片桐(Vo&Gt)、ヤスカワアル(Ba)、マツイユウキ(Dr)
「ライブハウスで始まって、ライブハウスで精査してもらった」Hakubi、バンドとしての矜持と変化を語る。
Hakubiが配信シングル『Rewrite』をリリース。アニメ「ノケモノたちの夜」のエンディングテーマとなっている今作は、アニメで描かれる孤独感や一筋の希望と重なり合うと同時に、これまで様々な葛藤を赤裸々に描いてきたHakubiの楽曲としての強度も持ち合わせた楽曲にもなっている。
2022年11月には初のホール公演を成功させ、今年3月にはセカンドアルバム『Eye』のリリース、その翌月にはツアーも控えているなど、順調に成長を続けているHakubi。これまでの歩みを振り返ってもらいながら、初となるTVアニメタイアップへ込めた思いやライブへの意気込みを、片桐、ヤスカワアル、マツイユウキの3人に語ってもらった。
■今回の新曲“Rewrite”は『ノケモノたちの夜』のエンディングテーマとなっています。原作を読んだ感想はいかがでしたか?
片桐 めちゃくちゃ面白かったです。全部のキャラクターにすごい愛がこもっていて。敵キャラにルーサーっていうすごい悪い奴がいるんですけど、悪い奴なのにその中にも自分の正義があって、全部のキャラクターに自己投影できるような感じでした。最終的に「自分が一番好きなキャラクターって何だろう?」と思った時に、「全部」って言えるくらい大好きな漫画になったと思います。Hakubiがエンディングの曲をやらせてもらえてすごく嬉しいし、ぴったりだなって思いました。
マツイ 僕は普段、アニメはたまに見るんですけど、漫画とかは全然読まなくて。でも今回読む機会をいただいて、こんな僕でも一気に読めたのがまず嬉しかったです。漫画を読む楽しさを知ることが出来た作品になりました。
ヤスカワ 自分は今回初めてテレビアニメのタイアップが決まって、まず感慨深くなりました。移籍して最初に決まったタイアップだったので、環境が変わるとやれる音楽の幅も広がるんだなっていうのをすごく実感しました。
■アニメの放送も始まっていますが、実際にエンディングで流れているのを聴いてみていかがでした?
片桐 1話はオープニング曲が最後に流れる形になっていたので、“Rewrite”は2話から流れたんですけど、もうぴったりだなって思いました。それは曲が出来た段階でも思っていたんですけど、曲を作っている時も、アニメが終わった後に余韻に浸れるような時間を作りたいなって思っていたので、自分自身がエンディングを聴いていて「このアニメ、この時間よかったな」と思えるエンディングになっていたなって感じました。
マツイ 1話を観たけど、エンディングテーマではおあずけをくらっていたので、2話で「やっと聴けた!」みたいな。(笑) 歌詞もアニメの世界にちゃんとハマっていますし、すごく嬉しかったです。
片桐 TVサイズのバージョンも作ったんですけど、まずそれに感動しました。私は昔からすごくアニメを見て育ったので、TVサイズのプロモーションビデオだったり、カラオケのTVサイズとかにも触れてきていたので、「Hakubi “Rewrite” TVサイズ」って言われるだけで、ドキッ
としましたね。この曲のTVサイズのサビは一番最後のサビを使っているんですけど、一番最後のサビはちょっと光が見えるというか、これからに続いていく歌詞になっていて。「次の話もどうなるんだろう?」って気持ちも昂らせられるエンディングになっていると思いますし、1曲丸々聴いても「ノケモノたちの夜」を思い出せるような、原作のファンの方たちにも納得してもらえるような曲になっていると感じました。TVサイズだけじゃなくて、ぜひ全部聴いて欲しいです。
■制作はどんな風に進んでいったんですか?
片桐 昨年の1月か2月くらいにお話をいただいて、それから原作を読ませてもらって。いつもは私が弾き語りでデモを作ってメンバーに投げるんですけど、今回は2パターン作ったんです。1個は「眠っても眠っても」から始まってサビまで作っていたデモで、別のバージョンもあって。そこから今の“Rewrite”になっている方で進めていこうとなって、バンドアレンジをして。そのバンドアレンジの音源をプロデュースしていただいた内澤さんにお渡しして、どんどん詰めていったっていう流れでした。
■マツイさんとヤスカワさんはデモを聴いた時の印象を覚えていますか?
