空白ごっこ VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

原点回帰と成長の道のりを見せた1stフルアルバム完成。

空白ごっこが1stフルアルバム『マイナスゼロ』をリリース。これまでリリースしてきてた楽曲に加え、koyoriのダウナーなサウンドメイクが光る“サンデーミュージックエモーション”、針原翼らしい疾走感溢れるロックチューン“ゴウスト”など、コンポーザー2人の対比が光る新曲も収録した今作。歌詞の書き方やチームとしての制作への取り組み方も変化させたという今作は、現時点での空白ごっこの集大成のような作品であると同時に、新たに一歩駒を進めたような、洗練された姿を見せた作品にもなっている。
今回は、空白ごっこのボーカル セツコにインタビューを決行。これまでの活動における彼女自身の変化から、アルバム制作についてたっぷりと話を訊いた。

■今回は初のフルアルバムを完成させました。『マイナスゼロ』には、初のCDとしてリリースされた“ラストストロウ”を含めた既存曲も含まれていますが、活動を始めてから今に至るまで、セツコさんの中でステージに立つ際の心境の変化などはありますか?

セツコ 最初は本当に何が何だかよくわからない状態だったんです。活動を始めたのも、自発的にグループを発足したというよりは、誘われて迎え入れていただいて、右も左も分からない状態からいろいろ教えていただいた形だったので、最初は右往左往していて。制作においても、ライブにおいても、最初の頃の記憶があまりないくらいあたふたしていたので、そもそも心境の出発点をどこに持っていったらいいのか分からないんですよね。でも最近ライブをさせていただけるようになって、いろんなアーティストと対バンをして仲良くなるにつれて、最初はステージに対して自分に近しいものという実感があまりなかったのが、自分がどういう心構えでステージに立った方が映えるのかとか、逆に友達のアーティストに感化されて真似したけど馴染まなくて、「これは私はやらない方がいいな」と気付くことがすごく増えたんです。ライブって生感があるみたいなことをよくいろんな人が言いますけど、リアルタイムで見られているので、ごまかしたらすぐにバレるし、ごまかしようがない場所がライブだなとすごく思うようになって。焦っていると焦っている感じが伝わっちゃいますし、人前でどれだけリラックスできるかということは、すごく意識するようになりました。大きく変わったことと言えば、その部分ですかね。

■そういった変化は、時間とともに少しずつあったものだと思いますが、特に実感するきっかけとなった出来事や、ライブはあったのですか?

セツコ ファーストのワンマンライブが大きいですね。来てくださったみなさんからの評価としては「すごくよかった」と言ってもらえることが多いんですけど、個人的には、なるべく記憶から消したいくらいというか。(笑) 自分の心構えがいかに未熟だったかを、初めて実感したのがそのライブだったんです。自分が準備をしたと思えば思うほど、粗の部分がよく目立つみたいなことをその時に初めて感じて、すごく落ち込んで。そこからもっと勉強しないといけないなと思って、他のアーティストはどうしているのかといったことに目を向けるようになりました。

■そうだったんですね。

セツコ 空白ごっこは本当に自由にやらせてもらっているので、例えば「こういうコンセプトで」とか、「こういうセツコちゃん像で」みたいなこともなくて、「土台はこっちでこねておくから、あとは好きにやってね」みたいな感じなんです。そうなると、自分以外のなにかのせいにできなくなるから、それが辛辣でもあるというか。でもそれに早い段階で気付けて本当に良かったです。

■ライブに関してはそういった自覚が芽生えたというポイントがあったとのことですが、制作面ではいかがでしょうか?例えば作詞をするにあたって、書く際に考えていることなど、大きな変化はありましたか?

