小出薫 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

小出薫『異物 -完全版-』

■また共演者の方々の印象をお聞かせいただければと思います。『異物』で共演された田中さんが演じられたシュンスケはとてもツンデレな感じの役柄でしたが、田中さんと共演されて、どのような印象を持たれましたか?

小出 「さすがだな、すごい!」と思うところがありました。というのは、普段はニコニコと笑顔で挨拶してくれて、現場でも本当に気さくな方なのですが、シュンスケの衣装に着替えた瞬間に、田中さんの顔はもう冷たい表情になっていて…。目を合わせるのが辛いくらい。(笑) 撮影中はセッティングを待っている時間も二人でソファーに座って待っていたんですが、一言も会話もせずに……。

■まさに役として生きた時間が過ぎた感じだったと?

小出 そうなんです。本作で私と田中さんはほとんど会話もしない倦怠期のカップルの役だったので、セッティング中も特に世間話とかもせず目も合わせずに……。だから胸の内では「怖いな、気まずいな、だけど役の二人はこんな感じなんだよな……。」という気持ちで待ち時間を過ごしていました。(笑) 田中さんはスイッチの切り替えが本当にすごくて、絶妙なタイミングで本当に豹変する感じでした。でも撮影が終わると、またニコニコしながらお話してくれて、それはもうこちらのテンションまで完全に引っ張ってくれるようなスイッチの入れ方で、私も演じる上ではすごく助けられました。

■役者さんという意味では、最後の『消滅』で共演された田辺さんも印象的な方ですね。女優としてはカメレオン女優的な幅広い演技で高い評価を得られている方でもありますが…

小出 今回、共演した役者の方々に本当に助けていただきました。最後に共演した田辺さんは目力がもうすごくて。何も話さず黙って田辺さんの目を見ているだけで、何か感情が湧き上がってウルっとくるものがあって。ラストシーンは本当に特別な瞬間だったと自分の中では思っています。カメラのスタンバイの間、田辺さんと見つめ合って待っているときには時間が止まったような感覚があって、本当に不思議な感じでした。カメラが回る前からもいろいろな気持ちを入れてもらえたんです。引き込まれるものを持った素敵な役者さんだなと思いました。

■宇賀那監督や現場のスタッフとの作業はどのように進んだのでしょうか?

小出 本作はストーリーも展開も突拍子がないし、私自身見たことも聞いたこともないような物語だったので、わからない部分に関しては、監督が本当に丁寧に説明してくださいました。クランクイン前に監督から塚本伸也監督の『鉄男』、デイヴィット・リンチ監督の『イレイザーヘッド』を観ておいてと言われ、監督が表現したいものが理解できたような気がしました。現場の雰囲気は、作風からは意外に思うかもしれないけどとてもアットホームで、スタッフさんたちとも和気藹々としながら撮影が進んでいきました。そんな雰囲気が作れたのも宇賀那監督の人徳なのかなと思います。『異物』のラストシーンは、演出部に加え、照明部、衣装部も一緒になって“あいつ”を動かすのに必死で。全員で大汗をかきながら撮影をしていました。学生時代の部活のような一体感というか、不思議な青春感がありました。

■そういった面で、本作のアピールポイントみたいなところを教えていただけますか?

小出 現実を変えたくてもなかなか勇気が出ずに一歩が踏み出せないという思いは、誰しもが必ず持っているものだと思うんです。みんな孤独と隣り合わせで生きている。この作品は奇想天外ではありますが、最後はそんな人たちの背中にそっと手を添えてくれるような作品になっています。登場人物の心の一部に自分の一面を重ねて頂けたら。あとは単純に楽しんでもらえたら嬉しいです。いろんな解釈をして、泣いたり笑ったり。観た事ないような世界をお見せします。

Interview & Text:桂伸也
Photo:James Ozawa
Stylist:中村もやし
Costume:Jouete

PROFILE
埼玉県出身。大学在学中に女優デビューして以降、映画、ドラマ、CM、モデル、舞台など幅広く活動を展開。主な出演作品は『サラリーマンNEO劇場版(笑)』、『神様のカルテ2』など。2017年日本映画テレビプロデューサー協会主催のアクターズセミナー賞選定オーディションにて「アクターズセミナー賞」を受賞した。
https://www.instagram.com/kaoru_koide/?hl=ja

作品情報
『異物 -完全版-』

2022年1月15日より渋谷ユーロスペースにて公開、以後順次全国公開
監督/脚本:宇賀那 健一
エグゼクティブプロデューサー:中原 隆(サウスキャット)
出演:小出 薫 田中 俊介 石田桃香 吉村界人 田中真琴 宮崎秋人 ダンカン 高梨瑞樹 田辺桃子佐倉仁菜 春野恵 璃乃 宮藤あどね 樹智子 オクヤマ・ウイ ムラタ・ヒナギク フカミ・アスミ
撮影・編集:小美野昌史
照明:加藤大輝、本間光平
録音・整音・効果:紫藤佑弥
音楽:小野川浩幸
ポスタースチール : James Ozawa
助監督:平波亘、伊藤祥、猫目はち、工藤渉
スタイリスト:松田稜平、小笠原吉恵
ヘアメイク:中村まみ、寺沢ルミ、くつみ綾音
特殊造詣:千葉美生、遠藤斗貴彦
VFX:若松みゆき
配給:Vandalism
©『異物-完全版-』製作委員会
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Twitter:https://twitter.com/ExtraneousMatt1
Instagram:https://www.instagram.com/ibutsu_movie/

STORY
カオルは日々の生活に言い知れぬ閉塞感を感じていた。彼氏のシュンスケはご飯を食べるためだけに家にやってきては、「美味しい」とも言わず帰っていく。出会い系アプリのアルバイトも、そこで働いている奴らも下らないことしか喋らず、カオルは大嫌いだった。そんなある日、とあるものがカオルの家にやってくる……。