■“君影草”はスズランの別名なんですね。
宝野 私も最近知って、綺麗な呼び名だなと。綺麗なバラードだったらそれにしようと思っていました。
■その名に似合う美しい楽曲ですね。
片倉 僕はこの曲が一番好きなんですよ、シンプルで。アリプロの曲ってよくドラスティックに転調して、いきなり世界が変わる感じを狙うことが多いんですけど、これはあんまりわからない感じの転調なんです。BメロからCメロにいく時の転調がすごい上手にできたなと自分でも思います。宝野さんに美しいバラードを歌ってもらいたいなという気持ちを込めて作りました。
■“令和燦々賛歌”は令和の曲を作ろうと?
宝野 “昭和恋々幻燈館”ていう昭和を歌ったジャズアレンジの曲があるんですけど、それの令和版を作ろうっていうことで、ジャズのアレンジをすることを前提に作りました。ジャズの時はアレンジャーに頼んでいるから、アレンジしていない状態で歌詞を書いていたんですけど、最初はもっと嫌な時代みたいな歌にしようと思って。嫌なこといっぱいあるじゃない?
片倉 嫌なことを前向きに捉えられるものにしようってね。
宝野 そうそう。だからもっと皮肉ったような歌詞を書いていたんだけど、ジャズのアレンジを聴いたらすごくゴージャスで綺麗だったから、「こんなことがあるけど希望を持とう」みたいな歌にした方がいいなと思って、途中から変えました。
■そして“日出づる万國博覧会”に続きます。
宝野 これは最後の方になってきて、「どんなのにしよう?」って言っていたら、片倉さんが「万博の曲にしようかな!」というから、すごく楽しみにしていました。「子供たちも一緒に行くみたいな曲にしてよ」って言って、予想以上のものができました。“日出づる万國博覧会”っていうタイトルは、最初からいいなと思っていたんです。「日出づる」は日本っていうことだけではなくて、どの国でも日は昇るし、新しい時代があるっていう意味でもあって。美しいものを飾る博覧会。この曲すごい好きだな。
■万博にしようっていうのは、どうして浮かんだんでしょうか?
片倉 ベル・エポックの時代にもパリ万博やウィーン万博があったりしましたよね。当時は世界各国から芸術とか、テクニカルな技術とか、いろんなものが結集していたと思うんです。美しい時代の中には絶対に万博があるっていう時代的なものと、アリプロの音楽の万博っていう意味も含めています。アリプロの曲って黒アリや白アリをはじめ、いろんな要素があるじゃないですか。そういうものを博覧会にしてみたいっていうのを含めて作ってみました。
宝野 「みんなの歌」に使ってもらえないかしら!
■10曲目はインストの“Art de Vivre”です。フランス語で「暮らしの芸術」といった意味があるんですね。
片倉 最初は“Belle Époque”っていうタイトルにしようと思ったんですけど、最後に作っていたので、今更書けないよなと。英語だったら“Art of living”ですけど、それだとつまんない言葉になっちゃうなと思って、フランス語になりました。アリプロを聴いていただいて、「まあ大変な時代だけど楽しく生きましょうね」っていう。
宝野 わあ、優しい。今回のアリプロ優しいですよ。(笑)
■全体的に白アリの要素が強い印象ですよね。そして、通常版に収録されているのは漢字の蟻時代の幻の曲とも言われる“森の祭典”です。
宝野 そうなんですよ。これ作ったの1980年代?
