時代ごとの若気の至りを振り返る――王道アリプロのサウンドに立ち返った『若輩者』を語る。
ALI PROJECTがニューアルバム『若輩者』を6月26日にリリース。今年、メジャーデビュー32年目となるALI PROJECT。まだまだ若輩者であるという気概も込められている今作には、片倉三起也がALI PROJECT結成以前に作曲したという楽曲をリアレンジした“若気ノ至リ”をはじめ、新曲4曲を含めた10曲が収録される。
今回は、ALI PROJECTの片倉三起也、宝野アリカにインタビューを敢行。インパクト大のジャケット写真についてや、各新曲に込めた思いなど、たっぷりと話を訊いた。
■メジャーデビュー32年目にして、今回のアルバムタイトルを『若輩者』と名づけたのにはどんな理由があったのでしょう?
宝野 片倉さんが、あえて若いという字を使ってみたいと言っていて。そうなると思いつくのは若気の至りとか、若者とか、若人とか、若輩者かなと。若気の至りというタイトルだったら、ちょっとコミカルな感じがするし、内容もそういうアルバムになるのかなと思ったんですけど、アリプロっぽくなさすぎるかなと思って『若輩者』にしました。
片倉 今までいろんな時代に作った曲があって、気負って作った曲もあるし、僕はちょっと駄目だなと思って作った時もあるし、僕は天才だなと思って作っている時もあって、いろんな機微がある。それらを全てひっくるめると、やっぱり若気の至りで作っているなと思うんですよね。なので、僕たちが若気の至りで音楽を作ってきた若輩者だという意味を込めています。あとは「お前たちはまだ若輩者じゃん」と、上から目線で言うような意味もある、ダブルミーニングのタイトルになっています。
■今回のジャケット写真も斬新です。こういった尖ったジャケット写真は、最近少なかったように思います。
宝野 そうなんです。今まではジャケットを作る時に、「ビョークみたいなやつがいい」と言っていたんですよ。ちょっと尖っていて、アートな感じがするし。『流行世界』とか、『芸術変態論』とか、その辺りの時はそう言っていました。でも最近は全くそう思わなくなってきていたんですよね。今回は、しばらく黒ゴスみたいなのをやっていないから、そういうのをやりたいなと思ったんだけど、片倉さんは昭和のスケバンみたいなやつがいいと言っていて。今思うと、スケバンバージョンも撮っておいてもよかったかなと思うんですけど。(笑) 結局少しゴスっぽく、でも若輩者の感じもあるような、ダークなジャケットになりました。
■宝野さんが持っている釘バットが存在感を放っていますよね。
宝野 これは「この若輩者めが!」ってやりたいなと思ったので、武器が必要だなということになったんです。今までもいろんな武器を持っているんですよ。剣も持ったし、日本刀も持ったし、機関銃も持ったし。また剣を持つのもなぁ……と思ったら、片倉さんが「ヌンチャクとか釘バットとかはどうだ?」と言い出したんです。
片倉 昭和のヤンキーが却下になっちゃったので、名残を残そうと思ってね。
宝野 だから釘バットで昭和感を出すつもりだったんだけど、衣装を作ってくれているカイエさんは、「アリカさんが持つんだからお洒落じゃなきゃいけない」と言って、「お洒落釘バットを作ろう」ということになって。なので、最初は釘バットにスワロフスキーとかをつけてキラキラにしようと思ったんだけど、作っている時に「キラキラいらなくない?」という話になって、これに落ち着きました。
■アルバムの内容はというと、提供曲のセルフカバーや、配信リリースした楽曲も5曲収録されています。
片倉 委嘱作品などを聴き返してみても、どこか若気の至りだなと思ったりするわけですよ。なので、そんな若気の至りくんたちをCDにして掬い上げてやろうかなという感じですね。しかも5曲もあるので、その分新しく作曲しないといけない曲数が減るじゃないですか。(笑) あと、CDという幻想があるんです。委嘱先の作品としてCDになっている曲もありますけど、アリプロとしてCDにしないとつまらないなという気持ちもありました。
宝野 配信リリースを2回続けてやっていたので、CDにならない物足りなさを感じていたんですよね。今までシングルを出すとなったら、衣装を作ったり、ビジュアルを考えたりしていたわけじゃない?そういうのが一切ないから、思い入れもないんですよね。
片倉 そう。今時CDって古いアイテムなんだけど、そうは言ってもね。
■『若輩者』というタイトルやコンセプトが決まってから、どのように新曲を作っていったのでしょうか?
片倉 アルバムのコンセプトが明確になってから、その時代ごとにどんな若気の至りをやってきたかを思い出したり、感じたりしたいなと思ったんです。最初に取り掛かったのは6曲目の“若気ノ至リ”だったんですけど、この曲は1982年か83年か、そのあたりに書いた曲なんです。宝野さんと出会うずっと前ですね。僕がスリーピースバンドをやっていた時代に作詞・作曲した、スカビートの曲です。そういうのは間違いなく若気の至りじゃない?それを紐解いて作り直しました。
■当時のテープなどを聴き返したりもしたんですか?
