I’m VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

I'm『あれはポラリス』

寂しさに浸りつつ、前を向いて頑張って欲しいなと。

2019年、高校2年のタイミングで1stシングル『Slow Motion』を発表したI’m(アイム)。2020年の夏には3rdシングル『サマータイムラブ』を収録したEPが福岡、渋谷のタワーレコードのタワクルコーナーでチャート1位を見事に獲得した。現在は福岡を拠点に活動する彼女から5thシングル『あれはポラリス』が到着。
魅惑のウィスパーボイスで、メキメキと頭角を表すシンガーソングライター・I’mの影響源や、新たなチャレンジを試みた今作について話を聞いた。

■ 現在は福岡在住ですが、もともとは北海道出身なんですよね?

I’m そうです。北海道のちょうど真ん中で、すごく田舎で何もない街で生まれ育ちました。

■高校2年まで北海道にいたそうですね?

I’m はい、高2年の夏までですね。小さい頃から音楽を聴いたり、本を読むのがすごく好きで。学校の図書館があるじゃないですか。そこで借りられる上限まで本を借りて読んでいたので、それも今の音楽活動に活かされていると思います。

■どういう本を読んでいたんですか?

I’m 最初に読んだ小説は山田悠介さんの『リアル鬼ごっこ』とか、みなさんも中学生の頃とかに読んだことがあると思うんですけど。それから日本の小説家だと、湊かなえさん、川上未映子さんとか、女性作家さんを結構読んでいました。あと、海外の若者向けの小説やエッセイなんかも読んでいましたね。

■音楽を聴き始めたのはいつ頃ですか?

I’m 小学2年生の時に母親が聴いていた椎名林檎さんが最初の衝撃でした。

■まさに椎名林檎さんは福岡出身ですもんね。

I’m そうです。椎名林檎さんの“本能”(2ndアルバム『勝訴ストリップ』収録)という曲を初めて聴いて……。歌詞は「小学生が聴いていいのかな?」という内容じゃないですか。(笑) そこで鮮烈な衝撃を受けて、歌詞の言葉選びやメロディの美しさに注目して、邦楽をよく聴くようになりました。

■ちなみに“本能”のどこに惹かれたんですか?

I’m 「約束は 要らないわ」で始まるサビがすごいなと思って。突き放しているけど、それでもいて欲しいというジレンマが出ていて、葛藤であったり、そういう二面性が出ているところに惹かれますね。

■それはI’mさんの歌詞世界にも通じるところですね。他にはどんな音楽を聴いていましたか?

I’m 中学の頃はバンドブームで、BUMP OF CHICKEN、RADWIMPS、クリープハイプとか、邦ロックが人気でその辺も聴いていました。今でもギターにこだわりがあって、ギターの爽やかなカッティングが好きです。それで高校に入ってからは、ヒップホップをすごく聴くようになったんです。PUNPEEさんの“お嫁においで”を聴いて、それから周りのBIM、唾奇(つばき)、kiki vivi lily(キキ・ヴィヴィ・リリー)、あと、KANDYTOWNというラッパーのクルーがいるんですけど、その1stアルバム『KANDYTOWN』のトラックがカッコ良くて。こんなキレイなトラックに相反するリリックを乗せるんだって。

■それがバンドサウンドとトラックの両方を取り込んだI’mさんの音楽性にも繋がっているんですね。

I’m そうですね。音楽、歌詞にしても二面性は意識しています。

■先ほどの椎名林檎さんの話にも繋がりますが、I’mさんの性格的にも相反するもの、両極にあるものに心を奪われてしまう?

I’m そうですね。ギャップは常に意識していて、自分自身も裏切りながら、挑戦したいと思っています。それこそ福岡の高校は芸能関係だったので、みんな芸能事務所に所属していて、それぞれデビューを目指して輝いている感じだったんです。私は高校3年の時に教員免許を取りたいと思い、短大に進学して、そこで教員免許を取って、今年の春から教員になるんですよ。それも音楽活動に活かしつつやってみたら面白いんじゃないかって。自分の中に違うものを取り入れてやっていきたいなと思っています。

■仕事で得た経験がまた音楽にも還元されそうですね。その考えはどこから来ているんですかね?

