アマイワナ VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

ドリームパンクな音楽に秘められた、イマを生きる女の子の違和感とピリッとした皮肉たち。

ポップな昭和カルチャーを体現したその姿が度々メディアでも取り上げられ、SNSには自ら昭和アイドルやインタビュアーのモノマネをしたPR動画をアップするなど、まさにレトロ可愛いイメージがあるアマイワナ。「ベッドルームから世界へ」の想いを込めて10月19日に配信リリースされたミニアルバム『ベイビィ・ベッドルーム・パンク』には、コロナ禍以前から制作されていたエモくてスウィートな7曲が収録。アツムワンダフル(fromワンダフルボーイズ)が参加した色とりどりで秘めやかな音楽が繰り広げられている。そんな新作について話を聞くと、ファッショナブルなサウンドと甘い歌声に散りばめられた現代社会への不満や皮肉、イマを生きる強い女の子の姿が描き出された。

■アマイワナさんの昭和カルチャー好きは村上龍さんの小説『69 sixty nine』が由来だと伺いましたが、それ以前から、例えばご両親の影響などで昭和の音楽を聴いていたりしていましたか?

アマイワナ 家で流れていたわけではなくて、『69 sixty nine』などを読んだりしていた頃に、ファッションや学生運動などのカルチャーがアツいと思って、好きになり始めました。それからファッションアイテムを身に着けたい、ラジカセで音楽を聴いてみたい、レコードを聴いてみたいということで、リサイクルショップやレコード屋さんに行き始めました。親は「懐かしい!昔聴いていたよ!」と言うんですけど、自発的にやっています。

■もしかして絶妙にラジカセ世代ではなかったりしますか?2000年生まれは触っていないと聞いた事があります。

アマイワナ ラジカセ世代ではないです。CDもあまり聴かなくなっている時代でした。

■昭和カルチャーに触れるきっかけとなった小説『69 sixty nine』は1969年の物語ですが、プロテストソングやフォークなどもお好きなのでしょうか?

アマイワナ フォークを聴くのもめちゃくちゃ好きです。森田童子さんのような危うさのある人をカッコよく感じて聴いていますし、マインドとしてはロックな気持ちで音楽制作をしています。だけど、「新しいものを作りたい」という思いがありまして。楽曲を制作する上で「物足りないな」と思った時に、昔の音楽などから影響を受けている部分を表現したりしています。

■下敷きにするというよりは参考にするっていう感じなんですね。

アマイワナ どちらかというと、昭和が好きなのは「趣味」です。潜在的な影響はあったとしても、昭和歌謡や昭和っぽい曲を作りたいわけではないので。素材としてニューウェイブ、シティポップ、ドリームポップみたいなものを取り入れることはありますが、一貫して「新しいものを作りたい」という中でのスパイスみたいな感じです。

■今回はアツムワンダフルさんが作曲・編曲に入っていますね。どのように作曲されていたのでしょうか?

アマイワナ アツムワンダフルさんは前作から編曲で入ってもらっていて、今回は作曲も何曲かあります。私が作詞・作曲をしているものに関しては、私がある程度作ったものをアツムさんに渡して、そのイメージを踏襲しつつ、ちょっとブラッシュアップしてもらっています。自分の技術でできる所まで持っていくんですけど、「こういうふうにして欲しい」などを伝えつつ、完成させていくって感じになります。

■ミニアルバムのタイトル『ベイビィ・ベッドルーム・パンク』もいいですね。

アマイワナ ピチカート・ファイヴさんの“ベイビィ・ポータブル・ロック”から響きのインスピレーションを貰いました。宅録で音楽を作って、アツムさんともデータのやりとりだけでしたので、「自分のベッドルームから」というイメージなんです。コロナ禍で作った曲も多いので、部屋で引きこもって作っていたものを発信していけたらなって。

■ジャケットもインパクトありますよね。

アマイワナ 今回は高校生の時から好きだったイラストレーターでありモデルの田中シェンさんに依頼したんです。タイトルと収録曲、「ベッドルームから世界に発信したい」という気持ちをお伝えしただけだったのですが、お願いしたら6パターンも描いてくれて。それが全て「誰かに言われる私のイメージ」ではなく「私がイメージしてる私」だったので、とても感激しました。迷いましたがその中から1個選びました。

■1曲目の“Chu!”の歌詞に出てくる「37.1度」は恋の体温なんですか?

