the peggies VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

the peggies『The GARDEN』

北澤ゆうほ(Vo&Gt)、石渡マキコ(Ba)、大貫みく(Dr)

すべての始まりは自分を受け入れること。本当は見せたくなかった弱さをさらけ出した理由

the peggiesが約2年半ぶりとなるフルアルバム『The GARDEN』を完成させた。前作『Hell like Heaven』をリリースして以降、TVアニメ「彼女、お借りします」オープニングテーマ“センチメートル”、TVアニメ「さらざんまい」エンディングテーマの“スタンドバイミー”、TVアニメ「僕のヒーローアカデミア」第5期エンディングテーマの“足跡”と3作のアニメタイアップを手掛け、国内外でファンが激増している彼女たち。そんな注目を集める中で届けられる本作は、シングル曲で見せたキャッチーな面と、赤裸々に弱さをさらけ出すパーソナルな面が同居し、the peggiesというバンドが丸裸になったアルバムだ。今までは「強く自立している姿を見せたい気持ちが強かった」という彼女たちが、ありのままをさらけ出した理由は何なのか。北澤ゆうほ、石渡マキコ、大貫みくの3人に、アルバムに込めた気持ち、そして「確実なものになってきた」という音楽家として伝えたいメッセージについて語ってもらった。

■前回のアルバムをリリースしてからテーマソング起用が続いて、いい流れで迎えたアルバムだと思うんですけど、みなさんにとってこの2年半はどういう期間でしたか?

北澤 前回のアルバムは「私たちはバンドである」ということを証明したい気持ちが強かったから、アレンジとか音作りとか全部通してバンドサウンドにこだわって作ったんですけど、自分たちの中では伝わりきらなかった感覚があって。でも、それがある意味よかったなと思うのは、自分たちの魅力とか、やっていきたい音楽とか、この2年半で試行錯誤しながら毎回シングルを出せて、その中で成長もできたと思うんです。だから必要な2年半だったのかなと思います。

■この2年半でリリースしたシングル3枚はすべてアニメのテーマソングでしたけど、その経験はみなさんにとって大きなものでしたか?

北澤 まず曲を作るきっかけをいただけたことはとてもありがたいことでしたね。それと書き下ろしのテーマソングは半分自分であり、半分自分じゃないところがあるので、自分という土台を維持しながらも、別の人格の主人公を作って、そこから曲を書く作業になるんです。だから、今自分が思っていることだけではなく、アニメやマンガを読んでいろんな感情を想像する。そういう想像力の幅は広がったと思います。

■“センチメートル”のMVは1000万回以上再生されていて、4月に公開された“足跡”も200万回以上再生されて、反響という意味でも大きかったのかなと。

石渡 海外の方から認知してもらえることが増えたのはやっぱりアニメのおかげだと思うので、それはとても嬉しかったですね。

北澤 でも私は再生回数はそんなに気にしていなくて。それよりもライブの雰囲気。それも動員とかよりも、「いいライブをお客さんと作り上げられているな」と思うと、自分たちの成長を感じます。逆に再生回数がどんなに伸びても、いいライブができなかったらずっと納得いかないと思う。

■今はコロナ禍でライブの手応えがわかりにくい時代じゃないですか?

石渡 でも、マスクをしていても、みんなの表情は意外とわかるんです。最近もゆうほの前にいた女の子が、ゆうほと目が合った瞬間に「キュルルン」みたいな顔をしていたのが印象的で。MCでもお客さんの表情が「キリッ」と変わる瞬間があるし、やっぱりライブは大事な場所なんだなと思います。

■その手応えはこの2年半で着実によくなったと感じているんですか?

北澤 どうだろう。自分たちの環境が変わっているかというと、そうでもないんです。でもこの2年半で3人のコミュニケーションはすごく密になっているから、the peggiesがどんどんいい形になっている実感はあります。

大貫 3人だけのLINEグループがあるんですけど、毎日のように雑談というか、よく稼働するようになりましたね。以前は3人で飲みに行ったりもしていたけど、コロナ禍でできなくなっちゃったから、LINEが活躍するようになったのかなと思います。

石渡 今抱えている悩みとかも2人と共有できるようになったんです。以前はずっと一緒にいるからこそ、弱っている姿を見せたくなかったというか……。2人からは元気な自分を見て欲しいと思っていたけど、そういう2人に見せる面が変わってきたなと思います。

■テーマソングの起用も続いて、「上り調子でアルバム出すぞ!」みたいな雰囲気を勝手に想像していたんですけど、みなさん意外と冷静ですよね。

北澤 だって上には上がいますから。自分たちが調子いいと思ったことはないです。

石渡 一歩一歩確実に進もうっていう気持ちなので。

■そういう状態の中でアルバムを作るにあたって、どんなことを考えたんですか?

