■外国語でカバーすることで大変だったことは?
MARiA いや、もう全部大変ですよ!大変じゃないわけがないじゃないですか!(笑) もうホントに死ぬかと思いました。この20何年間、ずっと歌わせていただいていますけど、初めてスタジオに行きたくないってめっちゃ憂鬱になりました……もうノイローゼ気味でした。半泣きで「勘弁してください……」ってなって。(笑) 仮歌はその言語で録ってもらっていて、それを耳で覚えるのと、スタジオには英語・中国語・日本語ができる方がいました。中国語については、中国語の歌詞翻訳をやっていただいた方と、発音の先生と、あわせて3人体制で。英語も2人体制でやって、常に先生がイントネーションをチェックしてくれたんですけど、「違う!」と言われてばっかりで……。
■特に日本語と中国語の発音はだいぶ違いますもんね……。
MARiA たとえば、唇を前に突き出すのか、横に広げるのか、ベロをどこに置くのかで単語が変わるじゃないですか。その説明をしてもらっているんですけど、全然わからないの……。(笑) 「違う、チュじゃなくてチュ!」って、「何が違うの?!」みたいな。(笑)
■そうですね。絶妙な違いが難しいですよね……。
MARiA そのちょっとの違いで意味が全然変わるんです。たくさん中国にも行かせてもらっていますし、中国の方たちにも聴いていただくということを考えると、「日本人が初めて中国語の歌を歌いました!」みたいなレベルじゃみんな納得しないよね、と思って。だから、ネイティブの人が聴いても「これ日本人が歌っているの?」と驚くくらいのクオリティのものを絶対に作りたかったんです。
■となると、時間も結構かかっていそうですね?
MARiA 多分、レコーディング時間は最長記録を更新しましたね。私、レコーディングめっちゃ早いんですけど、「Chinese Ver.」と「English Ver.」のレコーディングに関しては、生まれて初めてここまで時間がかかりました……。もうブースから出られないんですよ!テイクも20~30回ぐらい重ねていて……得意な部分と苦手な部分があるので、「苦手な部分の一か所だけがどうしても言えない」みたいなこともあり、「違う違う、もうちょっと唇突き出してみようか」と、繰り返しながら。あと、自分で良し悪しが判断できないレコーディングをするのが初めてだったので、そこにも苦労しました。日本語だったらニュアンスやピッチ感を自分で判断して、「もう1回歌いたい」、「もうちょっと強く歌いたい」とかが出てくるんですが、全く自分でコントロールできないところで「違う」と言われることにメンタルが削られていきました……。
■そんな努力の結晶がこのDisc2なわけですね。
MARiA もうレコーディング最後の日は崩れ落ちました。ホントに感動したもん!その後にも中国語のレコーディングの機会があったのですが、めっちゃ褒められた上に早く録れて、成長したんだなと思いました。すごく鍛えられましたね。
■私も中国語ができるのですが、「歌詞」って中国語の中でも難しいんですよね。だから日常会話レベルができる人でも、歌を歌うのは難しいという方が多いんです。
MARiA ですよね?!日常会話だったら、この発音でも許してもらえるんです。なのに……しかもすごく難しい歌詞で、日常会話では使われないような言葉とかも入っていたから、ネイティブの先生に「これは中国人でも無理よ!」とか言われて。(笑) 「中国人が歌っても難しいなら、日本人の私には絶対に無理でしょ!」と思って。(笑)
■そう考えると、なんだかんだ小さい頃から「I have a pen」のレベルでも、英語に触れているのって大きいんだなと思いますよね。(笑)
MARiA ね!それでも難しかったですけど。“SPEED STAR”とかは元々が早口だから、「もうホントに口が回んないよ!」という感じでね。何回も噛みながらやりました……。
■現地の人からすれば、自分たちの母国語で歌ってくれるだけでも大感謝ですけどね。だって私たちは、海外のアーティストが日本語で歌ってくれたら、発音が少し違っていてもめちゃくちゃ嬉しいじゃないですか。(笑)
MARiA そうそう。そうなんですよ。でも、「それじゃダメ」と言われたんです。私もね、監修の先生に言ったんですよ。「発音が上手くない感じが、逆に可愛く聞こえないですか?」って。でも「それだと曲に合わない、それは求められていない」、「MARiAさんならできる!」と言われて……。「私の何がわかるんだ!」っていう。(笑)
■先生がめっちゃ厳しい!(笑) でも、そのあたりはガルニデ独特なところでもありますね。活動スタートから15年、ご自身の転換点となった曲はありますか?