片倉 どこか探せばカセットテープがあると思いますけど、再生するものがないし、探すのも大変だったので、頭の中で思い起こしました。でもサビは変えてあります。あと間奏のロシア民謡みたいな部分も変えています。
宝野 間奏は思い出せなかったんでしょう?(笑)
片倉 そう。間奏が思い出せなくて。サビは覚えていたんだけど、宝野さんが歌うんだからちょっと変えてもいいかなと思って、あえて変えました。
宝野 そのカセットを昔聴いたことがあるような気がするんですよ。「た~だの~……」
宝野・片倉 「黒胡椒~」
宝野 っていう歌詞だった。(笑)
■(笑) 歌詞は宝野さんが新たに書いているんですよね?
宝野 そうです。これは“若気ノ至リ”というタイトルで書こうと決めて書いた曲です。阿呆なんだけどちょっと賢い若い男の子という想定です。
片倉 そう、阿呆な片倉の曲だよ。
宝野 別に片倉さんというわけではないけど、一般的な男の子という感じで書いていきました。とにかく「わかげげげげ」と歌いたいなと思ったので、どうやってそれを入れるかを考えていましたね。
■「ただの黒胡椒〜」という一節だけでもかなりインパクトがありますが、元々の歌詞はどんな内容だったんですか?
宝野 シュールだよね。片倉さんの書く歌詞はシュールだった。だって「ただの黒胡椒」でしょ?その次はなんだっけ。
片倉 メロディは分かるんだけど、歌詞が思い出せなくて。でも変な歌詞なんですよ。なんの意味があって書いているんだろう?っていう。
■それが今回“若気ノ至リ”となって収録されたわけですが、いわゆる王道ALI PROJECTの楽曲とは違った、シンプルなサウンドだと感じました。片倉さんの作曲人生の中で、どんな道のりを辿って現在のようなアリプロサウンドに至ったんですか?
片倉 元々はロックをやっていたんです。それがそのうちに飽きて……というか芽がでないから、いろんなことを勉強していくわけですよ。この曲だって、Aメロ、Bメロは面白いコード進行をしているんです。当時こういうことをやる人はなかなかいなかったんだけど、だからこそ売れっこないんです。そういうことを繰り返していましたね。ちょっと人気のある女の子3人のバンドを見つけて、そのバンドを呼んで僕が歌ったらレコードが出せるんじゃないかと思ってデモを録ったら、知り合いの音楽プロデューサーに僕だけクビだと言われちゃったり。(笑) そういうことがたくさんあって、忸怩たる日々が続くわけじゃないですか。だけどある瞬間に、僕は作曲だったらできるんだと気付いたんです。ヒット曲を書く能力はないけど、面白いものは書けそうだなと。そんなときに宝野さんと知り合って作り始めたのが、アリプロの原点です。若気の至りですね。
■そんな歴史の詰まった楽曲の一方、今回収録された新曲の中で一番最後に出来上がった曲はなんですか?
宝野 “日本弥栄”かな。
片倉 これは行き当たりばったりで作った曲ですね。音楽って、大体テーマ性を持って作るでしょう?特に委嘱作品はそうですし、そうでなくてもAメロをこうしたいなとか、楽器は何を使おうとか、音楽的な構想や方向性を決めるじゃないですか。この曲は、そういうのが全くない状態で作った曲。だからすごく構成が多いんです。でも、作曲ってその方が自然なんじゃないかと思ったりもしました。そんな作り方をしたものだから、アリプロの曲として新しいものはなにもないですけどね。よく気負って「作曲は発明だ」とか生意気言っているけど、そんなものはなにもないです。
■ただ、前回のアルバム『天気晴朗ナレドモ波高シ』を聴いた後だと、むしろ新鮮に聴こえるのが面白いなと感じました。『天気晴朗~』はギターがフィーチャーされていたアルバムでしたが、それを経て王道アリプロに戻ってきたことで、新鮮に聴けるというか。
宝野 みんなそういう風に言いますね。
片倉 でもアリプロとして自然な感じがしますよね。
■“日本弥栄”は歌詞で一気に景気が良くなっている楽曲ですよね。
宝野 そうですね。「弥栄」という言葉を最近知ったんです。ますます栄えるという意味で、万歳の代わりだったり、乾杯の時にも使う言葉みたいで。いい言葉だし、次に大和ソングを作るならこの言葉を使おうかなと思っていたんです。この先私は、ディストピアな救いようのない歌を書いていきたいんだけど、でもやっぱり希望とか明るい気持ちを歌ってみたいという気持ちもあって。そんな明るい未来はもう来ないかもしれないけどね。それでこういう歌詞になりました。曲に合う歌詞でしょう?
片倉 それはそうですよ。でもアレンジはちょっと困ったんです。最初、オーバーハイムみたいなアナログシンセとか、昔の楽器を使ってアレンジしてみたんです。ドラムはRolandの808にして。絶対にそうした方が面白いと思ったんですけど、全然面白くなくって。次はギターサウンドにしてみたんですけど、難しいコードをたくさん使っているから、ギターでは表現しきれない。結局、オーケストラがあったり、ピアノがあったり、アリプロが今までやってきたサウンドに落ち着いてこうなりました。でもそういう音だったから、宝野さんもこのテーマで書けたんだと思います。
宝野 そうね。違う音だったら違う切り口になったかもしれない。歌詞を作る時は音やメロディーに引き出されることが多いわけですから。