アマイワナ 体温の数字を入れたのは、コロナで急にあちこちで体温を測る機会が増えたので、コロナじゃなく、恋で微熱なんだよということです。37.1度という数字はなんとなく微熱っぽい数字が歌うとかわいいかなと思ったので。“Chu!”は初めてアツムさんが曲を送ってきた作品です。曲自体が良かったし、シティポップっぽさもあったので、トレンディドラマで流れてそうな、ちょっとレトロな感じで歌詞を書いてみようと思いました。曲自体はトレンディドラマっぽいと思ったので、恋愛の曲を書こうとしたんですが、コロナ禍の恋愛ってハードルが高いじゃないですか。「ご飯に行きませんか?」、「もう一杯行きませんか?」ができないし、手を繋いだりキスをしたりも難しいし……。

■確かにできなくなりましたよね。

アマイワナ でも今はもうみんなコロナ禍の日常のことを忘れかけていて……。そんな忘れかけていることを曲にしておきたいなという気持ちもあったりします。みんなにとって未知のウイルスなのにルールができていく、そんな社会に対する皮肉みたいなものも込めて歌詞を書きました。

■言われてみると「できるなら手を繋いで~」みたいな歌詞がコロナ禍を示唆しているようですね。

アマイワナ でも一貫してネガティブなことやマイナスなことでも、なるべくポップな曲にして表現したいという気持ちがあります。私自身、しんみりしたバラードよりもポップな曲に感動したり、救われたり、明るい曲に「切ないな」と思ったりすることがあって。だから、なるべくネガティブなこともポップに昇華させたいなって思っています。

■それが「エモさ」の正体なのではないでしょうか。次の曲の“Now Back”は60年代の洋楽っぽさを感じます。作曲のアツムさんのことも気になりますね。

アマイワナ これも曲が先にできました。アツムさんは10歳くらい年上で、聴いている音楽も似ていて、同世代の人と音楽を作るよりもやりやすいと感じます。ちょっと昔のアーティストの名前を出してもすぐにわかってくれるし、音楽の趣味自体も似ている所があって。

■アツムさんとは何がきっかけでお知り合いに?

アマイワナ アツムさんはワンダフルボーイズというバンドのギタリストなんです。ワンダフルボーイズのSundayカミデさん主催のイベントに呼んでもらったことがあって、それからはワンダフルボーイズと対バンすることが何度もありまして。その時は知らなかったのですが、SNSを見てみたらアツムさんがトラックメイクをアップされていて。またそれがカッコよくて。あと、めちゃくちゃ人間として優しいんです。(笑)

■それ大事ですよね。(笑)

アマイワナ カッコいい曲を一緒に作れるのも大事ですが、私が人見知りだったり、不器用だったりする所があるので、人間として優しい人に越したことはないんだなって思います。(笑)

■“Now Back”は片思いが成就しなかった歌ですか?浮気された女の子の歌ですか?

アマイワナ 浮気された歌です。

■アマイワナさんは楽曲にストーリーを作るのでしょうか?

アマイワナ ストーリーがある曲の方が多いです。“Now Back”は「浮気されているんですけど、コッチから別れてあげますよ」、「アナタのために縋ったり泣いたりしませんよ」っていう強い女性の歌です。他に好きな人がいるのはわかっているから、「私の最大の愛で別れてあげますね」っていう感じです。「フッてあげる」ですね。もちろん実体験ではないです。(笑)

■次の曲の“The tale of moon”ですが、歌詞がかぐや姫っぽくないですか?

アマイワナ かぐや姫がモチーフにはなっていますが、映画『パーティで女の子に話しかけるには』の要素も入っています。私は映画を見て歌詞を作ることが多いのですが、『パーティで~』は異星から来た女の子が男の子と恋をして、結局は自分のやるべきことのために自分の星に帰るっていうお話なんです。要するにかぐや姫と構造が一緒ですね。「自分のやるべきことを捨ててまで、あなたとは一緒になれません」っていう強い女性の歌です。

■4曲目の“I’m CRAZY”については一番聞きたいことがあります。(笑) あえて語りではなく歌詞部分から伺いますが、この曲はアルバム内で一番抽象的な歌詞ですよね?

アマイワナ この曲では私の脳内を描きたいと思っていて、抽象的だったり、支離滅裂だったりします。脳内って基本的に支離滅裂なので、全部曝け出してみようって感じで作っています。普段考えている事とかを書き出しています。

■歌詞が二重になって歌われているのは何か理由が?

アマイワナ 自分がAngelだったり、Crazyだったり、Babyだったりすると思うことがあって。それを曝け出して「これが私!」って気持ちもありつつ、でも愛して欲しいし、見て欲しいし……という(感情の)両方を表現できたらなって。