MARiA 要所要所にあるよね。でもデビュー曲は大きかったです。デビューしてからいろんな景色をたくさん見させてもらったし……ターニングポイントと言ったら、一番はやっぱり“極楽浄土”ですね。この曲がなかったら今の私たちにはなっていないので、これはかなりの伝説の曲ではあります。あと、“起死回生”はコロナ禍になって、これから先がどうなるのかもわからないし、いつ抜け出せるのかもわからない状況に世界中の人たちが陥って、「音楽は必要性があるのか?」みたいなところまで行っちゃって。自分たちは音楽をやっていきたいのか、やるべきことは何なのか……?という所に向き合って書いたのが、“起死回生”だったんです。メンタルというか、自分たちの音楽に対する向き合い方みたいなものが変わったのも、“起死回生”を書いたタイミングだったと思います。ここからサウンド感も変わったし、伝えたいことも、もちろん一貫はしているんだけど、より強くというか、「音楽をやる人間だったら、どういう想いを持ってステージに立つべきなのか」みたいなことを考えるようになったんですよ。
■なるほど。
MARiA デビューしたての時は、「私たちの音楽を聴いてくれ!」という、発信する側の気持ちばかりのことが多くて。でも“起死回生”以降は、受け取り手側に何を思ってもらうかまで考えるようになりました。音楽はみんなの希望であるべきだし、みんなの心を、気持ちを、暗くなっちゃった世界中を引っ張っていくべきものだと思うから。音楽をやる人間なら、そのことをちゃんと伝えていくべきだと感じたんです。そこから自分たちの意識も変わって、ステージにどう向かっていくかとか、私たちのステージを見に来てくれるお客さんがそこにいることが当たり前じゃないこととか、お互いに分かり合えているようになったんだと思います。こんな世の中だからこそ、より音楽も響いていくでしょうし、受け取ってくれる人たちの気持ちも、向き合い方も変わったんじゃないでしょうか。
■それについては、コロナ禍になってたくさんのアーティストが考えたところだと思います。
MARiA 生命を維持するためには、衣食住があればいい。その先にあるのがエンタメだと思うんです。だけど、エンタメって絶対になきゃいけないものだとも思うんですよ。だからこそ、私たちのライブに来てくれる人たちがいて、それに応えなきゃいけない私たちがいる。プロ意識っていろんなことがあるけど、音楽のプロとしての意識が、“起死回生”から強くなりました。なんかもう「使命」というか、そういう気持ちで音楽に向き合っていくべきだと考えるようになったなというのがあります。
toku やっぱりコロナ禍は大きかったです。誰にも会わないし、会えない。この状況でどう音楽を続けていくかというと、ひとりでもある程度は形にしていかなきゃいけないだろうし。もちろんガルニデはMARiAが歌わないと最終的な形にならないわけですが、旅をしながらの制作ももちろん、どこにいてもガルニデの音が作れないと、僕は「ガルニデの人」じゃなくなってしまう気がしているんです。だから、コロナ禍のあたりから、どこでも音楽を作れるような機材体制に変えていって、今は家の作業場がほぼいらない状態くらいまで突き詰めています。やりたければやる方法はいろいろとあると思うんですが、「ガルニデとしての形を崩さずに今後も作り続けられるか」みたいなものをすごく考えていて、今はそれができているので、このまま作り続けていきたいなという思いがあります。
■やはりコロナ禍は大きいのですね……。これまでの活動で様々な場所で歌ってきたと思いますが、海外のファンの反応で驚いたことはありますか?
MARiA 毎回びっくりしますよ。国によってノリ方も違うし、国民性もあるんですけど、国によってウケる曲も全然違うんです。日本でめっちゃウケている曲が、海の向こうに行ったら全然だったり。なので、中国でのセットリストの作り方と、英語圏でのセットリストの作り方と、日本でのセットリストでは、全然違う曲を持っていくのですが、1月に中国のファンクラブのみんなとファンミーティングをした時、中国のファンが選ぶ好きな曲ランキングが発表されたんです。そうしたら1位がなんと“further”でした。2位が“march”で、シングル曲が全然入っていないんですよ!それで3曲目が“MIRAI”です。もう全部バラードですね。(笑)
■ただ、ファンクラブの方が作るランキングって、ライトなファンのランキングとは、また少し違うと思いますが……。
MARiA それが中国のファンのみんなは、バラードがすごく好きなんだそうです。一番盛り上がるのも“MIRAI”ですからね。逆にシングル系のハイスピードな曲を持っていくと、ノリ方がわからない感じなんです。多分、アニソンが好きでガルニデに入ったわけではないから……というのもあるのかもしれないですけどね。確か“起死回生”も結構上位だったような。4位ぐらいだったと思います。
■こうなると、各国ごとのランキングも見てみたいですよね。(笑)
MARiA そうですね。不思議だしすごく面白いなと思っています。うちらは「ライブ」というと、ノリノリな感じのイメージがあるから、イケイケなセットリストを作っていくんですけど、中国のファンの方たちからは、「全部バラードのライブをやってください!」と言われることがあるんです。だから次は全部バラードにしてみようかな?(笑)
■しかし意外ですね。中国では“極楽浄土”が1位になるイメージがありました。
MARiA きっと知ったきっかけは“極楽浄土”だけど……ってことなんでしょうね。そこから掘って聴いていく中で好きになった曲は、バラードだったのかなと思います。“極楽浄土”に関しては、「好きなのは当たり前でしょ」みたいな感じなんでしょうね、多分。
■さて、ここから今作を引っ提げてのツアーが予告されていますが、楽しみにしていることや、楽しみにしてほしいことはなんですか?
