個性の強い二人が1曲の中に共存するのはすごいことだと思う
デビュー20周年イヤーに入り、河口恭吾のコラボ企画第4弾は気鋭のシンガーソングライター川崎鷹也を迎え、親密コラボが実現した。“Stay Blue (feat. 川崎鷹也)”は、世代や時代を跨ぎ、多くの人が共感できるハートフルな楽曲に仕上がった。例え描いていた夢と違っても、叶えたかった夢がもし崩れても、あの頃の気持ちを持ち続ければずっと輝いていられるのだ。「そのためには何が必要なのか?」という疑問に対する回答を優しくも力強く提示したナンバー。河口、川崎の二人のシンガーソングライターの熱い心情が重なったデュエット曲について、二人に話を聞いた。
■お二人が最初に顔を合わせたのはいつ頃になるんですか?
河口 僕のラジオ番組に川崎さんがゲストで来ていただいて、ZOOMでの出演だったので直接お会いはしていないんですけど。それが去年?
川崎 今年ですね。
河口 あっ、今年か。
■ゲストに川崎さんを呼んだ理由は?
河口 共通の知り合いがいたんですよ。何かのリリースタイミングではなかったですよね?
川崎 そうではなかったはずです。同じ栃木県出身で、僕はもちろん知っていましたけど、地元の話を軽くしつつ、音楽の話もしたり、割りとツッコんだ話もしましたよね。「どう、楽しめてる?」みたいな。(笑)
河口 そうだね。深夜番組的なノリだから。
■その後に交流を深めたんですか?
河口 お礼のメールをした後、僕は去年からコラボシングルをやっていたので、川崎さんと何かできたらいいなと。ラジオに来ていただいた時に、改めて楽曲を聴く中でめちゃくちゃ魅力のある方だなと思ったんです。男性的で力強い歌い方なので、そういうエモーショナルな部分に惹かれました。
川崎 純粋に嬉しいですね。河口さんと一つのものを作れるのは光栄ですからね。ただ、プレッシャーもあって「僕でいいのかな…?」と。でもラジオ番組で話した時に同じミュージシャン同士でわかることもあり、オファーをいただいた時は嬉しかったです。
■ミュージシャン同士でわかることとは?
川崎 シンガーソングライター同士ということもあり、河口さんは自分に正直な方だなと。何かに流されたりしないというか、そういう風にやってこられた方なんだなと感じました。僕も誰かに指示されて動くタイプではないので、お互いに心のこもったコラボレーションができるんじゃないかと。
■お互いの音楽性についてはどんな印象をお持ちですか?
川崎 もちろん小さい頃から“桜”は聴いていましたからね。僕には出せない声質を持っていて、透き通った伸びやかで煌びやかな声なんですよ。だからこそ、このコラボを通して普段の僕だったり、普段の河口さんだったり、恐縮ではありますけどお互いに補い合い、コラボならではの歌い方やセクションの作り方、コーラスであったり、いろんな意味で楽しめました。
■それは個人作業の曲作りでは得られない感覚ですか?
川崎 そうですね。メロディの作り方や言葉の選び方もそうだし、自分にないアプローチですからね。僕にとってはレコーディングのやり方一つとっても学びがありました。自分がリリースしている曲は一人でレコーディングしているので、そもそも誰かと音を録る経験もなかったですから。
■河口さんはいかがですか?
河口 今回の“Stay Blue (feat. 川崎鷹也)”は、最初から川崎さんに歌ってもらおうと思い、川崎さん節みたいなものを上手く表現できる曲を書こうと。僕は40代後半、川崎さんはまだ20代なので、世代は全然違うけど、聴いている音楽の共通項が見つかったりしたんですよ。時代が変わっても、良いものは変わらないというか。それを一緒に楽曲を制作する中で再認識しましたから。川崎さんは新しい世代のソングライターだけど、僕自身も学びが多かったですね。
■音楽の共通項というと?
