声にならないよ VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

■アルバムを通して聴いていて、大きく分けてバンドサウンドがメインの楽曲と、ピアノが中心になっているアレンジの曲の2種類があるように感じられたのですが、そのアレンジの幅はHiRoさんがピアニスト然としすぎていないことが関係しているのかもしれないですね。

HiRo そうですね。あとバラードの曲はピアノから作るんですけど、アップテンポの曲はギターから作ることが多いんです。ピアノの手癖に染めてしまうと、どうしてもライブで盛り上がらないコード進行や構成にしてしまいがちなので、曲を作る時に最初に持つ楽器の違いも関係しているかもしれないですね。

■“おそろい”のサビ前で打楽器に近いような、鍵盤楽器らしくないアプローチをしているのも印象的でした。

HiRo それはさっきの話に戻るのですが、元々和太鼓をやっていたこともあったり、ドラムに触った時期があったことも関係するかもしれないですね。ピアノ以外の楽器に触れる機会も多かったので、そういうアプローチはそこがルーツなのかもしれないです。

■“声”はリアレンジバージョンが収録されていますが、この曲をリアレンジした理由というと?

若宮 この曲自体は、例えばSNSでめちゃくちゃバズったとかでもないですし、声ならの入口になる曲ではないんですけど、声にならないよを好きになった方たちが口を揃えて「“声”聴きたい」と言うんですよね。ただ音源として出したのが結構初期だったこともあって、これだけ好きと言ってもらえるなら、もっとよくできるだろうと思っていたんです。なので、歌い直してみたいとHiRoくんに相談して、アレンジし直してもらいました。最初に出した“声”はアコースティックに近いバンドアレンジだったんですけど、今回は打ち込みも多めで、いい進化をしたなと思っています。

HiRo パーカッションにはエレドラや電子的な音を入れているんですけど、ベースはコントラバスを使っていたり、アコギを2本入れていたりしていて。パーカッション以外はアコースティックにして、余計な音も入れすぎず、最低限で作ったアレンジになりました。

■“幸せになってね。”は、アルバムの締めにしては残酷なラブソングである印象を受けました。これはどんなきっかけで書かれた楽曲なんですか?

若宮 前回のミニアルバムに収録した“君なんかいらない”という曲がSNSで人気が出て、それをきっかけに声にならないよを知ってくれた方が多かったんです。その時に、「コメント欄でみんなの失恋エピソードを供養してください」と書いたんですけど、その中で印象に残ったエピソードがあって。「俺以外の人と幸せになれよ」って言われた子が、「そのセリフは無責任だ」みたいに言っていたんです。そのコメントがすごく刺さって、曲を書いてみようかなと思ってできたのが“幸せになってね。”でした。

■この曲をアルバムの最後の曲にした決め手はあったんですか?

若宮 声にならないよという映画がもしあるとしたら、そのエンディングの曲は“幸せになってね。”なのかなと思って。ハッピーエンドではない感じと、心のモヤモヤが残る感じで終わるのが声にならないよらしいなと思って、最後の曲にしています。

■HiRoさん、“幸せになってね。”の作曲でこだわった点はありますか?

HiRo この曲もピアノ主体で、楽器数でいうとアルバムの中でもかなり少ない方だと思います。でもサビが1度しかないというのもあって、普通の曲で言うラスサビのようなパンチ感は意識しました。1度しかないサビを逃さないようなコードや音を意識しました。

若宮 “幸せになってね。”は、短い曲にしたかったんです。というのも、この曲が刺さる人って、学生さんだったり割りと若い人が多いかなと思うんですけど、僕の偏見では学生さん世代の若い人の付き合う期間って、短い人の方が多いと思うんです。なので、1サビがあって2サビがあってラスサビがあるという壮大なスケール感ではないなと思って。何ヵ月かとか、1年くらいのスケール感で書いた歌詞だったので、曲自体も短い方が面白いかなと思って書きました。

■曲のイメージと長さがリンクしていたんですね。若宮さんは作詞だけでなく、MVの脚本や写真なども担当しているんですよね?

若宮 そうですね。直近の作品は違うんですけど、“おそろい”くらいまでは何本か担当していました。映像をやっているバンドマンの友達がいるんですけど、その子の映像が良くて。僕が脚本を書いて、その子が映像を撮ってくれて、僕も写真を撮って、コンテを作って組み立てるといった形で作っていました。

■音楽を作ったり、歌詞を書く段階で、既に映像や写真のイメージが湧いていることが多いのでしょうか?

若宮 そうですね。歌詞を書いていると、「映像を作る時にはこういう風に見せたい」というのが結構明確にあって。なので、他の人に任せるのもいいけど、自分でやりたいという思いはありました。

■HiRoさんは曲を作っている段階で、映像のイメージが浮かんだりすることもあるんですか?

HiRo いや、全くないかもしれないです。(笑)

若宮 ひどい話なんですけど、MV公開のタイミングでHiRoくんが初めてMVを見る事もあるんですよ。(笑)

HiRo それももう、「映像のことは全部任せられる」という安心感があってこそですけどね。公開する前に一旦限定公開したやつを見て、「こうなったんや、いいやん」みたいなこともありますよ。(笑)

■歌詞と曲の担当が異なることも含め、お二人はそれぞれの得意なことを信頼して任せ合っている部分が多いんですね。

若宮 そうですね。曲作り以外のことも分業していることが多いですし、二人で補いあっている感じですね。尊敬するところがあるから一緒にやりたいと思うし、自分に足りないところを補ってくれる存在だなと思います。

■良い関係性ですね。今後声にならないよとしてチャレンジしたいことや目標などはありますか?

若宮 大きな会場でライブをするみたいなのももちろん素敵だと思うんですけど、本当に一番何がしたいかと言われたら、なにかの作品に対して曲を書く、いわゆるタイアップを狙っていくバンドでありたいと思っているんです。特に映画の主題歌はやってみたくて。余談なんですけど、“生きる理由になったから”を書いた時、「これは新海誠作品やな」ってみんなに言っていて。(笑) どの曲もなにかの作品に入っても全然遜色ない、納得できる曲だと思うので、これからもそういう曲を書いていきたいなと思っています。あとは、こういう活動をしていると、「なんでこんなに音楽やっているんだろう?」と思うこともありますし、いろんなものを犠牲にしてやっている活動でもあると思うんです。でも10年後とか20年後に、「声にならないよをやっていてよかったな」と思える活動がこれからもできればいいなと思います。

HiRo 僕も同じく映画の主題歌を担当してみたいです。それこそ新海誠さんとRADWIMPSさんみたいな感じで、主題歌だけでなく挿入歌もサウンドトラックもプロデュースするみたいなのを、生きているうちにできればいいなと思います。それが僕の中での大きな夢ですね。

Interview & Text:村上麗奈

PROFILE
『あなたの声にならない思いを歌う』をコンセプトに2020年より活動を開始。誰しもが胸に抱える切なさや憂いを描く歌詞を、透明感のある歌声と繊細なピアノサウンドの美しいメロディにのせて表現するピアノポップバンド。
https://www.koeninaranaiyo.com/

RELEASE
『幾度も愛を染められて』

KENR-002
¥2,400(tax in)

声にならないよ
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