楠木ともり VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

楠木ともり『Forced Shutdown』

■“sketchbook”の編曲は、arabesque Choche(Chouchou)さんが手がけていますが、ディープな曲調で囁くようなヴォーカルも印象的です。

楠木 アンビエント調になっています。この曲は私が声優になる夢を見始めてから、お仕事を始めたての時のイメージです。みなさんも夢を追いかけて、自分の心境が変わり始めるタイミングがあると思うんです。夢を追いかけている時は、自分の嫌な部分にぶつかったり、自分の良い部分を見つけたり、その作業は絵を描いている作業に近くて。いろんな色を試して重ねて、ひとつの絵を作ることが理想の自分を作ることに似ているから、この曲名にしました。この曲の中に「あの子」や「君」という表現が出てくるけど、それは赤の他人というより、自分の中にある別の自分を指している部分が大きいんです。より自分を俯瞰して見ている感じですね。Aの自分とBの自分が同居していて、自分の中にあるいろんな自分を見つけ直している感じです。今作の中では一番閉鎖的で登場人物は一人しかいないイメージです。

■自分の中にある複数の自分を見つめ直す。するとこうしたディープな曲調になるという?

楠木 このメロディがすごく好きで美しいなと思ったので、それを活かせるアレンジにしたいと思って。そこで、私がChouchouさんを好きでよく聴いていたのでお願いしました。自分の中に浮かんだ映像を曲に落とし込みたくて。それはリリックビデオの映像に近くて、薄暗い部屋に一人でいて、月明かりが差し込んで、時計の音しか聴こえなくて、ゆったりした時間が流れている。全員でそのような映像のイメージを共有して作れたので繊細な曲調になったと思います。

■“アカトキ”に関しては、前作にあってもおかしくない明るい曲調ですね。

楠木 一番明るいし、視点も広い曲ですね。作詞は鳴海夏音との共作で、彼女が思っていることを主に歌詞にして、私は気持ち的にはサポートという感じです。歌詞は彼女に引っ張ってもらったので、明るさが出たのかなと。歌詞は一番が私で、二番は彼女なので、そのテイストの違いも楽しんでもらえたら嬉しいです。インディーズ時代のCD「STROKE」で音源化していたけど、その時はここまで華やかなサウンドじゃなかったんです。でもライブで披露するうちに、みんなで楽しめる曲なんだなと、来てくれたお客さんたちによって気づかされたんです。みんなで作り上げた“アカトキ”にしてもらいたかったので、編曲していただいた多田さんに、明るくてリッチなアレンジにしていただきました。

■そして“バニラ”は今作の中で一番好きな曲で、まさに映画のエンドロールにピッタリの曲調ですね。これはパワーバラードみたいな位置付けですか?

楠木 そうですね。感情が色濃く出るようなバラードにしたかったんです。“バニラ”はライブでも2回披露していて、1回目にバンドアレンジで歌った時に感情が乗りやすくて…歌詞も自分100%で書いた曲です。今まで応援してくれた家族や友達に対する歌詞が一番で、二番がファンの方に向けた内容になっています。仕事を始める前と後で視点の切り替えがあり、届けたい方が明確な曲です。歌詞を書くというよりも、日記や手紙を書くような気持ちで書きました。届けたい気持ちが強かったので、爆発力のあるバラードにしたいなと。ハルカトミユキさんが大好きで、お二人のバラードはロックテイストだけど、キレイにまとまっているんです。「編曲は誰なんだろう?」と調べて、野村さんにお願いしました。

■歌詞の内容は失恋ソングにも受け取れました。

楠木 周りの方に支えられて生きてきて、お仕事を始めて自分の責任も生まれて、どんどん大人になっていく。過去の自分への別れみたいなニュアンスもあるので、そういう風にも受け取れるのかと思います。

■テンポもゆっくりなので、歌の表現力も問われる曲調じゃないですか?

楠木 そうですね。レコーディングでは何度もフルで歌いました。野村さんがレコーディングの時にたくさん褒めて下さったので、楽しくできました。

■今作を出した後はどんな曲調でもトライできそうですね。

楠木 もともと音楽が好きなので、今回はいろんな曲調をやりたい気持ちが叶えられて良かったです。今後の明確なビジョンは今はないけど…私は詞先なので、そこから浮かんできたサウンドを上手く形にできたらいいなと思っています。歌詞を書いた結果、こういうジャンルが合いそうだなと考えるので、今後もそういう風にしていけたらと思っています。

■今作を作り上げて、自分の中で新たな気づきはありましたか?

楠木 昔から表現することで、自分の気持ちを見つけたり、辛いことを発散してきたので、それをしないと生きていけないんだと思います。(笑) 今回の発見は自分が誰に音楽を届けたいのか、それに気づけたことですね。

■楠木さんが思い描く将来のアーティスト像というと?

楠木 明るい曲はあまり聴かないと言いましたが、誰かの心に寄り添いたい気持ちが強くて。「頑張ろうよ!」って引っ張るよりも、「一緒に頑張ろうね」って隣にいてくれる曲が好きなんです。ネガティブなところを見せてくれる方が心地良く感じるから。声優として感情を表現する仕事と向き合っているので、曲の中では感情を開放して誰かに届けられたらと思います。

Interview & Text:荒金良介

PROFILE
1999年生まれの21歳。2016年に開催されたソニー・ミュージックアーティスツ主催の声優オーディション「第5回アニストテレス」で特別賞を受賞し、2017年に声優デビュー。2018年にはTVアニメ「メルヘン・メドヘン」にて初主演を果たし、TVアニメ「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」や「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」など、次々と人気作のメインヒロインに抜擢。若干19歳にして第十三回声優アワードにて新人女優賞を受賞。そんな今最も勢いのある若手女性声優の一人としてアニメシーンの最前線に立ち続ける楠木ともりが、2020年8月に1stEP『ハミダシモノ』でメジャーデビュー。デビュー作ながら、オリコンウィークリー最高6位・デイリー3位を記録した。
https://www.kusunokitomori.com/

RELEASE
『Forced Shutdown』

初回生産限定盤A(CD+BD)
VVCL-1838~39
¥4,400(tax in)

初回生産限定盤B(CD+DVD)
VVCL-1840~41
¥4,400(tax in)

フォトブック盤(CD+フォトブック)
VVCL-1842~43
¥2,640(tax in)

通常盤(CD)
VVCL-1844
¥1,650(tax in)

SACRA MUSIC
4月28日 ON SALE