マツイ デモが2曲あったんですけど、どっちにするかって大事な決断じゃないですか。エンディングを担当させてもらうってなって、最初はあまり想像ができなくて、めちゃくちゃ悩んだのを覚えていますね。でも「こっちの方が自分の中で優勢かな」って思っていた方が、みんな同じ意見だったので。
片桐 私はどっちもいいなと思って渡したんですけど、圧倒的に今の“Rewrite”になっている方がいいっていう声が多くて。でもついさっき、もう一つの方の曲を聴いてもらったら「この曲いいじゃん、何?」みたいな感じで。(笑) 「え、覚えてないじゃん!」みたいな。(笑) でもこっちにしてよかったなと思いました。アルくんはデモ聴いた時のこと覚えています?
ヤスカワ 頭の掴みがいいなと思ってこっちにしたんですよね。だから、アニメ云々抜きで、ショート尺の動画でも回る要素があるのかなみたいな。今って曲を切り抜くじゃないですか。切り抜いてこそなんぼの時代だと思うので、そこも考えないとなって。
片桐 悲しいかな、ですよね。
ヤスカワ 俺はそうは思わないけどね。
片桐 でも作っている方からするとやっぱり悲しいよ。そういう時代なんだろうなとは思うけど……。
ヤスカワ だからこそいろんな人にチャンスがあるというか、そういう観点で見るとこっちの方が引きが強いかなと僕は思いましたね。伝わりやすさって大事かなと。
■歌詞はどんな部分にインスピレーションを受けて書いたものなんですか?
片桐 「ノケモノたちの夜」を読んだ時に、真っ先に「眠っても眠っても明けない夜が続いていく 誰にも理解されなくても終わらない話をしよう」っていうフレーズがピンときたというか。それが一番最初に思い浮かんだメロディーと歌詞だったんですよ。そこからどんどん膨らませていったっていう感じでした。光を掴んでいくというか、“Rewrite”という題名にもあるように、これからも続いていく未来を自分の足で歩いていく、自分の手で描き直していくっていう、そういうことがテーマになったらいいなと思って作りました。
■「ノケモノたちの夜」に合っているというのはもちろん、サウンドにも歌詞にもHakubiらしさがあるところが良いなと思って。アニメのタイアップという点と、自分たちの曲という点で、バランスを取るために意識したことなどはありますか?
片桐 他のタイアップをさせていただいた時もそうなんですけど、自分に置き換えて書こうっていうのはすごい思っていて。その人になりきることはどうしてもできないから、「自分だったらどう思うのかな?」と考える。この歌詞の中でも、「目の前に見えるものばかりを信じて期待し見失って」っていうBメロの部分とか、「一人残っても生きていけ」、「誰にも理解されなくても終わらない話をしよう」っていうのも、自分から自分へ書いているみたいなところもあって。そういう意味では、他のHakubiの楽曲と変わらずに書いていたので、Hakubiらしさがちゃんと残ってくれたっていうのはそこがあったからかもしれないですね。サウンド面でも、3人のバンドサウンドで表現できるようにっていうのはすごく意識しました。
マツイ レコーディングする時って、シンバルとか機材を借りたりすることもあるんですけど、やっぱりいつもライブで使っているシンバルを使うとちょっと説得力が増したり、音の聴こえ方も変わってくるんです。なので、今回は極力自分の機材を使うようにしました。自分っぽい音っていう意識はしましたね。
■面白いですね。ヤスカワさんはいかがですか?
ヤスカワ 今までも何回かタイアップをやらせてもらってきた中で、うちらの音楽と頂いた仕事とのバランスの割り振りが難しかったことが何回かあって。その最適解っていうのがまだ掴めてはいなくて、その場に応じて調整するしかないと思っているんですけど、今回はエンディング曲ということで、Hakubiの曲ってオープニングかエンディングかという観点においては、エンディングの方が合うなと自分たちでも思っていたので、その面では割りと安心して臨めましたね。その中でぴったりなところをいいバランスで作れたし、もちろんバンドの1曲としても自分が納得できる曲ができあがったかなっていう印象ですね。
■今までメジャーデビューしたり、移籍したりと、結成から5、6年でいろんな出来事があって、その都度心境の変化もあると思うんですが、歌詞の書き方や、書く内容が変わってきているみたいな感覚は片桐さん自身の中でありますか?
