タランティーノ監督最新作で夢の初共演、1969年のハリウッド黄金時代の光と闇に迫る
2015年の『ヘイトフル・エイト』から4年ぶりとなる、ファン待望のクエンティン・タランティーノ監督最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』。タランティーノが執筆に5年の歳月を費やし完成させたという本作は1969年ハリウッド黄金時代の光と闇を描いた、タランティーノの9作目となる長編監督作。さらにレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットという今世紀最大の2大スターを初共演させたことも反響を呼んだ。そして今回その大スターの二人に、本作について、そして夢の初共演について語ってもらった。
■この『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で、それぞれ演じているのはどのような役ですか。
L 僕はリック・ダルトンを演じているんだ。50年代に大流行したカウボーイ番組で人気者になったけれど、その賞味期限がきてしまった、という感じかな。スタントマンをしてくれているクリフと二人で、何とかまたきっかけをつかもうとしているんだ。二人は変化しつつあるカルチャーを目の当たりにしているだけではなく、自分たち自身がテレビのカウボーイという過去の遺物になってしまっていて、変わりゆく世界の中で居場所を見つけることができないでいるんだ。クエンティンは、映画という芸術様式を愛している最高の映画ファンであることに加え、この業界の歴史家でもあるんだよ。その彼が今回、ハリウッドの外側から内側を覗き込んでいる二人の男の視点に立った。この作品の舞台になっている時代に対する、非常にユニークなアプローチだと思うよ。クエンティンはあの時代に対して、米国史における最も重要な時代の一つとしてだけでなく、映画史上屈指の作品の数々に向かう道筋を作った時代として、敬意を抱いているんじゃないかな。
B 僕は、リック・ダルトンのスタントダブルのクリフ・ブースを演じている。リックとクリフを一人の人間、一人の男の裏と表としてとらえているよ。リックのキャラクターは、人生から理不尽な扱いを受けていると感じているんだ。何があっても十分に満足できず、人生が自分に敵対していると感じているのさ。一方のクリフのキャラクターは、自分の居場所を受け入れて、心穏やかに生きている。何が起きても受け入れて、その時その時でなんとか対処していけるとわかっているんだ。
■今までお二人が共演したことがなかったというのは驚きでした。
B 僕に約15年間出されていた接近禁止命令の期限がやっと切れたんだよ!(笑)
L 昔、「愉快なシーバー家」という番組(85年~92年)には、二人とも出ていたんだけど、実際に共演したことはなかったね。クエンティンとブラッドと僕とで話していたときに、三人とも大体同じような時期、つまり90年代半ばにこの業界で芽が出たということに気がついたんだ。そういう関連性はあったんだけどね。
■お互いに一緒に仕事をしてみていかがでしたか?
L 最高だったよ。ブラッドは素晴らしい役者だよ。実にプロフェッショナルだし、すごく仕事がしやすかったよ。心から安心していられた。一緒に演じているときもそうだったし。クエンティンからそれぞれのキャラクターの背景を事前に詳しく聞かされていたおかげで、アドリブをするチャンスもあったんだ。リックとクリフが何年この業界にいるかとか、辛い時期もクリフがリックを支え続けてきたこととか、二人の歴史についてファイル何冊分もの情報を与えてもらっていたんだよ。だから、自分たちが演じているキャラクターたちの間にある絆についても、二人ともちゃんと暗黙のうちに理解できていたしね。
B レオのことは心から尊敬しているよ。僕は、レオが監督ファースト、脚本ファーストだと考えていることを尊敬しているし、僕もそうするように努めているよ。会うときはいつだって楽しいし。大抵は、みんな仕事がひと段落した年末とかにしか会えないけどね。今回は二人の都合が合って嬉しかったよ。普通はこうはいかないからね。でも今回は一緒に共演できた。貴重な宝物だと思っているよ。
■スクリーン上でも、レオとブラッドとの間には心地よいケミストリーが感じられました。それは努力の賜物なのか、それとも自然に生まれたものなのでしょうか?