セツコ すごくあります。それこそ、今回のアルバムから歌詞の書き方を意識して変えているんです。歌詞はほとんど空白ごっこでしか書いたことがないんですけど、最初は歌詞の書き方も分からないので、正直埋めるのに精一杯で。それからだんだんと自分の型ができてきたんですけど、そうすると自分の手癖みたいなのも見えてくるようになったんです。それを味と言ってしまえばそうなんですけど、そこにあぐらをかいていたらいけないなと思ったんですよね。私の歌詞は今まで結構抽象的な表現が多かったんですけど、それは曲をもらった時に映像が浮かんで、それを文字にするのに精一杯だったからでもあったと思うんです。そういう部分を、今回は自問自答しまくって、例えば「こういう描写を書きたい」と思ったとしたら、「なんでそういう描写になるんですか?」みたいなのをめちゃめちゃ詰めるっていう。「なにを周りに伝えたいんですか?」みたいなのを自問自答しまくって。担当してくださるスタッフの方にも歌詞を見せて、素直に「これは分からない」みたいな意見をもらいながら書いたので、今回新しく書いた曲はすごく具体的になっているんじゃないかなと思います。

■今作はサウンド面で言うと、空白ごっこのコンポーザーであるkoyoriさんと針原さんの楽曲のジャンルの違いが特に浮彫りになっていると感じました。それぞれに「どんな曲を書いて欲しい」といったことをセツコさんからリクエストすることもあるのですか?

セツコ 今回初めて言ったんです。アルバムを作るにあたって要望表を作っていて。ノートに殴り書きで「こういう曲にしてください」みたいなのを書いて、それを全部写真に撮って2人に送って。というのも、アルバムを作ろうとなった時に、最初はみんな手こずっちゃったんです。曲はたくさんできるんですけど、『マイナスゼロ』というタイトルに上手くハマりきらなかったんですよね。どうしたらこの状況を打破できるかと考えた時に、2人がボカロPで、普段は書き下ろしが多いということに注目して。空白ごっことしてもすごく熱量のある曲が書けたと思う時って、だいたいタイアップでテーマをもらって、そこに感化されて書く時が多いというのは前から感じていましたし、タイアップ式みたいにすれば打破できるんじゃないかと。そこから私がオーダーするという形を取ってみました。私も少し真面目すぎるところがあって、オーダーしすぎの部分もあったんですけど、2人がいい塩梅でそれを汲み取って、いい感じに自分らしさを出してきてくれたので、すごくまとまりのあるアルバムになったと思います。

■アルバムタイトルの『マイナスゼロ』が先にあったとのことですが、タイトルの由来というと?

セツコ アルバムを作ろうという話になった時に、3人でディスカッションをしたんですけど、まず空白ごっことしてのファーストアルバムなので、自分たちの持っているコンセプトや軸をちゃんと見直さないといけないという話になって。その時にkoyoriさんがぽろっと、「ずっと満たされない感覚があるんですよね」みたいなことを言ったんです。「何かに辿り着けた」みたいな感覚がなくて、「何かをずっと追い求めているハングリー的なものがすごくある」ということを遠い目をしながら言っていて。今までメンバーとそういう根底にあるものについてはちゃんと話し合ったことがなかったんですけど、その言葉にすごく重みがあったんです。3人ともどこか似ている部分があるとしたら、そこなのかなと思ったんです。そこから辿り着きたいラインをゼロとして、「自分たちはまだずっとマイナスの地点にいるよね」という意味で、このタイトルになりました。なので、新曲たちもこのタイトルありきで作りました。

■アルバムはインスト曲の“go around”から始まり、“come around”で終わりますが、アルバムのオープニングとエンディングを作るというのも、こだわりのひとつだったんですか?

セツコ そうですね。今回は曲順もかなり意識していて。最近単曲聴きする人が多いと思いますけど、せっかくパッケージにするなら、単曲でも勝負しつつ、順に並べて聴いた時に面白みがあった方が好きだなと思ったので、1曲目から13曲目をリピートした時に繋がるような形にしたいと思って、この感じに落ち着きました。今回、私からの発注の段階から曲順も決めていたんです。1曲目と13曲目は後付けでもあるんですけど、リード曲の“ゴウスト”を初めの曲とするなら、次はこういう曲で、3曲目にはこれが来て、みたいな。あとは今までのEPでは、1曲か2曲くらいは私が曲を書いていたんですけど、今回は順番を決めて曲を頼むにあたって、ボーカリストとコンポーザー2人の立ち位置を明確化させたいと思ったんです。前から、自分が書く曲が空白ごっこっぽいかと言われたら「違うな」と思っていたので、今回は振り切って2人に曲を任せて、2人のコントラストを強めようということになりました。

■その中でリード曲の“ゴウスト”は、どんなイメージでオーダーしたのですか?

