アルカラ VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

■それも難しそうですね。

稲村 でも基準がないことの方が面白いなっていう。さっき言ったような物差しっていうのは生きているだけでもいっぱいあって。朝何時に起きてどこの電車乗って、ここ行ったらタイムカードを押してみたいな流れがあると、やっぱり居心地良くなってくるんですけどね。

下上 そういう物差しとか便利なものを手に入れると捨てられなくなってくるので、定期的に捨てるべきなんでしょうね。どんどん可能性が狭まっていく感じがすごくしていたというか。曲ができていない段階から「テンポなんぼでいこうか」って言うのがまずおかしいなと。テンポはあるべき曲につけたらいいし、なくてもいい曲があるならなしでいいのに、そういう物差しを知ってしまったというか、便利になってしまったがゆえに、そこに当てはめる行為をしちゃうというか。もちろんそれが合うバンドもいるんでしょうけど、そこを1回フラットにしてみたいなっていう意味で提案してみたっていう感じでした。

稲村 録っている時は細かいズレとかがめっちゃ気になるんですよね。でも後でトータルで聴いたら全然気にならないんですよ。それが味なんやなと思うし。僕がソロアルバムを出した時に、自分1人で全部の楽器をやったりしたんですけど、もうめちゃめちゃズレてるシーンがあって。エンジニアの子が、「これめっちゃズレてるから合わせましょうか」って言ってきた時に、「絶対合わせんといて」って。「ズレているけど、聴くと無茶苦茶ええなと思うねん」って。合わせるべきところは合わせるけど、音楽ってそうじゃないところも結構多いなってその時に思ったんですよ。もっとラフでいいというか。玉置浩二さんとかがライブの時に歌ズラしまくってるんですよ。俺からしたらちゃんと歌って欲しいなって思うところもあるんですけど。(笑)

下上 まぁ「ちゃんと歌ってくれよ」って思う気持ちもありつつ、でもそれはそれでいいって思われるためには技術も必要ですし、みんながみんな「ちゃんと歌えや」って思うんやったら、多分ここまで来ていないだろうし。この感じいいなって思う人が多いから今成り立っているんだろうなっていうのを、僕らも目指すべきというか。

■そういう録り方をして、プレイヤーとしてはどうでしたか?

疋田 僕はクリック聴いている方が楽ですけど、今回の録り方は基準が自分になるんで、僕がズレるとみんなも一緒にズレてもらうか、もしくは僕のズレに対してみんなは合っているけどそのズレがいいとか、いろんなところに基準が変わっていったのでそこは面白くやれました。基準を聴いてやっていたら、この基準に合ってる合ってないっていうところの判断基準でしかなかったのが、そうじゃなくて良い悪いで判断できるようになるという。「俺はそんな早いと思っていないけどな」って思うところも、外で客観的に聴くと早いなとか遅いなって思ったり。あとはやっていたらどんどん体温が上がってくるので、テイクを重ねるごとにテンポが上がっていって、「ちょっと落ち着こう」みたいなのもあったりしましたね。

稲村 そういう人間臭さがいいなっていう。そういうのは今までの経験値があったからこそ選べるんやろうし。だから昔の曲のアレンジも結構変えるんですよ。そんな感じで決まりがあって100点を目指してどれだけ高得点が取れたかじゃなくて、決まりがないところでどう自分らのその時の良さを出せるかっていう。スタジオで全く逆のことを言うとかもよくあると思うんです。あんなにうるさくいけって言うとったのに、「そこはうるさくいったらあかんやろ」みたいな。(笑)

下上 あります。まぁ自分もあるんだろうけど。

疋田 うん。みんなあるよ。

稲村 それが生きていることなんやなと思うし。「この曲はこのテンポなんで、今日は早かったな」って言うのもナンセンスで。もちろん演奏する側なので、いくらでも自由にやっていいってわけではないですし、さじ加減はあるけど物差しはないっていうか。そういう感じはちょっとしますね。

■なるほど。面白いですね。アルバムを全体的に見た時に、稲村さんのソロ曲がバンドアレンジで入っていることも含め、アダルトな印象というか、今までのものと雰囲気がかなり違うなと感じたんです。これも狙ったとかではなく、自然とそうなったという感じなんですか?

稲村 自然とそうなったんやと思います。狙ってできないというか。多分前作を作った時の自分には、こういうのは思い浮かばなかっただろうし、さっきの話みたいな、この5年間、3年間の中で自分がいいなって思う感覚が変化していく中でもらったものというか。でも歌に関してはソロですごく変わって、今までバンドではアクセル10か9か8みたいな感じだったのが、弾き語りをやってバランスが取れるようになって。もっと歌にもドラマがあるなって思ったんですよね。それこそ玉置浩二さんとかを見て、ボーカリストとしての考え方が僕ら界隈や、僕ら世代みたいなのと全然ちゃうなと思って。どう間違いなく正しく歌うかも大事は大事ですけど、それよりもっとパーソナルな感じが出ることって大事だなと思ったんです。あとコロナ禍で家からアコースティックで配信をやっていたんで、それも大きかったかなって。聴いたことのない歌を聴きまくって、優里くんの歌とか、BTSとかをカバーしていたんです。優里くんの歌とかめちゃめちゃ技術的で、もちろんバンドで戦ったら負ける気は全然しないですけど、歌だけで言ったら自分の考えていることなんて全然追いつきそうもないなって思ったんですね。自分は自分なりにもっと自分らしさを学ぶべきだし、その人の技術も学ぶべきだし。多分その経験もあって広がったんですよね。コロナ禍がなかったら日々ツアーだったり、レコーディングに追われて、見つけられなかったり、通れなかったりしたところをコロナ禍で通れたので、そういうのがすごい活きたなとは思います。だから歌がどう乗っかってくるかっていうのが、アレンジの基準のひとつになって、今まではどう盛り上がるかとか、どう楽しくできるかみたいな感じが多くて。もちろんそれが駄目なわけじゃないんですけど、もう1個新しい基準が出てきた。そこを知ることによって、10から8ぐらいしかなかったものをもっと下げても、それを支えるしっかりとした演奏と歌があれば、その抑揚でもっともっと感動できるし、寂しくもならないっていうのを見つけた気がしています。でもまだ全然途中ですし、歌に関しては20年経ってようやく一皮めなんですよ。