L その大部分はクエンティンのおかげだね。クエンティンは、僕らが演じる男たちの歴史について小説が書けるくらいの情報を与えてくれるんだ。だからブラッドも、二人が携わった過去の作品や二人の関係、二人がどんな経験をしてきたか、伝記1冊分くらいの資料を読んでから撮影現場に入ったはずだよ。ブラッドは素晴らしい才能の持ち主である上に、撮影現場でもすごくプロ意識が高いんだ。おかげで二人ともすんなり役に入り込めたよ。彼らがどんな男たちなのか、ハリウッドにおける二人の関係がどんなものなのか、お互い本能的に理解していたんだよ。
B 僕らはほぼ同じ時期に売れだしたし、クエンティンもそうだからね。だから三人とも基準となるものが似ているんだよ。ある意味、同じサークル/社会に属しているようなものだから、すぐに心地良い、気安い関係になれたんだ。オールスター・キャストの一人ひとりが、ベストを尽くしてくれたからね。
■お互いに、相手に食われると心配したことがありましたか?
L いや、一度もそういうことはなかったと思うよ。僕らは、自分の役柄にとって正しいことをするだけだから。
B 僕はレオを尊敬しているし、レオも僕を尊敬してくれているよ!逆に作品全体を自分一人で背負わなくてすむという安心感もあったくらいだよ。(笑)
■クエンティンとはそれぞれ以前にも一緒に仕事をしていますね。彼から学んだ大切なことはありますか?
L この業界で優れた芸術品を作る人たちがみんな持っている一貫性が彼にはあると僕は思うよ。そういう監督たちは、映画史を心底理解しているんだ。中でもクエンティンは、名作映画の歴史だけでなく、僕が聞いたこともないようなB級映画や三文作品の歴史も知っているんだ。そういう失われてしまったような作品でも、彼はちゃんとコピーを持っているんだよ。僕が聞いたこともない音楽やテレビ番組のことも知っているし、映画史から消え去ってしまったような俳優たちのフィルモグラフィーも完璧に把握している。この映画は、もしかしたら忘れられてしまっているかもしれない人たち、あの当時、成功しようともがき苦しんで、成功できなかったけど、それでも彼らなりに貢献をしていた人たち全員へのオマージュなんだ。いろいろな意味で、それがキャラクターたちを作るきっかけとなるかもしれないと僕は思っているんだ。この業界に貢献した彼ら、クエンティンは大好きなのに、僕や僕の世代の人間はまったく知らないような彼ら、歴史上から消えてしまったかのような彼らを認識することがね。だから、クエンティンは、エド・バーンズやタイ・ハーディンなど、さまざまな人たちのことを僕らに教えてくれたんだ。「このラルフ・ミーカーという役者を見てみろよ。彼は決してロバート・デ・ニーロや(マーロン)ブランドではないけど、この業界で彼がやったこと、業界に対する彼の貢献を見てみろ。彼の時代や、君たちが聞いたこともない変てこなテレビ番組を見てみろ」ってね。だからこの映画は、この業界やクエンティンが愛する芸術形式に貢献しながらも、一般的には知られていない人々に対する、クエンティンからのオマージュだと僕は思っているよ。また、そんな人たちが味わったかもしれない気持ちを描いているんだ。わかるかな?究極のスターの座を手に入れるための一回きりのチャンスを目指す旅、探求なんだ。この二人の男たちに対するクエンティンのアプローチで僕が気に入ったのはその点なんだよ。この映画は、この業界に宛てた彼からのラブレターなんだよ。
B 僕が彼から学んだのは、プロセスの楽しさだね。彼はテイクを撮るために、いい話を中断するようなことはしないんだ。テイクの合間にいい話をしていれば、まずその話を終えてからテイクを撮る。最高のテイクを撮るんだ。その過程を大いに楽しんでいるんだよ。彼の現場は本当に楽しいよ。彼は映画やテレビやその歴史、そして先人たちについて話すのが大好きだよね。エフェクトに関しては、昔ながらの方法を断固として守る人だし。フィルムに収めておきたいんだ。その方が難しいからね。ズルはできない人だから、ワンテイクで撮るショットであれば、ちゃんとワンテイクで撮る。そういう意味では、純粋主義者なんだろうね。本当に感心するよ。彼が書く会話についても発見したことがあるんだ。彼以外では、コーエン兄弟の脚本でしか見られないんだけど、彼の台詞にはリズムがあって、言葉をちょっと変えたり、「えー」とか「あー」とかを挟んでしまったりすると、音楽のような台詞が台無しになってしまうんだ。ものすごく精密にできているし、ものすごく美しいリズムなんだよ。まるで歌を歌っているようだよ。