北澤 私、“足跡”を書いたあたりから、音楽をやる人として伝えたいメッセージみたいなものが、確実なものになってきていて。ただ楽しいとか、ただ尖っていこうとかじゃなくて、みんなのツラい時間とかが少しでも減るように、「最終的に自分自身を受け止めて、愛することができたら素晴らしいよね」っていうのを徹底して伝えていきたい気持ちが固まったんです。

■そのメッセージを込めたアルバムにしようと?

北澤 そうなんですけど、アニメのテーマソングもあって、それぞれ違う主人公がいる曲が集合しているので、コンセプトアルバム的に作るのは難しいと思ったんです。だから、シングル曲ではペギーズのキャッチーな部分を見せて、アルバム曲ではセンシティブな部分やパーソナルな部分を見せることで、聴いてくれる人とthe peggiesの信頼感みたいなものが強くなるアルバムにできたらいいなと思いました。

■アルバム曲では自分の気持ちを素直に出したということですか?

北澤 そうですね。(2017年に)メジャーに行ってからは、自分自身の弱い部分や情けない部分は出さずに、強く自立している姿を見せたい気持ちが強かったんですけど、みんなが心を裸にしてthe peggiesを聴いて感情を動かしてもらうためには、こっちが素直にさらけ出さなきゃいけないと思ったんです。それも私たちをわかって欲しいという感情じゃなくて、同じように「いなくなりたい」と思っている人がいるんだとか、無理して元気にならなくていいんだとか、聴いてくれた誰かが救われるといいなって。自分を見せることによる先の何かを求めて、赤裸々に自分たちを表現したいなと思いました。

大貫 今回の“ドア”とか“Contrast”とかは、アルバムだから見せられたthe peggiesの一面だと思うんです。“センチメートル”だったり、“スタンドバイミー”だったり、“足跡”だったり、アニメのテーマソングになった点である曲たちが、アルバムだからこそ入れられる曲と一緒の作品になることで、線になっているというか。

■その“ドア”とか“Contrast”とかは、きっとツラいことがあったんだろうなと想像しちゃったんですけど、石渡さんと大貫さんは曲を聴いて心配になりませんでしたか?

北澤 ふふふ。(笑)

石渡 でも、落ち込んでいる時もあるって知っていたから、すごい自然というか。

大貫 たぶん同じくらい落ち込んだとしても、こんなにいい言葉で自分は書けないし、「こういう暗い気持ちになってもいいんだ」とか、そこで救われる人が私以外の聴いている人にもあると思うから、これを聴いて心配になるとかはないけど、これをゆうほが書いてくれたことは、絶対に社会のためになっているなと思います。

石渡 社会のため。(笑)

■この作品を聴いて「わかる!」って共感する人はたくさんいると思うんです。でも、僕みたいなインタビュアーが軽々しく「わかります!」って言うと、「お前、何もわかってないだろ!」と言われそうで怖いなと思っていて。

北澤 そんなことないですよ!(笑)

■それを信じて言いますけど、本当は弱いけど強がっているみたいな部分があると思うんです。

北澤 前回のアルバムは、ある種の暴力性があったと思っていて。明るくなれない自分に対する皮肉で元気な曲を書いたり、夏が全然好きじゃないのに「夏最高!」っていう曲を書いたり、自傷行為みたいな感じで反対のものをあえて出していたんです。だけど今回はしっかり前を向ける人間になるためには、そうじゃない伝え方をしていきたいなって、自分の中で変化があって。

■その変化というのは?

北澤 みんなにちゃんと向き合いたい。そのためには自分にも向き合って、その姿を全部中継しなきゃっていう使命感みたいなものに駆られたんです。寄り添いたい、共感してもらいたい気持ちはずっと一貫してあったけど、そのためのやり方がこの2年くらいで大きく変わって。これが自分のやりたいことかなって、だんだん固まってきている最中の1枚目が、今回のアルバムなのかなと思います。

■そうだったんですね。アルバム曲は実体験が基になっているんですか?

