ハナフサマユ VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

「好き」の気持ちを追求し、酸いも甘いも描いたアルバム『バートレット』を語る。

シンガーソングライター、ハナフサマユがメジャー3rdアルバム『バートレット』をリリース。アルバム発売月である9月の誕生果である「バートレット」。自身の好きを追及した結果たどり着いた果物をタイトルに掲げた本作には、“あいたい”や“レター”といった人を思う気持ちを歌った楽曲から「好き」を肯定する“好きなこと好きなだけ”、応援ソングの“Farfalla”など、ポジティブな感情が込められた楽曲が多数収録される。
今回は、ハナフサマユにインタビューを決行。本作の収録曲に込めた思いをたっぷりと訊いた。

■前作『結晶』から約1年ぶりのアルバムリリースとなりますが、今作はどのくらいの時期から制作に取り掛かっていたのでしょうか?

ハナフサ 収録されている曲の中には、3年くらい前に作った曲もあったので、このアルバムを作ることを決めてから全曲作り始めたわけではなかったんです。『バートレット』というタイトルと、コンセプトが「酸いも甘いも」に決まって、持ってきた過去の曲に加えて、それであれば新たにこんな曲が作りたいというものを作った感じだったので、いろんな時期の楽曲が入っています。

■その中でも、一番古くからある楽曲というと?

ハナフサ “赤い糸”ですかね。3年くらい前に作った曲なんですが、それをチームに良い曲と言ってもらって、拾い上げてもらいました。

■今回のアルバムには恋や愛、そして人物以外への好きという気持ちが込められた楽曲が多いように思いますが、改めてアルバムのコンセプトを教えてください。

ハナフサ タイトルになっている「バートレット」は西洋梨の品種なんですが、バートレットの持つ特徴が、甘味と酸味が調和した濃厚な味わいなんです。私は実際に食べたことがないので文章だけの情報になってしまうのですが、9月頃から販売されるので、今年は絶対に食べようと思っています。その甘みと酸味が調和したというところから、このアルバム自体も「人生における甘い部分と酸っぱい部分を混ぜ込んだアルバムにしよう」ということで作り出しました。そもそも「バートレット」というタイトルは、私自身の好きに向き合ったところから生まれているんです。ある時、自分のクローゼットを見てみたら、気付いたら緑色ばかりになっていることに気が付いて、「私って緑が好きなのかな?」と思ったことがあって。そこから自分の好きな○○について、いろいろと考えてみたんです。好きな果物だと西洋梨、いわゆるラ・フランスが好きなんですけど、「それも緑だな」と思ったんですよね。それとは別に、このアルバムが9月に発売になることは決まっていたので、9月の誕生石や誕生花などをいろいろ見ていた時に誕生果というものがあることを知って、そこで「バートレット」という目を引く名前を見つけて。「なんの名前だろう?」と思って調べたら、洋梨だったので「全部繋がった!」みたいな。運命かと思いました。(笑) 「バートレット」の果物言葉が「変わらぬ心」なんですけど、私自身も変わらない心を持ちつつ、みなさんの人生にある酸いも甘いもを歌えるアルバムにしたいなと思って、このコンセプトに決定しました。

■偶然いろんなものが繋がったんですね。以前インタビューさせていただいた際は、それまでは歌詞から曲を書いていたけれど、鼻歌からの作曲にチャレンジしたというお話をされていました。今回の制作においては、そのような大きな変化はなにかありましたか?

ハナフサ 今回は歌詞から書いているものも、曲から書いているものもあるのですが、全てにおいてすごく手直しをしているというか、ブラッシュアップをすごくかけたような印象があります。“プリムラ”は最初はどバラードのメロディーだったんですけど、歌詞と世界観が良いと言ってもらったので、このアルバムの中でもう少しアップなアプローチで届けられないかなと思って、メロディーをかなり変えました。あとは“Farfalla”は違う曲の歌詞から持ってきた言葉を当てはめることで、情景が浮かぶようにしてみたり。今回はすんなり書いてそのままOKみたいな楽曲はなかったと思います。

■最初から最後まですんなり書き上げる制作と、ブラッシュアップを重ねていく制作とでは、性質が異なるように思いますが、今回そのやり方で制作をしてみていかがでしたか?

ハナフサ ブラッシュアップを重ねるやり方は私的には合っていたのかなと思います。というのも、私は多分曲の大枠を作るスピードが早くて。なので、その時はすんなり書くんですけど、「何か違うな」というのを感じやすかったんです。それをなくしていくためにブラッシュアップを重ねるやり方は良かったのかなと。これで1曲に1ヵ月をかけて書こうとしても、多分進まないと思いますし。一度大枠を作ってから磨いていく方が、自分には合っているのかなと思いました。

■“プリムラ”は最初はバラードだったとのことですが、かなり大きな変更だったということですよね?

ハナフサ そうなんです。青春の恋を思い出している曲なんですけど、元々はバラードで。もう今は元々のバージョンを思い出せないくらいですけど。(笑)

■歌声は空気を多めに含んでいるような清々しさを感じます。

ハナフサ 曲によって自分の中でイメージを作ってからレコーディングに挑んでいて。この曲では寂しいことを歌っているんですけど、曲の持つイメージはもう少しポップなものですし、それを歌声でも表現したかったので、最初は気だるさを混ぜつつ、サビでは明るめな声質というか、ブレスを多めにして空気を含ませながら歌っています。

■今作は特に、歌詞とサウンドの明暗にギャップがある楽曲が多い気がします。サウンドは明るかったり軽快だけれど、歌詞を見たらもの悲しい、というような。

ハナフサ 今回は本当にそれが多いですね。あえて狙っているところもあります。歌詞の世界観そのままにアレンジすることで、良くなる曲もあると思うんですけど、今回の場合は逆にすることで聴き馴染みがよくなるというか。その後で歌詞を見た時に「ちょっと寂しい曲やったんや」と気付くくらい、最初のイメージとしては明るく感じさせてもいいのかなと思って。アルバムの中でもそういうギャップは何曲か出てくる気がします。

■2曲目の“好きなこと好きなだけ”は、タイトル通りのシンプルなメッセージを書いた楽曲ですが、どんなきっかけからできた曲なんですか?

