけど、今回はアルバムのために3、4曲まとめて書くことになって。内容がかぶらないようにしなきゃいけないとか、アルバムを通して僕が書いたものだけが浮かないようにしないといけないというのも考えました。作詞はアルバム制作の中でも後半の作業だったので、他の方たちから挙がってきた曲の歌詞も見ながら、バランスを取りつつ進めていきました。

■今回のアルバムは『余罪』という共通するキーワードがあるからか、全体的な楽曲の温度感にも共通するものを感じます。その分、似ないようにと調整するのも難しそうですね。

ウォルピスカーター 難しかったですね。どうしても暗い歌詞となると、方向性が似てしまいがちなので。

■その中でも一番苦戦した曲はどれですか?

ウォルピスカーター 2曲目の“ワンマンライブ”という曲ですね。それまでずっと暗い歌詞を書いていたんですけど、この曲は曲調的にはそこまで暗くないんです。なので、どうやって収拾をつけようかなというか。これまで3曲書いてきた分のノウハウを生かしたい気持ちもありつつ、かといって明る過ぎると余罪感がなくなるなと思って、自分の中で折り合いをつけるのにすごく苦労した曲でした。

■“ワンマンライブ”は、今回の収録曲の中でも一番ご自身の活動や実際に感じていることと結びついている曲なのかなと感じました。

ウォルピスカーター そうですね。“ワンマンライブ”というタイトルの曲を作ったのに、ネガティブなことを言うのは良くないと思うんですけど、僕はライブをやりたくないんですよ。僕がどれだけライブをやりたくないと思っているかが歌詞に出てしまったと思います。(笑)

■ライブをやりたくないというのは、どういった理由からなのでしょうか?

ウォルピスカーター シンプルに動画のキーを出すのが厳しい。動画のキーを期待されている方たちをがっかりさせたくないという思いももちろんありますし、夢を見せている仕事だと思うので、自分から夢を壊しに行くのは嫌だなという気持ちですね……。(笑)

■ウォルピスカーターさんにとって歌詞を書く時間はご自身と向き合う時間という感覚なのか、どちらかというとご自身を俯瞰して見ている感じなのか、どちらなのでしょうか?

ウォルピスカーター どうなんだろう……。内面をさらけ出すのって、言ってしまえば簡単じゃないですか。自分の中にあるものを文章に起こすだけというか、自分が持っているものをただ書いているだけというか。なので、あまりそういう方向にはしたくないんです。なるべく自分を一段階上から見て、俯瞰して見ているような歌詞を書きたいなと思っていますね。

■『余罪』にはカバー曲も何曲か収録されていますが、ボカロ曲の“九龍イドラ”を選んだ理由というと?

ウォルピスカーター 僕はアルバムでは必ずボカロPのトーマさんの楽曲のカバーを入れているんですけど、“九龍イドラ”はその枠ですね。いつもトーマさんの『アザレアの心臓』というアルバムの中から、歌いたい曲を1曲ずつ選んでいます。

■トーマさんの枠を入れているのには特別な理由があるのでしょうか?

ウォルピスカーター 僕の世代からするとトーマさんはすごく伝説的な方なんですけど、もう引退されているんですよね。なので、埋もれていってしまうというか、新しいボカロPさんがどんどん出てきて、トーマさんを知らない世代がもう出てきているんです。それがちょっと悔しいなっていう。「こんなすごい人がいたんだよ」っていうのを勝手に伝道師として語り継いでるような気持ちです。

■そうなんですね。普段挙げていらっしゃるボカロ曲のカバーに対しても、そういった伝道師的な感覚は少なからずあるのでしょうか?

ウォルピスカーター そうでもないですね。普段挙げているのはシンプルに自分が歌いたいなと思った曲です。

■“九龍イドラ”はキーも高いですし、早口ですし、歌うのは難しそうだという印象ですが、レコーディングはいかがでしたか?

ウォルピスカーター おっしゃる通りです。結局、高くて早いのが一番難しいんですよ。自明なんです。(笑)

■そういった際の乗り切り方などはあるのでしょうか?

ウォルピスカーター カラオケとかで高い声を出して無理していたら声が枯れちゃったという人もいると思うんですが、僕はそうなった時の声の戻し方を知っているだけなんです。回復魔法が使えるというか。なので、高ければ高いほど、トライアンドエラーがすごく簡単にできるっていう。ただそれだけですね。

■その他のカバー曲では“フレンズ”と“You’re the Only…”が収録されていますが、これはどういった選曲なのでしょうか?

ウォルピスカーター 元々僕は歌謡曲やメロディアスな曲がすごく好きなんです。みなさんの反響もいいですし、僕もやりたいので定期的に懐かしい曲を原曲キーでカバーしています。“You’re the Only…”は、僕が小野正利さんのことをすごく尊敬していて、去年小野さんのアルバムにゲストで1曲参加させていただいたご縁もあったので、選ばせていただきました。“フレンズ”は、いろいろと候補がある中で話し合って決めました。イントロが長すぎない曲にしようということで、この曲になりました。

■どちらも原曲へのリスペクトを感じる歌い方や声の処理だと感じました。歌ってみていかがでしたか?

ウォルピスカーター 改めてこの世代の人は歌が上手いなと思いました。今のインターネット出身のボーカリストは特にそうですけど、1曲を通してレコーディングすることがほとんどないので、通して歌う機会というとライブくらいしかないんです。ですから、やっぱり通しでの歌のパワーは昔のボーカリストの方が強いなと感じました。それを、1テイク1テイクのつぎはぎの録音で、どこまで再現していけるのか。昔の曲を知っている人が聴いても違和感を持たないようにするにはどうしたらいいか、というのはかなり苦労して録音していきました。

■以前お話を伺った際に、AIが歌うように声色を選んでいるというお話をしていただきましたが、カバー曲もそういった声色の選び方をしているのでしょうか?

ウォルピスカーター 普段の歌ってみたやオリジナル楽曲は、どこでどういう風に感情の表現をするかを自分で選択できるじゃないですか。でもご本人がいるカバーの場合は、その人の表現が正解ですから、自分で選び取るというよりは、「こういう風に歌っているな」というのを、なるべく拾い上げていくことが多いですね。

■“愛も知らないで”の作曲のSILVANAさんと“漂白”を作曲した神谷志龍さんは、どちらもウォルピスカーターさんに何度も楽曲を書いている、親交の深いお2人かと思います。この2曲はとりわけ高音以外の部分のうまみが活かされていると感じたのですが、それは何度も一緒に曲を作っているお2人だからなのでしょうか?

ウォルピスカーター そうだと思います。神谷志龍は特に「低い声をもっと世に出した方がいいよ」とよく言っていて。「俺が曲を書く時は低いところも作るから」と、宣言もしていたので、多分本人は意図的に低いところを作っているんだと思います。SILVANAは、普段はキーの調整を結構綿密にやってくれるんですよ。でも今回は「ごめんね」って言いながら曲を渡してきて。(笑) 多分彼が気に入ったスケールが、僕のちょうど嫌なところだというのをわかった上で、提出してきたんだと思います。こういうのもこの付き合いの長さだからこそできることなのかなと思います。