I’m 私は田舎で育って、早く独り立ちして都会に出たいという気持ちが強くて。そこで小説を読んだり、音楽を聴くことで夢を見れたというか。自分の普段の生活とは全然違うものだったんです。日々「つまらないな」と思っていても、自分をそこで保っていたので……。反骨精神と言うのか、「早くここから出たいな」と思っていました。でも一歩出てみたら、そこにしかなかったものもわかるようになり、最近の新曲では、もう戻れない懐かしさや思い出が曲にも出ているんじゃないかと思います。

■その気持ちがもっとも表れた曲は?

I’m “Back Seat Memory”という曲は20歳前のタイミングで作り、今までの自分とこれからの自分という区切りの意味で作ったんです。今までは「こういう曲が伸びるんじゃないか?」と考えながら作っていたけど、この曲では初めて自分を表現したんです。歌詞、メロディも自分のこだわりをたくさん入れました。

■“Back Seat Memory”で意識が変わった理由は?

I’m コロナ禍で制作スタイルが変わった方も多いと思うんですけど、私も感情的に、自分自身に意識が向くようになったんです。以前は他者からの評価を気にしていたけど、「自分はどうなりたいのか」という形にシフトしたので、それが曲に表れたんじゃないかと。

■確かに“Back Seat Memory”は、以前とは違うニュアンスが出てきた楽曲でした。そこは自分のこだわりをより入れようと?

I’m 作りたい曲を作れた実感はあります。竹内まりやさんの“Plastic Love”を意識して、あの年代のシティポップの空気感を取り入れようと思って。

■まさにシティポップ感が出ていますけど、その辺の音楽も聴くんですね。“Slow Motion”、“BATHROOM”の初期の2曲などは、夜を舞台にしたMVもそうですが、歌声やサウンドの雰囲気含めて、きのこ帝国とかも好きなのかな?と。

I’m そうですね。きのこ帝国さん、羊文学さんとかも好きですね。

■音楽を掘るのも好きみたいですが、福岡に引っ越されたのもそれが理由なんですか?

I’m はい、福岡の音楽シーンは若者が出やすくて、それをお互いに育てるような土壌があるんです。それこそ椎名林檎さんのこともあり、どうしても福岡で音楽活動がしたかったんです。街自体がコンパクトで、空港まで30分で行けたりとか、いろんなカルチャーがはびこっていて、逆に言えば消えていくのも早いんです。東京よりも流行った曲がすぐに消えたりして、それがわかりやすく表れる街ですね。その中で若いアーティストは「残ろう!」と頑張っていますからね。

■シンガーソングライターで影響を受けた人はいますか?

I’m 清竜人さんの“All My Life”を中学生の時に偶然YouTubeで見つけて、それからずっと聴き続けているんです。ファルセットでキレイな歌声で、当たり前のようにキレイな歌詞を歌う。そのシンプルさがすごいなと。だから、自分もあまり凝ったりせずに、ストレートに歌詞を書くこともありますね。

■I’mさんの歌い方もウィスパー系ですよね?

I’m きのこ帝国さんもそうですし、そういう歌い方が好きです。私は小さい頃から歌っていたタイプではなく、むしろ母親の方が歌が上手で、私が歌っていると「今、(音程を)ハズしているよ!」と言われたりして、歌にはずっとコンプレックスがあったんです。音楽活動を始めた頃は、曲を作って提供しようと思っていたけど、周りから「歌ってみな」と言われて、それで“Slow Motion”をリリースしたのがきっかけなんです。だから、歌にめちゃくちゃ自信があるわけじゃなくて、自分の声を活かすように歌詞やメロディを考えて組んでいます。

■自分の歌声が引き立つ言葉使いであったり?

I’m はい。自分の滑舌も考えて、ひらがなのどれから始めるかとか、それも選んでいます。音域もあまり広くないので、大体中音域になって、メロディが単調になりがちなので、今回の“あれはポラリス”では、今までの中で一番高い音域を使っているんです。