吉澤嘉代子 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

青春のきらめきを閉じ込めた初期衝動の薫るEP『若草』。

吉澤嘉代子がニューEP『若草』を11月15日にリリース。「青春」をテーマとした2部作EPの第一作となる今作。収録曲には映画『アイスクリームフィーバー』主題歌“氷菓子”をはじめ、高校時代の初期衝動が詰まった“セブンティーン”や、大学時代の実話をもとにした“夢はアパート”など、アーティスト自身の「青春の明るい部分」が感じられる6曲が並ぶ。今回は吉澤の青春にまつわるエピソードや、楽曲の制作秘話などを聞いた。

■前回、“氷菓子”をリリースした際のインタビューでは「アルバムを制作中」と伺ったように思いましたが……今回はEPになりましたか。

吉澤 そうです。でも今回のEPは2部作で、今年の冬に『若草』、来年の春に『六花』をリリースするので、アルバムを作っているような気持ちでいます。「青春」というテーマで、青春の光の部分と、切なく儚い部分の二つに分けました。

■今作EP『若草』ですが、まず気になったのはアーティスト写真なんですよね。プリクラですか?現在のプリクラよりちょっと懐かしい感じというか。

吉澤 自分が子供だった時代のプリクラをイメージしています。ホントにプリクラが出たばかりの頃、家族で温泉とかに行った時に撮っていたくらいの頃のものみたいな感じがいいなと思いました。

■今はデカ目でナチュラル美肌ですからね。この白飛びした感じが懐かしいです。(笑) 今回のテーマは「青春」ですが、吉澤さんの青春っていつでしたか?

吉澤 うーん、いつなんだろう?ずっと続いている感じもしますし……でも、高校生の頃にバンドを組んでいて、みんなで曲を演奏したりしていたあの時は、間違いなく青春だったなと言えますね。その頃から自分で曲を作っていて、今作に収録された“セブンティーン”も歌っていました。

■“セブンティーン”はその頃からあった曲なんですね!シンプルで気になった曲なのですが、作曲クレジットにある「ナインティーズ」というのはどなたなのでしょうか?

吉澤 今回は「青春」をテーマに、私と同世代のミュージシャンを集めて曲を作りたいなと思って、今までに出会った同い年や世代が近いミュージシャンたちと一緒に、初めてバンドを組んだ頃の気持ちに戻って録音しました。この曲のレコーディングは、初めてみんなで一緒に同じブースで録ってみました。ギターを持って、最初はMCみたいなところから入って、「みんな、この日まで一緒に練習してくれてありがとう!みんなに出会えて嬉しい、大好きだよ!じゃあ行きます……」みたいな感じで。どこも直せない一発録りです。

■「ナインティーズ」は同世代の仲間たちということだったんですね。一発録りだからか、声の揺れも印象的でした。吉澤さんいつもはあんまり声が揺れないじゃないですか。

吉澤 録音の時はすごく緊張していて、今までにない感じがしました。初めてバンドを組んだ当時に戻ったみたいな一生懸命さがありました。だから曲が終わった時、なんか涙が出そうになって……。ベースのハマくんも「泣きそうになった!」と言っていて、みんなも気持ちが一つになっていました。

■まさに青春じゃないですか!ところでこの曲はなぜ16歳でも18歳でもなく17歳=セブンティーンなのですか?

吉澤 セブンティーンってなんか特別じゃないですか。私、セブンティーンになるのを楽しみにしていたんです。でも実際に17歳になってみたら、「別にそんなにキラキラしてないな……」って思ったんですよね。それで当時、『甘くもない 辛くもないな セブンティーン』という川柳を作って、曲も作りました。あの頃の自分は「17歳になったからといって、日常が特別なものになるわけではない」と、大人になった自分に伝えたかったんでしょうね。でも今思い返してみると、やっぱり17歳の頃ってフィルターがかかってキラキラしたものとして浮かんでくるんですよ。だから、そういう大人の言葉を聞いて「17歳」が特別なものになるのかもしれないと思いました。

■あー、確かに17歳ってそんな感じがありますよね。生々しい感情がある一方で「雨に打たれて果実よ」って所の色彩感が、すごく吉澤さんらしいなと思ったんです。「打たれた」じゃなくて「打たれて」なんですね。

吉澤 そこは17歳の頃に書いた部分なんですよ。私もここはすごく印象的で、自分のすごく大事な部分が入っている気がして、残したいなと思ったんですけど、その後に続く歌詞が結構ハチャメチャで……。「この後どうやって書こう……」と、録音当日まで悩んでいました。

■若干ここだけ空気が違う感じがするのは、それもあるのかもしれませんね。「飛べない豚は煮て焼いて無邪気に食べられる時代」は、何をイメージされていたんですか?

