idom×RACH? VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

日本×インドネシア、「遠距離恋愛」をテーマに繋ぐ音楽の懸け橋。

idomが、インドネシアのアーティスト・RACH?とコラボレーションして、『Call it Love』と、『Tell Me What』をリリース。国や言葉の壁を越え、国際色豊かなコラボとなった本作では、「遠距離恋愛」をテーマに、ふたりが英語、日本語、インドネシア語で歌う。インドネシアの民族音楽「ダンドゥット」を取り入れた心地よいサウンドを持つ本作について、今回はidomと、来日したRACH?に話を訊いた。

■idomさんはプロダクトデザインを勉強されていたんですよね?ファッションを勉強している人が音楽の道に進むことはたまに聞く話ですが、idomさんはプロダクトの勉強が、音楽に活きていると感じることはありますか?

idom デザイン工学やユーザーエクスペリエンス(体験)を大学で専攻していました。ファッションから音楽を始める方は、自己表現の方法がファッションから音楽に変わったんだと思うのですが、僕は多分そうではないんですよ。もう少し工学的というか、自己表現というよりかは、デザインという言葉の意味そのままというか。「デザイン」って、本来の意味では、自己表現じゃなくて、他者指向なんです。他者をどういうふうにサポートするか、この人がどうやったらその製品を手に取るか、受け取るか。そういった視点が自分の中では強いので、それがマーケティングだったり、自己分析だったり、自分のポジションがどこにあるかを俯瞰して、客観的に見てアプローチする手法を音楽でやってみようと始めた感じで。ちょっとアーティストっぽくないタイプかもしれないです。

■その言葉を聞いて納得しました。もうひとりの自分が自分を見ているような感覚なんでしょうか?

idom 元々はそういう風にしてみようかなと思ったんですけど、だんだんそこから「今、自分に必要なリリースの仕方は、もっと自分のパーソナリティな部分を皆さんにお見せすることだ」と思うようになり、アーティストとしてのidomとプライベートな自分自身がそこまで乖離はしていないのかなと思います。

■その中で、音楽的なルーツはありますか?

idom USのR&Bとポップスです。幼い頃に母が家でBritney Spearsとか、Backstreet Boysとかをよくかけていて。小学校の時は好きだった*NSYNCからソロになったJustin Timberlakeのアルバムから始まって、Pharrell Williams、Usher、Ne-Yoとか聴いてました。中学になって出逢ったFrank OceanとかJustin Bieberとかの影響も大きいと思います。

■RACH?さんは何をきっかけにシンガーを目指すようになったのでしょうか?

RACH? 私は元々日本でいうところのアイドルグループみたいなものに入っていたのですが、アイドル時代から自分で曲を作っていたこともあって、今のチームの人に出会ってから準備を重ねて、2025年にようやくリリースの機会が巡ってきた感じです。

■私はインドネシアの音楽シーンに興味があって。今はどんな音楽が流行っているんですか?

RACH? 一応ポップバラードが流行っているんですが、HipHopが今年くらいから流行しはじめて、あと、東側の音楽も流行ってきました。日本からはサカナクションがバズったりしていました。(笑) でもやっぱりHipHopがバズってから、また新しいジャンルが生まれ始めたので、そこが今のシーンなのかなと思います。

■その中で、RACH?さんはご自身の音楽がどんなポジションにあると思っていますか?

RACH? インドネシアでは、最近インディーズのバンドも熱くなってきていたりするので、オルタナティブロックとかも好きだから、そういうこともしてみたいなと思っています。

■だんだんわかってきました。お二人のお互いの印象はいかがでしたか?

idom 最初RACH?のことを知った時は、単純に「声がいいな」と思いました。歌声を聴いた時、自分の声とミックスした時のイメージがパッと浮かぶようなアーティストは、そう多くはないので、すごく印象に残りました。ただ、僕が知った時はまだ1曲しかリリースしていなかったので、他にはどんなところにいけるのかなと考えていました。

RACH? 私はidomさんの声がすごく心に残りました。そしてクリエイティブ感もすごくて共感しているところもあります。最初に会った時は、お互いの好きなことを、音楽も含めて話したりして、idomさんが作る音楽はものすごく繊細で、それが心にあったから、何を作ろうかと思った時に、恋愛とか、そういう甘い曲を作りたいなと思いました。

■お互いに好印象だったようですね。ところで、今回のコラボはどのような経緯で決定したのでしょうか?

idom ソニーの中で、インドネシアのアーティストとのコラボを提案していただいて、正直、インドネシアの音楽シーンに詳しくはなかったのですが、「今インドネシアが面白いよ」という話を会社の方からも聞いて、それで実際に自分でも聴いていく中で、インドネシアで流行っている曲のカルチャーに惹かれていきました。R&Bの音数も少ないサウンド感で、何億再生もいってるのかと驚きました。R&BやHipHopのリスナー数を見ても、若者のリスニングカルチャーが、同じアジアでも日本より強いと感じました。あと、実際にインドネシアに行って、みんな普段の移動は車なので、カーステレオ文化が未だに根強いということも感じました。そういったことも通して、ぜひコラボに挑戦してみたいと思った感じです。

■今回リリースされるのは2曲とも遠距離恋愛をテーマにしてるんですよね?2曲とも似たテーマになっているのはどうしてなんですか?

idom 歌詞のテーマに関しては、トラックを作っている段階で、彼女が「こういうテーマが面白いと思うんだけど」と提案してくれました。お互いが離れた国にいるから、その気持ちを歌うことができたら、テーマにも親和性があるし。あと、今って「オンラインで会ったこともない人と付き合う」みたいなことが普通にあるじゃないですか。そういう現代の若者っぽさみたいなものも面白いなということを話しました。実際に僕らも出会ったきっかけは、会社を通してでしたし。どちらも遠距離恋愛がテーマにはなったのですが、表裏一体というか、スウィートな曲もあれば、ちょっと上手くいっていない曲もある……というアイデアの部分を彼女が考えてくれました。

RACH? もちろん共通のテーマなんですけど、日本語とインドネシア語、それ以外でも合うようなストーリーの中でこの歌詞を作りました。

■2曲とも本当に素敵で面白かったです。ただ私はとても英語が苦手で……。でも曲を聴いていると、「遠距離恋愛」というテーマがちゃんと伝わってくるのが面白かったんです。RACH?さんは第一言語がインドネシア語で、第二言語が英語ですよね。英語の作詞で苦労したことはありませんでしたか?

