吉澤嘉代子 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

春の空気にのせたニューEP『六花』で綴る青春の影と儚さ。

吉澤嘉代子のニューEP『六花(りっか)』が、3月20日にリリース。2023年暮れに発表となったEP『若草』とあわせて「青春」をテーマに二部作を制作している吉澤。「青春の光の部分」に着目した前作に対し、「青春の影の部分、儚い部分」を描いたという今作『六花』には、TBSドラマストリーム「瓜を破る~一線を越えた、その先には」のエンディングテーマ“涙の国”など6曲が収められている。インタビューでは春にぴったりな楽曲が揃った今作について、制作当時のことを振り返りながら深掘りする。

■新作『六花』は3月20日リリースということで、季節感ぴったりの曲が揃いましたね。年始には前作『若草』のツアーもありましたが、印象的なシーンはありましたか?

吉澤 『若草』のツアーは同世代のミュージシャンと一緒に回って、すごくバンド感がありました。「初めまして」同士のメンバーも多かったんですけど、割とすぐ打ち解けて。ライブが終わってからホテルに着いたら、メンバーから「今ココでご飯食べてるよ!」みたいな連絡があって、「今行くね!」って返信して部屋を出たんです。その時「あ、なんかこれ青春じゃん!」って思いました。

■その感覚わかります。「今から行くね!」みたいなの、なんだか謎のワクワク感がありますよね。(笑) さて、今作『六花』ですが、ドラマ「瓜を破る~」のエンディングタイアップが大きな話題になっておりますね。吉澤さんは原作を読んで原作者の方にファンレターも送りそうになったとか。

吉澤 読みました。原作者の板倉梓先生の物語の中には様々な恋愛の捉え方をしている人がいっぱい登場して、それもこの作品の魅力だと思っています。群像劇なので「このキャラクターって身近にいるあの人に似ているな」と思ったり、「このキャラクターの視線からはこう映っていたんだ」と学びになるシーンがあったり。この作品は愛とか恋とかだけじゃなくて、人と人との関係性ややり取りが優しく、でもドライに描かれていると思います。

■吉澤さんは物語を読む時、登場人物に共感して読むタイプですか?

吉澤 「共感」っていう言葉は取り扱い注意だと思っているのですが、私が物語を読む理由の1つとして、生まれた場所や時代を超え、主人公の人生を一時味わえる、楽しめるというのがあります。誰かの人生を追体験できるというか。それは「共感」とはまた違うかもしれません。

■その感覚を楽しむのがメインという感じなのですね。ちなみに「瓜を破る〜」の中で好きなキャラクターは誰ですか?

吉澤 魅力的なキャラクターばかりなのですが、子育てをしながら働いている菜々のエピソードが好きです。昔付き合っていたのが有名な漫画家で、彼が結婚するというニュースを見て、結婚相手と自分を比べちゃって、ちょっと落ち込んじゃう……っていうシーンがあるんです。でもその時に菜々の夫が「(元カレの結婚相手より)君の方が可愛いと思うよ」って言うんですね。

■わー、それはときめきます!

吉澤 結婚して、相手へのときめきが薄れて、昔の恋人の方が良く見えてきたりするんですけど、その一言だけで劣等感とかそういうものが払拭される瞬間というか……そういうのって小さなことだし、誰にも話さないようなことではあるんですけど、そこを物語として掬い取るのが見事だなと思いました。

■そんな現代劇なドラマの一方で、エンディングテーマ“涙の国”の歌詞はとても幻想的で意外性がありました。歌詞の内容は誰かの一人称なんですか?

吉澤 一人称なんですけど、この曲を作るにあたって「特定のキャラクターに寄せないでほしい」という要望をいただいたので、頭の中で主人公を設定して書きました。実は「星の王子さま」をモチーフにしているのですが、歌い出しの「飛行機が落ちて眠り続けた」っていう所、最初は「仕事を終えて眠り続けた」だったんですよ。そうやってリアリティのある曲にしようかなと思っていたんですけど、「なんかちょっと違うな?」となり、もう少し夢っぽくしようと思って書き直しました。

■どうしてモチーフを「星の王子さま」に?

吉澤 私が1番好きな本っていうのもあるんですけど、「喪失感」みたいなものをテーマに入れようと考えていたんです。それで、「星の王子さま」はお別れの物語だと思うので、そんなモチーフも入れてみました。心象風景にも寄せようと思って、原作が群像劇なので、歌詞が様々な主人公に当てはまったらいいなとも考えています。

■もしかして恋愛や性的なワードは意図的に抜いていますか?