北澤 そうですね。それこそ“ドア”や“Contrast”は、“足跡”を書く前後に書いたんですけど、“足跡”を書くのが本当にツラかったんです。全然書けないというか、何回書き直しても「これでいこう」とならなくて。それで「もう私が書かなくてもいいじゃん」みたいな気持ちになったり、「なんでこんなツラい思いをしなきゃいけないんだ」と思ったり、その時の地の底まで落ちたメンタルが、“ドア”や“Contrast”には書き出されていると思います。

■それはプレッシャーを感じていたということなんですか?

北澤 プレッシャーはかなり感じていました。なかなか上手くいかなくて、なんのために歌詞を書いているのか考えた時に、みんなにOKをもらうために書いていたなっていうことに気づいて、そういう自分に対する嫌悪や反省で気が滅入っちゃったんです。でもラッキーなことに、私は痛みやツラさを作品にできる立場にいるから、そういう誰かを救えるきっかけを持っているなら、ただ自分がツラくてというだけで終わらせるのではなく、それをちゃんと形にしていかなきゃなと思って。

■“Contrast”では、「ただ生きる、それだけの事が/なんでこんなに難しくて苦しいのかな」と歌っていますけど、“いきてる”(2015年発表『NEW KINGDOM』収録・2020年発表『アネモネEP』収録)にも「生きているだけで素晴らしいんだって/言えるまであとどれくらいさぁ」という歌詞があって、6年経ってもたどり着けなかったというか……。

北澤 そうなんです。(笑) でも“いきてる”を書いた時は、本当に自分だけが悲しくてツラいと思っていて。それを歌いたくて書いたけど、“Contrast”は誰かのためになりたくて、そのために自分の気持ちを全部書きだした。形としては似ているけど、似て非なるものというか。そこの間にすごく自分なりの成長があるので、ただ単に昔やっていたことをやるっていうよりは、昔の気持ちに立ち返った時に、どういうものができるかなっていう実験的な部分もあるんです。

■石渡さんと大貫さんは、こういう曲に対しては「共感」という感じなんですか?

石渡 自分もどん底まで落ち込んだ時はこういうことを感じるので、それを普段すごく強い女性であるゆうほが歌ってくれることで、「ゆうほでもこんな気持ちになるんだ」って。自分たちに寄り添ってくれるような、肯定してくれるような曲だと思うので、そういう曲があることは本当に社会のためになるなと思います。

大貫 私は楽しい感情は自分で拾ってこれるんだけど、暗いことになると麻痺するというか、どうやって自分の暗い気持ちを引っ張りあげればいいのか自分でもわからなくなるんです。だから、ゆうほがこういう曲を作ってくれると、「あの時の気持ちはめっちゃ“ドア”だな」とか、言語化されるんです。そういう暗い気持ちを言語化するのって、すごくツラい作業だと思うんですよ。それをやっているゆうほはカッコいいなと思うし、私のためにも、社会のためにもなっているなと思います。

■「社会のため」推しますね。(笑) 今は落ち込み成分ばかり拾っていますけど、みなさん楽しい時もあるんですよね?

石渡 あります。(笑)

北澤 ライブしている時とか。

■たとえば“Hello Sugar”は失恋して未練のある歌なのに、曲調は明るいじゃないですか。それはみなさんの生き方や考え方と関係しているんですか?

北澤 どうだろう。最後に「泣いたって笑うの」という歌詞があるけど、私の中で「ただじゃ死んでやらないぞ」という気持ちがあって。よく苦しいことや悲しいことには意味があるって言われるけど、それはその人たちが意味があることにしてきただけで、最初から意味があるわけじゃないと思うんです。

■確かに。

北澤 意味を持たせるように乗り越えていかないと、本当にただ苦しんで死ぬだけになるから、私は「ただじゃ死んでやらないぞ」「それだけじゃ終わらないからな」って。その一口のエッセンスがthe peggiesらしさにもつながるのかなと思うんです。“ドア”や“Contrast”で落ち込んでいる人間性は出せたから、“Hello Sugar”は本音とは相反するサウンドや雰囲気にして、それはむしろリアルなのかなと思ったりします。極端に落ち込んだり、極端に明るいことよりも、なんとなくずっとツラいことがあって、でも楽しい時は楽しくて、その曖昧が人間のリアルかなと思うので。

■みんな笑っている時でも、たとえば親が病気とか、同時進行で別の感情は絶対にありますしね。その一方でリード曲でもある“ドラマチック”は、歌詞を見て「結婚でもするのかな?」と思ったんです。(笑)

一同 はははは!(笑)