「自分を救えるのは自分しかいない」ニューアルバムの楽曲とともに伝えたeillからファンへのメッセージ
「弱い自分に蓋をしたら、何も感じられなくなった。目の前で泣いている人を見ても何も思わなくて、そのことを怖いとも感じなかった。それでやっと、泣いていい、怖くていい、強くなくていいって気付いたの。だからあなたも泣いて、泣いて、腫れたまぶたの自分を愛して欲しい。心が何かを感じることを恐れないで欲しい。それはあなたが生きてる何よりの証だから」
2月6日、eill『BLUE ROSE TOUR 2022』東京公演。ファンとの久々の再会を喜んだeillはこの日、MCで天真爛漫な振舞いを見せ、ファンとも積極的なコミュニケーションを取るなど、親密な空気を作り上げていた。聴いてくれた人を救いたいと度々口にしている彼女。冒頭に記した苦い経験を乗り越えて輝くeillによるありのままの表現によって、様々な感情を肯定し、オーディエンスに寄り添い、救おうとしていたように見えた。
先のMCはライブ終盤で熱く語りかけられたものだったが、その内容が公演の根底にあったのだと腑に落ちるほど、この日のライブはeillのメッセージが曲に、パフォーマンスに、MCに表れていた。「幸せの意味なんて 好き嫌いをして はじめて気付くものでしょ」と歌う“palette”からライブは始まった。2月2日にリリースしたばかりのアルバム『PALETTE』と同じタイトルの本曲は、収録曲の中でも最後に出来た曲。制作期間やこれまで歩んできた中でeillが考えたことの結晶が詰まっているようである。ダンサー・GANMIを迎えて披露された“ここで息をして”、”FAKE LOVE/”は、カラフルな照明も相まってショーのような華々しさがあり、早くも今のeillの集大成を見ているようだった。
続く“プラスティック・ラブ”ではあでやかな声色で湿った空気を演出し、アコースティックギターとともに紡がれる“special girl”では落ち着いていながらも弾む歌声を聴かせる。様々な情景を多様な曲調とサウンドで表し、序盤の華々しさでは表し切れない繊細な情感をオーディエンスの心に染みわたらせた。明るくも繊細な人柄を表したように穏やかに展開していくライブだったが、アルバムの中でも異彩を放つ“ただのギャル”ではそれが一変。「ギャルなめんなよ」という気概で作ったという1曲だが、ダンサーとともに繰り広げられる切れ味鋭いダンスや挑発するような歌い回し、ドラムソロを交えたアレンジは、怒りや反抗を含んだ制作時の思いを、音やパフォーマンスで見事に昇華していた。歌い終えるとケロっとした様子で明るく「ただのギャルで~す」と笑いを誘ったが、楽曲中での鮮やかな感情表現、そしてMCで見せる気張らない人柄は、彼女が感情を正直に表現することをなにより重要視し、明るくない感情をも肯定することで、オーディエンスにもその重要さを伝えているようにも見えた。
この日のeillは、オーディエンスに「はじめて来た人?」と問いかけたり、手拍子やステップを促して「結構大きい音出るね」と楽しむなど、直接ファンとコミュニケーションを取れる機会を味わっていた。“letter…”を歌う前のMCでは、「みんなと直接話せる機会が少なくなっちゃったけど、みんなのコメントやDMに救われています」と笑うと、「みんなからもらうファンレターに、私が知らないみんなの人生が書いてあって、どこで私と出会ったのかとか、いつ聴いているのかとか。それに私は音楽で返事をしたい」と語った。そして「今日は本当に便箋に書いてきたの。本当は一人ひとりに書いて渡したいんだけど」と便箋にしたためた歌詞を読み上げるように“letter…”を歌う。オーディエンスはeillから送られる言葉にじっと聴き入った。そうして気持ちを通わせた後には「今一番会いたい人を想って聴いてください」と“いけないbaby”を披露。切なさがにじむ歌詞が一言ずつ丁寧に歌われた。
冒頭のMCに続き、「自分を救えるのは自分しかいない」と力強く話したeill。「怖いも辛いも痛いも悲しいも、あなただけが感じる、あなただけのかけがえのないものだから」。ここまでのステージは、派手なパフォーマンスだけではなかった。切なさも反抗も、ミドルテンポな楽曲もジャジーな楽曲も見事に歌う。幅広い緩急のある構成であったからこそ、様々な感情に言及するeillの言葉には説得力があった。「でもね、全然1人じゃないよ。いつでも、イヤホン越しでも、eillの曲を聴かなくなっても、見守ってる」そう語ったMCの後に披露されたのは“SPOTLIGHT”。「何かに頼って生きてかなきゃやってらんないよ」とやさぐれたような声色が寄り添うようで、サビでは「私を誰も止められはしないの」と前を向く。聴く者の沈む心を引っ張り上げるような、手を取って背中を押すような優しさがあった。本編は“20”、“23”と、彼女の成長を映し出す2曲で大団円を迎えた。「Happyもunhappyも抱きしめて気付いたの この痛みは私だけのものだって」。彼女の持つパワーが彼女の音楽、言葉、パフォーマンスによって分け与えられた。
アンコールでもeillは豊かな感情を届ける。ときに呟くように、ときに感情的に吐露するように歌われたのは“片っぽ”。切ない恋を描く歌詞の中で、「ただ守れれば君を守れれば」がこの会場のために歌われるかのように響いた。「終わっちゃうよ~」と名残惜しそうな表情を見せながらも、“躍らせないで”で締めくくる。「誰かのステップで 決まったリズムで 躍らせないわ」。この公演でeillから授けられた沢山のメッセージ。この日の思い出がある限り、きっと自分のステップで日々を踊ることができる。
2022年2月11日(金)、12日(土)に開催予定となっていた「BLUE ROSE TOUR 2022」大阪公演・名古屋公演は、新型コロナウィルスの感染拡大にともない、ご来場のお客様ならびにアーティスト、関連する全ての関係者の安全を最優先に考え、やむなく開催が延期となった。現在振替公演が調整されており、決定し次第オフィシャルサイト等にて改めて案内されるとのことなので、詳しくはオフィシャルサイトなどでの発表をお待ちいただきたい。
Text:村上麗奈
Photo:山川哲矢
eill『BLUE ROSE TOUR 2022』セットリスト
01.palette
02.ここで息をして
03.FAKE LOVE/
04.プラスティック・ラブ/honey-cage
05.((FULLMOON))
06.Night D
07.ただのギャル
08.special girl
09.HARU
10.letter…
11.いけないbaby
12.花のように
13.SPOTLIGHT
14.20
15.23
ENCORE
01.片っぽ
02.躍らせないで
https://lnk.to/BLUEROSETOUR2022
LIVE
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