吉澤 そうですね。作品の芯の部分はそこではないと受け取ったので、受け取ったものをそのまま書いた感じです。

■ちょっとセンシティブな質問ですが、吉澤さん自身は生きづらさを感じやすいタイプですか?

吉澤 う~ん……でも生きづらさを感じやすくなかったら曲を書かないと思います。

■言われてみれば確かに。生きやすい人って曲を書かずにお酒とか飲んで発散しちゃいますもんね。(笑) EPの話題に戻って、最初の曲として収録された“みどりの月”ですが、セルフライナーノーツにあった「初めて社会に触れた頃」というのは、吉澤さんにとっていつ頃になるのでしょうか?

吉澤 19歳の頃ですね。大学に通いながら初めてオーディションを受けて、曲を作ったり、ライブをしたりしながら大人と関わっていたのが「初めて社会に触れた頃」で、これはその頃に歌っていた曲なんです。

■この「エメラルドグリーンの瞳」という歌詞には何かモチーフが?

吉澤 そこはメロディと言葉が同時に出てきたという感じでした。19歳の頃はまだよく考えて作るっていうことがあまりできなかったので、この曲は特に感覚的に作っていましたね。

■その時に出て来た言葉が「エメラルドグリーン」だったってことですね。ちょっと感性が尖っている感じもしますし、語彙にも今とは違う雰囲気があります。

吉澤 レジ打ちのアルバイトをしながら、その下でコソコソと曲を書いていたんですけど、今よりもちょっと穿った見方をしていたと思います。心がもっとトゲトゲしていたというか。

■「下を向いて蟻の行列を数えた」の辺りとか、まさにそんな感じですよね。サラリーマンの暗喩のように思いました。

吉澤 当時は「誰が本当のことを言っているの?」といつも疑っていました。自分にとってそれがすごく大事で、「騙されたくない」という気持ちが強くあったんです。

■でも音楽業界に入っていく時期では、その気持ちも大事ですよね。

吉澤 デビューのきっかけとなったオーディションの時は途中から「これは出来レースだ」と思い始めちゃって。(笑) 「私の周りには大人がいないぞ、あのバンドはちやほやされていそうだな、私はきっと大きな渦の巻き添えを喰らったんだ……」とか考えていたんですけど、結局そのオーディションでは自分が優勝したんですよ。その瞬間「出来レースじゃなかった!」みたいな。そんな時期に書いた曲です。

■それは確かに尖っていますね。(笑) でも出来レースではなかったと。

吉澤 この曲については、どこまで話すものなのかちょっとわかんないんです。すごく散文的なので説明が難しいんですよね。これ、歌詞を結構直したんですけど、直しちゃうと良さが無くなっちゃう部分があったので、悩みながらも残したところもあります。

■ちなみに好きな春の詩ってありますか?

吉澤 好きな春の詩……は、すぐにパッと出ては来ないんですけど、『若草』をリリースするまではあまり季節感を入れないようにしてきました。いつ、どんな日に聞いても「リスナーにとっての自分の歌」になってほしくて、これまで季節を伏せて書いてきたんです。ただ、「青春」っていうテーマはすごく季節とリンクしてるので、この『六花』は春をテーマにいろいろ入れています。

■この曲については聞きたいことがいろいろあるんですけど、逆に聞かない方が神秘的かもしれませんね。次の曲“すずらん”ですが、とても綺麗な曲でした。

吉澤 学生時代の、自他の境界線が曖昧な「あの頃」を思い出すコーラスワークになればいいなと思って、三浦透子さんにゲストコーラスとして参加していただきました。私、三浦さんが出演されていたドラマ「架空OL日記」で主題歌を担当させていただいていたんですけど、ちゃんとお話をするのは“すずらん”のレコーディングが初めてでした。すごくカッコよくて魅力的な方でした。

■レコーディングはいかがでしたか?

吉澤 コーラスが多い曲なので時間がかかるだろうと思っていたんですけど、三浦さんがしっかり予習してきてくださったので、すごいスピードで終わってびっくりしました。三浦さんの存在感やお芝居も大好きなんですけど、歌声がすごく好きなんです。三浦さんの楽曲をYouTubeでたまたま拝見した時、「こんなに綺麗な歌声なんだ!」と思って、何かご一緒したいとずっと思っていたんですが、今回の“すずらん”で「今だ!」ってなって。

■「今!」だったんですね。ところでこの曲はなぜ“すずらん”なんですか?

吉澤 すごく可愛らしくて、健気な花だと思って選んでいます。これは割とここ数年で作った曲なんですけど、自分がすごく思い悩んで落ち込んだ時に側にいてくれる人がいたので、その友達の歌を作りたいなと思って書きました。