ハナフサ この曲はアルバムのコンセプトが決まった後に作った曲で、しかも最後の最後に作った曲なんです。アルバムで私の好きを詰め込んでみなさんにお届けすると言っているので、そういうことを歌った曲を作りたくて。ただ中々作れなくて、締め切りもあと少しという時に、ミスチルさんの曲名など私が好きなものを歌詞に入れたり、誰かにとっての大事なものが守られていく世界であって欲しいなと思って歌詞を書いて。最後の最後に滑り込ませた楽曲でした。もし自分の好きな人がエアジョーダンをものすごい揃えていても、絶対に文句は言っちゃいけないなっていう。そういう曲です。

■なんだかリアルなお話ですね。

ハナフサ 実はテレビでそういう例を見たんです。(笑) でも自分の好きなもののために頑張ってお仕事をして、それを買うために何かを犠牲にしているということに対して、なにか言うのは違うなって。

■人の趣味に口出しはしないというのは、すごく大切な感情だと思います。“靴ずれ”は描く上でイメージした人物像などがあったんですか?

ハナフサ 自分で曲を作る時には先に主人公を決めて作り出すんですけど、それが実在する人とは限らなくて。“靴ずれ”に関しては、特定の誰かに向けた曲ではないんですけど、巡り巡って自分に対しても歌っているようなところがあります。私にも当てはまりますし、聴く人にも当てはめられる部分があるんじゃないかなと思っています。

■この曲を聴いていて、「頑張れ」でも「頑張らないでいい」でもなく、「自分のペースでいこう」というスタンスを取っているのが、すごく素敵だと感じました。

ハナフサ 私自身もアルバムを毎年のように出させていただいて、すごく幸せですし、周りに感謝しかないんですけど、この足を止めてしまったら多分もう歩けないと思っているところがあるんです。ただ足を止めてしまうというのは物理的な意味というよりも、私の考えや気持ちが止まってしまったら、そこで終わりという意味で。なので、過去を振り返る時期があってもいいんじゃないかとも思うんです。みなさんそれぞれ生きていくレールも違えば、やっていることも違いますし、それを無理に励ましたりするのではなく、休みながらでも進んでいけるような歌にしたいなと思っていました。

■“ボーイフレンド”や“赤い糸”など、恋愛の楽曲も何曲か収録されていますが、ハナフサさんの書く恋愛の楽曲は、どこか冷静な視点を持ち合わせているようにも感じます。

ハナフサ そうなんですかね……。恋愛の曲に関しては、今作で言うと“ボーイフレンド”と“プリンセスになって”がドラマの主題歌として書き下ろしている曲なんです。その主人公を頭の中に入れて、その人になりきっているつもりではいるんですけど、どうしても冷静に見ている部分があるのかもしれないですね。私自身がそんなに恋愛に生きているという感じではなかったので、私の視点が入ることで、そう感じさせるものになるのかもしれません。

■恋愛の楽曲を歌う際は、歌い方も主人公に寄せることを意識されたりするんですか?

ハナフサ します。“ボーイフレンド”は特に恋愛に生きている女の人を書いていたので、少し執着心の強めな女性がモチーフになっていて。なので、私がシンプルにメッセージソングを歌う時のニュアンスとは変えています。息の含み方も、少し粘り気が出るような感じにしたいと意識しました。

■“あいたい”は、どんなきっかけからできた曲なのでしょうか?

ハナフサ “あいたい”はコロナ禍にできた曲なんです。本当に人に会えなくなった時期だったじゃないですか。私で言うと、友達に会えなくなったのはもちろん、お客さんに直接音楽を届けることができなくなって……。私はコロナ禍でメジャーデビューしたので、いろんな環境が変わって、より離れてしまうようなイメージがあったんです。なので、この曲を歌うことで、会いに行くきっかけになってくれたら、ということを思って作りました。

■コロナ禍でのメジャーデビューだったハナフサさんですが、ここ数ヵ月で状況が変化してきて、メジャーデビュー以降初経験となることも多いかと思います。その変化を実感することはありますか?

ハナフサ イベントとかは増えてきたので、そこにお声がけいただくことが増えたなと思います。すごくありがたいなと思いますね。

■そして“ボーイフレンド”や“あいたい”といった柔らかい楽曲が続いた後に“ハコニワ”を聴くと、ギター1本に乗せた最初の「社会の中で秩序守って 生きてゆくんです」というフレーズがすごく頭に残って、振れ幅を感じます。

ハナフサ 誰かに合わせて世の中を生きていくのは多分楽なんですけど、そうしていると本当に箱庭の中で生きてるような息苦しさを感じるんじゃないかという気持ちを込めた曲です。結構強めのメッセージを歌っている曲なので、最初の段階ではロックなアレンジをイメージしていたんです。でもそうすると「鋭すぎるのではないか」という意見が出たので、ジャジーなアレンジにしてもらいました。おしゃれな印象にすることで、聴いてくれる人が拒絶しないような曲にしたいなと。身体を揺らしながら聴けるけど、歌詞を見てみたらすごいことを言っているみたいな、そういうギャップを持たせたいなと思って、アレンジをお願いした曲でした。