声にならないよ VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

抒情的なラブソングを集めたミニアルバム『幾度も愛を染められて』を語る。

「あなたの声にならない思いを歌う」をコンセプトに活動するピアノポップバンド、声にならないよが2枚目のミニアルバム『幾度も愛を染められて』をリリース。バンドサウンドが疾走感のある “染愛”や“インターネットの海を越えて”、ピアノサウンドが柔らかい“おそろい”、“幸せになってね。”など、柔軟なアプローチで様々な恋愛の心情を描いた今作。ボーカルと作詞を担当する若宮めめ、キーボードと作曲を担当するHiRoの二人に、声にならないよの結成までについてと、今作へのこだわりについて話を訊いた。

■まずは、お二人が声にならないよとして活動を始めるまでの経緯や、音楽を始めたきっかけを教えてください。

若宮 昔から母親の影響で、車の中で宇多田ヒカルさんなどのアーティストさんの楽曲をよく聴いていて。その時から歌うことにずっと憧れを持っていたんです。僕とHiRoくんが出会ったのが学生時代の時なんですけど、一緒にカラオケに行ったりしているうちに、段々と人前で歌いたいという気持ちが強まってきて、バンドという形で音楽を始めました。

HiRo 僕はこのバンドを始める前はコブクロさんがずっと好きで、それがきっかけでギターを始めたり、コードを覚えたり、作曲に手を出してみたりと、初めは真似事で始めたんです。それは今の活動にすごく繋がっているのかなと思います。

■お二人は音楽活動をやるために出会ったのではなく、元々学生時代の友人同士だったんですよね?

若宮 二人とも和太鼓部に入っていて、その部員同士という感じでした。実は声にならないよの前にもHiRoくんとバンドを組んでいたんですけど、それは「バンドに太鼓を入れたら面白いんじゃないか」という挑戦で、僕ら以外のメンバーが和太鼓を叩いていたんです。でもあまり上手くハマらずに他のメンバーたちが抜けて……。それで和太鼓なしのバンドにチャレンジしてみようということになったんです。それが普通の編成だと思うんですけど。(笑) その時にコンセプトも考えて、声にならないよをやってみようということになりました。

■声にならないよは、「あなたの声にならない思いを歌う」というコンセプトを掲げ活動していますが、このコンセプトに至った経緯にはどんなものがあるのでしょうか?

若宮 僕が「歌いいな」と思ったきっかけの存在は宇多田ヒカルさんなんですけど、バンドという形で憧れを持ったのはSEKAI NO OWARIで。さいたまスーパーアリーナかどこかで、SEKAI NO OWARIのライブを見た時、アンコールの際の深瀬さんのMCに涙が止まらなかったんです。曲もそうだし、考え方も含めて、自分のもどかしい気持ちを代弁してくれていると感じて、憧れて。自分も歌を歌うんだったら、そういう存在になりたいと思ったんです。聴いている人たちが普段思っているけど言葉にできないようなもどかしい感情を歌えるようになりたいと思って、声にならないよというバンド名を付けました。

■今回リリースされたセカンドミニアルバム『幾度も愛を染められて』は、ラブソングを中心に収録されたアルバムになっています。アルバムのテーマを決めてから楽曲を作り出したのか、曲を作っていく中でひとつのアルバムにまとめることになったのか、順序としてはどちらだったのでしょうか?

若宮 去年の今頃の時期に1枚目のミニアルバムを出したんですけど、それから次のアルバムまで「どういうコンセプトやメッセージ性のものを歌いたいか」というのを明確に決めて、それに沿って歌詞を書くという作り方をしたんです。タイトルを決めたのは後になってからでしたけど、自分の中で歌詞を書く上でのおおざっぱなコンセプトは元々決めていました。

■リード曲“Lycoris feat.ひとみ from あたらよ”は、あたらよのひとみさんとのデュエット曲ですね。

若宮 デュエット曲を今までやったことがなかったんです。なので、男女でメインボーカルを務める楽曲を作ろうということでできた曲ですね。

■あたらよとはそれまでも親交があったんですか?

若宮 昨年、下北沢のMOSAiCと近松でやったサーキットイベントに出演したんですけど、その時の打ち上げで出会って。僕は元々あたらよをよく聴いていたし、好きだったので、「友達になりたい」と思って、打ち上げで突撃したんです。(笑) そうしたら、あたらよはあたらよで全然友達がいないみたいな話をしていて、そこで仲良くなりました。

■デュエットの曲を作ることにした際、女性のメインボーカルのイメージは初めからひとみさんだったんですか?

若宮 そうですね。あたらよも切ない恋愛の曲を歌っていますし、ぴったりハマるなと思ったので、最初にお声がけさせていただきました。ご快諾いただけたので良かったです。

■ボーカル二人という、普段とは異なる制作はいかがでしたか?