下上 20年で一皮なの?60年かかるやんか……。

稲村 だからちょっと急いでやっていくしかないよね。(笑) じじいになってまう。でもよかったなと思いますよ。これを知らないままいきたくなかった。

■歌の変化によって演奏側も大きく変わっていくと思いますが、下上さんは演奏していてそれを感じましたか?

下上 今回稲村がソロアルバムで出した曲が2曲入っているんですけど、それは完全にアプローチが違うなと感じました。歌の細かいことはわからないですけど、僕らとしてもバンドやと音量MAXにして、その上にボーカルが覆いかぶさってくるみたいな感じですけど、アコギの曲になると、もっとその手前から始まるというか。手前から始まって手前で終わるみたいな感じにしないと、その魅力が出なかったり。そういうのは今までやったことなかったけど、ある程度面白いバンドアレンジができたかなって思いましたね。

■前作のアルバムを出した時に、「1枚目のアルバムのようだ」と他のインタビューでおっしゃっていたと思うんですけど、それとはまたモードが全然違うんですかね?

稲村 そこを踏まえた感じはしますね。その時はすごく僕は孤独だったんです。その孤独を追求していったらソロっていうのに行きついて。でもその時はなんで1枚目って言ったかっていうと、クラシックを作っている著名な方たちって、大体9作目作ったら死ぬんですよ。まぁ昔は医療も発展していないですし、ミュージシャンやから暴飲暴食ですよ。知らんけど。(笑) それで9作目以降作れるかどうかみたいなところで、メンバーが抜けたのがあったので、死にかけたなと思ったんですけど、3人の新しいアルカラで出せたので、1作目やなって。でもあれを踏まえたことは、僕としては楽曲を作る上でも見えている視点がだいぶ変わったなと思っていますね。

■疋田さんと下上さんは、11枚目となる今回のアルバムをどのように捉えていますか?

疋田 個人的には毎アルバムすごい新しいものが出来上がっているというイメージで。さっきおっしゃっていただいたみたいに、ちょっとアダルティなアルバムになったとは思います。みんなやっぱり40歳超えているんで。だけどアルカラらしさが詰まっているアルバムになったなと思います。今までにないまた新たなものができあがったなと思っています。

下上 なんか20年の始まりなのかなと思いますね。二皮むけて、またこれからっていう感じがあるなと。自分らが20年やってきて、またもう1回初心に帰るみたいな気持ちになれたアルバムではあるのかなと思います。

■稲村さんはこのアルバムはどんな作品になったと感じていますか?

稲村 例えばクリックなしにしても、元々やったことがあったので、挑戦はしていますけど、また新たな何かってことでもないし。だからっていつものアルカラやなっていう感じもないですし。不思議ですね。またこうやってCDが作れているのが不思議やっていう感覚です、今は。1枚目、『そうきたか』を作った時、作って半年くらいしてからこれを世に出していきたいなってようやく思うっていう感じだったんですよ。それで相談させていただいた方が、ライブ見に来てくださって、「今から流通かけるんですか、それなら新しいアルバム作りませんか?」って言われて作ったのが『BOY NEXT DOOR』っていうアルバムで、そのタイミングで僕らも上京を決めて。なんかいつもそういうきっかけをいただいてきているんですよ。飲んだ席でライブが決まったり、「SWEET LOVE SHOWER 2022」でDragon Ashの代打をすることが前日に決まったりとか、そういうことが多くて。生かされてるっていう言葉がありますけど、いろんな方のご縁でここに導いていただいているなと思うんですよ、曲も言葉も。なので、不思議やなと思いますね。不思議な曲ないんですけど。(笑) そういう面白いドラマの1人の演者に僕もなれているなって思うと、尊いなって思いますね。

Interview & Text:村上麗奈

PROFILE
自称「ロック界の奇行師」。アルバム10枚、ミニアルバム3枚、スプリットEP1枚、ep1枚、シングル4枚、ライブDVD7枚、MV集1枚、他、アルバム「ボーナストラック大全集」をリリース。ギターロックやオルタナティヴロックなどの音楽性を基調としながら一筋縄でいかない自由奔放さで唯一無二の世界を築き上げている。
https://arukara.net/

RELEASE
『キミボク』

COCP-41912
¥3,300(tax in)

日本コロムビア
11月23日 ON SALE