ALI PROJECT VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

ALI PROJECT『Belle Époque』

ALI PROJECT、ニューアルバムは「30年間美しい時代を築いてきた」証

来年デビュー30周年を迎えるALI PROJECTが、12月22日にオリジナルフルアルバム『Belle Époque』をリリース。「美しき時代」を意味する本作で2人が提示するのは、アリプロが30年間積み重ねてきた美しい音楽の歴史。様々な国や時代を巡るように鮮やかに空気感を反映した『Belle Époque』のそれぞれの楽曲について、作詞とボーカルを担う宝野アリカと作曲の片倉三起也2人に語ってもらった。

■ニューアルバム『Belle Époque』は、30周年を記念するアルバムになったと思います。ひとつの節目として意気込んだ部分はありますか?

片倉 意気込みましたよ。アルバムタイトルから先に言うと分かりやすいんですけど、僕の方で最初に考えたのが「国宝」というタイトルだったんです。一生にひとつくらい、僕たちの国宝になるような曲を作りたいと思っていたんです。30周年ということで一回アリプロに楔を打つって感じだったんだけど……ところがね。

宝野 「国宝」だとちょっと歌詞も書きにくいじゃないですか。(笑) やりにくいと思って違うタイトルを考えていた時に、何かで「ベル・エポック」というのを見て、これアルバムタイトルにいいんじゃないかと思って。歌詞もそっち方向に気持ちを向けて書いていきました。

■ベル・エポックは「美しき時代」とか「良き時代」という意味がありますよね。それは現実の時代感との関連性もあったんですか?

宝野 そういうことよりも、30年間ALI PROJECTは美しい時代を築いてきたので、「30年を区切りにして、これからも」っていうことですね。今の時代がどうかっていうのは歌詞の中でいろんなことを書けるなとも思って。今が美しい時代かは分からないですけど……。

■音はテクノっぽい音色が多いなと感じました。

片倉 もっとグロテスクな曲を書いたりすると、重厚なオーケストラになる傾向があるんですけど、今回は結構こういう音が入っていますね。それこそ30年前からそういう音をさらっていて、昔からそういうことをやっているんですけど、きっと好きなんでしょうね。美しい弦楽器も入っていますけど、そこに汚い金属音などが入ったりするのが好きなんです。そういうミスマッチが好きなんですよね。

■1曲目は“アタシ狂乱ノ時代ヲ歌ウ”です。アルバムタイトルとは反して、狂乱の時代の歌です。

宝野 ベル・エポックがあれば、その後には狂乱の時代が来るから、その狂乱をアリプロっぽく使えるなと思って。曲がめくるめく感じだったので、歌い方も変えたりしました。

■そうですよね。歌い方が3、4種類あるなと思いました。

宝野 そうなんです。最初は中森明菜さんみたいに歌うとかしました。

片倉 僕が「明菜ちゃんみたいに歌って」とか、「演歌系で」とか、そういうことを言ったりするんですよ、表現しやすかったりするから。(笑) 曲はアリプロ特有のゴシック系に作りました。でもこのアルバムタイトルにゴシックってあんまり関係ないので、狂乱の時代の歌にしてもらってよかったなと思います。

宝野 でも最初はどういう歌詞にしようかと思ったんです。展開があるメロディだと歌詞を作りにくいというか。世界が変わるような展開の仕方なので、そういう時は現代詩風の歌にすることが多いですね。

■2曲目“転生離宮へ”はいかがでしょうか?

片倉 これはフルオケでやると気持ちいいんですけど、今回はソフトで自分でやりました。(笑) アリプロのジャンルでいうとクラシカルな側面の曲です。

宝野 最後の方にできた曲なんですけど、最後の方になってくると飽和してきて、何を書いていいのか悩むんですよ。これもいろんな書き方ができて、例えばローゼンメイデン系みたいな歌詞にもできるし、どうしよう……と思って。なぜか生まれ変わりの曲になりました。10月にシングルを出したんですけど、それも宇宙っぽいイメージだったから、それに通じるような歌詞になったかなと思います。

■「宇宙に抱かれ」っていうスケール感がすごく大きいですよね。

宝野 大きいですね。空の彼方にお城みたいなのがあって、生まれ変わるまでそこで待つ、その間の気持ちみたいな。まだ死んでいるわけではないんですけど、そんなイメージで書きました。

■“大正撫子モダンガール”はどういった背景で書かれたんですか?

宝野 「あぐり」っていう朝の連ドラがあるんですけど、この曲を作っている時にたまたまテレビでやっていたので、改めて観たんです。美容院で長い髪の人がおかっぱにするシーンを見たり、今でもそういうスタイルをやっている人のドキュメンタリーを観て、すごい素敵だなと思ったんですよね。大正時代っていい時代だと思うし、生まれ変わるならあの時代に生まれたいとも思う。昔も今も最先端のオシャレを切り開いていこうとする女の子たちは同じだなと思ったので、そういう気持ちが歌詞に入っています。

■女性像が表われている歌詞だと感じました。ご自身に通じるものも含まれていますか?

