より深さが醸し出された安田レイの希望を感じさせてくれる新作
安田レイのニューシングル『through the dark』は、作品全体から彼女の第二フェイズへの漸進を感じる。それは今作におけるこれまで以上に自身の実年齢に伴った大人っぽさと、アンニュイさも織り交ぜた秘めた生命力を宿した歌唱、歌に込めたメッセージやサウンドアプローチ等々からも多分に伺える。中でも顕著なのがタイトル曲(TVアニメ「白猫プロジェクト ZERO CHRONICLE」エンディングテーマ)。自身作詞による、闇の中が故に改めて感じる光の大事さや尊さ、慈しみと目指すべく方向を示唆してくれる同曲は、歌と気持ちが同化した歌唱も手伝い、より深さが醸し出されたものとなった。
現状の我々の苦境や今後へと馳せさせる希望や期待と各曲とのシンクロも興味深い。今作と共に愛しい人や自身が新しく目指す方向へと進もうではないか!!
■結果的ではあったでしょうが、今回のシングルは苦境に立つ現在の我々の胸中やそこを開けた先についてを信じさせてくれる歌のように響きました。
安田 昨年に楽曲は完成していたのですが、今の自分の心境や心情にマッチするものになったなとは自分でも感じています。やはり人とコミュニケーションをとる以前までの当たり前であったことが出来ない現状ですからね。その分より尊かったり、愛しかったりするわけで。中でも「自分のこの想いよ届け!」との願いが込められた“through the dark”はその辺り実感しますね。
■闇の中に居ながらも、その先の希望の光へと向かっていく感じが今のこの状況下には勇気を与えてくれます。
安田 実はこの“through the dark”は元々遠距離がテーマのラブソングなんです。遠くにいる愛しい人に向けての想いを吐露している歌詞でもあって。愛する人がもし今、闇の中に居て、そこから抜け出せないとしたら、自分がどれぐらいの光を持っているか分からないし、それは微々たるものかもしれないけど、その光で照らして、あなたを見つけて守り抜きたい、という内容なんですけど、光を信じて未来に希望を持っていきたいですね。
■この曲はTVアニメ「白猫プロジェクト ZERO CHRONICLE」エンディングテーマですね。
安田 そうなんです。まずはアニメのプロットを読ませていただき、そこからいろいろなアイデアを得て、アニメの内容のみならず、ラブソングとして愛しい人への想いも交えてみました。
■今作は共に音数少なくシンプルで、アコースティック楽器とDAWを上手く融合させたサウンドで、その辺りや歌唱からも非常にレイさんの第二フェイズを感じました。
安田 特に“through the dark”はそれがあるかもしれません。この曲で初めてJeff Miyaharaさんと一緒に組んだんです。Jeffさんがボーカルディレクションもして下さって。Jeffさんも「私の新しい面を聴いてみたい」「いつものようなタイプの歌は聴きたくない」と、ハッキリとおっしゃって下さっての挑戦でした。結果、これまでの私にない新しいタイプの歌唱や楽曲へと行き着くことが出来たかなって。
■Jeffさんのボーカルディレクションはいかがでしたか?
安田 これまでの方々とはまた違ったタイプでした。従来はニュアンスやテクニック的な指導を受けることが多かったんですが、Jeffさんはいわゆる歌に接する本当の自分の正直さを大切にして下さるタイプで。これまでの私は「このように歌おう!」と、ある程度のイメージやスタイルを持ってレコーディングに臨んでいたんです。そんな中、Jeffさんからは「一度レイちゃんの思う、この“through the dark”で歌ってみて」とのリクエストを受けて。それで歌ってはみたものの、「ちょっと違うかな」と。(笑) その際にJeffさんからは、「上手く歌おうとせず、レイちゃんが5歳だったら、この歌をどう歌うかを想像して一度歌ってみて」とのアドバイスを受けたんです。
■それはいわゆる、それぐらい無垢で純真にこの歌を歌って欲しい、との例えとして?
安田 そうですね。「5歳のレイちゃんだったらボーカルテクニックも何もないでしょ?」って。その「誰かを想うピュアさを全面に気持ちを裸にさせて歌って欲しい」と。
■いわゆる気持ちを歌と同化させて欲しかったんでしょうね。
安田 その通りです。当初はもっと感情移入して歌い上げたり、ドラマティックな歌唱でしたが、以降は沸々とした想いやサビの秘めたエモさも増して、結果、曲全体に込めた想いがキチンと伝わる楽曲に生まれ変わりましたから。よりサビも迫力が出て大きいものになったし。私、頭からフルパワーで歌っちゃうタイプなもので。(笑) その辺りも含め、Jeffさんのボーカルディレクションは非常に勉強になりました。
■楽曲がシンプルな分、歌やコーラス、ハーモニーの重厚感で、肉声ならではのエアリーさを保ちながらも豊潤なのもこの楽曲の特徴の一つかなと。
安田 後半は(コーラスやハーモニーで)すごいことになっていますから。(笑) 何個重ねているか分からない。その辺りもJeffさんのアイデアでした。一つ一つ別々に録ったので、完成形は想像もつきませんでしたが、Jeffさんには(完成形が)見えていたんでしょう。最終を聴いた際は、「うわっ!すごい!!」ってなりました。
■最後のブロックの英語詞を始め、歌全体がどこか英語での歌唱のようなメロディアスさを感じました。
安田 その辺りも新しい自分が表せたと自負しています。英語詞の方がノドが開くんですよね。やや叫ぶ箇所があり、あの高さも通常なら無理であったはずなのに、英語詞を歌った直後でノドが開いた状態だったので、そこも勢いで無理なく気持ち良く歌えたんです。あの辺りは英語の力でしたね。それも手伝い、他の日本語詞の部分もこれまで以上にメロディアスに歌えた感はあります。私自身、日本語と英語で喋っている際の性格が違いますから。歌でもそうなのかも。(笑)
■英語と日本語ではどのように性格が違いますか?
安田 英語の方がどこかオープンになれます。それもあり、今回も英語詞の部分で真意をキチンと伝えてみました。これを機に、今後、より英語を混ぜることで伝えることや歌い方も変わっていくかもしれませんね。