若宮 めちゃくちゃ苦労しました……。

HiRo 難しかったですね。(笑)

若宮 歌詞はそんなに苦労しなかったんです。それまでの曲は僕一人で歌っていたので、歌詞は男性目線か女性目線のどちらかだったんですけど、今回は男性側の視点と女性側の視点のどちらも歌詞に盛り込んでいるんです。それが新しいチャレンジだったんですけど、今までと変わらずに書けました。でもメロディーのキーの問題が難しくて。どちらかがハモリにまわるというよりも、どちらもメインだったので、僕の美味しい声とひとみちゃんの美味しい声の塩梅を決めるのがすごく難しかったです。

HiRo 最初に歌詞が送られてきて、それに沿ってメロディーを作ったんですけど、メロディーそのものは自分の中でもしっくりきていたんです。実際そのまま採用された部分も結構あるんですけど、男女ということもあって、ひとみちゃんは高めの音が得意で、めめさんは低めの音域が得意なので、「二人の声がどちらも活きるところはどこなんだろう?」というので、デモを10テイク以上作ったりして。一時は「初めから作り直そうか」という話も出るくらい難航しましたね。

若宮 結構時間かかったよね。あまり普段は時間をかけなくて、「駄目だったら次の曲」みたいな感じなんです。1曲できるまでは長かったとしても、ひとつのデモにかける時間は短いというか。なので、今回は没にならなかったのが珍しかったですね。

■“Lycoris”を聴いた後に、2曲目の“染愛”や3曲目の“インターネットの海を越えて”を聴くと、疾走感や高揚感があってギャップに驚きました。

若宮 その2曲はライブを意識して書いた曲なので、疾走感があるアレンジになっています。僕たちはバラードがすごく好きなので、できるなら全曲バラードでいきたいくらいなんですけど、そうするとライブの時にどんどん沈んでしまうライブになっちゃうじゃないですか。(笑) 「一緒にライブで盛り上がれる曲も欲しい」ということも考えて、疾走感はあるけど、コンセプトはブレない曲にできたかなと思います。ちなみに今名前が挙がった “染愛”は、アルバムタイトルの『幾度も愛を染められて』の元にもなっているんです。アルバムの収録曲に“生きる理由になったから”という曲があるんですけど、それが僕の中ではこの1年間のコンセプトに一番近い曲で。生きる糧とか、頑張る理由、生きる希望って、それぞれにあると思うんですけど、それが自分自身ではなく、自分の大切な人のためにとか、家族や好きな人のために頑張るのってすごく輝いていると思うんです。そういうコンセプトで今回のアルバムを書いたんですけど、なにかに染まるのも、自分以外の存在がないとできないことじゃないですか。“染愛”はそういう考えから書いた曲でした。

■今お話に出てきた“生きる理由になったから”は、歌詞がすごく印象に残った楽曲だったので、アルバムコンセプトの柱になるような曲だったと聞いて納得です。

若宮 歌詞を書く時は「このフレーズは絶対に入れたい」という歌詞を先に作ってから広げていくことが多いんですけど、“生きる理由になったから”で言うと、Cメロの「こんなつまらない人生 いつ死んでしまっても構わないけど 君の涙を見るくらいなら もう少し生きてみようかと思う毎日です」というフレーズが僕の中でかなり気に入っていて。ストレートに「あなたがいるから私はもう少し頑張ってみようかな」という歌詞になっていますし、「めちゃめちゃ頑張る」ではなくて、「もう少し生きる」というのもリアルだなと思っていて。自分にも刺さる歌詞ですし、声なら(声にならないよ)のことが好きなリスナーの方にも刺さる歌詞なんじゃないかなと思います。

■ちなみにHiRoさんは、そんな若宮さんの歌詞を読んで、どんなことを感じるんですか?

HiRo 感じることか……なんですかね。でも歌詞をもらった時、一旦メロディーとか関係なしに音読するようにはしているんです。ただ歌詞の意味は曲ができてから分かることも多くて。歌詞には入り込みすぎないようにしているかもしれないです。ただ“生きる理由になったから”のCメロは僕も結構好きで、メロディーもすぐに思いついて、第一案を採用した部分でした。

■曲作りは普段からHiRoさんが作曲、若宮さんが作詞という風にはっきりと分業して作ることが多いんですか?

HiRo 基本はそうですね。

若宮 そうですね。何度かやり取りしたり、サポートメンバーに意見を求めたりもしますけど、0から1にするタイミングは分業です。

■“生きる理由になったから”を含めて、今作にはピアノが中心となったアレンジの曲も多いですが、HiRoさんはピアノを弾く上でのこだわりはありますか?

HiRo 僕は無意識に、「ギターが美味しかったらピアノはほぼいらないんじゃないか」みたいな感じの曲も作ってしまいそうになるんです。(笑) めめさんや他の人に「もうちょっとピアノを入れた方がいいよね」と言われて、「確かにそうやな」みたいな。(笑) 特に今回の曲で言うと“染愛”とかは、ライブを意識しすぎてギターがメインの曲になっていますし。アレンジの段階では、もちろんピアノも大事なんですけど、全体の楽器のことをイーブンに考えているのかもしれないです。