■アルバムタイトルを冠した“若輩者”はどんな制作でしたか?
宝野 この曲を“若輩者”にしようというのは、後から迷って決めたことでした。この曲、“亡國覚醒カタルシス”と同じじゃない?わざとそうしたんだよね?
片倉 僕の場合、一度作った曲と同じものは作りたくないので、作った曲は記憶から捨てるようにしているんです。そういうのを作ったことを忘れるというか。生意気にも「音楽は発明だ」と言っていた向こう気の強い僕は、それが一番いいと思っていたんです。でも思い起こせば、この頃の“聖少女領域”とか、“亡國覚醒カタルシス”とか、ちょっとヒットした曲の頃って楽しかったし、いい曲だと思うものもあるし、その時代の若気の至りだったと思うこともあって。今回のアルバムタイトルは『若輩者』なんだから、若気の至りの時代の曲をもう一回引っ張ってきて、同じように作ってみようと思って作った曲なんです。
宝野 よく他のアーティストの人で、一度大きくヒットすると、次のシングルも似たような曲を作ったりするじゃない?私たちは15年経ってそれをやるっていう。(笑)
■今までそういうことをやられてきていなかった分、ある意味新鮮でもありますね。
宝野 やり方は新鮮ですよね。私も最初は「これ“亡國”じゃん!」と思ったので、何回も聴いて、亡國を消そうと思って。そして何回も聴いているうちに違う世界が出てきました。
■歌い方としては若輩者というよりも、むしろパイオニア感がありますよね。
宝野 私が歌うんだし、若輩者の意味をどうやって取ろうかとは考えました。最近よく思うんですけど、「年寄りは若い人たちに合わせなきゃいけない」みたいな感じになっていくじゃない?若い方が偉いみたいな。そうじゃなくて良くない?って思うんですよね。
片倉 それは日本の文化だから。
宝野 もうちょっと上を崇めろよって思います。(笑) 何か言えばすぐパワハラになっちゃうし。せっかくみんな年を重ねて成熟してきたんだから、「若輩者に合わせなくてもいいじゃない」という気持ちを込めた歌詞になっています。でもずっと若者文化よね、日本って。
片倉 江戸時代とかは違うでしょう?
宝野 最近のこと。明治とかも全然そうじゃないから。
■どうして若者文化になっていったのでしょうね?
片倉 需要と供給の話でもあるんじゃないですかね。レコード会社の方だって、CDを売るためには若い子たちに売らないとしょうがないって言うわけですから。音楽に限らず、そういうことがあるんじゃないですか?
宝野 もうちょっと大人の文化が発達していけばいいのに。
片倉 大人の文化って例えば何?
宝野 例えばヨーロッパとかに行くと、夜になると大人がみんなカフェで遊んでいるんです。子供たちはウロウロしていないし、大人のマダムたちがカフェでお酒を飲んだりしている。それがいいなって思うんですよね。
■そういった余裕は日本の大人にはない場合が多いかもしれないですよね。経済的にも、時間的にも……。
宝野 そうだよね。遅くまで仕事しているもんね。フランス人とか、働いている感じがしないんですよ。昼休みも長いし。向こうでレコーディングをやっても、昼休みを2時間くらい取らないといけないんです。その間はお店も開かないし。
片倉 スタジオ代も高いのにね。抑えているんだから働いてよって思うんだけどさ。(笑) まぁそういう働き方も素敵だと思いますけどね。
■“若輩者”のサウンドや構成が“亡國覚醒カタルシス”を彷彿とさせる一方で、“反國陰謀ディストピア”は、曲名がなんとなく“亡國~”に似ていますよね?
宝野 これはとにかく前回の“絶途、新世界へ”みたいな内容で、それよりもっと希望がない歌詞を書きたいと思って書いた曲です。希望がないというか、「世の中に騙され続けて家畜のように生きるのか、お前らは」みたいな。「家畜」という言葉を使いたかったんです。「民衆は家畜である」みたいなね。
■家畜という言葉も、曲から引き出された言葉なんですか?