吉澤 当時、すごく尖っていたんだと思います。今なら「豚」とか歌詞にしないかもしれないですけど、世知辛い世の中というのを高校生ながらに感じていて、それを歌詞にしたんだと思います。今見ると17歳の時の方がなんか冷めた感覚がありましたね。

■すっごくカッコ良かったです。今作の頭には先行リリースされた、映画『アイスクリームフィーバー』の主題歌“氷菓子”が収録されていますが、この曲はMVも公開されていましたね。

吉澤 映画『アイスクリームフィーバー』の映像を、映画館のスクリーンに投影してもらって、そこで私も歌唱しました。映画の監督にMVも手掛けていただいたんですけど、映画館で歌っている私が夢に出てきたらしく、「夢と同じシチュエーションで撮りたい」ということになって。

■Short動画のネオンライトの前で歌っている方もシンプルで素敵でした。シンプルといえば“青春なんて”もすごくシンプルなサウンドで、懐かしい雰囲気の楽曲ですね。

吉澤 「思い返せばあの頃は青春だったな」って、懐かしんでいる今の自分も、未来の自分からしたら青春だったと思うんじゃないか?みたいな、そんな自分の青春観が出た曲です。

■雰囲気が四畳半フォークっぽくも感じました。「おさらば」っていう歌詞はなかなか最近出て来ませんよね……。歌詞みたいにひとり暮らしの部屋から去ったことってありますか?

吉澤 実は無いんです。私はずっと同じところに住んでいます。

■そこはフィクションなんですね。(笑) 今作では“ギャルになりたい”がタイトルに一番インパクトがありました。

吉澤 この曲はタイトルから作りました。昔アルバイトしていた時に、ギャルの先輩がいたんですけど、私が仕事で失敗しちゃった時に「気にしなくていいよ~!人のせいにして、ちょっとだけ自分も悪かったなって思うくらいでいいから!」って言われて、「強いな……」と思って。そういう体験がありました。

■実際「ギャルになりたいな~」って思うことってありますよね。

吉澤 ありますね。明るくて、強くて、友達思いで、人生楽しそうで……もちろんみなさんそれぞれに事情があるのはわかりつつも、イメージの中で勝手に憧れています。

■めちゃめちゃわかります。吉澤さんの中で「ギャル」は何の象徴なのでしょうか?

吉澤 この曲の中ではイマジナリーフレンドですね。落ち込んだりした時に「まぁ、なんとかなるっしょ!」って言ってくれる人がいたらいいなっていう、心の中の支えです。この曲のギャルは、漫画『GALS!』の寿蘭ちゃんのイメージもあります。私の世代だと『GALS!』が大好きな子がいっぱいいて、私も読んでいたんですけど、だから、曲の中にも「リボンを封じて大人になっても」という歌詞があるんです。

■あっ、『GALS!』の掲載誌が『りぼん』だったから……ということですね!一本取られました。それにしてもギャルの強マインドってどこから来ているんでしょうね?不思議です。

吉澤 そう見せている部分はあるとは思うんですけど、私のバイトの先輩はギャルと関係なく強かったです。ただただマインドが強かったのかもしれないですね。

■逆に、強くなければギャルになれないのかもしれませんね。

吉澤 そうなんです、だから私たちが一朝一夕でギャルになれるわけはないんですよ。髪の色を抜いたりしてわかったんですけど、やっぱり見た目だけじゃなれないんですよね、ギャルって。表情とか、首の角度とか、ポーズとか、総合的なんだと思います。

■そんな“ギャルになりたい”に頷きつつ、一番「わかるなぁ」と思ったのは、“夢はアパート”だったんです。この曲に出てくる「生のお魚が食べられないあなた」は、日本人なのでしょうか?

吉澤 日本人です。大学を卒業する時、友達が留学だったか、就職だったかで中国に行ったのですが、その子がお刺身を食べられなかったんです。それで、見送りのために作った曲が“夢はアパート”でした。

■そうなると、これも結構古い曲なんですね。

吉澤 もう作ってから10年くらいは経っています。高校がちょっと特殊な所だったので、大学に入ってから初めて「クラスメイト」という体験をして、「あ、これがクラスメイトなんだ」と思い、仲間に対して初めて良い思い出が作れました。

■学校によると思うんですけど、大学って意外と「クラス」がある所もありますよね。

吉澤 そうなんです。私の大学はクラス分けされていて、ずっとその子たちと授業を受ける感じだったんです。

■そんなお友達と大学時代に、「老後は一緒に同じアパートで暮らしたいなぁ」みたいなことを話していましたか?

吉澤 大学時代に、その子(生のお魚が食べられない同期生)が「いつかみんなで一緒に住みたいね」みたいなことを言い出して「そんなことがあったら楽しいかも」と思い、それを曲にしました。いつか「友達」や「仲間」をテーマにした時に出したいなと思っていたので、今作に収録できて良かったです。歌ってみると、作曲時よりさらにはっきり実感したというか、本当にそんなことがあったらいいなって思いました。