片倉 35年くらい前の曲だね。
宝野 デビューアルバムから漏れた曲だと思います。でもなんか今回入れようと思って。
片倉 歌ってもらって録音したやつがカセットテープに入っていて。それを引っ張り出してきてコピーしました。
宝野 データがないから耳コピしてるの。(笑)
■ええー!そうだったんですね。
片倉 なるべく同じようにした方がいいと思って。イントロとかは少し違うんですけどね。早いフレーズがあるんですけど、そこも「めんどくさいなあ」と思いながらも頑張ってコピーしました。(笑)
■この曲を聴いていて思ったんですけど、今回アルバムに収録されている“森の祭典”以外の10曲に「月」って言葉が出てこないなと。“緋ノ月”で月が取り上げられたからかもしれないですが。
宝野 本当だ。珍しいかも。「月下」は“ドリアンヌ嬢の肖像”でありますね。“ドリアンヌ”は月光が欲しかったので。でも「月」っていつも出しているから、避けるっていうのはあったのかも。意識はしていなかったけど。
片倉 確かに。今回は太陽だな。
宝野 そうですね。あんまり夜の感じがないからじゃない?
■確かに日中の明るい印象の曲が多いですよね。
宝野 聴きやすいですよね。
片倉 コテコテの曲にしようと思ったのにね。
宝野 次はそれをやれってことですよ。(笑)
■次作も楽しみです。来年以降、30周年を経たアリプロとしての展望を教えてください。
宝野 来年の7月7日でちょうど30周年です。来年はいろいろコンサートをやって、暗い曲のアルバムとか、アルバムじゃなくてもいいかもしれないけど、何か出したいなと思っています。
片倉 30周年のアルバムタイトルが『国宝』だったら「音楽やめようかな」あるいは「音楽やめてもいいや」くらいのつもりで作ろうと思っていたところがあって。結果的にそういう方向にいかなくて、『Belle Époque』で「アリプロは美しいことをやってきましたよ」っていうのを作ったでしょ。これを自分で聴いてみたら、自分にとって聴きやす過ぎちゃって。(笑) 「何かやり残しているんじゃないかな……?」っていうのが正直な感想なんですよ。今までサビから始まる曲とか結構作っていたんですけど、今回はひとつもないし。全部起承転結があって、品行方正すぎるというか。だから、またずっと続けるんだろうなと思っています。
宝野 そうですね。どす黒いものは足りない気がするので。次はそれしかやりたくない。だって今回はジャケットも人間じゃないですか。人間でいたくないんですよ。もっとこう、全然人じゃない、妖怪でもない格好がしたいな。
片倉 妖怪でもないって。(笑)
宝野 ビョークの最近のは私はちょっと気持ち悪いけど、アートワークはいいなあ。私『芸術変態論』のジャケットがベスト3に入るくらい好きなんです。
片倉 これはでもすごく安易だけどね。
宝野 いやいやいや。
片倉 僕はよくわかんないんだ。こういうの写ったことないから。(笑)
宝野 片倉さんも出る?
片倉 妖怪で?特殊メイクして?
宝野 河童みたいなさ。(笑)
■河童。(笑)
宝野 いいなそれ。やりたいですね。
Interview & Text:村上麗奈
PROFILE
世界に誇るJapaneseサブカルチャーのビッグネームとして君臨し、現代アート・ミュージックを自負する宝野アリカ(作詞&ボーカル)と片倉三起也(作曲)のユニットALI PROJECT。1992年デビュー以来数々のCDを発表。数多くのアニメ主題歌を手掛けるだけでなく、定期的にオリジナルアルバムをリリース。ツアーの他、オーケストラでのコンサート「月光ソワレ」も不定期に開催。浪漫主義的“白アリ”から目眩く疾走感の“黒アリ”まで、枠に嵌らない様々な音楽形態、独特のヴィジュアルパフォーマンスで、聴く者観る者を異世界へと引きずり込む。その唯一無比のスタイルには熱狂的な支持層が存在し、国内においてはヴィジュアル系からアニメまでの幅広い層からリスペクトされる稀有な存在。芸術性の高さは海外からの評価も高い。カテゴリーされるのはアニソン、J-POP、V系のどれでもない、まさに“ALI PROJECT”というジャンルである。
https://aliproject.jp/
RELEASE
『Belle Époque』
初回生産限定盤(CD+DVD)
TKCU-78114
¥5,800(tax in)
通常盤(CD)
TKCU-78115
¥3,100(tax in)
徳間ジャパンコミュニケーションズ
12月22日 ON SALE