INORAN VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

INORAN『Between The World And Me』

今作の方が感情はメロウになっているというか、揺れています。

INORANが13thアルバム『Libertine Dreams』に続き、約5カ月という短いタームで14thアルバム『Between The World And Me』を完成させた。そのスピード感に驚かされたが、前作同様にステイホーム期間に作られた楽曲だという。「2枚組でも良かった」とは本人の弁だが、前作の延長線上にありながら、制作に関してはより掘り下げた作品と言っていい。豊潤なエモーションで聴く者の心を射抜く今作について、INORANに話を聞いた。

■まず前作『Libertine Dreams』以降、9月、10月に「静」と「動」とテーマを分けて生配信ライブを行いましたが、その時の感触から教えてもらえますか?

INORAN こういう時代になる前は生のライブが好きなので、全く興味はなかったんですよ。ただ、生配信に関しても伝えるということにフォーカスが合わないと、伝わらないんですよね。それは自分だけの問題じゃなく、一緒に現場を作り上げるスタッフと連携が取れていないと、いいイベントにはならないから。それを忘れていたわけではないけど、今までのライブスタイルの中でおそろかにしていた部分があったのかなと。

■なるほど。

INORAN 配信ライブは生のライブの下という考え方で関係者やスタッフが臨んでしまうと、それが伝わってしまうから。時代は変化するもので、ケータイ電話が出てきたら、それに順応して、それがノーマルになっていくわけじゃないですか。音楽人として配信ライブは新しいノーマルが出てきたんだなという解釈です。だから、映画と重なったんですよ。昔は映画館で観ていたわけで、テレビ画面だと迫力がないと思っていたけど、今やNetflix(ネットフリックス)をみんな観ているわけじゃないですか。そういう意味でライブも変わっていくものじゃないかと思ったんですよ。

■変化に対応することも大事だと。配信ライブの現場でも普段通りに臨めた感じですか?

INORAN その前にシアターブルックの佐藤タイジさんの配信ライブにゲストで呼んでいただいたんですよ。無観客ライブだったのでお客さんはいなかったけど、タイジさんのカッコよさは変わらないんですよね。自分の配信ライブの前にそれを体験できたことが良かったのかもしれない。同じ場所にいなくても、同じ時間を共有しているわけだからね。コロナ禍で直接会えなくなったからこそ、そういう風に考えられるようになったのかもしれないけど。

■わかりました。今作は前作から約5カ月という短いスパンでのリリースとなりましたね。

INORAN 前作と同時期に作っていたんですよ。ステイホーム期間の4、5、6月頃に3日に1曲ペースで30曲ぐらい作りましたからね。その前半に作った曲が前作で、後半に作った曲が今作なんですよ。本当は2枚組でも良かったんだけど、期間空けちゃってごめんなさいって感じですね。(笑)

■曲を作った順番で二枚の作品に振り分けたと?

INORAN ほぼ出来た順ですね。前作のラストが“Dirty World”で、次に出来た“Hard Right”が今作の1曲目で、最後にできた曲が“Leap of Faith”なんですよ。ただ、“Between The World And Me”という曲だけはアルバム制作とはちょっと横に置いていた曲で、特に入れるつもりもなく、趣味の趣味で作っていたものなんですよ。でもやっぱりこの曲を入れたいなと。じゃあ、アルバムのおヘソに入れようと。

■表題曲にもなっていますし、重要なポジションを担う楽曲ですよね。なぜこの曲を収録しようと?

INORAN う〜ん、何だろう…途中で入れたいと思ったから。(笑) そういう命を持った曲だったのかもしれない。

■“Between The World And Me”というタイトル自体は、どこから出てきた言葉なんですか?

INORAN アメリカの本のタイトル(邦題『世界と僕のあいだに』)なんですよ。内容的には黒人のお父さんが自分の息子に宛てた手紙という形式を取ったもので。家を買って、車を買ってみたいなアメリカンドリームがあるけど、アメリカの中で黒人として生きるためには誇りや強さを持たなきゃいけないから。タイトルの言葉の響きを含めて、ブラック・ライヴズ・マター(BLM)の問題もあったし、このタイトルに引き寄せられたんですよ。世界と僕の間…そこで「自分の世界って何だろう?」と考えたし。ローランドじゃないけど、俺か俺以外なのかなって。(笑) 僕以外はすべて世界になるわけで、じゃあ、「僕って何だろう?」と考えさせられましたね。

■それが今作の方向性とも一致したと。今回の曲作りの方法もほぼ前作と同じと考えていいのでしょうか?

INORAN そう。地続きなので、またインタビューしてもらうのも申し訳ないんだけど。(笑)

■いえいえ。前作と今作で作った順に収録したと仰っていましたが、そうなると、曲作りの前半と後半で何か心境の変化はありましたか?

INORAN ステイホームが始まった頃はよくわからないまま「頑張ろう!」という感じだったけど、5、6月になってくると、「出口はどこにあるのかな?」と思うようになって。だから、今作の方が感情はメロウになっているというか、揺れています。曲調から自分で分析するとね。前作はデモを作って、歌詞が乗って、レコーディングするという流れだったけど。今回は歌詞ができて、それをちゃんと整え直してから臨んだんですよ。前作と同じ流れではあるけど、時間があった分、見つめ直せたところはありますね。このテーブルにお茶があるけど、「はい、これがお茶です!」と、そのまま言ったのが前作だとするなら、今回は目の前にお茶はあるけど、日にちが経って見つめ返して、「本当にこれでいいのかな?」って。自分の中で深掘りした部分はあるかもしれない。

■前作よりも俯瞰して楽曲を見つめ直すことができたと。確かに今作はサウンドの雰囲気がまた違いますよね。作品全体から優しさや温かみ、メロディラインの美しさが際立った内容に仕上がっています。

INORAN スタッフやエンジニアとも前作以上にフォーカスは合っていますからね。「この低音を出したいから、今回はこうしよう」とかね。エンジニアの癖もわかるようになったし、コミュニケーションの濃さも上がったと思います。

■制作を取り巻くスタッフ陣との関係性も音に出ていると?

INORAN うん、前作からのストーリーもみんなで共有しているから。前作の時は続きがあるのか、これで終わりなのか、僕も特に説明していなかったですからね。