RACH? もともと二人でのコミュニケーションは英語だったので、初めから日本語・インドネシア語のどちらかの言語がメインになるというのはあんまりイメージできなくて。彼女のキャラクターを知る中で、もっとグローバルなキャラクターだと感じたんです。だからどの国の人にもテーマも伝わりやすいものにしつつ、時々お互いの言語が飛び交ったりするのが、いいバランスなのかなとは最初の段階でも考えていました。

RACH? 恋愛をテーマに、英語の歌詞もそこまで難しくないように作っています。

■そうなんですよね。よく見てみるとそんなに難しい歌詞ではありませんでした。(笑) それに言葉がわからなくても、遠距離恋愛の切なさや愛しさが伝わってくるんです。それを伝えるために何かテクニックを使いましたか?

idom 遠距離と言っても、国内ではなく、国外の遠距離がテーマなんです。実際に僕の友達にも恋人がアメリカやヨーロッパにいる人がいて、国を跨いで恋愛している人がたくさんいるからこそ、時差を思わせる歌詞を書いてみたり。同じ空の下でも、同じように生活しているわけではなかったりすることがもどかしいんだけど、そこで上手く伝え合うことが遠距離の楽しさだったり、難しさだったりするのかなと思うんですよね。周りの話を聞いて思うことがあり、そういう言葉が歌詞に出てきたらいいなと思い、RACH?にもそれを提案しました。

RACH? ビートやメロディが明るいので、自然とそういったテーマになっていきました。加えて実際に自分でもプライベートでそういう経験があったので、そこから広がった歌詞でもあります。

■なるほど。それにしても、不思議なことにわかるものですね。英語がとっても苦手でも、なんとなく内容がわかるんです。

idom わかりやすく情景が浮かぶようにすることにはこだわっています。“Call it Love”のサビも、「Missing you in the morning/Are you still in the night?」と、「朝会いたくなるけど、君はまだ夜だよね?」というように。そういうところは、リスナーに引っかかってほしいなと思うところです。

■ちなみに日本とインドネシアとの時差はどれぐらいあるんですか?

idom 日本の方がちょっとだけ(※2時間程度)早いです。僕がちょっと早く起きて電話しても向こうはまだ寝ているみたいな。

■朝一番に電話したいけど……みたいな感じですね。

idom そうそう。そんな感じです。

■国際恋愛がテーマだと、面白い歌詞が出てきて楽しいですね。そしてジャンルに「dut」とついているのですが、これは何ですか?

RACH? 「dut」は、インドネシアの伝統音楽の「ダンドゥット」です。日本の音楽で言うと「演歌」みたいな。あんまり若者には聴かれていなかったんですけど、最近HipHopをミックスしたような新しいジャンル「Hip-dut」がZ世代の間に生まれて、今回は「R&B-dut」と「Lofi-dut」バージョンを作ってみました。

■インドネシア的には流行りの曲調なんでしょうか?

RACH? Hip-Dutがバズったので、さらに新しいアレンジとして受け入れられるかもしれません。Hip-Dutはインドネシアから発生したんですが、このコラボからみんなが興味を持ってもらえたら嬉しいなと思って。

idom 今インドネシアで流行っているHip-Dutを日本で例えたら、尺八とか和太鼓とかをHiphopとかに混ぜ込む感じですが、ちょっと企画色というか違和感が生まれるじゃないですか。それに対してHip-Dutは、ダンドゥットが現代のサウンドと自然とマッチしているところが面白いところで、流行りを追っている人たちでも、違う楽しみ方ができる曲にもなっていると思います。お互いのジャンルの中でも、ワールドワイドな常にあるトレンドの中の楽曲ではあると思うんです。そこにインドネシアの民族音楽が混ざっているみたいなことにチャレンジした楽曲ではあります。

■そういう意味では日本はちょっと遅れていますよね。

idom そんなことはないと思います。でもヒットしているジャンル感が限定的な気はします。メジャーシーンの一部は固まっちゃっていると思うんですが、自分はどちらかというと、割と日本のカルチャーの現場でやっている人たちを見てるので、掘ってる人は相当掘ってるなと思うんですが、リスナーの元に届きづらいというか。層が固定化されちゃっているというのはあるかもです。

■それは確かに思いました。そして曲の話に入っていくのですが、私は“Tell Me What”の方が、個人的にはエキゾチックに感じたんです。

idom “Call it Love”の方を先に書いていて、その後に“Tell Me What”を制作していました。RACH?がシティポップや、エレクトリックなポップが好きだったりもしたので、それらとR&Bを混ぜたいい塩梅を探していた時、自分のアルバムの曲などの中で、彼女にも合いそうな曲を選んで、こういう雰囲気でできたらなという感じで進んでいきました。なので、お互いの国を
あまり意識せず、お互いの好きなそのカルチャーを尊重して出来上がった一曲です。

RACH? 私も当初はそういう意識はあまり無くて、自分のアイデンティティをベースとして、その後自分のアイデアを出していくなかで自然とそうなっていきました。