toku 今回のツアーに関しては、やっぱりオールタイムベストというか、全域にわたる感じになってくると思います。
MARiA でもさ、常に結構幅広くやっているから、「どうやって攻めようかな?」と思っているんですよね。(笑)
toku このツアーでしかやらないアレンジを作るべきかなとは、ちょっと思っていたりもして。今までやったことのないチャレンジは、ガルニデとしてやっていこうかなと考えているところです。
■今までやったことがないチャレンジ。なんだろう?何をさせられるんでしょうね?(笑)
MARiA ね!(笑) 今回のツアーはアジアがメインになってくるのですが、日本のライブと海外のライブの違いをどうしようかな?というのは考えています。
toku 海外から日本のライブに来てくださる方たちもたくさんいますしね。
■最後に、今作を楽しみに待っているファンのみなさまに一言お願いします。
MARiA 今作の収録曲は、この15年の活動の中で「もう何回歌ってきたんだろうね?」という曲たちですが、ライブの中でお客さんと育てていった曲というイメージも強くあります。それに加えて、自分たちの今の環境は、15年前の私たちから比べたら、とんでもない成長を遂げていると思っているんです、本当に。それはサウンド面に関しても、歌に関しても。今の私たちだからこそ奏でられる1枚になったと思うので、今まで応援し続けてきてくれた人たちからしたら、いろんな違いを感じたり、いろんな思い出が蘇ってきたりしながらも、「たくましくなったな」と感じながら聴いてもらえればと思います。最近GARNiDELiAに出会ってくれた人たちには、これをきっかけに好きな曲を見つけてもらって、昔の曲を掘ってもらえる、そんな楽しみ方もしてもらえるような1枚になったんじゃないかと思います。このアルバムを引っ提げたツアーもありますので、今年はもうこれを聴き込んでいただいて……もう聴き込んできた曲たちだろうから今更なんですけど、各々の楽しみ方を見つけてもらって、ツアーでまたみんなと会えたら嬉しいです。
toku 最近の僕らは、盤を出すことよりもライブに重きを置いています。やっぱりライブをやることがすごく楽しいと思っているし、これをさらに加速させたGARNiDELiAになりたいなとも思っていまして、それを盤に落とし込みたいんです。そのサイクルがずっと続くと思うので、みんなと一緒に会場を作って、音楽を楽しんで、GARNiDELiAの新しい楽しみ方を見つけてもらいたいな、というところが、今年の目標です!
Interview & Text:安藤さやか
PROFILE
女性ボーカリスト・メイリアとコンポーザーtokuの二人によるユニット。ユニット名のGARNiDELiAは「Le Palais Garnier de Maria(『メイリアの歌う場所』の意)」と、tokuの生まれた年に発見された同名の小惑星「コーデリア(Cordelia)」からのアナグラム(単語の文字を入れ替えて全く別の意味にさせる言葉遊び)で名付けられた。様々なファッションブランドのモデルも務め、同世代の女性から支持を集めるメイリアは、GARNiDELiAのアートワークや歌詞を担当。GARNiDELiAのサウンドプロデュースを担当しているtokuは、数々のアーティストに楽曲提供・プロデュースをおこなっている。2014年3月にTVアニメ「キルラキル」2nd OPテーマとなる『ambiguous』でメジャーデビューを果たし、iTunes Music Storeをはじめ、各音楽配信サイトの総合ランキングで軒並み首位を獲得。デビュー以来10枚のシングル、2作の配信シングル、5枚のアルバムをリリース。2016年に動画共有サイトで発表したダンス動画、“極楽浄土”がアジア圏を中心に爆発的なヒットとなり、動画総再生回数が6,000万回を突破。「踊っちゃってみた」と名付けられたダンス動画シリーズは全10作品となり、累計1億回再生を超え、全世界で注目を浴びている。多岐に渡るGARNiDELiAの音楽性と、圧倒的なパフォーマンス力が話題となっている。
https://www.garnidelia.com/
RELEASE
『GRND THE BEST PROGRESS』

初回生産限定盤(2CD)
PCCA-06362
¥5,500(tax in)

通常盤(CD)
PCCA-06363
¥3,300(tax in)
ポニーキャニオン
2月26日 ON SALE