河口 例えば二人とも玉置浩二さんが好きで、年齢は違うのに同じところで心を震わせているんだなと。そこは自分にとって大きかったですね。
川崎 親が聴いていたので好きになったんです。僕は30年先、40年先も語り継がれる音楽を作りたいんです。それが玉置浩二さんのメロディや、河口さんの“桜”、尾崎豊さんの“I LOVE YOU”だったり、僕にとってはそういう曲を生み出した先輩であり、お手本が河口さんだったので。「俺もそういう風になりたいな」と思い、レコーディングに臨みました。お互いの全力がぶつかればいいものができると思いましたから。リファレンスでもらったメロディを聴きながら、僕自身の歌い方に消化して、反骨心ではないけど、僕ならこうするみたいな。
河口 はははは。
川崎 河口さんも理解してくれたし、そういうチャレンジもしながら、同じベクトルを向いている感覚が得られましたから。
河口 川崎さんのオリジナリティのある歌い回しは、ブースの外で聴いていても「いいなぁ」と思いましたからね。僕が作ったメロディを土台に、シンガーソングライター川崎鷹也という人とやりたかったので、2番は川崎さんが主メロを取ってくれたけど、心にズシズシ響きましたから。
川崎 僕もこの曲を聴いた時に、「早く歌いたい!」と思いました。
■特にどの辺に惹かれたんですか?
川崎 当時、メロディや歌詞は僕とのコラボを前提で作ったとは知らなくて。いいメロディと僕が歌いたいメロディはまた違うんですけど…とにかく「いいメロディだなぁ」と。似ているとまでは言わないけど、僕が考えるメロディと近い部分を感じたんです。このコード進行なら、このメロディで構成するだろうなと。そこが掛け離れていなかったので、それが気持ち良かったですね。
■“Stay Blue (feat. 川崎鷹也)”を聴くと、お二人の声質の個性がより際立って聴こえますね。
河口 デュエット曲が近年なかったので、そこを狙いたいなと。個性の強い二人が1曲の中に共存するのはすごいことだと思うので、その目標は達成できたかな。
■どちらかと言えば、河口さんは女性的なメロディ、川崎さんは男性的なメロディで、補完し合うような最良の関係性だなと感じました。
川崎 この曲は1番と2番でサビメロの主旋律とハモリが入れ替わっているので、僕は2番の主旋律を歌わせてもらいましたけど、すごく気持ち良かったですから。河口さんにハモリで支えてもらったので、より力強く歌えたんじゃないかと思います。
■河口さんは川崎さんを想定して曲を作ったと言われていましたが、最初の取っ掛かりは?
河口 シンプルなラブソングを作ろうと思ったんですよ。川崎さんとやるなら世代を問わずに共感してもらえるテーマがいいだろうと思って。それに加えて夏の終わりをテーマにしました。
■歌詞の世界観は若い人には作れない内容ですよね。「夢は必ず叶うんだ!」というアプローチとはまた違いますから。
河口 やっても叶わなかった20年だから、それが出ているんでしょうね。(笑) そういう自分だから、川崎さんに筆を加えてもらうことで、世代が違う方の感性やフレーバーを必要としたんだろうなと。
川崎 全体の歌詞のベースは河口さんが書かれているんですけど、僕の方で特に直しはなかったんです。ただ、僕の「ニュアンスも入れようよ!」と言われたので、この歌詞を受けて…僕も栃木の学生時代の夏祭りだったり、東京に出てきて夢を失いかけた気持ちだったり、いろいろと共感できましたから。僕が歌っている「呼吸も忘れた線香花火を 今も覚えているから」という歌詞がパッと思い浮かんだんです。
■歌詞の表現が独特ですよね。
川崎 確かにあまり言わないかもしれないですね。(笑) 線香花火をしている時はなぜか息を止めていて…あの純粋な気持ちや、この時間が終わって欲しくないという気持ちを思い返したんです。もう少しツッコむと、線香花火は人生に例えられて、三段階あるんです。最初にバッと燃え上がり、キレイに広がって、最後はまさにジャケ写にもあるようにパッパッと火花が散るという。そういうところも好きなんですよね。だから、この曲もいろんな解釈があって、終わりに向かうのか、もう一度這い上がっていくのか、受け手によって違うだろうけど、僕は「あの頃の気持ちを忘れずに」という気持ちを表したかったんです。
■挫折を経験しながらも、前に進んでいくことの大切さは河口さんが表現したかったことですか?
河口 コロナ禍の中において、音楽が世の中でどう機能していくべきかを考えた時に、厳しい現実を歌われるのは自分が聴き手になったと時に「嫌だな…」と。ちょっと気持ちが前向きになれたり、俯いていた顔が起き上がるような世界観を届けたくて。