楠木ともり VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

楠木ともり『narrow』

■聴きながらいろんなイメージを掻き立てられる楽曲です。それから“熾火”はある意味、問題作だと思っていますが……。

楠木 問題作ですね。(笑) 2ndEPの稼働が終わって落ち着いた頃に、この3rdEPを作ろうとなったんですが、冬というテーマが決まっていたにもかかわらず、初めは曲が全然思い浮かばなくて。気持ち的に弱っていた時期だったので、自己嫌悪が凄まじかったんです。“タルヒ”で自分を肯定したいという気持ちを曲にしたので、“熾火”では自分を否定する方向で考えて……自分の気持ちのバランスを保っていたんです。だから、“熾火”は“タルヒ”とは対照的に衝動的でトゲのある曲になりました。この曲も登場人物を立てて、今のSNSで活動している若いクリエイターが主役になっているんです。“Forced Shutdown”と同じなんですけど、周りに才能のある人たちがたくさんいて、それと自分を比べて、今の子は自己嫌悪に向かうと考えて。周りに当たり散らすんじゃなくて、自分に向かうんじゃないかと思い、この曲が生まれました。自分から生まれた曲だけど、他人事でもあるし、それで踏み込んだ歌詞を書けたのかなと。でも今までの楠木ともりらしさがあるのはこの曲だなと思います。

■「我が子ひとり産み出せないのか」の歌詞を含めて、大人びた描写にも少し驚きました。

楠木 そうですね。この主人公自身はまだ若いけど、社会に片足を突っ込んでいて……。荒幡さんにアレンジをお願いする時も、子供っぽくも大人っぽくもなり過ぎて欲しくないとお話して。バンドサウンドで10、20代感はあるけど、ジャズっぽい大人の落ち着いた雰囲気も出したくて。アダルトになり過ぎないジャズロックみたいな感じに仕上げてもらいました。この曲は聴く人によって刺さり方が違うのかなと思います。これをライブで歌った時に嫌味に聴こえたら、それが自分の成長かなと。

■というのは?

楠木 「才能ない」、「個性ない」と歌詞で言っているんですけど、将来ライブで歌った時に、「実際はそんなこと思ってないくせに」と言われたら、自分が一皮剥けた証拠なのかなと。(笑) だから、この曲が先々どんな風に受け取られるのか、その変化も楽しみですね。

■あと、この曲では韻を踏んでいてそこも気持ちよかったです。

楠木 テンポいい曲は韻を踏みたくなるんです。重い歌詞でもライトに聴けると思うので、速い曲ほど踏みがちです。

■最後を締めくくる“タルヒ”はバラードテイストの楽曲ですね。

楠木 冬をテーマに「何を書こうかな?」と思って、氷柱(つらら)を他の言葉で言い換えた「垂氷(たるひ)」という言葉を見つけて、響きがすごく面白いなと思って。氷柱って温められるのと冷やされるのとを繰り返して、大きくなっていくんです。それが人と重なって、これを曲名にしようと考えました。その後に、満ち足りる日という意味の「足日(たるひ)」という言葉を知り、その二つが繋がって、曲のテーマが決まったんです。曲調はドリームポップ、シューゲイザー系にしてもらいました。ギターは9本重ねているので、シンプルだけど重厚感があり、奥行きのあるサウンドに仕上がったと思います。

■ちなみにドリームポップ、シューゲイザー系で好きなアーティストはいますか?

楠木 羊文学、きのこ帝国、ハルカトミユキなど、好きで聴く曲がそういうものが多くて。開放感を得られるんですよね。だから、自分もそういう曲を作りたいなと思って。

■“タルヒ”は“narrow”に対するアンサーソングのようにも聴こえました。

楠木 ファンの方からも「この曲のアンサーソングですか?」と言われることもあるので、いろんな歌詞と繋がる曲なのかなと思いますが、私の中では“sketchbook”の主人公をモデルにしています。絵を教えてくれる恩師から手紙をもらって、それを読んでいるという曲なんです。干渉しすぎないけど、優しく背中を押してくれる歌詞にしたいなと思って。今まで私が作っていた曲は、夢を追いかけるとか、理想を持つとか、そういうタイプの曲が多かったけど、“タルヒ”は自分の夢や憧れを持っている人に寄り添う曲なので、どの曲のアンサーソングにもなりうるのかなと。

■それと、今作の曲名を順番に英語、ひらがな、漢字、カタカナと4パターンに分けた理由は?

楠木 基本はいつも直感で付けているので、今回はたまたまバラけただけなんです。(笑) 実は“熾火”は最初別の曲名にする予定だったんですよ。でも「何か違うな……?」と思い、今まで漢字だけの曲名はなかったから「熾火」となったんです。実はこの言葉を教えてくれたのは私の父なんです。

■そうなんですね!

楠木 「熾火、どう?」と言われて、曲にぴったりだなと思って。今回は4曲を通して、自分のことを将来支えてくれる歌詞ができたと思います。特に“タルヒ”は辛いことがあった時に、自分で聴きたいと思う曲です。自分で自分の曲を愛せることはすごくいいことだと思うので。

■最後になりますが、12月には東京、大阪の2公演でメジャーデビュー後、初の有観客によるワンマンライブも控えていますね。

楠木 インディーズ以来、有観客のワンマンは初ですね。ここ最近の配信ソロライブでは、配信ならではの演出を考えていたけど、今回はひたすら音楽を楽しんでいただけるシンプルなライブをやりたいなと思っています。私の音楽に興味を持ってくださる方には是非来て欲しいです。今は緊張よりワクワクの方が大きいです。今作もライブ映えする曲が多いので、早くみんなの前で披露したいです!

Interview & Text:荒金良介

PROFILE
1999年生まれの21歳。2016年に開催されたソニー・ミュージックアーティスツ主催の声優オーディション「第5回アニストテレス」で特別賞を受賞し、2017年に声優デビュー。2018年にはTVアニメ「メルヘン・メドヘン」にて初主演を果たし、TVアニメ「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」や「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」など、次々と人気作のメインヒロインに抜擢。若干19歳にして第十三回声優アワードにて新人女優賞を受賞。最近では、ゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ!feat.初音ミク」、オーディオドラマYOASOBI「夜に駆ける」、「遊☆戯☆王SEVENS」など、多岐に渡る作品へ出演。今クールも「先輩がうざい後輩の話」「マブラヴ オルタネイティヴ」へヒロインとして出演中。そんな今最も勢いのある若手女性声優の一人としてアニメシーンの最前線に立ち続ける楠木ともりが、2020年8月に1stEP『ハミダシモノ』でメジャーデビュー。2021年4月リリース2ndEP『Forced Shutdown』はオリコンデイリーチャート1位を獲得。自身で作詞作曲を手掛けるシンガーソングライターとしても今注目を集めている。
https://www.kusunokitomori.com/

RELEASE
『narrow』

初回生産限定盤A(CD+BD)
VVCL-1936〜1937
¥4,950(tax in)

初回生産限定盤B(CD+DVD)
VVCL-1938〜1939
¥4,950(tax in)

フォトブック盤(CD+フォトブック)
VVCL-1940〜1941
¥2,640(tax in)

通常盤(CD)
VVCL-1942
¥1,650(tax in)

SACRA MUSIC
11月10日 ON SALE