矢井田 瞳『「ヤイコの日」2023~ピアノとハーモニカと~』ライブレポート@SHIBUYA PLEASURE PLEASURE

ピアノとハーモニカと作り上げた穏やかな一夜。

8月15日(火)、矢井田 瞳が『「ヤイコの日」2023~ピアノとハーモニカと~』をSHIBUYA PLEASURE PLEASUREにて行った。この日はピアノに河野圭、ハーモニカに倉井夏樹を迎え、3ピースで行われた。小編成ならではの柔軟さと、それぞれの楽器によるバリエーション豊かな演奏で、温かい雰囲気が作られた公演となった。

ライブは“オールライト”で開幕。ピアノとハーモニカという音数の少ない編成だけあって、矢井田の歌声のニュアンスがより際立って聴こえる。倉井の手元には何本ものハーモニカが用意され、足元にあるエフェクターで音色を変えたりと、多彩な音色が次々と繰り出される。河野のときにリズムに徹し、ときにきらびやかな装飾とともに盛り上げるピアノ演奏も含め、楽器ごとのアプローチは多様。シンプルゆえの物足りなさなどはつゆも感じさせない、自由度の高さが魅力の編成だ。矢井田がアコギを持ち“地平線と君と僕”に差し掛かると、オーディエンスからは手拍子が湧き上がる。3人によって奏でられる音しかないとは思えないほどの華やかさが溢れると同時に、音を楽しみながら演奏するステージとそれを見る客席の間には明るくのどかな雰囲気が流れる。軽やかなハーモニカと落ち着いたピアノに乗せて送られた“Everybody needs a smile”では矢井田もステージを練り歩きながら歌い、客席にマイクを向けたりと穏やかな空気が作られた。

矢井田の歌声は、ダイナミクスの大きさというよりも、存在感のある通った声の中に様々な感情が乗ることで、細かなニュアンスが表現されることが特徴であるように思う。とりわけ強くそれを感じさせた“さらりさら”の後、ピアノとともに静かに演奏し始めたのは“モノクロレター”。少し寂し気な、それでいてエモーショナルな演奏が、原曲とはまた異なる色を表現する。歌に込められる感情やピアノの抑揚、ハーモニカの音色がどこか懐かしい音像を作りあげた。河野によるピアノソロでの繋ぎの後には、クールな演奏が会場の空気を引き締めた“オンナジコトノクリカエシ”へ。間奏の倉井によるハーモニカが熱を昂らせ、凛々しい音色で魅了する。“shadow/alone”では、矢井田によるタンドラムの反響やゆらめく歌声が神秘的な景色を連想させる。それぞれの楽曲の魅力を拡張するようなアレンジは、ハーモニカとピアノ、そして歌というイレギュラーな編成の可能性の大きさを感じさせる。

そんな3人編成の魅力をじっくりと感じさせたライブであったが、中盤にはサポートメンバーが捌け、矢井田がソロで演奏する場面も。“speechless”では、ギターの演奏に乗せて伸びやかに溶けていくような語尾がゆっくりと響き、“fast car”では、矢井田によって紡がれる歌詞の情景が鮮明に広がっていく。歌詞に没入するような演奏は、やはりソロならではの魅力だろう。そして25年来の付き合いだという河野を再び迎え入れると、2人編成で“ゆらゆら”を披露。また倉井を迎え入れ再び3人体制に戻ると、MCでは矢井田のリクエストで倉井がハーモニカで海の波音を表現したり、蚊の飛ぶ音を再現したりと、和やかな雰囲気でひとしきり盛り上がった。“LOVESiCK”を披露した後の“Not Still Over”では、本ツアーの約半分の公演をともに回ったピアニスト・鶴谷崇がサプライズで登場。河野と白熱した連弾を繰り広げ、それに呼応するように会場も更に熱を増していく。

同じく4人で繰り広げた“Look Back Again”では、ピアノの華やかな連弾も熱気を煽り、ピアノとハーモニカというシンプルな編成とは思えない熱狂に包まれる。楽し気にセッションを繰り広げる演者、手拍子や掛け声など身体全体で音楽を楽しむオーディエンスが一体となって音楽を楽しんでいるような、温かい光景が広がった。再び3人体制に戻った“My Sweet Darlin’”では、演奏が始まるなり歓声が上がり、会場のボルテージも最高潮へ。会場がそんな熱狂の余韻に包まれる中、本編最後に披露されたのは“Life’s like a love song”。熱気が漂い続ける会場で、ピアノの音色とともにしっとりと歌う矢井田。熱狂のまま締めるのではなく、呼びかけるように歌うバラードで余韻を満喫するような雰囲気が心地いい。最後にはオーディエンスの大合唱が会場を揺らし、力強く、それでいて優しく本編を締めくくった。

アンコールでは、11月に東京と神戸の2都市でプラネタリウムツアー『LIVE in the DARK tour w/矢井田 瞳』を行うことを発表。そして“一人ジェンガ”、“駒沢公園”を披露する。未来に向けてポジティブな風を吹かせるような“駒沢公園”は、ライブが終わった後のオーディエンスの心に残る応援歌のように響いた。ピアノとハーモニカ、そして歌というイレギュラーかつ自由度のある編成の魅力を活かした本公演。それぞれの演奏の魅力を引き立て合い、会場の一体感を作り上げた、とても温かい一夜となった。

Text:村上麗奈
Photo:スエヨシリョウタ

https://yaiko.jp/

矢井田 瞳『「ヤイコの日」2023~ピアノとハーモニカと~』@SHIBUYA PLEASURE PLEASURE セットリスト
01. オールライト
02. 地平線と君と僕
03. Everybody needs a smile
04. さらりさら
05. モノクロレター
06. オンナジコトノクリカエシ
07. shadow/alone
08. speechless
09. fast car
10. ゆらゆら
11. LOVESiCK
12. Not Still Over
13. Look Back Again
14. My Sweet Darlin’
15. Life’s like a love song

ENCORE
01. 一人ジェンガ
02. 駒沢公園