片桐 本当に昔の原点的なところで言ったら、自分の嫌なところを書いたりとか、自己嫌悪、焦燥感を吐き出す行為みたいなのが自分にとっての曲を書く、歌を歌うっていうことではあって。もちろんその時もファンの人はいてくれたんですけど、そこに向き合えるような自分でもないと思っていましたし、向き合うのも怖かったんですよね。そこから大きく変わったのは、コロナ禍でライブができなくなったりして、当たり前に目の前にいたお客さん、私が目を合わせられなかったお客さんと、物理的に目を合わせられない状況になった時で。そうなった時に、初めて自分にはすごくそれが必要だったんだなっていうことに気が付いて。そこから自分たちのことを好きでいてくれる人たちとか、一緒に音楽をやってくれる人たちに対して、もっとちゃんと向き合っていかなきゃいけないと感じたんですよね。そこからはライブに対しても変わった感じがありました。それこそ次のツアータイトルは『Eye to Eye』なんですけど、ちゃんと目を合わせて、あなたがそこにいてくれることを私もちゃんと認識したいし、認識したことで自分がその人を証明できたらいいなと思うし。そういう面では、自分が吐き出すためだけの行為だったのが、少し一歩引いて見えるようになったというか。誰かのために曲を作っているって言うとおこがましいんですけど、自分に向けて歌っている曲も、聴いてくれる誰かがいることを頭に思い浮かべられるようになりました。
■そういった片桐さんの変化を、2人は近くで見ていて感じたりもしましたか?
マツイ 昔と比べると明らかに歌詞の内容は前向きになってきていますね。それは時が経つごとに感じるので、もしバンドを組み出した時にタイムスリップして、「5年後はこんなことやっています」って言ったら、多分腰を抜かすと思います。(笑) 「今と全然違う!」みたいな。
片桐 そんなことないやろ?今もだいぶネガティブよ……。
マツイ 昔はもっとネガティブやったで。
ヤスカワ 根本的には変わっていないと思いますけどね。今25とか6の年ですけど、5年くらい前の20代前半と中盤では考えていることも変わってくるだろうし。当たり前の変化かなとは思いますけど。
片桐 (笑) 考えてることはそんなに変わっていないかも。
ヤスカワ 例えばよ?音楽を仕事にするっていう心構えが歌詞に出てくるわけやん。そういうところの変化はあるかなと。
片桐 なるほどね。
■逆に片桐さんから見たこの2人の変化はありますか?
片桐 マツイさんは最近ドラムセットを買ったんですよ。それから目の色が変わったように楽しそうですね。
マツイ 5年分の話聞けるんかなと思ったら、近況やん。(笑)
片桐 (笑) でも彼はライブ中はイヤモニで聴いているので、一番歌詞とか言葉が聴きやすいと思うんですけど、それをちゃんと聴いて、生のライブに乗っけてくれるのはすごくありますね。それは昔からなんですけど、私が「今日は調子悪いな……」ってライブの時に思ったりすると、「なんかあいつ調子悪いんだろうな」みたいなドラムで叩かれるので。
■それはすごいですね!
片桐 「そこは分からんでいい!」みたいな。(笑) でも調子が良い時にもそれに合わせてドラムを叩いてくれる感じがすごく自分に伝わってくるんです。感情でドラムを叩いているので、それが彼のいいところかなと思います。アルくんは、これも昔から言っているんですけど、独特のフレージングがすごくて。歌を歌わせたら音が外れていくんですけど、でもベースを弾いたら歌うようにベースを弾いてくれるんです。(笑) このベースのフレーズってHakubiにしかないなと感じます。それもスリーピースバンドの良さかなと思ったりもします。
■良いバランスの3人なんですね。
片桐 お話していてもわかる通り、アルくんは「Hakubiの脳みそ」みたいな人なんですよね。それで、ここ2人が感情派で。(笑)