宝野 これは違います。最初から使いたいなと思っていました。
片倉 曲としてはよくアリプロにある曲ですよね。『A級戒厳令』とか『芸術変態論』とか、2015、6年にはこういう感じの曲を作っているはず。若気の至りですね。全然発明でも進化したものでもないです。
宝野 でも私は結局こういうのが好きなんですよね。
■終盤、トラックがなくなって宝野さんの歌だけになる部分が特にカッコいいですね。
片倉 宝野さんの歌を聴いたり、歌詞を見ていて、トラックダウンする時に思いついたんです。
宝野 これカッコいいですよね。その部分は、自分は反抗しているんだけど、自分も操られてしまって、だんだんわからなくなっていくんじゃないかという気持ちを書いています。しかも本当に民衆のことを考えているのは自分たちなのか、その陰にいる人たちなのかも分からなくなっていくという。
片倉 やっぱり歌が入るとちゃんと魂が入りますから、何事も試してみないと分からないですよね。
■そして今回もインスト曲が収録されています。“含羞草”はどんなテーマで作ったのでしょうか?
片倉 これは、聴いた方が安眠できるように作りました。
宝野 できるかもしれない!
片倉 オジギソウって、触るとひゅっとお辞儀のようになるでしょう?同じように、この曲を聴いたらふにゃっとなってしまうような、そういう曲です。タイトルはオジギソウの別名である、ネムリグサの方の読みにしています。
■そして通常版限定曲として、“幸福の王子”が収録されています。これは“狩猟令嬢ジビエ日誌”の歌詞違いなんですよね?
宝野 そうなんです。“狩猟令嬢ジビエ日誌”の収録をした後、しばらくしてから突然こういう歌詞でも書けるなと思って。後から少し直しましたけど、その時に割と一気に書けました。
片倉 普通書かないですよね、一回書いた歌詞の別バージョンって。
宝野 そういうのがたまにあるんですよ。“帝都乙女決死隊”の時もそうだった。でも、「この歌詞もできたからもう1個も歌いたい」とはとても言えず、いつか歌う時に取っておこうかなくらいの気分だったと思うんですよね。この歌詞のデータがすごく昔のパソコンの中にあったから、見つからないかなと思ったくらいだったけど、ちゃんと残っていました。
■ご自身が歌詞を書いて歌ってから、全く別の歌詞が浮かび上がるというのもすごいですね。
宝野 浮かび上がってしまったんです。曲のおかげというのもあるんですよ。歌いやすい言葉が自然に出てくるメロディがたまにあるんです。反対にすごく考えないと当てはめられない曲もありますけど。でもこれは『快楽のススメ』の時だから、2015年に書いている歌詞でしょう?2011年から日本でも子供の臓器移植ができるようになったので、もしかしたらドキュメンタリーかなにかをその時に見たのかもしれないですね。
■“狩猟令嬢ジビエ日誌”の歌詞は狩りをする歌詞ですし、生きる死ぬといった内容が書かれているので、そういう意味では“幸福の王子”と一応深層で繋がっているようにも思えます。
宝野 そうかも!今気が付いた。“狩猟令嬢ジビエ日誌”は自分が狩って、最後は自分が狩られるだろうみたいな歌詞だったけど、“幸福の王子”は死ぬんだけど、また生きるみたいな内容ですからね。確かに。いつか2曲続けてライブでやってみたいですね。
■7月にはこのアルバムを掲げたツアーが控えています。どんなツアーになりそうですか?
宝野 今回はすごい迷っていて、まだ全部は決まっていないんです。若輩者ということですし、若気の至り的な曲を出しながらやっていこうかなと思っています。
Interview & Text:村上麗奈
PROFILE
世界に誇るJapaneseサブカルチャーのビッグネームとして君臨し、現代アート・ミュージックを自負する宝野アリカ(作詞&ボーカル)と片倉三起也(作曲)のユニットALI PROJECT。1992年デビュー以来数々のCDを発表。数多くのアニメ主題歌を手掛けるだけでなく、定期的にオリジナルアルバムをリリース。ツアーの他、オーケストラでのコンサート「月光ソワレ」も不定期に開催。浪漫主義的“白アリ”から目眩く疾走感の“黒アリ”まで、枠に嵌らない様々な音楽形態、独特のヴィジュアルパフォーマンスで、聴く者観る者を異世界へと引きずり込む。その唯一無比のスタイルには熱狂的な支持層が存在し、国内においてはヴィジュアル系からアニメまでの幅広い層からリスペクトされる稀有な存在。芸術性の高さは海外からの評価も高い。カテゴリーされるのはアニソン、J-POP、V系のどれでもない、まさに「ALI PROJECT」というジャンルである。
https://aliproject.jp/
RELEASE
『若輩者』

初回生産限定盤(CD+DVD)
TKCU-78130
¥5,800(tax in)

通常盤(CD)
KCU-78140
¥3,100(tax in)
徳間ジャパンコミュニケーションズ
6月25日 ON SALE