宝野 声高に自分を主張する女性ってこの時代にもいたと思うんですけど、そうやって高らかに主張をするような女性にも憧れるけど、そうじゃなくて、女性としての可憐さとかオシャレさとか、そういうのを大切にしている女の子の方が実は強さを持っているんじゃないかっていう気持ちもあって。ヒステリックに叫ぶおばさんとか嫌じゃないですか。(笑) 綺麗でいて欲しい。そういうことをもっと直接的に書きたいけど、そうしたらパンクになっちゃうでしょ?パンクやりたいなあ。(笑)

片倉 パンクいいね!

■“Café d’ALIで逢いましょう”は、ALIという言葉が曲名に入っているのも含め、少し他とは違った立ち位置にあるように思います。

宝野 今までアリプロは何枚もアルバム出しているでしょう?それを全部聴いている人なら分かる単語が歌詞の中に出てくるんです。これが全部分かる人は本当にアリプロが好きな人だろうから、そういう人たちと「前世からの約束で巡り合いましたね」っていうことを歌っています。バーだとかレストラン、料理店とかは今までに書いてきたけど、カフェは一回も出したことないなと思ったので、みんなで集う場所をカフェにして「Café d’ALI」と名づけて、「またこの次も会いましょう」みたいな。それでここがみなさんの宝のありかみたいな場所ですよって。優しい曲だったのでそういう歌詞にしたんです。

■イントロではパガニーニの“カプリース第24番”が使われていますね。

片倉 パガニーニって超絶技巧のものすごい上手いヴァイオリニストなんですけど、演奏すると女性が失神しちゃったり、倒れちゃったりするんですよ。だから本来はそれをテーマにしたくて、パガニーニのヤバさをテーマにどす黒い曲を書こうという風に思っていたら、この歌詞が来て、最初の切り口とは違うものになりました。パガニーニさんにちょっと申し訳ない。(笑)

宝野 本当だよね。(笑) これはこれでいいけど。

■曲のイメージと歌詞のイメージって最初に共有することはないんですか?

宝野 する時もありますよ。でもこれは優しい曲だから、優しい感じかなと思っていました。

片倉 そんなはずじゃなかったけど。(笑)

宝野 その話は後から聞いたから「え~!」って思いました。

■次の“恋闇路”は8bitっぽい音色から始まりますね。

宝野 本当だ。ゲーム音楽っぽい。

片倉 この音って元々こんなに汚くないんですよ。エフェクターで歪ませてわざと汚くしているんです。こういうアレンジじゃなかったら、この曲は歌謡曲になるかもしれないね。

■確かにそうかもしれないですね。歌い方もちょっと演歌みたいだなと感じました。

宝野 そうなんですよ。これを歌っている時、「氷川きよしさんに歌ってもらったらいいな」とか思って。(笑) 曲をもらった時に、片倉さんから「河鍋暁斎とかのちょっと変わった日本画みたいな歌詞にしたらどう?」って言われたんです。河鍋暁斎ではないけど違う人が描いた金屏風の絵があって、男女が心中に行く絵なんですけど、すごく好きだったのでそれをテーマに書こうと思いました。

■“ドリアンヌ嬢の肖像”も絵画をテーマに書かれていたりするんですか?

宝野 この曲長いじゃないですか。長いと歌詞を書くのが一筋縄ではいかないので、物語風の起承転結で書くとハマりやすいんです。それで歌詞を考えていたら、「我が名はドリアンヌ」ってふっと浮かんで、「え、ドリアンヌって誰?」って。(笑) 「我が名はノスフェラトゥで、吸血鬼の歌でもいいかな?」とも思ったんだけど、なんかドリアンヌっていうから。(笑) オスカーワイルドの『ドリアングレイの肖像』ってあるじゃない?それの女の子版にして書けばできるかなと思って書きました。『ドリアングレイの肖像』とは結末を全然違うものにして、美や若さに執着する女性の歌にしています。自分は絵を刺さないでこのまま生き続けようっていう。だからお話を知っていれば分かりやすいと思います。

■実在するドリアンヌ嬢という人物がいたわけじゃなくて、ふっと出てきたんですね。(笑)

宝野 出てきたの!たまにそういう人たちが出てきます。(笑)

片倉 正しい歌詞の書き方だと思いますけどね。

宝野 でしょう?『ドリアングレイの肖像』をどういう風に書いていくか考えましたね。静かな闇を感じます。この曲がパガニーニの続きみたいな曲なんでしょ?

片倉 そうですね。パガニーニの対比で作ろうとしていた曲です。AメロBメロをチェロの5重奏で作っています。