セツコ “ゴウスト”を作る時にちょっと意識していたのは、初期の頃の“なつ”や“雨”みたいな、駆け抜けていくような感覚の曲をもう1回作りたいということでした。今回オーダーをする時に、2人のボカロの曲も聴き直して、「どういう曲を作りたいのか」とか、「この人たちはどういう曲で一番映えるんだろう」と考えていたんです。ハリーさん(針原翼)の場合、私が「この曲が好きだった」とか、「良かったと思った」みたいなボカロ曲を伝えた時に、「これは自分が好きなようにやったんだよね」みたいな感じで、私がいいなと思った曲が、たまたまハリーさん自身も気に入っているものだったり、好きに作ったという曲が多かったんです。今まで“なつ”とか“雨”では、ハリーさんは私を意識して、可愛らしいサウンドも組みこんで、切なさを演出したり、少女感を出してくれていたと思うんですけど、コンポーザーにフォーカスしたハリーさんの強みとか、荒々しさみたいなものが、セツコという媒体を通して乗っかっていくという形を取るのも、ボカロPが初音ミクを使うみたいで、ちょっと面白いんじゃないかなと思って。なので、それを伝えて作ってもらいました。

■“ゴウスト”はボーカルに今までにない太さのようなものを感じたので、針原さんの楽曲の特徴に寄せた曲作りというのは納得です。今のお話のように、楽曲には楽曲の意図やストーリーがあるかと思いますが、そうしてできた楽曲に対して、歌詞を付ける作業はどの程度楽曲の意図に左右されるのでしょうか?

セツコ 今まですごく具体的に歌詞について指定されたことはないんですけど、取っ掛かりみたいなものはいただけるので、そこから広げていく形が多いです。“ゴウスト”については、ハリーさんから先にタイトルも聞いていて。後々聞くところによると、この曲は書けなさすぎて消えたかったらしいんです。(笑) “ゴウスト”というスラングというテーマが先に上がってきて、サウンドが後々上がってきたので、結構枠が決められていて。私もこの曲は歌詞を書くのが中々上手くいかなくて、何回か書き直していて、追い詰められた結果「消えたい……」みたいになったので、そういう意味ではたまたまシンクロしたんですよね。(笑) それは後付けといえばそうなんですけど、なるべく自分の心情をそのままストレートに書いた方がしっくりきたので、もちろんリード曲として言葉の強さや、歌っている時の歌の詰まり具合、聴いている時の満足感は意識はしたんですけど、私っぽい曲になったなと思います。

■先行配信されている“乱”は、koyoriさんが作詞も担当されているじゃないですか。それを歌うのは、ご自身が書いた歌詞を歌うのとは、また感覚が違うものなのでしょうか?

セツコ だいぶ違いますね。私が空白ごっことしての活動を始める前は、「歌ってみた」で他の人が作ってくださった曲を歌っていたんですけど、その時の感覚に近いというか。曲の主人公を宿して、状況を思い浮かべながら歌うので、本当に楽しいです。ただ、“乱”は歌うのに結構苦労して。吠える感じというか、抑圧されつつも何とか抗おうとしているヒリヒリ感を出すようにしていたんですけど、今の自分のボーカルの状態だと、少し余裕感が出てしまうというか……表現に難航しました。

■一方、“ゼッタイゼツメイ”はkoyoriさんとセツコさんお2人での作詞ですね。

セツコ そうですね。『凋落ゲーム』というドラマのタイアップをいただいたので、それを元に曲を作っていきました。最初はkoyoriさんが作詞をする段取りで進んでいたんですけど、少し難航しているので手伝って欲しいということで、2人で歌詞を書いて。サウンドを聴いた時に、焦っていたり、急いでいる感じがしたので、精神状態が悪化している時の全てがしっちゃかめっちゃかに見える状態を意識して1番を書き進めていって。そこからkoyoriさんもサビのワードを肉付けしていったり、という流れで書いていきました。